月兎の逆鱗と神の黄金バフ〜降臨する絶対無敵〜
月兎の逆鱗と神の黄金バフ〜降臨する絶対無敵〜
偽勇者ゼロスが放った極大の炎の波が、村の広場へと迫る。
標的にされたのは、逃げ遅れた子供たちと、彼らを庇うように両手を広げて立ち塞がったリーザだ。
「リーザお姉ちゃん……っ!」
「大丈夫ですわ! 私は絶対無敵のアイドル、こんなところで焼け焦げるわけには――っ!」
強がりを叫ぶリーザだが、その顔は恐怖で引き攣っている。炎が彼女たちの体を包み込もうとした、まさにその刹那。
「――私の村の子供たちに、何をする気ッ!!」
鼓膜を破るような爆音と共に、村の石畳がクレーター状に吹き飛んだ。
一陣の風……いや、紫電の雷光を纏った『弾丸』が、炎と子供たちの間に割って入ったのだ。
ウサギの耳を逆立て、瞳にゾッとするような怒りを宿したキャルル・ムーンハート。
彼女は、タローマンで買ってきた作業着用の『特注安全靴(つま先鋼鉄芯入り)』で大地を強く踏みしめると、腰を深く落とした。
靴の踵部分に仕込まれた『雷竜石』が、彼女の凄まじい闘気に呼応してバチバチと紫色の放電を始める。
「ふぅぅぅぅ……ッ!!」
短く息を吐き、キャルルは迫り来る炎の津波に向かって、真正面から右足を振り抜いた。
――【月影流・破衝撃】蹴り上げ。
ドゴォォォォォォォォンッ!!!
信じられない光景だった。
キャルルの蹴りから放たれた物理的な風圧と、極限まで高められた闘気の衝撃波が、魔法の炎を文字通り『蹴り散らした』のだ。
真っ二つに割れた炎は、キャルルたちの両脇を通り抜けて後方の無人の畑へと着弾し、空しく黒煙を上げる。
「なっ……! 魔法の炎を、蹴り飛ばしただと!?」
ゼロスが目をひん剥いて後ずさる。
「大丈夫ですか、みんな! リーザちゃんも怪我はない!?」
「ひゃ、ひゃい! 私は無傷ですわ……!」
腰を抜かしたリーザたちを庇うように立ち、キャルルはゆっくりとゼロスへと振り返った。
その顔に、いつもの可憐で優しい村長の面影はない。
武闘派の獣人族――それも、戦闘能力において上位に位置する月兎族の王族としての、冷酷な狩人の目がそこにあった。
「抵抗できない子供に手を出すなんて……貴方、本当に『勇者』を名乗るつもりですの?」
「ひぃッ……!」
ゼロスは情けない悲鳴を上げ、カメラの死角に待機させていた護衛の者たち――魔王軍から裏で貸し出されていた高位魔族の剣士たちに向けて叫んだ。
「お、おい! 何をしている! さっさとそのウサギを殺せ!」
「チッ、手間のかかる……!」
命令を受けた三人の高位魔族が、漆黒の剣を構えてキャルルへと襲いかかる。彼らもまた、並の冒険者であれば束になっても敵わない強敵だ。
だが、今のキャルルにとっては、ただの障害物に過ぎなかった。
「邪魔ですわ!!」
バキィィィンッ!!
キャルルの姿がブレた。マッハの踏み込みによる超機動。
先頭の魔族が剣を振り下ろすより早く、キャルルの安全靴が下から魔族の顎を正確に捉え、真上へと蹴り飛ばした。首の骨が砕ける嫌な音が響き、魔族は白目を剥いて空の彼方へ飛んでいく。
「なっ、この女、速――ガハァッ!?」
驚愕する二番目の魔族の胸ぐらを掴み、キャルルはそれを盾にして三番目の魔族の突きを防ぐ。そのまま二人をまとめて抱え上げると、独楽のように回転しながら放り投げた。
「落ちなさいッ!」
空中に放り出された魔族たちへ向け、キャルルが跳躍する。
空中での一回転。遠心力と闘気、そして雷竜石の放電を乗せた、渾身の飛びカカト落とし。
ズドォォォォンッ!!
魔族たちは地面に叩きつけられ、クレーターを作り出してピクリとも動かなくなった。
「あいつ、ガチギレしてるな……」
俺は少し離れた場所から、その圧倒的な無双劇を呆れたように見守っていた。
普段は俺に「クロトさんクロトさん♡」とすり寄ってくる可愛いウサギだが、怒らせると戦車の装甲すら蹴り砕くバーサーカーに豹変する。この村の住人は、本当に規格外だらけだ。
「ヒィィィッ!? 嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だぁっ!」
自分の手駒が一瞬にして全滅し、完全に腰を抜かしたゼロス。
彼は後ずさりしながら、ドローンカメラに向かって――いや、カメラの向こうにいる『神』に向けて、半狂乱で叫び始めた。
「ワイズ様! 話が違うじゃないですか!! 魔族の残党程度、僕の課金ステータスなら赤子扱いできるって言ったのに! あいつらバケモンだ、強すぎる!!」
『ば、馬鹿者ッ! 配信中に私に話しかけるな!』
「うるさい! このままじゃ僕が殺される! 早く、もっとバフを! もっと予算を寄越してくださいよォォッ!!」
神界に向けて、なりふり構わず泣き叫ぶ偽勇者。
そのみっともない姿は、すでに全宇宙のゴッドチューブ視聴者に生配信されているはずだ。コメント欄はさぞかし大荒れだろう。
だが、天上界の炎上神ワイズにとっても、ここでゼロスが敗北して「ヤラセ」が完全に露見することは、自身の神格公務員としてのクビが飛ぶ致命的な事態だった。
『……ええい、忌々しい! スポンサーからの広告収入を前借りする! ゼロスよ、これ以上の失態は許さんぞ!!』
カメラのスピーカーからワイズの焦燥に満ちた声が響いた直後。
天が、割れた。
「……ッ、何だ!?」
俺は空を見上げ、目を細めた。
雲を突き抜けて、天上界から強烈な『黄金の光の柱』が、ゼロスに向かって一直線に降り注いできたのだ。
「フ……アハハハハハハッ!!」
黄金の光に包まれたゼロスが、狂気に満ちた高笑いを上げる。
彼の身体の周囲に、キラキラと輝く粒子が凝縮し、分厚い『黄金のオーラ』となって定着した。
俺の【特異点】の視界が、そのオーラの正体を正確に分析し、冷や汗を流させた。
(おいおい、マジか……。質量も魔力も関係ない、『概念的』な防御壁だと?)
「食らいなさいッ!」
危険を察知したキャルルが、ゼロスの死角から音速の回し蹴りを叩き込む。
だが。
カキィィィィンッ!!!
「きゃあっ!?」
キャルルが悲鳴を上げ、大きく弾き飛ばされた。
タローマン特注の安全靴による、魔導戦車すら凹ませる一撃。それが、ゼロスを覆う黄金のオーラに触れた瞬間、波紋一つ立てずに完全に弾かれたのだ。
「キャルル!」
「い、痛たた……足が痺れましたわ。まるで、絶対に壊れない壁を蹴ったみたい……」
俺が駆け寄って抱きとめる。幸い怪我はないようだが、キャルルの顔には明らかな驚愕が浮かんでいた。
俺も試しに、ゼロスに向けて【局所重力百倍】の圧をかけてみる。
だが、俺の放った重力場すら、黄金のオーラに触れた途端に「無効化」されて霧散してしまった。
「アハハハハ! 見たか! 効かない、全く効かないぞ!!」
ゼロスが聖剣を天に掲げ、狂喜の叫びを上げる。
「これぞ神の加護! 物理攻撃も、魔法も、あらゆる干渉を完全に無効化する『絶対無敵』のオーラだ!! ワイズ様が神界の予算を限界まで注ぎ込んでくれた、究極のチートバフだぞ!!」
ニャングルが顔を青ざめさせ、算盤を握りしめた。
「あ、アカンで兄さん……! アレ、RPGで言うところの『ダメージ無効』のイベント戦闘状態ですわ。なんぼ兄さんの重力でも、神界のシステムそのものが干渉を拒絶しとるなら、手出しできまへん!」
「ククク、ハハハハ! さあ、絶望しろテロリストども! 今度は僕が、貴様らを一方的に蹂躙してやる番だ!」
ゼロスが勝ち誇ったように笑い、ゆっくりと俺たちに歩み寄ってくる。
物理も魔法も通じない、概念的な絶対無敵。
普通に考えれば、文字通りの『詰み』だ。
だが。
俺は焦るどころか、たまらなく可笑しいものを見るような目で、クックックと肩を揺らして笑い出した。
「な、何がおかしい……!」
ゼロスが不快そうに顔を顰める。
「いや。お前さっき、自分で言っただろ?」
俺はニヤリとマリーシア(狡猾な笑み)を深め、ゼロスを指差した。
「神界の『予算』を限界まで注ぎ込んだ、究極のチートバフだって」
「……だから何だと言うんだ!」
「なら、好都合だ」
俺の言葉を合図にしたように。
俺の背後から、トテトテと軽い足音を立てて『紫色の芋ジャージ』が進み出てきた。
「はっはー! クロト様、私の出番ですわね!!」
みかん箱から降りてきたリーザが、肩に担いだ『紙パック式魔導掃除機』をガチャン!と構える。
その先端に括り付けられたガムテープまみれのお賽銭箱が、朝日に照らされてチープに輝いた。
「な、なんだお前は。そんなガラクタで、僕の絶対無敵のバフをどうにかできるとでも――」
「神様のバフ? それ、要するにただの『莫大な予算(お金のデータ)』ですわよね?」
リーザは鼻の五円玉をフンッと鳴らし、最高にドヤ顔を決めた。
「なら、私のお賽銭箱の『十八番』ですの!」
絶対に突破不可能な神の黄金バフ。
その前に、宇宙最底辺の【貧乏神】が、ニチャァと強欲な笑みを浮かべて立ち塞がった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「キャルルちゃんの飛び蹴り、完全にライダーキックww」
「無敵バフとかズルすぎる! クソ神やりやがった!」
「……あっ(察し)。リーザの出番だ!」
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次回、最強の神界バフがギャグのように吸い尽くされる「強制解除ざまぁ」が炸裂します。お楽しみに!




