第五章- 暗黒の騎士ナインライダーズ-4 冥界ヘルヘイムの女王
※ヘルヘイム編突入。
ナイトライダーの襲撃を辛くも退けたレーサーたち。
しかし敵は不死身。
その弱点を知る唯一の存在――
死の女神ヘルに会うため、
一行は冥界の館「エリューズニル」へ向かう。
――冥界ヘルヘイム・前庭「黄昏の門」
骨の天蓋が脈打つ、灰色の荒野。
エンジン音が途切れた直後、
背後から、もう一つの轟音が追いかけてきた。
ブゥゥゥン……!
砂煙を巻き上げて現れたのは、漆黒と白銀の流線型マシン。
フロントに東ヴァルハラの双頭鷲、サイドに修羅界の紅蓮の紋章。
「ロード・オブ・ザ・ワン」
現在、レースランキング1位
――東の覇者、リーン・アシュレイの愛車だ。
ドアが開く。
最初に降り立ったのは、白い軍服の少年。
リーン・アシュレイ。
いつもの無表情が、今日は少しだけ翳っている。
「やれやれ、引き返して正解だったようだ」
彼は軽く手を上げながら、ミレニアとミリルに視線を走らせる。
「姉上、ミリル、
無事でよかった」
ミレニアは扇で口元を隠し、くすりと笑う。
「んっふっふ……リーン君、随分と甘い顔になったものじゃな❤︎」
ミリルは目を輝かせて駆け寄る。
「お兄ちゃん! 来てくれたのだ!」
リーンに頭をなでられ、ミリルは耳まで赤くしながらも満面の笑み。
次に降りたのは、ロキ。
紫のマントを翻し、片目を細めてレッドを見る。
「やあレッド。
……相変わらず無茶してるね。フレアちゃんも大分苦戦したみたいだ」
レッドは苦笑しながら肩をすくめる。
「悪いな、ロキ。巻き込んで」
「いいよいいよ。こっちも勝手に巻き込まれてるし」
レッドはフレアの頭をぽんぽんと撫でる。
「ほら、顔の汚れを拭け。シグルドさんに会うんだろ? カッコ悪い顔見せられないぜ」
「わ、わかってるよ兄貴!」
クレオラは静かに降り立ち、フレアの手を取る。
「……フレア。
遅くなってごめんなさい」
フレアは顔の汚れを拭いながら、ぎゅっとクレオラの手を握り返す。
「……クレオラ、ありがとう」
最後に降りたのは、鹿の角持つ少女
イホウンデー。
邪神ナイアの妹。
なんか顔面を渋いオッさんの顔に変形させて一言呟く。
「……フン。
死の匂いがする場所だな。
だが、俺は死など怖くない」
「いや、イホウンデーちゃん、この非常事態になにハードボイルドごっこして遊んでんの? 空気読んで空気…」
ロキが突っ込む。
リーンはいつの間にか真ん中に立ち、全員を見回した。
「さて、説明は後回しだ。
――ナイトライダーへの対策、練るならここしかない」
ロキが頷く。
「ヘルは、メルコールの“首輪”を一番近くで見てきた神だ。
ナイトライダーを縛ってる仕組み――
たぶん全部知ってる」
レッドが眉を寄せる。
「……でも、ヘルは会ってくれるのか?
冥界の女王だろ?」
リーンは笑った。
少年のような、でもどこか底知れぬ笑顔で。
「会ってくれるさ。
――彼女とは昔“契約”を交わした」
全員が「は?」となる。
リーンはポケットから、小さな赤い糸を取り出す。
血のような赤い糸だ。
「昔、ちょっと貸しがあってね。
――“いつか死の世界に来たら、話を聞いてもらう”と約束を交わした事がある」
ミリルが目を丸くする。
「お兄ちゃん、地獄の女王と知り合いなの!?」
「まあ、色々あったんだよ」
ロキが肩をすくめる。
「で、肝心の館は?」
リーンが指差す先――
骨の天蓋の奥、灰色の霧の彼方に、
巨大な影がそびえていた。
氷と骨でできた、まるで倒錯した宮殿。
屋根は逆さの船。
壁は無数の骸骨で飾られ、
門は開いた口のように牙を剥いている。
「エリューズニル」
死の女神ヘルの住まう館。
北欧神話で「災いの館」と恐れられた場所。
リーンはいの一番に歩き出す。
「さあ、行くぞ。
――ナイトライダーを終わらせる鍵は、あそこにある」
フレアが剣を握りしめる。
「……父さんを、取り戻すために」
雷音は、まだ女の子の姿でため息。
「ったく……こんなときに女のままって最悪だな」
「うーむ、すまぬのう乂族の王子。どうもヘルヘイム元来の瘴気の力と先程ナイトライダー共が撒き散らした瘴気の力が強すぎて、お主にかけた呪いが解呪できぬのじゃ」
詫びるミレニア
ミリルが横目で見て、頬を膨らませる。
「……別に、そのままで可愛いと思うのだ」
「だからそれは置いといて!」
ミレニアが扇をパチンと閉じる。
「行くぞ、みんな。
――死の国の女王に、礼儀正しくお茶をいただきに行くのじゃ」
「ついでに鹿せんべいも出してもらうんだよ〜❤︎」
イホウンデーがドスドスと歩きながら笑う。
「ククク……面白くなってきたな」
ロキが最後に振り返り、
ドローン群に向かって片目を瞑る。
「――全世界視聴者のみんな、
ここから先は“冥界規制”で映像が途切れるけど、
安心して。
俺たちが、ちゃんと帰ってくるから」
灰色の風が吹き抜ける。
骨の門が、ゆっくりと開いた。
エリューズニルの玄関ホールは、
まるで巨大な胃袋の中のようだった。
壁は脈打つ肉。
床は骨のタイル。
天井からは、逆さの燭台が涙のように蝋を垂らしている。
奥の玉座に、彼女はいた。
黒髪。
赤い瞳。
黒の着物に、彼岸花。
膝の上に、小さな箱。
年はミレニアやクレオラと同じくらい。
その少女こそが死の女神ヘル。
次回――
死の女神ヘルとの対面。
ナイトライダーの不死身を砕く
“首輪”の秘密が明かされる。
そしてヘルが要求する
恐ろしい代償とは――




