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セカンド〜第二の人生を得た人間はどう生きるのか〜  作者: 鱒科の人間
一章 出会い
6/8

天使は海に還る

「※※※※」


「おいおい、苦しそうじゃねぇか?とっとと本体出した方が良いんじゃねぇか?」


赤黒い何かが巨大クリオネの幻影を覆いつくす。だが、本体では無い為か、【ゲヘナ】が直ぐ消える。


「※※※※※・※※※」


巨大クリオネが何かを呟く。


すると、数分前と同じように、水面に再び巨大な月が煌々と照らされていた。


「もう一体出てくる…って訳じゃ無いだろうな?」


一体でもこんだけ手こずってるんだ。二体になればそれこそ”地獄”だぞ。


「考えろ…。奴に有効な手を」


奴は”ゲヘナ”を嫌った。”ゲヘナ”は奴に確実にダメージを与える手…と言うのは間違い無いだろう。ならば”ゲヘナ”を巧く使う必要がある。


そして、”ゲヘナ”を嫌った結果【偽の月】を再び出した。奴が最初にしたことは何だ?


…………確かその時は本物の月が水面に映っていた筈だ。そして…その月を追いかけるように【偽の月】移動していた。


だが…本物の月が雲に隠れた瞬間、【偽の月】が大きく、更に眩しくなった筈だ。


「本物の月を嫌っている?…何故だ?」


可能性…としてだが。奴が本物の月を追いかけたのは何故だ?水面から月を消そうとしたのか?


ダメだ…考えが纏まらない。


「少しでも考える時間を稼ぐ」


何よりも、勝つ為に。そして、この瞬間を”愉しむ為”に。


「【天覇】」


奴に向かってじゃない。”空”に向かって放つ。


「※※」


だが、奴が何かを紡いだ瞬間、高密度エネルギーが”不自然”なまでに軌道を変え、水平線上に向かって伸びていく。


「ああ、分かったぜ…。お前の弱点……【月】だな?」


「※※※」


ルナだのセラフだの大層な名前が付いている割に弱点が【月】だとはな。月が弱点でもなければ、空に向かって撃った攻撃を防ぐ理由は無い。


そりゃこの季節に戦うだろうよ。空は雲だらけだからな。


弱点は判明した。だが、問題が解決した訳では無い。どうやって月を再び水面に映すかだ。


今も煌々と【偽の月】が光を放っている。


「※※※・※※※※ー※※」


クリオネが呟く。


そして、何もない空間から”触手”の様な物が高速で飛んでくる。


「間に合わねぇ…っ!」


俺の左肩を触手が掠める。只掠めただけだったが、その傷口からどす黒い物が体に流れ込む。


「毒持ちかよっ!」


痛みは無い。多分だが、遅効性の毒なのだろう。


「解毒ポーション……効かねぇってどんだけ強い毒何だよ!?」


即座に解毒ポーションを使用するが、どす黒いモノが体から消えた気配はない。


多分だが、もっと高位の解毒ポーションが必要なのだろう。


「クソがっ!【ゲヘナ】!!」


俺の身体を”赤黒い何か”が覆いつくす。


「ぐぉっ…っ...」


声にならない痛みが脳に直接送り込まれる。それだけで思考が真っ白になるが、【ゲヘナ】が俺を覆っている間は”触手”で攻撃はされない。奴は【ゲヘナ】を嫌っているからな。


それに、ただ奴の攻撃を避けたくて【ゲヘナ】を纏わりつかせた訳じゃ無い。【ゲヘナ】はありとあらゆる物を”喰らいつくす”。それは無機物だろうが、有機物だろうが変わらない。だが、唯一【ゲヘナ】を使用できる俺はその対象では無い。


「遅効性で助かったぜ。ったく、凶悪な性能じゃねぇか…クリオネ如きが」


【ゲヘナ】から出て来たマサキは、数秒前まで”刻まれて”いた、どす黒い紋様が無くなっていた。


「全く、俺の【ゲヘナ】も大概か?まあ、オアイコって事だ」


「※※※※」


まあ、唯一の弱点があるとするならば、【ゲヘナ】が体に入り込む感覚がとんでもなく不快で激痛って事か。それも醍醐味だが。ポーションで治るならそれに越した事はない。


「じゃあ、二回戦目と洒落込もう【纏】」


【ゲヘナ】によって発生した”赤黒い何か”が足、そして手に絡みつく。


【ゲヘナ】を”武装”する事で、より効率的にダメージを与える事が出来る。


「※※※※・※※」


「届けよ【天覇】」


纏いにより、高密度エネルギー砲に”赤黒い何か”が纏わりつく。奴は雲を晴らす攻撃を止める。それは月を出す事を嫌うからだ。ならば、奴の嫌う【ゲヘナ】を空に撃てばどうなる?


「※※※※※※※※※※※※※※」


「ビンゴだな。そんなに嫌か?月を見るのがよ」


勝利条件、それは”月”だ。


空高く撃ちだされた【ゲヘナ】が”何か”によって軌道を変える。それは今までと変わり無かった。


だが、【ゲヘナ】は更に軌道を変え、”何もない”空間へと向かっていく。


「残念だったな。幾ら攻撃を反射しようが、【ゲヘナ】には関係ない」


【ゲヘナ】は喰らいつくすまで対象を追い続ける。さっきは本体には【ゲヘナ】が当たらなかった。だが、奴は【ゲヘナ】を脅威と見做した。奴は【ゲヘナ】に干渉する為に、何か力を使った。


【ゲヘナ】はその力を辿る。力の源泉まで、喰らいつくす為に。多分だが、奴の幻影は只の光子でしかない為に本体へと辿れなかったのだろう。


「※※※※※」


「苦しいだろ。俺も()()()()だ、その痛みはな。【天覇】」


今まで届かなかった【天覇】が、なんの抵抗も無く、空へと流れていく。


「ほら、出て来たぜ”月”が」


高密度エネルギー砲が雲へと到達したと同時に、月に掛かっていた雲が消え去り、本物の月が水面へと照らし出される。


そして水面には”二つの月”が存在する事になった。


「※※※※※・※※」


「………月は出たが…どうなる?」


一応仮説としての勝利条件の一つは”月を出す”ことだ。それは今クリアした。


「※※※※※」


「消えた?……いや違うな。幻影を保てなくなった訳か」


「※※※※」


そしてその仮説を裏付ける様に、”何も無い”空間から幻影と全く同じ姿の巨大なクリオネが現れた。


奴の本体と戦う為の、”月”って訳か。


「やっと姿を見せやがったな、クリオネ野郎」


巨大な図体に、白く輝く六対の羽。確かに幻影のクリオネより更に神々しさは感じる。気のせいかも知れないけどな。


だが、奴の周囲には俺が先程放った【ゲヘナ】が纏わりついていた。


「※※※※※」


「お前が何を言ってんのか分かんねぇけどな、なんとなく焦ってんのだけは解るぜ」


「※※※※・※※-※※※」


「おっと、その攻撃はもう見飽きた。そんなワンパターンじゃ俺には勝てない」


「※※・※※※―※※※※」


「それは知らん!ってキメェ!」


奴の頭長が割れ、触手の様な物が現れる。その異形の見た目に嫌悪感からか、鳥肌が立つ。


そして、クリオネの翼から棘の様な物が夥しい数射出される。


「反応出来ねぇ速度じゃねぇ。うお!?」


上空に素早く飛び上がり光り輝く棘を回避するが、空中で足を触手に掴まれる。そしてそのまま岸壁へと体を叩きつけられてしまう。


「がっ!?……お前…肉弾戦も出来んのかよ…」


「※※※・※※」


そして再び触手が迫りくる。あの触手はさっき見た奴だ。特殊な毒を持っている。


”.........兄ぃ!………ぃ!”


脳にノイズが流れる。そのせいで回避の反応が少し遅れてしまう。


「何だってんだこんな時に!?」


こんな経験は初めてだ。


「クソがっ...。なるべく早く終わらせる…【ゲヘナ】【纏】」


「※※※」


「そろそろ溜まった頃だな」


「※※※※」


「【解放】」


今までの溜まったエネルギーを解放するスキルでは無い。【鬼角解放】と言うスキル。一定時間経てば”角”が変化する。


「※※※」


「来た来た来た来たァ!全部揃った、終わりにしよう」


「※※※※・※※※※・※※※※」


「【黄泉平坂】」


夥しく光る”角”から”青白い何か”が全身を包み込む。


そして【ゲヘナ】から発生する”赤黒い何か”と”青白い何か”が混ざり合う。


「少しは愉しませろよ」


跳躍。だが、その速度は音速の域を超え、ソニックブームを引き起こす。


「※※※※」


「【覇拳】!」


奴の腹に”赤黒い何か”と”青白い何か”を纏った拳をぶつける。


「※※※※※※※※※※※※※※※※※※」


拳が衝突したクリオネの腹に穴が開く。何も残さずに。


「【天翔脚】」


そしてクリオネの頭部を一閃する蹴りを放つ。


「※※……※」


「いや、強かったよお前は。【ゲヘナ】とか言うクソスキルが無ければ俺は確実に負けてた」


「※」


戦いの終わりは何時も突然だ。愉しんでいる内に終わってしまう。


そして…討伐を告げる機械音声が流れる。


False moon… fading.


The sky returns to its rightful state.


…yet something remains.


— Lunaphim terminated —


【偽の月は消え…


 本来の姿を取り戻す


 されど序章に過ぎず


 ”月を冠する天使”は…儚く消えゆく】


やけに詩的なアナウンスだな……。それに…序章に過ぎないとはどう言う事だろうか。


……考えても無駄な事か。


拡張し続ける”セカンド”を完全攻略する事など……不可能なのだから。

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