第五章- 暗黒の騎士ナインライダーズ-3 絶・領域展開――“亡魂の円環”
※ 第五章、死闘激化。
黒き騎士たちの猛攻に、
ついにキャノンボールレーサーたちは総力戦へ。
だが、その先に待っていたのは――
絶望そのものだった。
「坊主達、俺たちが三体を相手どる!合わせろ!」
「言われるまでもない!」
アーレスタロスの軸足が砂を抉り、スライドから上段回し蹴り。神聖天空拳脚技《雷顎》が騎士の兜を噛む。レッドがその空隙へ胡蝶蜂拳直伝の突き技《紅蓮穿》を差し込み、シグルドの黒炎の拳が最後の一層を砕く――
……が、砕けた兜の内側は風洞だった。空洞の喉が鳴るだけで、肉体はない。魔的な形而上体が瞬時に再凝集し、槍の穂先が逆風と共に漢児の首筋を狙う。
「チッ!」
アーレスタロスの肩装甲が開き、《蒼鉄盾》が展開――火花。弾いた次弾がレッドの頬を掠め、シグルドの背に鎖が絡む。三対三、拮抗。しかし、拮抗止まり。
灼熱平原の空が、赤黒く煮えたぎる。
九騎のナインライダーは、まるで幽鬼そのものだった。
黒いマントは炎ではなく「影」そのもので、風を切るたびに空間が抉れ、熱波がねじ曲がる。
顔のない鉄の仮面の下で、かつての人間の残滓が「ガリッ、ガリッ」と歯を鳴らす音だけが響く。
「目標再確認。
ヨグソトースのカケラ保有者――生け捕り優先。
抵抗者――即座に灰にせよ」
機械のような宣告。
だが、その声には微かな「人間の残り香」が混じっていた。
風牙麓の仮面の奥で、シュリの名前を呼ぼうとした瞬間が、確かにあった。
――だが、もう遅い。
◆
「てめえらぁぁぁ!! 俺の仲間を傷つけるんじゃねぇ!!」
漢児が拳を振り上げる。
光速の拳がナイトライダー一体を捉える。
――漢の鉄拳ドリルパンチ!!
蒼の雷が炸裂。
ナインライダーの黒マントが引き裂かれ、仮面に亀裂が入る。
だが、次の瞬間、裂けたマントが勝手に縫い合わさり、仮面の奥から青白い炎が噴き出す。
「無効。
再生率――九十九パーセント」
ナイトライダーが反撃。
黒い槍が漢児の腹を貫こうとする。
「甘ぇ!!」
横から紅のHEROが割り込む。
ロート・ジークフリード。
紅の勇者が、龍殺しの聖剣で槍を弾く。
「漢児、下がれ! 俺が正面だ!」
さらに背後から、黒い炎を纏った男――ダークフレイム(シグルド)が飛び込む。
「子供たちに手を出すなと言ったはずだ」
三人の英雄が、3体のナインライダーを囲む。
蒼天の拳、紅の剣、赤黒の炎。
それでも、互角。
いや、徐々に押し込まれている。
◆
別の戦域。
風牙麓は、完全に暴走していた。
「風牙の葬送曲――第二楽章」
大気が裂け、無数の風の刃がシュリを襲う。
シュリは血を流しながら、必死に静寂魔方陣を展開。
「お父様……お願い、目を覚まして……!」
だが、風牙の瞳は虚無。
ただし、ほんの一瞬だけ――
「……シュ……リ……逃げ……」
その隙を見逃さなかったのは、ミスティル。
「――今だ、鏖!!」
「了解社長! ぶっ潰す!!」
塵芥鏖が片手を掲げる。
白い髪が逆立ち、赤い瞳が凶悪に輝く。
「反射」
風牙麓の風の刃が、すべて跳ね返される。
自分の術式で自分の体が切り刻まれる。
「ぐ……あ……!」
風牙が膝をつく。
ミスティルが静かに歩み寄る。
「君はもう、十分苦しんだ。
――ここで眠れ」
黒い触手が風牙を包み込もうとする。
だが――
「――許さん」
空が割れた。
メルコール・ヴォータンの声が轟き、残り4体のナインライダーが、一斉に降下。
◆
五対全軍。
絶体絶命。
フレアが剣を握りしめる。
炎のような赤い槍が、無数に分身する。
「絶対に……父さんも、シュリのお父さんも、みんなを奪わせない!!」
アクアが水の剣を構える。
今宵鵺が、無数の銃を展開。
神羅が、光の弓を引く。
「みんな……!」
オームが片目を光らせる。
「ハスターの呪いを受けよ!――『死ね』」
だが、ナインライダーは首を振る。
「精神干渉無効。
我らはすでに“死”を超越している」
雷華が炎の翼を広げる。
「だったら、燃やし尽くすしかないわね」
ミレニアが悪魔の角を生やす。
「ふん! こんな雑魚ども、妾様の相手にもならんわ!」
白水晶が無表情で手を掲げる。
「情報操作……敵性個体の座標を固定」
ネロが冷笑。
「計算完了。効率的に皆殺しにしてくれるぞ!」
だが――
五体のナイトライダーが、一斉に黒い波動を放つ。
「絶・領域展開――“亡魂の円環”」
黒い波動が広がった瞬間、
砂の色も、炎の色も、空の赤も消えた。
そこはもう灼熱平原ではなく、
“死者だけが立てる戦場”になっていた。
灼熱平原全体が、暗黒に包まれる。
視界ゼロ。
音ゼロ。
熱さえも奪われ、魂が凍る。
「え?」 「ひ!」 「ああ!」
強気に構えていた魔法少女達全員が膝をつく。
「くそっ……これが……ナインライダー共の本気か……!」
雷音が、女体化のまま歯を食いしばる。
「まだ……終わるわけには、いかないんだよ……!」
灼熱平原が、朝焼けに染まり始めた。
だがその光は、誰の味方でもなかった。
「ぐはっ……!」
漢児がダメージを受けよろけた。
蒼い装甲は無数の亀裂が入り、ロート・ジークフリードやダークフレイムもダメージを受けている。
正面のナインライダー一体が、黒い槍を振りかぶる。
「目標:蒼の勇者アーレスタロス……戦闘力低下確認。抹殺」
同じく、レッドのロート・ジークフリードも肩で息をしていた。
紅の鎧は黒い炎に焼かれ、剣は折れかけている。
シグルド(ダークフレイム)は背中から血を流しながら、それでも立ち塞がる。
「……まだだ。まだ終わらねぇ」
三人がかりでようやく三体のナインライダーを足止めしている状態。
残り五体は、まるで散歩でもするように魔法少女達に歩み寄ってくる。
風牙麓は、ミスティルと塵芥鏖が全力で押さえ込んでいる。
だが、それでも風の刃が漏れ、シュリの静寂魔方陣が何度も砕かれている。
「……お父様、もうやめて……!」
シュリの声は、もう掠れていた。
その時だった。
――ブゥゥゥゥン。
遠くの空に、小さな光点がいくつも現れる。
朝日を背に、無数のカメラドローンが群れを成して飛んでくる。
【ユグドシラル・キャノンボール公式中継チーム到着!】
【レーサー達にトラブル発生、大ピンチの現場に急行!】
【視聴者数、既に三十億突破! 全世界全宇宙注目の第5区間!】
ドローンのレンズが、戦場を真正面から捉える。
ナインライダーの黒いマント、血まみれのレーサーたち、泣き叫ぶ少女。
すべてが生配信される。
どこか高い場所で、白い法衣の男が舌打ちした。
「……チッ。メディアか」
メルコール・ヴォータン。
彼は静かに指を鳴らす。
「全騎、撤退。
――民意の前では“正義”を演じねばならん」
瞬間、残りの五体のナインライダーが動きを止める。
風牙麓も、シュリの前でぴたりと静止した。
「……シュ……リ……」
最後に、確かに父の声が漏れた。
何かを…娘に告げたようにも見える。
だが次の瞬間、風牙麓は黒い霧となって消滅。
他の八騎も、同じく空へ溶けるように消えていく。
ドローンが殺到する。
実況の声が響き渡る。
【な、なんですかこの惨状は!?】
【選手達が何者かの襲撃を受けていた!?】
【これって……テロリストの宣戦布告じゃないですか!?】
コメント欄が爆発する。
『フレアちゃんを守れ!』
『テロリスト許せない!』
『#フレアを守れ トレンド1位!』
『巨人族差別やめろ!』
世界が、動いた。
フレアは膝をついたまま、涙をこぼしていた。
「……父さん……
みんな……
ありがとう……」
雷音は、まだ女の子の姿でへたり込む。
「はぁ……はぁ……
マジで死ぬかと思った……
アイツらどんだけダメージ与えても渋とく再生しやがる!
不死身かよ!
朝になってよかった……本当に……」
漢児はヒーロースーツを解除しながら、苦笑い。
「……メディアって、すげぇな。
あいつら、世論が怖くて逃げたんだろ?」
レッドが折れた剣を地面に突き刺す。
「……だが、次はこうはいかない。
メルコールは本気だ。奴らの不死身を打破する対策を立てねばならない」
シグルドは無言で空を見上げていた。
記憶のない瞳に、確かに怒りが宿っている。
シュリは両手で顔を覆い、肩を震わせる。
「……お父様……
また、消えちゃった……」
今宵鵺が、銃を下ろしながら呟く。
「泣かないでシュリ……風牙さんだったら、こう言うわ。
『まだ終わってない』って」
神羅が、小さく頷く。
「うん……
私たち、まだ戦える」
ミスティルが笑った。
いつもの、底抜けに明るい笑顔。
「さぁて、ヘルヘイムまであと少しだよ。
行こう、みんな。
――“神だったもの”を、ぶっ倒しに」
ドローンが空を埋め尽くす。
全世界が見守る中、
傷だらけのレーサーたちは、再びエンジンを唸らせた。
冥界への門が、ゆっくりと開く。
――第5区間、突破。
だが、これは終わりではない。
フレアが剣を握りしめる。
「父さん……
絶対に、取り戻すから」
灼熱平原に、朝日が昇る。
その光は、今度こそ、
彼らの味方だった。
だが、ヘルヘイムの門の向こうには、
さっきの騎士たちよりなお深い“死”が待っている。




