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98話

 ブリルーノが二つの魔法で出産の補助をしているにもかかわらず、スヴェツシ男爵夫人は時間を経るに従って顔色が死人のような有り様になってきた。

 まだ産道の外に胎児の頭すら見えていない状態だというのに、スヴェツシ男爵夫人の体力と筋力は限界寸前に見える。

 ブリルーノが指示を出し、使用人たちにスヴェツシ男爵夫人へ水分と栄養を補給させるが、顔色の悪さが戻らない。


(もしや、別の病気が出たか?)


 ブリルーノは、そう危惧して、魔力視によるスヴェツシ男爵夫人の体内診察を行う。

 しかしスヴェツシ男爵夫人の体内魔力の流れに乱れはない――つまり病気や怪我が体内に出たわけじゃないことが分かった。


(単純に、体力と筋力が少ないだけか。これが普通の出産なら、少し休ませて回復させるのが定石なんだが)


 スヴェツシ男爵夫人の場合は、休ませて復調させるよりも、このまま出産を継続させた方が良いと、ブリルーノは判断した。

 なぜなら、早めに出産を終わらせてから、スヴェツシ男爵夫人に回復魔法をかけた方が、体調の回復が早いからだ。


(むしろ、出産を終わらせた後の方が、やるべきことが山積みだからな。出産に手間はかけてられない)


 ブリルーノは、胎児の身体を物体移動の魔法で引っ張ってきた中で、感じたことがある。

 それは胎児が未熟であるからこそ、産道を通り抜ける抵抗が少ない。それこそ、現時点では胎児の腰あたりが子宮口に捕まっているが、それが外れさえすれば一気に出産が終わる気配すらある。

 つまるところ、ここがスヴェツシ男爵夫人の無理のしどころだと言えた。


「ほら、しっかり気を保て。意識して呼吸しろ。息を止めて力むんじゃなく、息を吐きながら力を入れろ」

「は、はいぃ~。ふう、ふう、うぅぅぅぅんんんぅう~」


 体力の限界で意識がもうろうとしているのだろう、スヴェツシ男爵夫人は反射的な感じで返事をし、そして言われるがまま指示された方法で身体に力を込める。

 スヴェツシ男爵夫人の力みに合わせ、ブリルーノは物体移動の魔法で胎児を優しく産道の外へと引っ張る。

 一度ではだめでも、二度三度、四度五度と試すと、胎児の腰がスヴェツシ男爵夫人の子宮口の外へと出た。

 その瞬間、ブリルーノが予想していた通りに、胎児の小さな肉体がするすると産道の中を通り始めた。

 全く引っかかるところなく滑り出てくる様子に、今度はブリルーノが慌てる。

 子宮口の外に胎児の体が出て来れば速やかに出産が終わりそうだとは思ってはいたものの、これほど滑らかに出てくるとは予想していなかったからだ。

 ブリルーノは、慌てて産道の出口から現れた胎児の頭を手で支えると、とりあえずこれ以上外に出ないように保持した。


「おい、そこのタライを持ってこい。魔法で温水で満たす」

「「は、はい!」」


 指示を受けて、使用人たちが床に置いてあったタライをブリルーノの近くへと運んだ。

 ブリルーノは魔法でお湯を作り、タライに満たす。

 その後で、保持していた胎児を両手で優しく産道の外へと引っ張り出した。

 出てきた胎児は、普通の胎児は膨らんだ布袋を各部で縄で縛ったような見た目なのに比べて、まるで鶏ガラのように痩せ細っていた。

 体表は薄く、その内側にある血管が青と赤のともに見えるほどで、皮膚など指で擦るだけで切れて血がでてきそうな予感がするほど。

 ブリルーノは、力を入れただけで砕けるガラス細工を扱う気分で、未成熟な赤子をタライのお湯で清めた。

 その作業の中、赤子が産声を上げる。


「あきゃ~、あきゃ~」


 産声にしては弱々しい、呼吸に音を乗せただけのような、そんな泣き声。

 ブリルーノは、余りの弱々しさに顔を顰めつつ、赤子をタライのお湯の外へと引き上げた。

 その瞬間、身体にまとわりつく水分が外気によって冷えたからか、胎児がブルブルと震え始めた。赤々とした見た目だった肌も、急速に色を失い始めた。


「うぉ、マジか。環境変化に弱すぎるだろ」


 ブリルーノは、タオルで拭いている時間はないと判断し、魔法で胎児の身体を乾燥させ、それから更に体温保持の魔法をかけた。

 それで赤子の身体の震えは収まったので、ブリルーノは一安心で赤子を真新しく手触りが優しい布で包んだ。

 赤子の処置が一段落ついたところで、ブリルーノはスヴェツシ男爵夫人に目を向ける。

 スヴェツシ男爵夫人は、出産が終わったことに安心したからか、大股開きで失神していた。

 使用人たちが慌てて惨状を隠そうとするが、ブリルーノは待ったをかけた。


「夫人の世話をする前に、消化に良い食い物を持ってきてくれ」

「食べ物をですか? だれが召し上がられるので?」

「乳の出が良くなる魔法をかけるために、夫人に食べてもらう。この赤子の身体を整えるためにも必要な処置だ。早くしてくれ」


 ブリルーノが引き下がらない様子を見せると、使用人たちはスヴェツシ男爵夫人の痴態に目を向けてから部屋の外へ食事を取りに向かった。

 使用人たちが戻ってくるまで、ブリルーノは抱えた赤子の観察を続け、何かしらの変化が起きたらそれを解決する魔法を行使した。もちろん赤子に使ってもいいように、魔法の効果は適宜に弱めることは忘れない。

 




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― 新着の感想 ―
痩せすぎ太り過ぎは、それだけで出産のリスクになるからな。 母子共にまだまだ死の淵に居るよな。
なんとか赤子は産まれる事は出来ましたがまだまだ母子ともに安心は出来ませんねー
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