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第四章- 白の調停者メルコール・ヴォータン-10 緋王館の会議

※シリアス回です。


ムスペルヘイム迎賓楼「緋王館」。


炎界、巨竜王、東ヴァルハラ、魔術顧問――

世界の要人たちが一堂に会する会議が始まる。


議題はただ一つ。


「巨人族の英雄シグルドの処遇」


少女フレアは

父の名誉を取り戻すため

この怪物たちの会議に立つ。



====================

【炎界セント・ムスペルヘイム / 迎賓楼「緋王館」 大議場】

====================


迎賓楼「緋王館」の大議場は、まるで火山の心臓みたいな部屋だった。


床は黒曜石。

踏むたび赤い筋が熱脈のように脈打つ。


円形に並ぶ玉座席は高さが違う。


どの勢力がいちばん偉いかを可視化した配置だ。


天井ドームには封じられたマグマの渦。その内側を走る拘束術式がいまも赤く光り、ぶかぶかと低い唸りを上げている。

「この場で武力行使したら即座に焼却しますよ」の圧が、部屋全体からひしひしと伝わる。


真ん中には一本の長卓。

それはただのテーブルじゃない。古の巨人族が討伐した龍骨をそのまま削り、表面に各勢力の紋章が焼き刻まれている“誓約台”だ。


――そこに、次々に入ってくる化け物たち。



最初に入ってきたのは、セント・シュルト公だ。


全身が重機と溶鉱炉を直結したみたいな灼熱甲冑。肩口から蒸気が白い竜巻になって立ち上る。

この場のホストであり、炎界の絶対守護者。今夜は“議長”を兼ねる。


「……席につけ。火は落としてある。争うなら、灰になってからにしろ」


低い声が響くだけで、部屋の温度が一段落ちた気がした。


ついで、アング・アルテマレーザー。


巨竜王。

人型の姿を取ってはいるが、筋肉に見えるところは全部、押し固めた龍鱗の束だ。肩幅は椅子の幅より広い。黒と緑の軍装、首には“討伐済み神クラス”の勲章。目だけが蛍光のように光っていた。


彼が一歩進むだけで、黒曜石の床がミシ、と悲鳴を上げる。


「この“話し合い”が時間の無駄でないことを願うぞ、シュルト」


「そう思うなら最後まで黙っていろ、アング」


「フッ。黙る相手を間違えているぞ、炎の公」


挿絵(By みてみん)


続くのはリーン・アシュレイ。


あどけない顔。少年のような輪郭。

白髪に黒い軍服。飾りは最小限。瞳は底なしの漆黒。

その存在だけで空気の揺れ方が変わる。“軽い”のに、部屋の重心がリーンの方へ傾く。


彼は静かに笑って手を振った。


「はーいはーい、東ヴァルハラ代表、修羅世界スラル側の実質トップ、リーン・アシュレイくんです。呼ばれたから来ました。今日は“友だちの家族を殺すな”って言いに来ただけだから、帰りは早い予定なんでシクヨロ〜♪」


ロキはリーンのすぐ後ろで、片手を挙げた。


「ロキ・ローゲ。肩書きは“ヴァルハラのなんでも屋”。あとリーンのお目付け役。今日は主に通訳と火消し」


セント・シュルト公が目だけでロキを測る。

「相変わらずだな、トリックスターめ」と、いう無言の圧。


ロキはヘラッと笑って、肩をすくめる。

(“そうですけど、今は大人しくしてますよアピール”)


そして一呼吸おいて、とても小柄な影が扉に現れる。


フレア。


昼間は水着姿でビーチのアイドルだった少女は、今は炎界の正式礼装――赤と金の典礼用の軍衣に身を包んでいた。

サイズは明らかにまだ余る。肩も袖も少し大きい。でも、だからこそ逆に目が離せない。


彼女の後ろにはレッドがつく。

鋼の戦衣。重いマント。片腕に刻まれた義甲。

「護衛」というより「抑止力」としての立ち位置。


レッドは室内を一周見渡すと、誰にも頭を下げないままフレアの椅子の背後に立った。

“この子に触るなら俺を先に殺してからにしろ”という配置。



そこに最後、ゆっくりと歩いてきたのが――


メフィスト・フェレス。


黒の長外套。仮面めいた白い顔。

彼だけが、椅子にもたれず、わずかに前のめりで座る。

重ねた指先が揺れない。まるで操り人形師そのもの。


その背後には、もうひとり影がいた。


クレオラ。


淡い髪。静かな目。

メフィストの娘にして、シグルドの妹。

兄を守るため、瀕死のシグルドを組織から偽装消去し、ミスティルのもとに逃した張本人。

今夜、彼女は一言も喋らない予定のはずだが――その目は、ただ一人を見ていた。


フレア。


「…………」


フレアも見つめ返す。逃げない。頷き合う。


会議の空気は、その時点でもう火花が散っていた。


====================

「開会」

====================


セント・シュルト公が、卓の中央に両拳を置いた。

ゴウン、と鉄床を叩く音みたいな低音が鳴る。


「本会合の議題は一つ。“シグルド・スカーレットの扱い”だ」


部屋のどこかで、誰かがわずかに息を呑む。


シュルト公は続ける。


「現状の整理をする。

 ――“シグルド”と呼ばれた巨人族の英雄は、現時点では“ダークフレイム”と名乗り、記憶を喪失している。

 彼は現在、自由傭兵勢力ユグドシラル・キャノンボールの一角である“ミスティル派”に雇われている。

 彼は今のところ、いかなる国家連合・神族議会・巨人族評議会・炎界軍にも所属していない。

 つまり、宙ぶらりんだ。だが、巨人族の名誉回復に一役買ってくれている」


部屋に座る──いや、端で壁にもたれて涼しい顔をしていた──ミスティルが、ワイングラスを揺らしながら肩をすくめる。


ミスティルは、性別不詳の麗しい顔立ち。いまは人型の“女”に近い姿だが、そこに安定感はない。

どこか水のような、粘度のある存在感。

フレアのほうを見る目だけがやわらかい。


「“雇ってる”っていっても、別に鎖で繋いでるわけじゃないよ。あの戦争騎士シグルドは今、うちでは“仲間”として扱ってる。つーかウチの組織のNo.2

 ……まあ、本人は“仲間ってなんだ”って顔してるけどね。記憶無いから」


レッドの眉がほんのわずかに動く。


「…………」


彼は口をつぐんだままだが、その沈黙が「感謝」でもあり「警戒」でもあることは、部屋の誰もが理解した。






次回――


緋王館の会議はついに激突。


巨竜王アング

魔術顧問メフィスト

炎界守護者シュルト


そして少女フレア。


世界の怪物たちの前で

彼女は父を救えるのか――。


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