ゴッドチューブ・ジャック〜全世界配信『偽勇者の公開処刑』〜
ゴッドチューブ・ジャック〜全世界配信『偽勇者の公開処刑』〜
血と泥に塗れ、瓦礫の中で痙攣する偽りの勇者ゼロス・ディバイン。
上げ底ブーツが脱げてチンチクリンな背丈になり、偽物の歯がポロポロと抜け落ちた彼の姿は、もはやスラムのチンピラ以下だった。
だが、俺の「公開処刑」は、物理的に叩きのめして終わりではない。
「や、やめ……」
俺が【特異点】を最大出力で起動した瞬間、ゼロスの顔が恐怖で引き攣った。
空間が歪み、世界を飛び回っている不可視の『神界配信ドローンカメラ』の通信波が、俺の掌へと収束していく。情報の流れすらも、質量を持つ波として重力で捻じ曲げることが可能なのだ。
『な、なんだ!? 回線が、またジャックされているだと!? 切断しろ! 今すぐ配信を止めろォォォッ!!』
カメラの向こう側から、炎上神ワイズの半狂乱の怒声が聞こえてきた。
自身が作り上げたフェイク勇者の無様な姿が、これ以上配信に流れてはマズいと判断したのだろう。神界から強制的なシャットダウンのコードが送られてくるのが、重力の波紋を通して手に取るようにわかる。
「無駄だ。逃がすかよ」
俺は通信回線の根元を『重力固定』でガッチリとホールドした。
ワイズの切断コードは重力の壁に弾かれ、逆に俺が送り込んだ逆流プログラムが、神界の配信システムそのものを浸食していく。
『ば、バカな! GOD本部のメインチャンネルの制御が……乗っ取られた!?』
「ご苦労だったな、ワイズ。ここから先は俺の番組だ」
俺は通信波を完全に掌握し、神界の全宇宙に向けて放送されている『ゴッドチューブ』のメインチャンネルを強制ジャックした。
「ニャングル、準備はいいか?」
「へえ、バッチリでっせ! 兄さんの回線に乗せて、こっちのデータも全神界にバラ撒きまっせ!」
俺の背後で、ニャングルが商売用の魔導通信石を片手に、ニヤリとえげつない笑みを浮かべた。
彼が通信石を操作すると、俺が掌握したドローンカメラを通じて、ゼロスが隠していた『裏の顔』が、ありのままに神界の全モニターへ向けて生中継され始めた。
まずは、ニャングルが悪徳商会の裏口座からハッキングして抜き取った『密約の契約書』の映像。
続いて、ポポロ村へ進軍する前の夜、ゼロスと商人が交わしていた密談の音声データだ。
『――ふふん。村を焼いた後、地下シェルターにあるドワーフの密輸品や特産品は、僕が七割貰うからね。残りの三割で、適当に兵士たちに口止め料を払っておけ』
『かしこまりました、ゼロス様。それにしても、罪のない村人を魔族と偽って皆殺しにするとは、勇者様も恐ろしいお方だ』
『うるさいな。僕はカメラの前で「悲劇の村を救った英雄」になれればそれでいいんだよ。エキストラの命なんてどうでもいい。……ああ、早くチヤホヤされたいなぁ』
傲慢で、下劣で、胸糞悪くなるような会話の録音が、戦場に、そして全神界に大音量で響き渡った。
「あ、あ、あああ……」
瓦礫に埋もれたゼロスが、信じられないものを見るような目で宙を見つめている。
暴露はそれだけではない。
俺は【特異点】の応用で、先ほどゼロスが『カメラの死角』で行っていた卑劣な行為――逃げ遅れた村の子供たちに向けて無差別に炎の範囲魔法を放った瞬間――の光の屈折を再構築し、映像データとして配信に乗せた。
『消し飛べ、悪魔の協力者どもォォォッ!!』
狂ったような笑顔で子供たちを焼き殺そうとするゼロスの姿が、世界中に拡散されていく。
「やめろ……。やめてくれ……! 僕の、僕の完璧な名声が……!」
ゼロスは血だらけの手を伸ばし、虚空を掴もうともがいた。
彼にとって、名声と信者の崇拝は、自分の存在価値そのものだ。それを完全に否定されることは、肉体を切り刻まれるよりも残酷な拷問だった。
「――はいっ! というわけで、真実はいつもこのポポロ村にありますの!」
絶望するゼロスの横に、紫色の芋ジャージを着たリーザがトテトテと歩み寄り、カメラに向かって満面のアイドルスマイルでピースサインを決めた。
「皆さま、これが『ヤラセ神』と『偽勇者』の真実ですわ! くだらないフェイク配信にスパチャを投げるくらいなら、絶対無敵の地下アイドル、このリーザに全額投資(お布施)した方が人生豊かになりますのよ! チャンネル登録と高評価、よろしくですわーっ!」
ちゃっかり自分の宣伝を差し込む極貧アイドル。
彼女の突き抜けた図太さと愛嬌が、ドス黒い暴露配信の空気を一気にエンタメへと昇華させていく。
俺の視界の端に、【特異点】が干渉しているゴッドチューブの『コメント欄』のホログラムが浮かび上がった。
そこには、真実を知った全神界の視聴者たちからの、怒涛のコメントが滝のように流れ続けていた。
『は!? なんだこのクズ勇者! 子供を盾にするな!』
『密約音声ヤバすぎ。魔族と内通してたの勇者の方じゃん』
『ちょww ゼロスの厚底ブーツ脱げてるww チビすぎワロタww』
『歯も全部抜けてるし、顔も整形かよ! 返金しろ詐欺師!』
『ワイズ神のヤラセじゃねーか! クソ神BANしろ! 炎上神はよ引退しろ!』
『芋ジャージのアイドル可愛い。スパチャ投げます』
炎上。
大炎上である。
ゼロスの虚飾は完全に剥がれ落ち、ワイズ神のチャンネルは批判の嵐で埋め尽くされていた。
ゼロスの『評価』を表すインジケーターが、天国から地獄へと垂直落下していくのが見える。
「あ……あぁっ……」
ゼロスの口から、魂が抜けたような呻き声が漏れた。
彼のスマートフォン型魔道具が、狂ったように通知音を鳴らし始める。
『帝国騎士団から勇者認定の取り消し通達』
『後援会からの支援打ち切り』
『スポンサー各社からの莫大な違約金請求』
次々と表示される絶望的な通知の数々に、ゼロスの焦点は完全に合わなくなっていた。
富、名声、権力、信者からの称賛、そして神からの寵愛。
彼が己の全てを懸けて築き上げてきた『偽りの人生』が、今、全世界のカメラの前で音を立てて崩れ去ったのだ。
「……これが、お前の望んだ『見せ場』だ。満足したか?」
俺が冷たく見下ろすと、ゼロスは白目を剥き、口から泡を吹いて完全に意識を失った。
社会的にも、物理的にも、彼の息の根は完全に止まった。完全なる公開処刑の完了だ。
「ふう、お疲れ様でしたの! これで私のチャンネル登録者数も爆上がり間違いなしですわ!」
リーザが満足げに大根マイクを置く。
「兄さん、敵の悪徳商会の口座、完全凍結されましたで。これでポポロ村の利権はワイらの独占ですわ!」
ニャングルも算盤を弾きながら、ホクホク顔で笑っている。
村に平穏が戻り、自警団の面々からも安堵の歓声が上がり始めた。
これで一件落着――そう思った、その時だった。
『――ふ、ふざけるなァァァァァァァァァァッ!!!』
天が、揺れた。
いや、大気が震え、空間そのものが悲鳴を上げたのだ。
ドローンカメラのスピーカーから聞こえるのではない。
空の彼方、次元の壁の向こう側から、世界を叩き割るような巨大な『怒声』が直接脳内に響き渡ってきた。
『下等生物の分際で! 私のキャリアを! 私のチャンネルを! 取り返しのつかない大炎上に巻き込みおってェェェッ!!』
ゴゴゴゴゴゴォォォォッ!!
ポポロ村の上空に立ち込めていた雲が、不自然な円形に渦を巻き始める。
そして、その渦の中心が『パカッ』と割れ、どす黒い次元の裂け目が出現した。
「な、なんやあれ……! 空に穴が空きよったで!?」
ニャングルが煙管を落とし、顔を青ざめさせる。
「クロトさん! あの裂け目から、信じられないほどの熱量と魔力が膨れ上がっていますわ!」
キャルルが俺の背中を守るようにトンファーを構え、ウサギの耳をピンと張り詰めた。
『許さん……絶対に許さんぞォォッ! 貴様らなど、この村ごと私の力で跡形もなく消し炭にしてくれるわァァァッ!!』
次元の裂け目の奥で、灼熱のマグマのようにドロドロと煮えたぎる『神の業火』が凝縮していくのが見えた。
それは、魔獣や勇者の攻撃とは次元が違う。
神界のルールすら無視して、逆上した炎上神ワイズが直接下界へと振るう、完全な『天罰』の一撃だ。
「ひぃぃぃッ! 神様が本気でキレましたわーっ!」
リーザが俺の背中にしがみつき、ガタガタと震える。
村人たちが恐怖に顔を引き攣らせ、絶望の悲鳴を上げる中。
俺は、上空で膨れ上がる神の業火を見上げながら、面倒くさそうに首をポキリと鳴らした。
「……自分のヤラセがバレたからって、逆ギレして盤面ごとひっくり返そうとするとはな。本当に底の浅いクソ神だ」
俺は一歩前へ踏み出し、黒塗りの直剣を天へと向けた。
相手が神だろうが、世界の理だろうが関係ない。俺の日常を理不尽に焼き払おうとする害虫は、次元の壁越しだろうと残さず叩き潰す。
「上等だ。神様ってのがどれだけ頑丈か、試してやるよ」
神殺しの刃が、究極の重力を纏って静かに黒い光を放ち始めた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「ゼロスの公開処刑、最高にスカッとした!!」
「コメント欄の炎上とリーザの便乗宣伝で草」
「ついにクソ神が直接キレた! クロトの神殺しが始まる!」
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次回、次元の壁を越えた神への鉄槌! クロトの圧倒的なカウンターが炸裂します。お楽しみに!




