満月の夜の惨劇(ざまぁ)〜ヤンデレ月兎の無限ヤキ入れ〜
満月の夜の惨劇〜ヤンデレ月兎の無限ヤキ入れ〜
ドンッ!!
空気を劈く凄まじい爆発音。
だがそれは、爆弾の音ではない。リミッターの解除された月兎族の少女――キャルルが、マッハの速度で石畳を蹴り飛ばした際に発生した、物理的な『衝撃波』だった。
「アハハハハハハハッ!! さあ、悪い子たち! たぁぁぁっぷりと愛情を注いであげますわよォォォッ!!」
紫電の雷光をバチバチと撒き散らしながら、キャルルの姿が文字通り『消えた』。
彼女が向かったのは、俺の【重力反転】によって自滅し、瓦礫の山の中で全身の骨を折って気絶していた偽勇者、ゼロスの元だった。
「……う、あ……」
全身の激痛で、ゼロスは僅かに意識を取り戻した。
ぼやける視界。上げ底ブーツは脱げ、自慢のインプラントの歯も折れ、体はボロボロだ。神界からのバフもなく、配信も炎上し、全てが終わった。
だが、そんな彼の顔に、ふわりと温かく優しい光が降り注いだ。
「あ……」
ゼロスは目を見開いた。
目の前に、ウサギの耳を持つ絶世の美少女がしゃがみ込み、女神のような慈愛の笑みを浮かべて両手をかざしていたのだ。
彼女の手から放たれるのは、月兎族の秘伝である『月光回復』。
ボキボキに折れていたゼロスの手足の骨が一瞬で繋がり、擦り剥けた顔の皮膚が再生し、失われた体力すらも完全に回復していく。
「あ、天使……。き、君は、僕を助けてくれるのか……?」
ゼロスは歓喜の涙を流した。やはり自分は選ばれた存在なのだ。こんな危機的状況でも、美しい少女が自分を救ってくれるのだから。
だが。
完全に健康体へと戻ったゼロスに対し、目の前の『天使』は、ゾッとするような暗い瞳で、ニチャァ……と笑った。
「ええ。完全に治りましたわね? 良かったですわ」
「え……?」
「これで――手加減なく、全力でぶちのめせますものねェェェッ!!」
天使の顔が、狂戦士に豹変した。
キャルルが立ち上がりざま、タローマン特注の安全靴でゼロスの顎をカチ上げる。
「月影流・顎砕きッ!」
「ガバァッ!?」
完全に治ったはずのゼロスの顎が再び砕け、彼の体はスーパーボールのように十メートル上空へと打ち上げられた。
だが、キャルルの追撃は終わらない。大地を蹴り、打ち上げられたゼロスよりもさらに高く跳躍する。
「落ちなさいッ! 超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁッ!?」
雷竜石の放電と闘気を限界まで乗せた、音速の飛びカカト落とし。
隕石のように地面に叩きつけられたゼロスは、クレーターの中心で再び全身の骨を粉砕され、血の池を作った。
致死レベルの重傷。普通なら、これで終わりだ。
だが、満月の月兎族の狂気は、ここからが本番だった。
「あっ、いけませんわ! 死んじゃダメぇぇぇっ!!」
キャルルは慌てたように急降下し、瀕死のゼロスに再び『月光回復』の光を浴びせた。
バキバキバキッ! と、不気味な音を立ててゼロスの体が瞬時に元通りに再生していく。
「はっ!? お、俺は生きて……」
「無事で良かったですわ! さあ、お仕置きの続きですわよォォッ!」
「え? ちょ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁッ!?」
ドゴォォォォンッ!!
再び蹴り飛ばされ、空を舞い、地面に叩きつけられ、全身を粉砕される。
そして息絶える寸前に、またしても慈愛の光で完全回復させられる。
「死んじゃダメェェ!」(回復)
「お仕置きですわーッ!」(粉砕)
「死んじゃダメェェ!」(回復)
「お仕置きですわーッ!」(粉砕)
秒間数十回のペースで繰り返される、地獄の無限ループ。
殺される恐怖と、殺してもらえない絶望。
天国(回復)と地獄(粉砕)をジェットコースターのように行き来させられる、まさに拷問以上の『ヤキ入れ』だった。
「ひ、ひぃぃぃぃっ! た、助けてぇっ!」
「おい、あのウサギ化け物だ! 逃げろ、逃げろォォォッ!!」
地面に這いつくばっていた傭兵の残党たちが、あまりの光景に恐怖し、脱兎のごとく逃げ出そうとする。
だが、マッハで駆け回るキャルルの耳が、その足音を逃すはずもなかった。
「あら? 皆さんもお疲れのようですわね! 私が肩こりを『物理的』に治して差し上げますわァァッ!」
「ギャアアアアッ!?」
「腕が! 腕がモゲるぅぅ――あ、あれ? 治った!? いや、また折られたァァァッ!?」
逃げ惑う数百人の傭兵たちも巻き込み、キャルルの『過剰回復&物理制裁ツアー』がポポロ村の広場で盛大に開催された。
* * *
「ひ、ひぃぃぃ……」
「ガクブルガクブル……」
俺の背後で、ニャングルとリーザが抱き合いながらガタガタと震えている。
俺は特等席の木箱に座り、ニャングルから買った『太陽芋の揚げチップス』をポリポリと齧りながら、その大惨事を特等席で眺めていた。
「うーん、ちょっと塩が足りないな」
「に、兄さん……アンタ、あれ止めんでええんですか? なんぼ悪党言うても、アレはちょっとトラウマレベルちゃいまっか?」
ニャングルが引き攣った顔で聞いてくる。
「別にいいだろ。カメラの死角で村の子供たちを焼き殺そうとしたクズだ。これくらいされて当然だ」
「それに、クロト様……あの……キャルルお姉様の蹴り、村の建物に当たりそうですわ……!」
リーザが怯えた声で指を差す。
見れば、キャルルに蹴り飛ばされたゼロスが、弾丸のような速度で村の集会所の壁に向かって飛んでいくところだった。
俺はチップスを齧りながら、空いている左手で軽く指を弾いた。
――【重力クッション】。
集会所の壁の手前に、分厚い重力の壁を展開する。
ビターンッ!!
ゼロスの体は重力のトランポリンに激突し、見事な放物線を描いて、再びキャルルの待つ広場の中央へとバウンドして戻っていった。
「あら、クロトさん! 絶好のトス、ありがとうございますわ♡」
「どういたしまして。ほら、もう一丁行くぞ」
「はいっ! 超電光流星脚ゥゥッ!」
ズガァァァァァンッ!!
まるで俺とキャルルで、ゼロスをボール代わりにしてバレーボールをしているような絵面だ。
「……兄さん、アンタが一番エグいで」
ニャングルが遠い目をしながら呟いた。
そんな地獄のキャッチボールが、一時間、二時間と延々と続いた。
やがて、空の彼方に不気味に輝いていた『青白い満月』が、スゥッと輪郭をぼやけさせ始めた。
どうやら、ワイズが次元の裂け目を開けたことによる大気の異常が収まり、元の朝の空に戻ろうとしているらしい。
それに伴い、キャルルの全身から立ち上っていた紫電の雷光と、狂気的な闘気が、シュルシュルと嘘のように消え去っていった。
「……あれ?」
ピタリと動きを止めたキャルル。
彼女はきょとんとした顔で自分の両手を見つめ、それから周囲を見渡した。
「私、どうしてこんなところで……ハッ! そうですわ、ゼロスたちが村の子供たちを――!」
慌てて警戒のポーズをとるキャルル。
だが、彼女の周囲の地面には、もはや戦意の欠片もない男たちが、折り重なるようにして倒れ伏していた。
「あ……ぅぅ……」
「ママぁ……おうちかえるぅ……」
傭兵たちは、誰一人として外傷はない。骨も折れていないし、血も流していない。キャルルの完全回復魔法によって、むしろ来る前よりも健康体になっているくらいだ。
だが、彼らの瞳からは完全に光が失われ、口から泡を吹き、胎児のように丸まってガタガタと震えている。肉体は無傷でも、精神(SAN値)が完全に崩壊してしまったのだ。
そして、その惨状の中心。
かつて勇者を名乗っていた男、ゼロス・ディバインは。
「あ……あひっ……」
泥だらけの地面に這いつくばり、涙と鼻水とヨダレで顔をグチャグチャにしながら、俺の靴にすがりついてきた。
「け、けいさつ……」
「あん?」
「だれか……けいさつ(騎士団)を呼んでくれぇぇ……! 牢屋に入れてくれ! 真っ暗で、誰も入ってこない、安全な牢屋に僕を閉じ込めてくれぇぇぇっ!!」
偽勇者は、赤ん坊のように大泣きしながら、自らの逮捕と収監を懇願した。
「……ああ。村の平和は守られたな」
すっかり元の可憐なお嬢様に戻り、「皆様、どうして泣いているのかしら?」と首を傾げているキャルルを見ながら、俺は最後の一枚の太陽芋チップスを口に放り込んだ。
神のシナリオは完全に崩壊し、悪党たちは社会的にも物理的にも(そして精神的にも)、これ以上ないほどの完璧な破滅を迎えたのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「キャルルの過剰回復ヤキ入れ、エグすぎて大草原www」
「クロトの重力トスで腹筋崩壊したww」
「肉体は無傷なのに精神が死んでるの、最高のざまぁだわ!」
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次回、第1章の結末! 全てを奪われた偽勇者の末路と、極貧アイドルへの天文学的なスパチャの行方。お楽しみに!




