表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
45/114

犯罪組織「K」 ②

 要件だけを簡潔に告げる。


「この後、美術の授業があるだろ。

 隣の席の人物デッサンだ。

 その絵を、俺の代わりに描いてほしい」


「冗談だろ?」


 上野は、即座に眉をひそめた。


「汐森の隣の席って、あの向崎恋花こうざきれんかじゃないか。

 僕みたいな日陰者は、目を合わせただけで魂が消えてなくなる。

 天上人みたいな存在だよ」


 一拍。


「それに、汐森と僕の席は結構離れてるだろ。

 どうやって向崎の姿を描けって言うんだよ」


「美術の担当は、菅原すがわらの爺さんだ。

 授業が始まったら、どうせ教室を出ていくだろ?

 その後なら、いくらでも隙はある」


 俺は、事前に組み上げていた手順を、

 さも当然のように口にする。


「俺がスマホで恋花の写真を撮って送る。

 後は、それを見て描いてくれればいい」


「正気かい?

 撮影なんてしたら、向崎に怪しまれるだろ」


「問題ない。

 陽動部隊は、圭吾に任せるつもりだ」


「“部隊”って……単独じゃないか……。

 じゃあ仮に、僕が向崎の絵を描いたとして、

 それをどうやって君の元に届ける?」


「輸送部隊は、五里だ」


 視線で圭吾と五里の方向を促す。  


 上野もそれに次いだなら、

 気配に気付いた圭吾と五里が『はあ〜い』と、手を振り返してくる。


 上野にとっては、クラスでも異様な存在感を放つ連中に囲まれて、

 さぞ災難に思っていることだろう。


 俺たちが、死神に見えていたとしても、不思議ではない。


 上野は、大きく溜め息を吐いた。


「君たち、いつも変なことしてるグループだなって思ってたけど……

 そこまでするかい?

 絵なんて、汐森でも描けるだろ」


「上野。

 それだけは、言っちゃいけない」


 声を落とした。


 冗談を許さない、静かな調子で。


「世の中にはな。

 普通なら当たり前に出来ることでも、

 逆立ちしたって出来ない奴がいる」


 一拍置く。


「――自分の物差しで語ってはダメだ」


「なんで僕が説教されてるんだ……」


 上野は、困惑したように首を振った。


「少し協力することも考えたけど、

 やっぱり現実的じゃないし、リスクもある。

 リターンが無い中で、僕が背負う責任が大きすぎるよ」


 もっともな意見だ。


 以前、少し手を貸したからといって、

 ここまでの計画に巻き込むのは、フェアじゃない。


 それは、“助けたことへの報酬”を、後出しで要求する行為に近い。


 ――悪徳。


 そう呼ばれても、否定できない。


 上野は、こちらの話を最後まで聞いてくれた。

 俺に対して、少なからず恩を感じているのだろう。


 ――だからこそ。

 ここから先は、対等でなければならない。


「上野。

 お前の言ってることは正しい。

 だから――『取引』をしよう」


 名を呼ぶ。


「五里」


「へい」


 軽く手を叩く。


 それだけで、

 五里は察したように俺の前へ鞄を差し出した。


 その中から“それ”を取り出す。


「上野。

 これが何か、分かるか?」


 差し出された瞬間、上野の表情が凍り付いた。


 まるで、価値ある美術品か、

 あるいは聖書でも前に置かれたかのような顔。


「こ、これは……

 バーチャルアイドル、餅月月兎もちづきげっとちゃんの、

 サイン入りブロマイド……!?」


 声が、裏返る。


「汐森……これを、一体どこで……」


「当たったんだよ。

 SNSのキャンペーンで」


 餅月月兎。

 アニメ調の外見を纏い、配信界隈で爆発的な人気を誇る存在。


 最近ではネットの枠を越え、テレビにも出演し、

 名実ともに“バーチャルアイドル”と呼ばれる存在になりつつある。


 正直、この界隈に詳しくはない。


 だが。

 上野の反応が、すべてを物語っていた。


「……もしかして君も、月兎ちゃんのファンなのか……?」


「そうだったら、簡単には渡さないさ」


 俺は肩をすくめる。


「SNSのキャンペーンなんて、

 どうせ当選者なんて存在しないだろって思って、

 適当に参加したら、これだ」


 自嘲気味に、続ける。


「どうして欲しい物ほど、当たらないんだろうな。

 ハンバーガーチェーンの五百円券ですら、

 一度も当たったことがないっていうのに」


「……これを、見せて、どうするつもりだ……?」


「あげるよ」


 即答だった。


「俺は別に興味ない。

 だからさ。

 今回の計画に、参加してほしい」


 これはもう、

 賄賂と呼んでも差し支えない行為だろう。


 替え玉作戦など、決して褒められたものじゃない。

 正義からは、確実に外れている。


 それでも――

 俺は、今日という日に命を懸けている。


 ここまで、組織にくみすることを渋っていた上野だったが、

 ブロマイドを目の前にぶら下げられた彼は、

 驚くほどあっさりと、首を縦に振った。


「……分かったよ、汐森。

 ただし、僕とて向崎の写真が送られてこなければ、

 任務は遂行できない」


 一拍置き、真面目な声になる。


「必ず、結果は出す。

 だから……上手くやってくれ」


「ああ」


 こうして俺たち四人は、この俺――汐森清継を主犯とする、

 一時間限りの犯罪組織『K』を結成した。


 この作戦を成功させなければ、

 俺に明日はない。


 ――まだ、死ぬわけにはいかない。


 近いうちに、笹本と話をしなければならないのだから。


 結局、今日一日、

 笹本は授業を一度も受けていない。


 彼女の近況も、聞かなくてはならないだろう。


 同じ病を抱えた――


 友人として。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ