転校生ばかりがヒロインじゃないって、この日初めて知りました②
去年の担任も、爽やかで道徳的な良い教師だった。
だが他校へ転属となり、その報せを聞いたときには、
それなりに寂しさも覚えたし、後任への不安もあった。
しかし――今回のこれは。
正確な表現ではないかもしれないが、いわゆる教師ガチャ。
どう考えても大当たりだ。
クラスメイトたちは一様にテンションが上がり、
設けられてもいない質問タイムへとなだれ込んでいく。
「先生、年齢はいくつですかー!」
「に、二十二歳です」
――今日から俺の好きなタイプは
新任教師(二十二) になりました。
「好きな食べ物はー?」
「た、筍の土佐煮……かな?」
――来週から俺は筍になります。
「彼氏はいますかー!」
「そ、卒業したら聞きに来てね」
――了解。
卒業後は俺が迎えに行きます。
もはや転校生の歓迎会みたいな空気。
まだ全員とまともに話したわけではないが、
どうやらこのクラスは人懐っこいらしい。
何にでも遠慮して息を潜めるより、ずっといい。
クラス運も、どうやら悪くはなさそうだ。
そんなことを考えていると、再び予鈴が鳴る。
近島先生は「これ幸い」とばかりに生徒の声を切り上げ、
ぱん、と軽く手を打つ。
「はーい、次はいよいよ始業式だよ。
体育館に移動するから、みんな廊下に並んでねー」
「「ええー……」」
まるで握手会の終了を告げられたアイドルオタクのように、
教室のあちこちから嘆きの声が零れ落ちた。
さっきまでの熱を失った空気は、落ち葉が風に流されるみたいに、
ゆるゆると廊下へ向かっていく。
その背中の群れを眺めながら、俺は小さく息を吐く。
「今からこれじゃ、どうする。
一年、身が持たないぞ……ほんと」
俺は額に手を当てて、やれやれと首を振り――
結局、小さく足取りを弾ませながら、みんなの後に続いた。
始業式。
――始業式と読めるようになるには、
人類はすでに十分すぎる年月を費やしてきたはずなのに。
いまだ、広辞苑の読みが書き換わる日は来ない。
校長は中身のない話をだらだらと述べ――
続いて生徒代表が、誰に入れ知恵されたかも知れない、
日常生活とは縁のない語句を、丁寧に並べ立てる。
言葉は整っているが、生きてはいない。
偉い人たちの言いたいことは、要するにこうだ。
『ごきげんよう。
桜も咲いてきたし、また一年よろしく頼む』
それだけの内容を伝えるために、
毎年数人がばたばたと音を立てて倒れていく中、
この儀式は一切の中断なく、厳かに遂行されてしまう。
やはり校長という役職は、
常人の精神構造では務まらないのだろう。
そして俺たち民衆は、
軍隊さながら魂を抜かれたまま、休めの姿勢で声を揃える。
「はい」と。
様式だけが淡々と流れていく時間のなか、
暇を持て余した俺は、ふと新一年生の集団へと視線を向けた。
高校デビューとばかりに派手に髪を染めている者。
次に倒れるのは私です、と顔に書いてある者。
すでに寝ている者。
スマホを弄っている者――さすがにその勇気は称えない。
そんな多様な新一年生たちを眺めていると、
不意に、ある少女と目が合った。
「……」
――あいつは、確か。
中学時代、同じ学校に通っていた後輩だ。
この学校に進学していたのか。
少女は俺に気づくと、
姿勢を崩さぬまま、小さく手を振ってみせた。
俺はそれに応えることもできず、
そっと視線を壇上へと戻した。




