番外編1-⑥.脳ある悪魔は、優しく微笑む
来栖先輩が改めて、俺に向き直る。
「皆の話が出揃ったね。
さて、清継君。
ここまでの話で何か怪しい点や気付いたことはあったかな」
「そうですね、まず俺の話になります。
放課後ここに来るまでに、
俺自身も皆と同じように、おそらく被害者になりました」
「本当かい?
君は一体何を?」
「お守りです。ボロボロの。
それを探していたので、随分と遅刻してしまいました」
一拍。
「皆の盗まれた物には共通点があると思います。
ボロボロのお守り、
鍵の入ったホルダー、
バスケットシューズ、
筆、
中古のカメラ……」
並べ終えてから。
「どれも新品ではありません。
ここに、何か意図がある気がします」
「中古品を集めるような、
何か特別な理由があるのかな」
少し、このような動きに心当たりはある。
しかしまだ断定は出来ない。
判断を誤れば、
無意味な混乱を招くだけだ。
今は黙っておこう。
「明日の放課後、実際に被害にあった現場を見たいと思います。
その後で推論をまとめたい」
そう言うと、
写真部の星川先輩が、再び身を乗り出してくる。
「まとめたいってことは汐森君。
もうある程度、目星は付いてるってこと!?」
それを皮切りにビレッジ兄弟も加わって、質問攻めだ。
事態が収拾つかなくなってきた――
助けてほしい。
視線を送ると、
来栖先輩が平手を打つように合図してくれる。
「よし、今日の話はここまでだ。
皆、集まってくれてありがとう」
一呼吸。
「少しでも早くこの件が解決するよう、力を合わせよう。
清継君、また何か進展があったらすぐに教えてくれ。
いつでも話し合いの場を設ける」
来栖先輩の優しい微笑みに、
俺は改めて、冷静さを取り戻す。
心の中では、
まだ全ての手掛かりを整理し切れていない。
明日の現場確認で、
推理の全てをつなぎ合わせなければ――。
* * *
こうして会議は終わる。
探偵ごっこもなかなかに疲れるものだ。
早急に解決しなければ、平穏の日々は取り戻せそうにない。
ただでさえ、
鞄にあのキーホルダーが付いていないと落ち着かないのだ。
恋花にはパンツを履き忘れて学校に来た気分だと例えたものだが、
これを機に新たな性癖が目覚めては困る。
「さて帰るか。
恋花、近くまで送るよ」
「ううん、大丈夫。
あ、そうだ。私教室に忘れ物したかも! 先帰ってて」
「どうせまた嘘だろ。
いいよ分かってたし――帰り、気を付けてな」
「ごめんて、また今度ね。
じゃね」
そう言って恋花は演技なのか、
本当に校内へ小走り気味に戻って行く。
俺はため息をついた。
果たして、その“また今度”が訪れる日は来るのだろうかと。
さっきの生徒会準備室での話し合い中、
恋花は終始無言だった。
俺のキーホルダー捜索を手伝ってくれると口では言いつつも、
本当はまるで興味がなかったり——
いかんいかん。
この一件のせいで、深読みグセが付いたらどうしてくれる。
メンヘラ、メンヘリ、メンヘルの三段活用で激キモ男になるぞ。
頭を振って、
下足口を出ようとした時だった。
「おお、汐森今帰りか」
「ん?
よお、ビレッジ兄弟」
大きな白い眼帯をした、木村の方が言う。
「止めろ、その呼び方気持ち悪いな!」
「すまん」
「今日はお疲れだったな。
良かったら、汐森もこの後一緒に寄り道しないか」
「寄り道?」
「世界で一番美味いハンバーガー。
駅前の」
そんなレストランガイド星三つみたいな店、あっただろうか。
口角を引きつらせる。
「まさかとは思うが、
最近出来た、あのファストフード店じゃないだろうな。
あれは売り上げが世界一のチェーンなだけで、一番美味いわけじゃないぞ」
「みんなが買うってことは、
世界で一番ってことだろ」
「……」
自分の意思はないのだろうか。
興行収入だけで評価された駄作映画や、
売上本数だけのクソゲーだってある。
蓋を開けなければ中身はわからないし、
クオリティを評価されたから支持されているものでもないだろうに。
まあ、この手の人にそれを力説しても、
言い分が平行線になりそうだから、止めておく。
「誘ってくれたのは嬉しいけど、今日は遠慮するよ。
例の盗難事件のこと、もう少し考えたいんだ」
「そうか、悪いな。
ありがとう」
謝られた。
こちらも被害者の一員なのだから、
気にすることはないはずなのだが。
俺は片手を軽く挙げ、踏んでいた靴の踵を直す。
帰ろう。
その時。
黙っていた美術部の村田が、控えめに口を開いた。
「待ってくれ、汐森」
「……何だよ。
今日はもう帰るぞ」
「ああ、そうじゃないんだ。
――これを」
村田は唐突に、
ポケットからメモ帳と三色ボールペンを取り出す。
ページに何かを書き込み、一枚切り離して差し出した。
「ラブレター?」
「俺たちの連絡先だ。
それに、来栖先輩のも。
事件のことで連絡しやすい方がいいかなと思って」
「別に学校で充分だろ」
「まあ、いいじゃないか。
持っておけよ」
メモ帳を覗き込む。
ビレッジ兄弟に加え、
来栖先輩の番号まで整然と並んでいる。
こんなものを渡されても、
すぐに電話をかける気にはならない。
相手は恋花じゃないのだ。
だが、視線は自然とメモ帳の細部へと向かう。
左上には赤ペンで『米』の漢字、
右下には同じく赤で星が四つ。
デコレーションのつもりか。
さらに来栖先輩の番号の上には、魚──
いや、ナマズのような生き物が泳いでいる。
さすがただの美術部員でなく、運動部から転部した美術部員。
センスが微妙だ。
思わず、口を突いて出る。
「お前、バスケ続けた方が良かっただろ」
村田は困ったような眉を寄せ、
苦笑した。
「俺もそう思う。
……盗難事件、必ず解決してくれ」と。




