開演!極貧アイドルの路上ライブ〜絶対無敵の強制破産(スパチャ)伝説〜
開演!極貧アイドルの路上ライブ〜絶対無敵の強制破産伝説〜
『さあ、一分だけ待ってやろう! 大人しく降伏するか、それともこの大軍に村ごと踏み躙られるか、好きな方を選べ!』
朝霧が晴れ始めたポポロ村の入り口で、悪徳商人が魔導拡声器を片手にがなり立てる。
その後ろには、腹を空かせて苛立っている五百の傭兵団と、彼らを覆う分厚い『魔導障壁』が輝いていた。
本来なら、一介の辺境の村が震え上がるほどの絶望的な光景だろう。
だが、村の防衛線――急造されたバリケードの裏側にいる俺たちは、欠伸が出るほどリラックスしていた。
「あーあ、朝っぱらからうるさい奴らだ。近所迷惑も甚だしいな」
「兄さん、ワイの算盤によると、あの魔導障壁を維持する魔石だけでも相当な維持費がかかってまっせ。見栄を張るのも楽やないですわ」
俺とニャングルは、木箱に腰掛けて呑気に会話を交わしていた。
自警団を率いるキャルルも、両手にダブルトンファーを構えながら「早く蹴り飛ばしたいですわ!」とウサギの耳をピンと立てて準備万端だ。
俺は立ち上がり、隣でスタンバイしている紫色の芋ジャージ――リーザに合図を送った。
「さあリーザ、お前の出番だ。あのうるさい客たちから、きっちり『お布施』をいただいてこい」
「お任せくださいませクロト様! 宇宙一のライブ、お見せしますわ!!」
リーザは鼻息を荒くして、バリケードの前にあらかじめ設置しておいた『みかん箱』の上に飛び乗った。
そして、マイク代わりに握った大根を天高く突き上げる。
「ポポロ村にお越しの皆さま〜! そして全宇宙のファンの皆さま〜! 絶対無敵の地下アイドル、リーザの路上ライブ、開演ですの〜ッ!!」
静まり返っていた戦場に、突如として場違いすぎるアイドル特有の甲高い声が響き渡った。
『……は? な、なんだあのふざけた小娘は?』
悪徳商人が目を丸くし、傭兵たちも「なんだありゃ」「芋ジャージ?」とざわめき始める。
そんな敵の困惑などお構いなしに、リーザは大きく息を吸い込んだ。
人魚族の王女である彼女の歌声には、聞く者の魂を揺さぶり、世界の因果にすら干渉する奇跡の力が宿っている。
『世界中が私の為に愛を叫ぶ〜♪ 全部抱きしめるわ〜♪』
歌い出したのは、彼女の十八番『Love & Money』だ。
透き通るような、それでいて力強い歌声が戦場に響き渡る。
その瞬間、俺たちポポロ村の陣営に眩い光のオーラが降り注いだ。
「お、おおっ!? なんやこれ、体の底から力が湧いてきよるで!」
「すごいですわ! 闘気が普段の倍以上に跳ね上がっていますわ!」
ニャングルとキャルルが驚愕の声を上げる。
俺も、自身の魔力と身体能力が爆発的に向上しているのを感じた。これが、リーザの歌による【全ステータス200%UPバフ】。
アイドルのライブという名の、極悪な広域支援魔法だ。
『愛も富も同じ輝き〜♪ ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪』
だが、リーザの真骨頂はバフではない。
彼女は歌いながら、足元に置いてあった『紙パック式魔導掃除機』のノズルを掴んだ。
その先端には、お手製の小さな「お賽銭箱」がガムテープで括り付けられている。
「さあ! ライブを楽しんだなら、推しの生活を支えるためにお賽銭を投げるのがマナーですの!!」
リーザが掃除機のスイッチを『強』に入れた。
――ユニークスキル【貧乏神】、全力起動。
シュゴォォォォォォォォッ!!
掃除機のノズルから、尋常ではない吸引音と共に、空間そのものを吸い込むような恐るべき渦が発生した。
『な、なんだ!? ぎゃああっ、俺たちの魔導障壁がっ!!』
傭兵たちが悲鳴を上げる。
敵軍全体をすっぽりと覆っていた、どんな攻撃も通さないはずの強固な魔導障壁。
それが、まるで綿あめが水に溶けるようにシュルシュルと形を崩し、物理的な光の帯となって、リーザのお賽銭箱型掃除機へと「スポンッ!」と情けない音を立てて吸い込まれてしまったのだ。
『ば、馬鹿な! 何百個もの魔石を連結した無敵の障壁が、たった一つの掃除機に吸い込まれただと!?』
馬車に乗っていた悪徳商人が、目ん玉が飛び出そうなほど見開いて絶叫する。
「ふふん! アイテムによる魔力なんて、私のお賽銭箱の前ではただのチップですの!」
ドヤ顔を決めるリーザ。
だが、彼女の【貧乏神】スキルの恐ろしさは魔力吸引だけではない。真のターゲットは、敵の『資産』だ。
「さあさあ、まだまだ愛が足りませんわよ! もっと搾り出してくださいな!」
リーザが掃除機のノズルを悪徳商人の方へ向けた、その直後。
『ピロリン♪』『ピロリン♪』
悪徳商人の胸ポケットから、間抜けな電子音が連続して鳴り響いた。
彼が慌てて取り出したのは、神界の技術がもたらした最新の魔導通信石。その画面には、商会が管理する巨大な裏口座の『電子マネー残高』が表示されていた。
『え……?』
商人の顔から、一瞬で血の気が引く。
画面に表示されていた天文学的な数字が、スロットマシンのように超高速で回転し、みるみるうちに減っていくのだ。
金貨一万枚、五千枚、千枚、百枚……十枚……。
『ちょ、待て! なんだこれは!? なんで俺の残高が減っていく!? 止まれ、止まれぇぇぇッ!』
商人が半狂乱で画面をタップしまくるが、無駄だ。
リーザの貧乏神スキルは、対象の魔力、運気、そして『タンス預金から電子マネーに至るまでの全財産』を問答無用で吸い尽くし、虚空へと消滅させる最凶のデバフなのだから。
そして、わずか数秒後。
画面の数字は、残酷なまでに美しい『0』でピタリと停止した。
『ゼ、ゼロ……? お、俺の、俺の全財産が……裏金が……消えた……?』
商人は白目を剥き、その場にガクッと膝をついた。
「素晴らしいスパチャ、ありがとうございますわー! 皆さんの応援で、私、もっともっと輝けますのー!」
みかん箱の上で、ジャージ姿のリーザが満面のアイドルスマイルで手を振る。
一方、敵陣は文字通りパニックに陥っていた。
残高がゼロになった商人の姿を見て、傭兵たちの中に動揺が走る。
「おい、冗談だろ!? あのオッサン、口座がスッカラカンになったぞ!」
「ふざけんな! 前払いで報酬を弾むって約束だったじゃねえか! 金がねえなら、誰がこんな命懸けの仕事やるかよ!」
「帰るぞ! ストライキだストライキ!」
腹を空かせていた傭兵たちが、一斉に武器を放り投げようとする。
ニャングルの兵站潰しで極限までストレスが溜まっていた彼らにとって、「報酬が出ない」という事実は致命的だった。
『ま、待て! 待てお前ら!!』
全財産を失い、完全にパニックになった商人が、狂ったように叫ぶ。
『村だ! あの村を落とせば、中にドワーフの密輸品や特産品が死ぬほどあるんだ! それを売り払えば金になる! だから突撃しろ! 行けぇぇぇッ!!』
商人のヤケクソの命令に、傭兵たちは渋々といった様子で再び武器を拾い上げた。
無敵の魔導障壁も失い、士気も底辺、給料も未払い。
完全に烏合の衆と化した五百の部隊が、重装甲の変異魔獣を先頭にして、ワーワーと喚きながらポポロ村の入り口へと雪崩れ込んでくる。
「兄さん、敵さん、ヤケクソで突っ込んできまっせ」
ニャングルが煙管をしまいながら言った。
「ああ。ご苦労だったな、リーザ。最高のライブだったぞ」
「えへへ、お褒めいただき光栄ですわ!」
俺はみかん箱から降りてきたリーザの頭を軽く撫でると、一歩前に出た。
敵は、一直線に伸びる街道を土煙を上げて殺到してくる。
だが、そこはすでに――俺がタローマンの資材で作り上げた、地獄の特等席だ。
「自動車教習所も通ってないくせに、フェラーリに乗り込もうとするからこうなるんだ」
俺の足元には、無数の導線が繋がった小さな起爆スイッチ用の魔石が置かれている。
俺は、自警団の先頭でパイルバンカーを構えるキャルルたちに目配せをした。
「さて……第二幕の開演だ。派手にぶっ飛ばすぞ」
俺は、一切の躊躇なく、足元の起爆スイッチを踏み抜いた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「リーザのアイドルライブ、最強のデバフすぎるww」
「悪徳商人、一瞬で残高ゼロの強制破産は笑うwww」
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次回、魔導地雷とバズーカによる、圧倒的で一方的な蹂躙劇が始まります。お楽しみに!




