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終章- 刻のカケラを巡る-39 決戦メンバーの振り分け

――最後の布陣が決まる。


それは勝つためではない。


生き残るための戦い。


それぞれの役割が、運命を分ける。


挿絵(By みてみん)


――これが、最後の布陣となる。


作戦指令室の照明が僅かに落ち、正面の巨大モニターへ戦術配置図が映し出された。


ニブルヘイム全域を示す立体地図。その上に、味方と敵を示す無数の光点が浮かび上がっている。


戦術盤の前に立った雷牙尊が、一同を見渡した。


「メンバー割を発表する」


ざわめきが消えた。


「ここから先は、ただ同じ戦場で戦うだけではない。互いに命を預け合う配置だ。自分の役割と、誰を守るべきかを確実に頭へ叩き込んでくれ」


雷牙尊が戦術盤へ触れると、最初の区域が拡大表示された。


■対ナインライダー迎撃班


「まず、《パゴス・ギーガス》」


名前が呼ばれると、ミスティルが顔を上げ、その隣で塵芥鏖が軽く舌打ちした。


「搭乗者はミスティル、塵芥鏖の二名」


「社長、マジで戦闘に参加するのかよ?」


塵芥が呆れたように尋ねる。


ミスティルは、何を今さらと言わんばかりに笑った。


「出るに決まってるだろ。オレたちが心血注いで盛り上げたキャノンボールレースを、あいつらにメチャクチャにされたんだぞ? 黙って見てられるわけないじゃん!」


「そりゃそうだけどよ。だからって、CEO自ら最前線に出る必要はねぇだろ」


「いやいや。オレたちが戦力にならなくてどうするよ、塵芥君。それに――」


ミスティルの笑みが、ほんの少しだけ険しくなる。


「ウチの副社長を的にされて、黙ってられるわけないじゃん」


「……ったく」


塵芥は肩をすくめたものの、それ以上は止めなかった。


そのやり取りを聞いていた雷音が、納得したように何度も頷く。


「なるほどな。でもそれはそれとして、一つ気になってたんだけどさ」


「何?」


「《パゴス・ギーガス》って、クレオラたちが保有してた《十大巨人デカ・ギーガス》の一体だろ? なんで完全にミスティルさんの私物みたいになってんの?」


「ああ、それ?」


ミスティルは何でもないことのように答えた。


「ビジネスで、オレが持っていた《青の銀の鍵》と交換してクレオラから買った」


「なぁるほどー」


雷音は妙に素直に納得した。


雷牙尊は咳払いを一つ入れ、次の機体へ表示を切り替える。


「続いて――機械神改獣アモン・サーガ


阿門が静かに目を開いた。


その隣では、紅茜の視線がほんの僅かに揺れる。


「搭乗者は、乂阿門将軍と紅茜副官」


短い沈黙の後、紅茜が静かに頭を下げた。


「……承知したでござる」


阿門は何も言わなかった。


ただ戦術盤の向こうに広がる戦場を、鋭い眼差しで見据えている。


雷牙尊が補足する。


「なお、阿門将軍には本ミッションにおける最高司令官を務めていただく。機械神部隊の全員には、将軍からの作戦命令を厳守してもらいたい」


そして、二人の男へ視線を向けた。


「ドアダ七将軍、羅漢殿。乂族副将、羅刹殿。それでよろしいですか?」


羅漢は迷うことなく頷いた。


「もちろん問題ありません。生前、二人の父――乂舜烈と楚項烈より、阿門殿を兄と慕い、その命には素直に従うよう申し付けられております」


その隣で羅刹も頷く。


「異存はない」


だが、その胸中には別の思いがあった。


(……まあ、羅漢兄上にはまだ言えぬが)


楚項烈。


その正体こそ、自分たちの長兄――乂阿烈。


羅刹は傍らの兄を横目で見ながら、その秘密をまだ明かせないことへ小さな申し訳なさを覚えていた。


雷牙尊はそれ以上触れず、配置を決定する。


「では、お二人には《ケルビムベロス》で出撃していただきたい」


「「うむ、承知した」」


兄弟の返事が綺麗に重なった。


続いてモニターに、蒼き巨神が映し出される。


「《アーレスタロス》。搭乗者は漢児、絵里洲」


漢児がニヤリと笑った。


対して。


「ええええええええええええええええ!?」


絵里洲の悲鳴が作戦指令室を揺らした。


張り詰めていた緊張感が、一瞬だけ吹き飛ぶ。


「な、なんで私!?」


恐る恐る尋ねる絵里洲へ、雷牙尊は表情一つ変えずに答えた。


「ナインライダーが使用する呪剣への対策だ。奴らの呪いは通常の防御では防ぎ切れない。君の解呪能力が必要になる」


「えぇぇぇぇぇ……」


見るからに肩を落とす絵里洲。


その背中を、漢児が豪快に叩いた。


「安心しろ、絵里洲! 俺がついてる! 観光気分で行こうぜ!」


「観光で死にかけるのが嫌なんだけど!?」


「ガハハハハ!」


「笑い事じゃない!」


再び室内へ小さな笑いが起こる。


だが、雷牙尊はすぐさま次の配置へ移った。


「《ロート・ジークフリード》」


レッドが顔を上げる。


「搭乗者はレッド、ブリュンヒルデ」


そして雷牙尊は、ブリュンヒルデへ視線を向けた。


「今回の作戦では、艦内から行う《十二色共鳴詠唱》だけでは足りない。雷華君へ可能な限り近い位置から《女神の歌》を届けるため、現地へ出撃する歌い手も必要になる」


モニターへ四人の顔が映し出される。


聖羅。


ブリュンヒルデ。


迦楼羅すもも。


紅茜。


「よって、《ブリューナク》のこの四名には、それぞれ戦闘部隊と同行してもらう」


ブリュンヒルデが静かに頷いた。


「……わたしが、聖羅を支えます」


その言葉を聞いたレッドが、彼女へ視線を向ける。


「約束しよう」


「……?」


「お前は俺が守る」


ブリュンヒルデは、一瞬目を丸くした後、すぐに楽しそうな笑みを浮かべた。


「うん。守って♡」


「おいコラ〜〜〜!」


横からフレアの怒声が飛んだ。


隙あらばレッドへ甘えようとするブリュンヒルデを、ものすごい形相で睨んでいる。


その様子を眺めていたパピリオが、小さく笑った。


「青春ねぇ……」


「そこ、遊ばないように」


雷牙尊の冷静な声で場が戻る。


「続いて、炎の巨人機ピュリノス・ギーガス。シグルド、クレオラ君。いけるか?」


「当然だ」


シグルドは即答した。


「スカーレット家兄妹の絆、見せてやろうぜ。クレオラ!」


「ええ! もちろんですわ、お兄様!」


兄妹は顔を見合わせ、力強く頷く。


雷牙尊も満足そうに頷き、次の機体を表示した。


機械神ラ・ピュセル。搭乗者はルシル・エンジェル、迦楼羅すもも」


「銀河連邦女子最強のルシル様とご一緒できるなんて、光栄ですの」


すももが嬉しそうに微笑む。


ルシルは騎士らしく胸へ手を添えた。


「迦楼羅さんの警護は私にお任せください。必ず守り抜きます」


「よろしくお願いしますの」


そして最後に、時計仕掛けの蒼刃機がモニターへ映し出された。


「《ブレイドブルー》。搭乗者は今宵亜突殿、アン・クィン殿」


亜突が軽く肩を回す。


「亜突殿には《死の魔眼》を用いてナインライダーたちの弱点を見抜いていただく。言わば、本作戦における『目』だ」


「問題ない」


簡潔な返事だった。


続いて雷牙尊は、アン・クィンへ向き直る。


「そしてクィン殿。今回の作戦には、敵側の高度な術式への対処が必要となる。そこで確認しておきたい」


「何かしら?」


「今の貴女に、《アイナクィン》を操る力は残っていますか?」


クィンは少し考えるように腕を組んだ。


「うーん……正直に言うと、システムの歯車であるアイナクィンへの正式な命令権は、《十権者》――つまりメルコールの方が上なのよね」


「完全な支配権はない、と?」


「そう。ただし――」


クィンは指先を軽く回した。


「メルコールから送られる命令オーダーへノイズを入れて、アイナクィンの反応を鈍らせるくらいなら出来ると思う」


雷牙尊は僅かに頷いた。


「それで充分です」


こうして対ナインライダー迎撃班――八組、総勢十六名の配置が確定した。


だが、戦う者だけでこの作戦は成立しない。


雷牙尊が戦術図を切り替えると、今度は十二色の光がモニターへ浮かび上がった。


「続いて、アルゴー号最深部スーパーシークレットルームにて、《奇跡の歌》を担当するメンバーを発表する」


十二人。


十二の色。


十二の魂。


モニターには、それぞれの名前が表示された。


ピンク――神羅

赤――フレア

青――アクア

黒――鵺

橙――月読

黄――エドナ

緑――ミリル

黄緑――セレス

紫――リリス

銀――ネロ

白――白水晶

水色――イサカ


「この十二名による《十二色共鳴詠唱》を実行し、《世界鎮静歌》を発動する」


誰も口を挟まなかった。


この十二人が歌を止めれば、雷華を救うための道そのものが閉ざされる。


彼女たちもまた、別の意味で最前線に立つ者たちだった。


そして。


雷牙尊が最後の戦域を表示する。


モニター中央。


赤く染められた最大危険区域。


そこへ三つの名称が浮かび上がった。


風牙麓。


魔王アングマール。


機械神モルゴス。


それだけで、室内の空気が変わった。


「最後に――最終決戦対処班」


雷牙尊の声にも、僅かに重みが加わる。


「この区域には、三体の機械神を投入する」


一機目。


「《ドゥラグラグナ》――雷音、獅鳳」


二機目。


「《ベリアルハスター》――シュリ、オーム」


そして三機目。


「《バルドル》――聖羅、バルドル」


誰もすぐには言葉を発しなかった。


特に。


自分の名前を見つめていた聖羅は、小さく息を吸う。


そして。


「……了解」


震えはなかった。


その隣で、バルドルが優しく微笑む。


「姉様はボクが守るよ」


「……うん」


聖羅もほんの僅かに笑った。


全配置が決定する。


雷牙尊は一同を見渡し、最後に念を押すように告げた。


「よく聞いてくれ」


全員の視線が集まる。


「これは全面戦争ではない」


戦術図から、敵の撃破を示す表示が消える。


代わりに二つの目標だけが強調された。


「我々が行うのは――妨害作戦と救出作戦だ」


雷牙尊は一つ目の光点を示す。


「第一目標。雷華君の奪還」


そして。


もう一つ。


機械神モルゴスを示す巨大な赤い光点。


「第二目標――機械神モルゴスの完全復活阻止」


雷牙尊の視線が鋭くなる。


「敵の殲滅には固執するな。ナインライダーを何体倒したかなど、この作戦では何の意味も持たない。我々の勝利条件は、この二つだけだ」


誰もが黙って聞いていた。


「雷華君を取り戻し、モルゴスの復活を止める。そして――可能な限り全員で帰還する」


そこで初めて、雷牙尊は僅かに言葉を切った。


「以上だ」


静寂が訪れる。


誰もが分かっていた。


これは、華々しく敵軍を打ち破るための作戦ではない。


勝利の栄光を手にするためでもない。


大切な者を取り戻し、自分たちも生きて帰る。


ただ、それだけのために挑む戦いだった。


そして。


その「全員で帰る」という願いが、本当に叶う保証など――どこにもなかった。


誰が傷つくのか。


誰が倒れるのか。


あるいは。


誰かが帰ってこられなくなるのか。


それだけは、まだ誰にも分からない。


――最後の布陣は、決まった。


あとは。


戦場へ出るだけだった。

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