炎上神への鉄槌〜神界に届く重力波〜
炎上神への鉄槌〜神界に届く重力波〜
ポポロ村の上空、次元の裂け目から漏れ出す圧倒的な熱量と神気。
それは、ただの魔法とは根本的に次元が違っていた。大気が灼け焦げ、石畳が融解を始め、周囲の酸素が急激に奪われていく。
『死ねェェェッ! テロリストも、村のゴミ共も、私の汚点となる証拠は全て跡形もなく消し去ってくれるわァァァッ!!』
天上界から放たれるのは、炎上神ワイズの逆ギレによる『神の業火』。
本来、神が下界に直接干渉することは重大な規約違反であるはずだ。だが、己のヤラセが全世界に露見し、神界でのキャリアが崩壊の危機に瀕したワイズは、完全に理性を失っていた。
証拠隠滅。このポポロ村ごと地図から消し飛ばし、「魔王軍の自爆による悲劇」とでもでっち上げるつもりなのだろう。
「あ、あかん……! 兄さん、アレはワイの算盤の計算範囲外や! 防御魔法なんか紙切れと同然、村ごと蒸発しまっせ!」
ニャングルが恐怖に耳を伏せ、地面に這いつくばる。
「クロト様ぁぁっ! 助けてくださいませぇぇ!」
リーザが俺の足にガッチリとしがみつき、半泣きで震えている。
無理もない。神の怒りとは、人間にとっては天災そのものだ。
逃げることも、防ぐことも許されない絶望。
だが、俺は焦るどころか、深く、深く息を吐き出した。
次元の裂け目の奥で凝縮し、今まさに撃ち出されようとしている極大の熱球を見据える。
「……キャルル、リーザを連れて下がってろ。あと、まだ動ける傭兵の残党がいれば、黙らせておいてくれ」
「上は任せましたわよ、クロトさん! 地上の掃除は私に任せてくださいな!」
キャルルは俺に全幅の信頼を寄せるような力強い笑みを向けると、トンファーを構えて俺の背後へと駆け出した。
神の業火が迫る中、恐怖に駆られて暴れ出そうとしていた悪徳商人の護衛や、傭兵の残党たちを「大人しく伏せていなさいッ!」と次々に蹴り飛ばしていく。
彼女が背中を守ってくれるなら、俺は上だけに集中できる。
『消えろォォォォォォォォッ!!!』
ワイズの絶叫と共に、太陽すらも飲み込むような巨大な炎の塊が、次元の裂け目からポポロ村へと向けて撃ち下ろされた。
視界が真っ白に染まるほどの閃光。
圧倒的な熱波が迫り、世界が焼き尽くされる――誰もがそう覚悟した瞬間。
「本当に、底の浅いクソ神だ」
俺は、天に掲げていた黒塗りの直剣を、ゆっくりと円を描くように振り下ろした。
神が相手だろうと、俺のやることは変わらない。
売られた喧嘩は、倍にして返すだけだ。
――【事象特異点】。
カッ……と。
俺の剣の軌跡から、漆黒の『穴』が出現した。
それは単なる重力場ではない。空間そのものを極限まで圧縮し、光すらも逃れられない超重力の特異点――つまり、局所的な『ブラックホール』だ。
「な……っ!?」
次元の向こう側から、ワイズの驚愕の息呑みが聞こえた。
ポポロ村を焼き尽くそうと降り注いできた神の業火。それが、俺の頭上に展開された数十センチの『黒い穴』に触れた瞬間。
シュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
巨大な炎の塊が、まるで掃除機に吸い込まれる煙のように、螺旋を描きながら漆黒の穴へと飲み込まれていったのだ。
圧倒的な熱量も、神気も、全てが超重力の檻に捕らわれ、圧縮され、事象の地平線の彼方へと消え去っていく。
『ば、バカな……!? 私の、私の神の業火が……吸い込まれている!? あんな小さな穴に!?』
ワイズが信じられないものを見るような声で喚く。
「お前のちっぽけなプライドごと、飲み込んでやるよ」
数秒後。
村を包み込んでいた熱波は完全に消滅し、空にはただ、俺の剣先に浮かぶ漆黒のブラックホールだけが静かに回転していた。
神の全力の一撃は、ポポロ村の地面に焦げ跡一つ残すことなく、完全に無力化されたのだ。
『ひぃっ!? ほ、本当に人間なのか貴様は……!?』
「さて。飛んできた火の粉は払ったが」
俺は剣先を、空の上の次元の裂け目――ワイズがいるであろう神界のオフィスへ向けて、真っ直ぐに突きつけた。
「俺の朝飯を邪魔して、村の子供を焼こうとして、さらには逆ギレで爆撃。……これで終わっていいわけねえよな?」
『な、何を――』
俺は【特異点】の出力をさらに引き上げ、ブラックホールの吸引力を『逆転』させた。
次元の裂け目に向かって、見えない巨大な『重力の腕』を突っ込む。
『ひぎゃあっ!? な、なんだこれは!? 私の体が、引っ張られ――』
俺は空間の歪み越しに、ワイズ神の右腕をガッチリと【重力固定】で掴み取った。
『い、痛い痛い痛いィィッ! や、やめろ下等生物! 離せ! 私の腕が、折れ――』
「次に俺の村に干渉したら、その腕どころか、お前の玉座ごと重力で潰すぞ」
メキィィィッ!!
『ぎゃあああああああああああああっ!!!』
空間越しに伝わってきたのは、神の腕の骨が容赦なく圧し折られる鈍い音と、ワイズの情けない絶叫だった。
「……ッ!」
俺はそのまま重力の腕を振り抜き、ワイズの体を神界のオフィスの壁へ向けて力任せにぶん投げた。
ドゴォォォォンッ! という派手な激突音が、次元の裂け目から響いてくる。
神様とはいえ、直接的な物理耐性は大したことがないらしい。ワイズの気配は急激に弱まり、恐怖と激痛で気絶したようだった。
「ふう……。これでようやく、静かになったな」
俺が剣を鞘に納め、【特異点】を解除すると、上空の次元の裂け目はシュルシュルと縮んでいき、完全に塞がった。
俺の周りを飛んでいた不可視のドローンカメラも、ワイズの魔力供給が途絶えたためか、ポトポトと地面に墜落して機能を停止していく。
圧倒的な静寂。
神の業火という絶望を前にして、俺が一歩も引くことなく、逆に神界へカウンターを叩き込んだ。
その事実を前に、村人たちも、捕縛された傭兵たちも、口をポカンと開けて声すら出せずにいた。
「に、兄さん……アンタ、本物の『神殺し』やないか……」
ニャングルがへたり込んだまま、信じられないものを見るような目で俺を見上げている。
「いや、ただの防衛だ。あんな小物を殺しても、面倒な書類仕事が増えるだけだろ。……神様の世界にも、始末書ってあるのかは知らんがな」
俺が冗談めかして肩をすくめると、リーザが「わぁぁぁっ!」と泣き叫びながら抱きついてきた。
「クロト様ぁぁっ! 怖かったですわー! 焼け焦げてロースト・フィッシュになるところでしたのーっ!」
「おいおい、鼻水つけんな」
泣きじゃくるリーザの頭を適当に撫でてやる。
だが、安堵の空気が流れたのも束の間。
俺はふと、空の様子がおかしいことに気がついた。
いつの間にか、朝霧と雲が完全に晴れ渡っている。
そして――ワイズの起こした次元の異常な干渉のせいなのか、空の彼方に、本来なら夜に見えるはずの『巨大な満月』が、不気味なほど青白く輝き始めていたのだ。
「……おい、なんだあの月は。真昼間からおかしいだろ」
俺が嫌な予感を覚えて呟いた、その時だった。
「あ……あああ……」
背後で、奇妙な呻き声が聞こえた。
振り返ると、そこには敵の残党を蹴り倒していたはずの、キャルルの姿があった。
彼女の様子が、明らかにおかしい。
肩を小刻みに震わせ、俯いたまま、ウサギの耳がピクピクと痙攣するように動いている。
「キャルル? どうした、怪我でも――」
「クロト、さん……」
キャルルが、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳孔は限界まで見開き、白目が血走っている。口元には、狂気に満ちた恍惚の笑みが張り付いていた。
「あ、アカン……! 兄さん、アレはマズイでっせ!」
ニャングルが顔面を蒼白にして、後ずさる。
「キャルルはんは『月兎族』の上位種! 満月の光を浴びると、生体リミッターが強制解除されて、理性が吹き飛ぶ『ハイパーお節介ヤンデレモード』に突入してしまいまっせ!!」
「なんだその面倒くさいモードは!?」
「クロトさん……私、貴方の圧倒的なお姿を見て……もう、我慢できませんわ……♡」
キャルルの全身から、紫電の雷光がバチバチと爆発的な勢いで溢れ出し始めた。
闘気の総量が、先ほどの戦闘時の数倍、いや数十倍に跳ね上がっている。
「私の村を荒らした悪い子たちには……たっぷり、たぁぁぁっぷりと! 愛情を込めたお仕置きをしてあげませんとねェェェェッ!!」
キャルルの視線が、瓦礫の中で気絶している偽勇者ゼロスと、地面に這いつくばっている傭兵たちへと向けられた。
ドンッ!!
音速を超えた、いや、マッハの壁すらぶち破る衝撃波が村を揺らした。
俺が神の干渉を退けた直後。
ポポロ村の真の惨劇――満月の夜(昼)の狂宴が、幕を開けようとしていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「ブラックホールで神の業火を吸い込むのチートすぎるww」
「腕圧し折って玉座潰すぞの脅し、最高に痺れた!」
「神を倒したと思ったら、もっとヤバいヒロインが覚醒したwww」
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次回、満月ヤンデレ月兎による、敵への『地獄の無限ヤキ入れ(過剰回復)ツアー』が開催されます。お楽しみに!




