99話
ブリルーノはスヴェツシ男爵夫人を起こすと、使用人たちが運んできた食事を口にさせた。食欲がないという反論を封じ、限界まで詰め込めるだけ詰め込むようにして、料理を胃に収めさせた。
「うぷっ。これで、よいのですか?」
消化に良い物とはいえ、体力が限界まで減った状態で胃の限界まで食べたからか、スヴェツシ男爵夫人は吐き気を堪えている。
しかしブリルーノは構わず、未熟児として誕生した赤子を救うために、スヴェツシ男爵夫人に魔法をかける。
それは家畜を肥育するために使用する魔法。
赤子のいない女性にかけるため、魔法は普通の強度で発動し、本来通りの効果を発揮する。
魔法効果によって食べ物の栄養が急速に体に取り込まれることで、痩せ型だったスヴェツシ男爵夫人の見た目が、ほんの少しだけふっくらとした見た目になった。
胸元も、先ほどまでより一回りほど大きくなり、乳首の先から母乳が滴り出す。
「え、ええっ!?」
自身の肉体の変化に驚いている様子だが、ブリルーノは構わずに、抱えたままの赤子を夫人の胸元に宛がった。
「ほら、母乳を飲ませてやってくれ」
「は、はあ?」
スヴェツシ男爵夫人は現状を理解できない様子ながらも、指示された通りに赤子を胸に吸い付かせた。
しかし赤子は一向に乳を吸い出そうとしない。
いや、吸い出そうとしないのではなく、吸い出すほどの力を未成熟な体が発揮できないのだ。
「そうなるよな。チッ。赤子の身体に影響を与える魔法を多く使いたくはなかったが、緊急事態だからな」
ブリルーノは、赤子が乳を吸って飲めるように、赤子に使っても問題ない範囲に効果を調整した身体強化の魔法を使った。
すると赤子はスヴェツシ男爵夫人の乳房から母乳を吸い取れるようになった。
これで一安心――というわけにはいかない。
未成熟な赤子は、消化器官も弱いはず。もしかしたら母乳を消化吸収できない可能性がある。
「だからこその、肥育の魔法だ」
ブリルーノは、先ほどスヴェツシ男爵夫人に使った魔法を、今度は効果を酷く弱めた状態で赤子に使用した。
スヴェツシ男爵夫人には劇的な効果を発揮したが、効果が弱いこともあり、赤子の見た目に明らかな変化が出たようには見受けられない。
しかし注意深く観察すれば、赤子の体つきにふくよかさが芽生え始めたのが見て取れる。
ブリルーノが魔法の行使を止めると、赤子が何かを求めるよう口を開け閉めし始める。
「ほら、母乳の催促だ。口に含ませてやれ」
「え、はい」
殺気飲んだばかりなのにと言いたげな顔で、スヴェツシ男爵夫人は赤子に母乳を与える。
まだ母乳を自発的には飲めないようなので、再びブリルーノが身体強化の魔法を使って補助を行った。
すると先ほど飲んだよりも多い量の母乳を、赤子は飲んでみせた。
ブリルーノは、赤子をスヴェツシ男爵夫人の腕の中から回収し、多く飲んだことを褒めるように、その背をポンポンと叩く。
「けひっ」
引きつけの声のような音を出して、赤子がげっぷをした。
もしかしたら、げっぷも魔法の補助が必要かと構えていたブリルーノは安堵した。
そして腕に居る間に、再び肥育の魔法を行使する。
先ほどよりも、ふくよかさの具合が増した。しかし普通の赤子に比べれば、まだまだ痩せすぎのような状態だ。
もっと身体を健康な状態にするべきなのは間違いないが、ここでブリルーノは考える。
(肥育の魔法を、これ以上使っていいものだろうか。時間を置くべきではないか?)
肥育の魔法は、元は家畜を急速に育てるためのもの。
つまり、育った家畜は素早く出荷するので、肥育の魔法が長期的に家畜にどんな影響を与えるかは不透明な部分が多い。
それでもブリルーノの宮廷魔法師筆頭として魔法に関する直感的に、人体に一回二回かけたぐらいなら問題が起こることはないと確信している。
しかし短い期間に何度も使用して安全かまでは、流石のブリルーノの直感でも判断がつかなかった。
(続きは明日か明後日にしよう。それまでは俺様がつきっきりで、この赤子に変化が起きないかを見ることにしよう)
ブリルーノはそう自身の以後の行動を決定すると、赤子をスヴェツシ男爵夫人に抱かせて三回目の授乳をさせた、




