フェラーリの無免許運転〜偽勇者ゼロスと課金ドーピング〜
フェラーリの無免許運転〜偽勇者ゼロスと課金ドーピング〜
空から舞い降りた偽りの勇者、ゼロス・ディバイン。
純白の鎧を身に纏い、手には伝説級と噂される輝かしい聖剣。金髪をなびかせながら、彼は自分の周囲を飛び回る不可視のドローンカメラに向かって、完璧な角度で爽やかな笑顔を作った。
『全世界の皆さん、どうかご安心ください! 魔王軍の残党に占拠され、善良な商人たちまでが捕らえられたこの悲劇の村は、僕が必ず救済してみせます!』
神界に向けて生配信されているであろうその嘘八百の口上に、俺は思わず深い溜息を吐きそうになった。
地面に這いつくばっている悪徳商人や傭兵たちが「あ、俺たち助けに来てくれたんじゃないのか?」という顔をしているが、ゼロスはカメラの死角で彼らに「お前らはもう用済みだ、さっさと死んだフリでもしてろ」とばかりに舌打ちをしている。
「……見事な三文芝居だな」
「兄さん、奴さんのステータス、とんでもない数値になってまっせ」
俺の背後から、ニャングルが算盤を弾きながら小声で報告してきた。
「ワイの商売眼(鑑定スキル)を通しても、ちょっと信じられない数字ですわ。筋力、敏捷、魔力……どれもこれも、歴戦の英雄が一生かかって到達するかどうかの限界値を振り切っとる。あのステータス、全部『金で買ったかりそめの数字』でっせ」
「知ってるさ。アイツのユニークスキル【マネー】だろ。炎上神ワイズからの莫大な神界予算をステータスに変換する、究極のドーピングだ」
俺がそう答えると、ゼロスは俺の言葉が聞こえたのか、一瞬だけ顔を歪めたが、すぐにカメラ用の笑顔を取り繕った。
『さあ、テロリストの首魁よ! 貴様の悪逆非道もここまでだ! 罪を悔い改め、この聖剣の露と消えよ!』
ゼロスが聖剣を上段に構える。
ドンッ!! と、彼が踏み込んだ瞬間に石畳が爆砕し、突風が巻き起こった。
課金によって限界突破した敏捷性。そのスピードは、確かに音速すら超えているように見えた。瞬きする間に俺の目の前に迫り、圧倒的な筋力で聖剣を横薙ぎに振り抜いてくる。
山すら両断しそうな、恐るべき一撃。
だが、俺は背中の剣を抜くことすらしなかった。
ただポケットに片手を突っ込んだまま、迫り来る聖剣の軌道にそっと右手の人差し指を添えただけだ。
――【重力偏向】。
「……なっ!?」
ゼロスの聖剣が俺の首を刎ねる寸前、剣身にかかる『重力』のベクトルを数ミリだけ上へと逸らした。
たったそれだけのことだ。
だが、音速を超える速度と異常な筋力で振り抜かれた一撃が、予想外の方向に力が流れたらどうなるか。
「ぐわぁぁっ!?」
空を切った聖剣の尋常ではない遠心力に振り回され、ゼロス自身の体がコマのように錐揉み回転し、ド派手に地面を転がった。
純白の鎧が泥に塗れ、カメラの前で無様な姿を晒す。
「……馬鹿な。僕の、ステータス限界値の神速の一撃が……なぜ当たらない!?」
ゼロスが泥だらけの顔を上げ、信じられないものを見るような目で俺を睨んだ。
「当たり前だ。お前はただ、『課金して数字を上げただけ』の素人だからな」
俺は冷たい目で見下ろしながら、ゆっくりと歩み寄る。
「足の踏み込みが甘い。剣の振り幅が大きすぎる。体幹がブレているから、少し力を逸らされただけで自分の力に振り回されるんだ。……お前、自動車教習所にも通わずに、いきなりフェラーリに乗り込んで公道を爆走してるようなもんだぞ?」
「き、貴様ぁぁッ!!」
俺の挑発に顔を真っ赤にしたゼロスは、立ち上がりざまに連続で斬撃を放ってきた。
縦、横、斜め。
課金ステータスに物を言わせた、暴風のような連撃。だが、そこに一切の『技術』はない。ただの力任せの棒振りだ。
「遅い。軽い。無駄が多い」
俺は飛んでくる斬撃を、ステップすら踏まずに上半身の微かな動きだけで全て躱していく。
剣が触れる瞬間にだけ、重力を操作して軌道をずらす。ゼロスは何度も何度も空振りを繰り返し、その度に自重と遠心力で体勢を崩し、バタバタと滑稽なダンスを踊らされる羽目になった。
『お、おい見ろよ。ゼロス様、全然攻撃が当たってないぞ?』
『っていうか、あの黒服の男、一歩も動いてないじゃねえか……』
地面に這いつくばっていた傭兵たちすら、あまりの実力差に呆然と呟き始めている。
当然だ。レベル1の素人にレベル100のステータスを与えたところで、それを完璧に制御することなどできはしないのだ。
「ぜぇ、はぁ……ッ! な、なぜだ! 僕にはワイズ神が与えてくれた、数億ゴールド分のステータスがあるんだぞ! なぜただの平民ごときに当たらない!」
息を切らし、肩で息をするゼロス。
俺はついに背中の剣――黒塗りの直剣を静かに引き抜き、切っ先をゼロスの鼻先に突きつけた。
「装備と金を全部剥いだら、一体何が残るんだ? お前には、剣を振る覚悟も、血反吐を吐くような修練の記憶もない。……ただの、空っぽの操り人形だ」
「だ、黙れ……! 黙れ黙れ黙れぇぇぇッ!!」
カメラの前で完膚なきまでに恥をかかされたゼロスは、もはや爽やかな勇者の面影など微塵も残していなかった。
彼の目には、狂気と焦燥が宿っている。
(マズいな。このままじゃ配信の評価が急落する……! ワイズ神に見捨てられたら、僕は終わりだ……!)
カメラの死角で、ゼロスの瞳が濁った。
どうすれば、この圧倒的な力の差を覆せるか。どうすれば、コイツの冷静な顔を苦痛に歪ませることができるか。
クズの思考回路は、常に弱者へと向かう。
ゼロスの視線が、俺の背後――村の広場の端で、キャルルの指示で避難を急いでいた『村の子供たち』を捉えた。
「――そうだ。僕は魔族に占拠された村を浄化しに来た勇者。ならば、汚れた魔王軍の『協力者』ごと焼き払うのが、正義というものだろう?」
「……お前、何を――」
ゼロスが聖剣を高く掲げる。
その剣身に、彼が持つ魔力のすべてが注ぎ込まれ、赤黒い凶悪な業火が球体となって膨れ上がった。
狙いは俺ではない。
逃げ遅れていた、数人の幼い子供たちと、彼らを庇おうと飛び出したリーザの方向だ。
「消し飛べ、悪魔の協力者どもォォォッ!!」
ゼロスが狂ったような笑い声を上げながら、聖剣を振り下ろした。
極大の炎の波が、罪のない子供たちへ向けて一直線に放たれる。
「っ、このクズが……!」
俺が重力障壁を張ろうと前に出た、その瞬間だった。
俺の横を、凄まじい風圧を伴った『一陣の雷光』が通り抜けた。
「――私の村の子供たちに、何をする気ッ!!」
ドンッ!!!
鼓膜を破るような爆音と共に、村の石畳がクレーター状に吹き飛んだ。
そこに立っていたのは、タローマン特注の安全靴から紫電の雷光を迸らせる、激怒に満ちたヤンデレ月兎の姿だった。
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「フェラーリの無免許運転www 例えが的確すぎる」
「偽勇者のクズっぷりが最高にヘイト溜まる!」
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次回、激怒したヒロインの痛快な反撃と、神界から降り注ぐ「絶対無敵の黄金バフ」。お楽しみに!




