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第四章- 白の調停者メルコール・ヴォータン-11 メフィスト・フェレスの後悔

※シリアス回です。


炎界ムスペルヘイム迎賓楼「緋王館」。


巨竜王、神族代表、魔術顧問――

世界の怪物たちが集う会議。


議題はただ一つ。


巨人族の英雄シグルドの処遇。


その席で、メフィスト・フェレスは

ある“後悔”を語り始める。

シュルト公は頷いた。


「確認しよう。――このまま放置すれば、いずれ各勢力が“ダークフレイム”を奪い合う。

 その場合、内戦は避けられん。

 だからこそ本日、ここに全員を集めた」


アングが不機嫌そうに笑う。


「“全員”だと? ずいぶんと軽い言い方をする。ここには《メルコール・ヴォータン》がいないぞ? 西ヴァルハラの長老が」


その名を聞いた瞬間、リーン・アシュレイの笑みがわずかに鋭くなった。


リーンは、わざと軽い声で言う。


「彼ら西ヴァルハラは“シグルドの即時排除”寄りだ。

もともとアース神族とヴァン神族は巨人族と歴史的な確執がある。

 彼らは“巨人族の英雄シグルドは危険因子だから、見つけ次第焼却せよ”という強硬派なのだ。

 だがその議論、今日は出さなくていい。その議論は時代遅れになったのだから」


アングが首をかしげる。


「何だと?どういうことだ友よ?」


リーンは机を指でコン、と叩いた。


「“フレアが、ムスペルヘイムで名を上げてユグドシラル界公認のアイドルになって、テレビカメラの前で『父の名誉守る!』と宣言したろ?

 あれに想像以上の大きな反響があった。我らの預かり知らぬところで、民意が動いたのだよ」


(ロキ、小声で)「あとその中継、東ヴァルハラ経由で全戦域に流したの俺だから」


(セント・シュルト公、小声で)「お前か」


(ロキ)「ぼくです」


リーンは続ける。


声が少し重くなる。


「今や“ダークフレイム(シグルド)が巨人族の英雄”という事実は揺るがない。

その娘が“父を守る”と涙ながらに訴えて、全宇宙ネットワークで数十億の人が“応援する!”とコメントが流れてしまったのだ。

じきにダークフレイムがシグルドだという真実は世間に知れ渡るだろう。

だから“排除派”はもう表立って口が利けない。

少なくとも“巨人族が一致団結して排除する”という線は消えた」


アングは無言で腕を組む。

リーンは続ける。


「この時点で“巨人族”内での排除は不可能だ。スカーレット家の名は今や巨人族の希望なのだ。

ならば“排除”よりも“英雄として迎え入れる”という立場を取ったほうが得策だ」


アングが低く喉を鳴らした。


「……では“排除派”はどこに消えた?」


リーンは薄く笑った。


「西ヴァルハラ。アース神族とヴァン神族。

でも、もう“戦争”はできない。メディアが怖いから。民意が怖いから。

いま排除すれば、自国の人類やエルフ種族やドワーフ種族から巨人族への同情が一気に燃え上がる。

それを知っていて動ける神族は――せいぜい一人だ」


一同の視線が一点に向く。



メフィスト・フェレス。


彼は相変わらず指を組んだまま、笑っていた。


その笑みは――

これまで見せていた策士の笑みとは、

どこか違っていた。


挿絵(By みてみん)



静寂。

黒曜の卓を照らす炎光が、メフィストの顔の片側だけを赤く染めていた。

他の誰もが沈黙を破るのをためらう中――ゆっくりと、メフィストが口を開いた。



「……孫の前で、あまりみっともない姿は見せたくないんだがな」


低く、嗄れた声だった。

フレアがわずかに息をのむ。

メフィストの視線が、初めて彼女に正面から向けられた。


「シグルドは、私の息子だ。

そして――シグルドは、私が愚かにも“敵”として暗殺指令を出してしまった男だ。


……この因果をどう償えばいいと思う?」


「……」


フレアは何も言えなかった。

あの男が“祖父”――。

そう頭では理解していても、心はまだ受け入れを拒んでいた。


しかし、彼の目には本物の悔いが宿っていた。

巨人族の老将にして幾多の戦場をくぐり抜けた怪物の瞳に、今はわずかに「ひとりの祖父」の色があった。



「フレアちゃん……私は……」

メフィストは言葉を探しながら続ける。

「君を見ていると、あの時の過ちを思い出す。

息子を信じられず、その嫁を守れず、孫に涙を流させた……。

この老いぼれが“正義”などと名乗る資格はない」


フレアは拳を握りしめた。

怒りでも、恐怖でもなく――ただ、胸の奥が焼けるように熱かった。


「……じゃあ、なんで戦うの? もうやめればいいじゃない。

おじいちゃんが謝ってくれたなら、私は――」


「やめられないのだ、フレア。

私は“巨人族の象徴”であり、“ラグナロク時代の怨嗟の記録”そのものだ。

私が消えれば、積み上げてきた罪も、願いも、風化する。

それだけは、赦されん……」


炎光が、彼の横顔を照らす。

それは悲しみと執念の入り混じった、哀しい怪物の顔だった。



リーンがゆっくりと脚を組み直した。

その瞳には、観察者特有の冷たい光が宿っている。


「Dr.メフィスト。貴公が“戦争”をやめられない理由は理解できます。

しかし、それを“政治的信念”と呼ぶのは違う。時代は今動きつつある。為政者に求められるのは時代にあった最善手を100年先を見据えた上で選択する事。貴方が100年前に取り決めた巨人族の政治的原則。舵を切り直す時が来たのでは?」


沈黙。

メフィストの肩がわずかに揺れた。


アング・アルテマレーザーが重々しく頷く。


「巨人族の名誉は、もはやお前ひとりの肩に乗っておらん。

シグルドが“人種に混じり活躍したことで、我等巨人を世界を滅ぼす化け物とみなす勢力は随分と減った。

ある意味好機だ。シグルドを我らの陣営に取り込む事で、まとまりが悪い巨人族を一つにまとめ直せる気運が高まりつつある」


シュルト公が場をまとめるように咳払いをした。


「話を戻すぞ。

――フレア嬢。貴殿は“シグルドの娘”として、メフィスト老をどう裁くつもりだ?」


全員の視線が彼女に集まる。

その瞬間、フレアは初めて声を張った。



「裁く?そんなの、できません!」


フレアは首を振った。


「だって私は――

**お祖父ちゃんをまだ“ちゃんと知らない”から!」


場の空気が震えた。

フレアは涙をこらえ、言葉を続けた。


「でも、知りたい。

お祖父ちゃんが何を思って戦ったのか。

おじいちゃんがなぜ間違ったのか。

その全部を、私が見届けるまで――“終わらせない”!」



メフィストが小さく笑った。

それは皮肉でも、狂気でもなく、どこか安堵のような笑み。


「……強いな。まるで、お前の祖母ヘレネーにそっくりだ。血は争えないな……」


リーンが小声でつぶやいた。

「……老いたなメフィスト」


ロキが肩をすくめる。

「でも悪くない。ドラマになるよ、これ」


炎のような静寂。

その中で、シュルト公が低く締めくくった。



「議題“シグルド問題”について――結論は保留とする。

本件は“民意”と“血族”の双方に深く関わる。


だが――」


炎の瞳が全員を見回した。


「この問題は、もうすぐ

**“ヘルヘイムの戦場”で決着するだろう」


アングが立ち上がり、リーンも軽く手を挙げる。

フレアは深く頭を下げ、メフィストのほうを一度だけ見た。

彼はその視線を正面から受け止め、静かに目を閉じる。




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