配信ジャックと宣戦布告〜神のシナリオを物理的に圧壊させる〜
配信ジャックと宣戦布告〜神のシナリオを物理的に圧壊させる〜
神界の超技術で作られた不可視のカメラは、俺の【重力圧縮】によってピンポン玉サイズの鉄塊と化し、ゴミ箱の底で沈黙した。
だが、俺のユニークスキル【特異点】が捉える視界には、まだ終わっていない事象が可視化されていた。
カメラの残骸から上空、文字通り次元の壁を越えた先へと伸びる一本の『光の糸』。
それは、このポポロ村の映像を神界へと送り続けていた通信波――情報伝達の魔力軌道だ。
「物理的に機材を潰せば回線が切れるってのは、三流の考え方だぞ」
俺は虚空に浮かぶその光の糸を、素手で鷲掴みにした。
質量を持たないはずの通信波が、俺の【特異点】の干渉を受けてギリィッと物理的な『重み』を持つ。俺は、その糸を逆側へと――神界の回線へと向けて、強烈な重力波を捻じ込んで逆流させた。
狙うは、モニターの向こう側で高みの見物を決め込んでいる、クソ神のオフィスだ。
* * *
その頃、天上界『GOD』本部、第3種惑星創造神格公務員オフィス。
炎上神ワイズは、専用のマイタンブラーに注いだカプチーノを盛大に吹き出していた。
「な、なんだと!? 回線が切断された!? 私の用意した超高級ドローンカメラが壊されただと!?」
大理石のデスクに備え付けられた巨大な神界用モニターが、砂嵐のノイズに塗れる。
ワイズはギリッと歯を噛み鳴らした。
下界の人間どもを魔獣に襲わせ、阿鼻叫喚の地獄絵図を作り出し、絶望がピークに達したところで契約勇者ゼロスを投入する。そうすれば、ゴッドチューブの『ざまぁ・悲劇チャンネル』の視聴率(PV)は爆発し、スポンサーから莫大な予算が降りるはずだったのだ。
それを、どこぞの馬の骨とも知れぬ剣士の男が、椅子から立ち上がりもせずに魔獣を圧殺したせいで、台本は完全に崩壊してしまった。
「ええい、ふざけるな! あんな地味な秒殺劇で視聴者が喜ぶわけがないだろうが! 私はもっと、下等生物どもが泥水に塗れて泣き叫ぶ『絵』が欲しかったのだ!」
ワイズがキーボードを乱暴に叩き、予備のカメラを再起動しようとした、その瞬間だった。
砂嵐に塗れていたモニターの画面が、突然バグったように歪み――先ほどカメラを握りつぶした男、黒星剣士の冷ややかな眼差しが大写しになった。
『おい、クソ神』
「なっ!? ば、馬鹿な! なぜ下等生物が、我が神界のセキュア回線を逆ジャックできている!?」
驚愕して椅子から飛び退くワイズ。
画面の向こうの男は、酷薄な笑みを浮かべて言い放った。
『人の朝飯を台無しにしといて、安全圏から高みの見物とは随分と舐めたマネをしてくれる。……次はお前の番だ。せいぜいカメラの前で、最高の悲鳴を上げて視聴者を楽しませてやれよ』
「き、貴様……神に向かって何を――」
ワイズが反論しようとした直後。
モニターの画面から、信じられないほどの『超重力』がオフィス内へと逆流・噴出した。
「ヒィッ!?」
バキィィィィンッ!!
神界の魔導技術の結晶である数百万円相当のモニターが、内側からの圧力に耐えきれずに大爆発を起こす。
飛び散る破片と衝撃波。ワイズは悲鳴を上げて床を転がり、カプチーノの染みと煤に塗れて無様な姿を晒した。
「あ、あああ……私の、私の機材がぁぁぁっ!」
ワイズは顔を真っ赤にして、怒りのあまりプルプルと全身を震わせた。
神である自分をコケにし、完璧な台本を泥で汚した下等生物。絶対に許さない。絶対にだ。
「ゼロス! 勇者ゼロスはどこにいる!!」
ワイズは予備のエンジェルすまーとふぉんを引ったくり、地上の契約勇者へと直通通信を繋いだ。
「予定変更だ! あのポポロ村とかいう辺境の集落……あそこは『魔王軍の残党が占拠したテロリストの拠点』という設定にする! 今すぐ討伐軍を編成して村を焼き払え! あの忌々しい黒服の剣士を、神界の配信カメラの前で八つ裂きにして公開処刑するのだ!!」
* * *
「――とまあ、向こうの神様はエラい剣幕で怒り狂っとるみたいでっせ。兄さん、相変わらず無茶しはりますなぁ」
ポポロ村、半壊したファミレス『ルナキン』の店内。
紫煙をくゆらせながら、コテコテの関西弁で俺に話しかけてきたのは、猫耳族の青年だった。
頭にはピンと立った三毛猫の耳。仕立ての良い商人の服を着崩し、手には使い込まれた算盤と煙管を持っている。
「ニャングルか。お前、ずっと奥の席に隠れてたな」
「勘弁しておくんなはれ。ワイら猫耳族は、戦闘力なんか皆無のただの商人ですわ。あんなAランク魔獣相手に飛び出したら、一瞬でミンチにされまっせ」
ゴルド商会所属、ゴールドランク商人ニャングル。
このポポロ村の財務と流通を裏で取り仕切る、守銭奴にして俺の悪巧みの相棒だ。
彼はヤレヤレと肩をすくめながら、先ほど俺が重力で爆破した「神界の通信波」が消えた空間を見上げた。
「それにしても、あの天上界の『ゴッドチューブ』の回線に直接重力をぶち込んでハッキングするとは……兄さんのスキルは相変わらずデタラメやな」
「アレを知ってるのか」
「ええ。PV至上主義のクソ神どもが、下界のワシらを悲劇のオモチャにして稼いどる悪趣味な配信プラットフォームですわ。最近はワイズとかいう新入りの神が、ヤラセで村を焼いては勇者に救わせるっちゅー、胸糞悪いマッチポンプで荒稼ぎしとるらしいですわ」
「なるほど。だからあんな辺境に、不自然な魔獣が飛んできたわけか」
俺が納得して頷くと、ニャングルは煙管の灰をトントンと落とし、真面目な顔になった。
「兄さん、ワイは金貨の匂いが大好きやが、アレに関わったら人生大赤字でっせ。相手は神と、その加護を受けた『勇者』や。今頃、兄さんをテロリストに仕立て上げて、大義名分付きの大軍を差し向ける算段でも立てとる頃ちゃいますか?」
ニャングルの言う通りだろう。
神の権威と、勇者という肩書き。それらを笠に着て、自分たちは絶対に安全な場所から、気に入らないものを数で踏み潰す。前世のブラック企業の上層部と何一つ変わらない、吐き気を催す構図だ。
「で? お前は俺から手を引くか?」
「アホ言いなはんな。喧嘩はアホがするもんですが、ワイは兄さんの『打算なき強さ』にベットすると決めたんや。この算盤は、兄さんについて行けば絶対に損はせん言うてますわ」
ニャングルはニカッと笑って算盤を弾いた。
臆病な守銭奴のくせに、こういう時の胆力だけは異常に据わっている。これだから、こいつとの付き合いは辞められない。
「なら、仕事の時間だ。ニャングル」
「へいへい。で、どうしまっか? 逃げますか?」
「馬鹿言え。売られた喧嘩だ。しかも俺の平穏な朝飯を台無しにした罪は重い」
俺は首をポキリと鳴らし、マリーシア(狡猾な笑み)を浮かべた。
「勇者サマが軍隊を引き連れて来るってんなら、最高の『処刑場』を作って歓迎してやる。……タローマン(魔導ホームセンター)の資材を買い占めろ。鉄パイプでも肥料でも、使えるものは全部だ」
剣と魔法の世界で、神と勇者が大軍を率いてやってくる。
普通なら絶望するシチュエーションだろうが、俺の【重力圧縮錬成】の前には、中世レベルの軍隊などただの的当てゲームに等しい。
「おお、こりゃデカい商いになりそうですわ! 敵の兵站ルートも裏からワイが買い占めて、腹ペコにさせときまひょか?」
「頼む。せいぜい、カメラの前で無様に踊ってもらおうか」
俺たちが極悪な迎撃計画を立てていた、その時だった。
「――ちょっと待ちなさい! この村で勝手な真似は許しませんわよ!」
半壊したファミレスの入り口から、凛とした、だがどこか怒気に満ちた女性の声が響いた。
振り返ると、そこに立っていたのは、ウサギの耳をピンと立てた可憐な美少女と――なぜか紫色の『芋ジャージ』を着た、鼻に五円玉を詰めている謎の少女だった。
「……なんだ、あいつら?」
「ああ、言うてませんでしたっけ? あのウサギ耳のお嬢さんが、バックレた前任の代わりに就任した、ポポロ村の新しい『村長』さんですわ」
嵐の予感は、まだ終わっていなかったらしい。
俺は再び、深々とため息をついた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「主人公とニャングルの悪巧みコンビ、最高!」
「いよいよヒロイン登場!? 芋ジャージって何事!?」
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次回、クセが強すぎるヒロインたちの暴走と、ポポロ村の防衛準備が始まります。お楽しみに!




