表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/114

友達になろうなんてわざわざ言葉にする人は、友達になろうとしていない②


「あなたって、本当に人が良いのね」


「それが俺のモットーだからな」


「でも、お断り」


 即座に切り捨てられる。


「私が決めたことだし。その後のことまで、

 都合よく清継君に押し付けるなんて出来ないわ」


 ――だろうな。


 繰り返しになるが、

 恋花は清廉潔白を体現したような人だ。


 都合のいい時だけ、

 他人の背に体重を預けるような真似はしない。


 そういうところも好きだった。


 ……今となっては虚しい感情だ。


 俺は小さく鼻を鳴らし、納得したふりをする。


「じゃあそれは。

 俺たちが友達でいたいからか?」


「は?

 そんなわけ、ないでしょ」


 ――何それ。語気が冷たい。

 言葉鋭い。

 胸痛い。


 向けられた視線は、一瞬で変わった。

 道端にへばりついたガムでも見るみたいな、乾いた冷たさ。


 『友達に戻らない?』なんて言葉を、一ヶ月前に口にしたのは――

 あなたの方だろうに。


 恋花は苛立ちを隠そうともせず、

 シャープペンシルで机をカツ、カツと叩いた。


「清継君、さっき言ってたよね。

 男女の友情って、成立すると思うか、だっけ?」


 最初に投げた、他愛もない話題だ。


 軽い冗談のつもりだったが、

 どうやら恋花の地雷を踏み抜いていたらしい。


 表情だけを切り取れば、

 写真にして永久保存したくなるほどの笑顔。


 だが、その笑みは元恋人に向けられるものでも、

 ましてや友達に向けるものでもなかった。


「あり得ないわね」


「なんでだよ」


「どちらかが、必要以上に歩み寄ろうとするからよ。

 友達だったつもりでいても、いつか必ず、

 どちらかがその均衡を崩すでしょうね」

 

「そんなの、分からないだろ」


 思わず声が強くなる。


「お互いが一線をわきまえていれば、

 それ以上の関係にはならない」


 恋人になることだけが、男女の関係じゃないはずだ。


 ――少なくとも俺は、そう信じている。


 だが恋花は、

 俺の心の内を見透かしたような顔で小さく息をつく。


「じゃあ、清継君。

 私たちがこれから()()()()()仲良くなったとして。

 前みたいに一緒にご飯食べて、ゲーセン行ったその帰り道で――」


 そこで言葉を切り、

 恋花は俺の方へ身を寄せた。


 耳元に、息がかかるほど近い距離。


「『私の家に来ない?』って言ったら、どうする?」


「襲いますね」


「死ねば」


 即答だった。

 光の速さだった。


 自分の脊髄反射じみた返答が、

 最初から読まれていたのだと分かった瞬間。


 情けなさが胸に溜まる。


 ――いや、今のは冗談だ。


 そういう空気に、しなければならないと思っただけの事。


「いや冗談だって。

 前みたいに気兼ねなく遊びに行ける関係、それだけで十分じゃないか」


 半分以上、冗談だったのは本当だ。


 少なくとも、

 “襲う”なんて本気で考えたことはない。


 手を繋いだ記憶すら、今では曖昧なくらいだ。


 ――それなのに。


「どーだか」


 鼻で笑う。


「女の友情がハムだとか砂糖だとか言う前に、

 男女の友情なんて、蜃気楼よ。実体なんてありはしないの」


「友達に戻らないかって言ったのは、恋花の方だろ」


 ほとんど負け惜しみだった。


 自分でもそう分かっている声音で言うと、

 恋花はこの世すべてに愛想を尽かしたかのような、特大の溜息を吐いた。


「信じられない……。

 まさか私が、文字通り“友達に戻りたい”って、

 言ったと思ってるんじゃないでしょうね」


「さ、さすがにそこまで俺も馬鹿じゃない……と思う

 でもワンチャンあるかなーって」


「ワンチャンもツーチャンもないわよ」


 切り捨てるように、続ける。


「私達は今日からただのクラスメイト。

 それ以下はあってもそれ以上はないの。

 仕方ないから一年仲良くしましょ。

 はい、自己紹介終わり」


 一息も置かず、最後にとどめを刺す。


「あとこれから私のことは、恋花じゃなくて――

 “向崎こうざきさん”って呼んでね、汐森しおもり君」


 一秒でも早く、会話を終わらせたいらしい。


 恋花は言い切ると、

 窓をぴしゃりと閉めるように、そっぽを向く。


 これほど心の距離を置いた自己紹介が、他にあるだろうか。


 もはや石を投げつけながら

「仲良くしよ?」と言っているようなものだ。


 俺は一か月前から、

 何ひとつ進歩していないのかもしれない。


 それどころか。


 さらに遠い場所へ行ってしまった彼女の背中を呆然と見つめ、

 言葉にならない何かを宙に漂わせる。


 その沈黙を見計らったように、予鈴が鳴った。


 こうして、高校二年生の春が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ