守銭奴商人の算盤と、タローマン特注『魔導地雷』の重力錬成
守銭奴商人の算盤と、タローマン特注『魔導地雷』の重力錬成
「兄さん、敵さんの兵站ルート、完全に抑えましたで」
ファミレスでの防衛会議から数時間後。ポポロ村の村長宅の応接間に、ニャングルがドカッと腰を下ろして算盤を弾いた。
その口元には、商人特有のえげつない笑みが浮かんでいる。
「敵は五百の大軍。これだけの大所帯を動かすには、大量の食料、回復ポーション、そして武器の手入れに使う魔石が必須ですわ。で、ワイはゴルド商会のコネと裏ルートをフル活用して、この周辺の町にある物資を『倍の値段』で全部買い占めときました」
「倍の値段で? お前、そんな金どこにあったんだ」
「アホ言わんといてください。ワイはゴールドランクの商人ですぜ? これからのポポロ村の利権を担保にすれば、融資くらい一瞬で下りますわ」
ニャングルは煙管をふかしながら、得意げに胸を張る。
「これで敵さんは、補給物資がカツカツの状態で進軍せざるを得ません。夜通しの行軍で腹はペコペコ、ポーションもない。士気は底辺からスタートっちゅーわけですわ」
「……お前、商人ってより悪代官だな」
「誉め言葉として受け取っときますわ。で、こっちは敵の足元をすくう準備ができましたけど……兄さんの方はどうでっか? 戦闘に関しては、ワイらは足手まといにしかなりまへんよ」
ニャングルの言葉に、俺は頷いて立ち上がった。
「こっちの準備もこれからだ。キャルル、資材の調達は?」
「はい! 指定されたもの、全て買ってきましたわ!」
キャルルが元気よく返事をして、部屋の奥から台車を押してくる。
その後ろからは、芋ジャージ姿のリーザが「重いですわ〜!」と半泣きになりながら段ボール箱を引きずってきた。
台車の上に山積みになっているのは、村にある『タローマン(魔導ホームセンター)』で買い占めてきた資材だ。
無骨な鉄パイプの束、農作業用の肥料(硝酸アンモニウムを多く含むもの)、そして微弱な火炎魔石の粉末、大量の銅線。
どれも一つ一つは、ただの農業資材か、ガテン系の職人が使うありふれた道具に過ぎない。
「クロトさん……こんなガラクタばかりで、本当に五百の軍勢を迎え撃つんですか?」
キャルルがウサギの耳をペタンと伏せて、不安そうに尋ねてくる。
「まあ、見てろ」
俺は台車に積まれた資材の前に立ち、両手をかざした。
この世界には、ルナミス帝国の始祖・佐藤太郎が残した『近代兵器』の概念が存在する。俺は前世の知識と、佐藤太郎が残した図面の記憶を脳内で引き出した。
だが、ただ組み立てるだけでは強度も火力も足りない。ここで、俺のユニークスキルが牙を剥く。
――【重力圧縮錬成】。
俺の掌から放たれた黒い重力波が、資材の山を包み込んだ。
「なっ……!?」
ニャングルが目をひん剥く。
俺が重力を分子レベルまで精密にコントロールし、対象を極限まで圧縮・再結合していく。
バキバキバキィッ! というすさまじい音と共に、鉄パイプが超高密度の合金へと変質し、肥料と魔石の粉末が強力な爆薬へと圧縮されていく。
ほんの十秒足らず。
光が収まった後、そこには先ほどのガラクタの面影は一切なかった。
黒光りする無骨な筒状の兵器――『魔導誘導バズーカ』が数十丁。
そして、円盤状の凶悪な罠――『対装甲・魔導地雷』が数百個、整然と並べられていた。
「な、なんやこれ……! 魔法の杖でもないし、剣でもない。こんな兵器、ゴルド商会のカタログでも見たことありまへん!」
「前世の知識と、重力圧縮の応用だよ。金属の密度を極限まで高めてあるから、魔導戦車の主砲でも傷一つ付かないぜ」
俺は魔導地雷の一つを手に取り、キャルルに振り向いた。
「キャルル。自警団を指揮して、これを村の入り口に続く街道にすべて埋めてくれ。踏み込んだ瞬間に、敵の頭上へ向けて爆発の威力が向かうように術式を組んである」
「ほ、本当にこんな円盤で敵を止められるんですの? でも、クロトさんが言うなら信じますわ! 自警団のみんなを急いで呼んできます!」
キャルルは特注の安全靴を鳴らし、意気揚々と部屋を飛び出していった。
「あの、クロト様! 私は何をすればよろしいでしょうか!?」
リーザが目を輝かせて、五円玉を握りしめながら聞いてくる。
「リーザは……そうだな、明日の朝、一番目立つところで歌う準備をしておいてくれ」
「歌う、ですか? ライブのお仕事ですの!?」
「ああ。お前のその『貧乏神』のスキル、最高のデバフとして使わせてもらうからな」
俺の言葉に、リーザは「ついに私の時代が来ましたわー!」と歓喜の声を上げて踊り出した。
重力による圧倒的な武力と近代兵器の大量生産。
ニャングルの経済ハックによる敵の兵站破壊。
キャルルの自警団指揮。
そして、リーザのデバフライブ。
「……完璧な布陣や。こりゃあ敵さん、地獄を見るで」
ニャングルが煙管をくわえ直し、ゾッとしたように笑う。
「ああ。神の台本だろうが何だろうが、俺たちの日常を脅かす奴らは、一人残らず叩き潰す」
俺は魔導バズーカを肩に担ぎ、村の防衛線へと向かった。
* * *
そして、夜明け。
朝霧が立ち込めるポポロ村の入り口、その先に続く一本道に、地鳴りのような足音が響き渡った。
「来たで、兄さん」
自警団のバリケードの裏で、ニャングルが双眼鏡を下ろした。
霧を裂いて現れたのは、五百人からなる完全武装の傭兵団だった。
彼らは一様に疲労した顔つきで、腹の虫を鳴らしている者も多い。ニャングルの兵糧攻めが完璧に効いている証拠だ。
だが、それでも五百という数は圧倒的だ。
先頭には、魔王軍の残党から裏ルートで買い入れたであろう重装甲の変異魔獣が立ち並び、さらに後方には数十人の魔法使いが控えている。
彼らが一斉に杖を掲げると、部隊全体を覆うように、半透明の分厚い『魔導障壁』が展開された。並の攻撃魔法など一切通さない、強固な盾だ。
部隊の中央、ひときわ豪華な装甲馬車の中から、けばけばしい衣装を着た太った男――ゼロスに金で雇われた悪徳商人が身を乗り出した。
彼は拡声器の魔道具を口に当て、傲慢極まりない声でポポロ村へと呼びかける。
『フハハハハ! 聞け、魔族と内通したテロリストども! 我らは勇者ゼロス様の命により、この悪に染まった村を浄化しに来た討伐軍である!』
悪徳商人の声が、村中に響き渡る。
『今すぐ武器を捨てて降伏し、村の利権と全財産を差し出せば、命だけは助けてやろう! さもなくば、この強固な魔導障壁を持った無敵の軍勢で、村ごと踏み潰すまでだ!』
その高圧的な宣言を聞きながら。
俺は魔導地雷の起爆スイッチとなる魔石を指で転がし、冷たく笑った。
「無敵の軍勢ね。……自動車教習所も出ずにフェラーリに乗り込むような馬鹿には、痛い目を見せないとな」
隣では、みかん箱の上に立ったリーザが、マイク代わりに握った大根を片手に、今か今かと出番を待っている。
「さあ、最高の『処刑ショー』の開演だ」
俺の合図と共に、神の台本を完膚なきまでにへし折る、徹底的な反撃の幕が上がった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「タローマンの資材がバズーカと地雷に錬成された!?」
「いよいよ防衛戦開始! 敵の魔導障壁をどうやって破るのか!?」
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