フェラーリの無免許運転の末路〜黒星剣士の圧倒的物理制裁〜
フェラーリの無免許運転の末路〜黒星剣士の圧倒的物理制裁〜
「死ね! 死ね死ね死ねェェェッ!! 僕は勇者だ! 選ばれた存在なんだァァァッ!!」
神の黄金バフを失ったとはいえ、偽勇者ゼロスのユニークスキル【マネー】による超課金ステータスは健在だった。
莫大な資金を投じてドーピングされた筋力と敏捷性は、確かに常軌を逸している。踏み込むだけで石畳がクレーター状に爆砕し、音速を超えた踏み込みから放たれる伝説級の聖剣の一撃は、まともに直撃すれば山をも両断するだろう。
――ただし、それは『当たる』ことが前提の話だ。
「遅い。大振りすぎる。殺意が直線的すぎて欠伸が出るぞ」
俺は、上段から振り下ろされる必殺の剣撃を、その場から一歩も動かずに見上げた。
防御する気すらない。ただ、剣が俺の脳天を割る数ミリ手前で、黒塗りの直剣の『峰』を、ゼロスの聖剣の側面に軽く添えただけだ。
――【重力偏向】。
そして、ゼロスの聖剣の切っ先のみに、局所的な十倍重力を付与する。
「なっ――!?」
ゼロスが驚愕に目を見開いた。
ただでさえ全力で振り下ろした聖剣が、突如として数十トンの鉄塊のような『重み』を持ったのだ。
自分の想定を遥かに超える凄まじい下方へのベクトル。課金で手に入れただけのゼロスの筋肉は、その暴走する運動エネルギーを止める(ブレーキをかける)術を知らなかった。
「が、あァァッ!?」
ゼロスの体は、彼自身が振り下ろした聖剣の勢いと重力に完全に振り回された。
剣は俺の横をすり抜けて地面に深々と突き刺さり、その衝撃と遠心力でゼロスの右手首が「ボキィッ!」と異様な方向にへし折れた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁッ!? ぼ、僕の手首が! 痛い、痛いぃぃッ!!」
手首を抱え、地面をのたうち回る偽勇者。
俺は剣をだらりと下げたまま、冷たい視線で見下ろした。
「馬鹿が。お前のその莫大なステータスは、確かにお前のものだ。だが、お前の『骨格』と『靭帯』は、その力を制御するような血反吐を吐く修練を積んでいない」
自動車教習所にも通わず、いきなり時速三百キロでフェラーリを走らせればどうなるか。
壁に激突して大破するに決まっている。ゼロスは今、自分自身の筋力とスピードに振り回され、自壊しているのだ。
「ひぃっ、くそ、くそォォッ!」
ゼロスが涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、左手で聖剣を引き抜き、やみくもに横薙ぎの斬撃を放ってくる。
「……あーあ。見てられまへんなぁ」
「ええ。クロトさんの足捌き、無駄がなくて本当に美しいですわ……♡」
背後から、ポリポリと何かを咀嚼する音が聞こえた。
視線をやると、村の入り口の安全圏で、ニャングルとキャルルがいつの間にか木箱を並べて『特等席』を作っていた。
「さあさあ、降伏したお兄さん方も、特等席で世紀の処刑ショーを見物しなはれ! つまみはいかがでっか! ポポロ村特産・太陽芋の揚げチップス! 今なら一袋、銀貨一枚の特別価格でっせ!」
「お、おう……じゃあ一袋くれ」
「まいどありー!」
なんとニャングルは、武装解除して地面に座り込んでいる傭兵たちを相手に、スナック菓子の訪問販売を始めていた。
キャルルも自分の分のチップスを両手で持ち、ウサギの耳を揺らしながら俺の無双劇をうっとりと鑑賞している。
リーザに至っては、「クロト様ー! かっこいいですわー! もっとやっちまいなさい!」とアイドルのコンサートさながらにサイリウム(光る魔石)を振っていた。
「……お前ら、少しは緊張感を持てよ」
俺が呆れ半分にため息をついた隙を突いたつもりだろう。
ゼロスが「よそ見をするなァァッ!」と、左手の聖剣で俺の胴体を薙ぎ払おうとした。
「学習能力ゼロだな」
俺は半歩だけ後ろに下がり、斬撃の軌道を躱す。
それと同時に、ゼロスの『両足首』にかかる重力を一瞬だけゼロ(無重力)にした。
「えっ……?」
足元の踏ん張りが突如として消滅したゼロス。
しかし彼の上半身は、全力の横薙ぎの遠心力で猛烈に回転している。
結果としてどうなるか。
ゼロスの体は、宙に浮いたままコマのように猛烈な勢いで錐揉み回転を始め、そのまま顔面から石畳へとダイブした。
ズリザザザザザザァァァッ!!
「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」
顔面を石畳で激しく削られながら、十メートル以上も無様に滑っていくゼロス。
純白だった鎧は泥と血に塗れ、綺麗にセットされていた金髪は見る影もなくボサボサになっている。
さらに、地面を転がった衝撃で、彼の足元から『ある物』がスポーンとすっ飛んでいった。
「……ん?」
俺の足元に転がってきたのは、ゼロスが履いていた純白のブーツ。
いや、ただのブーツではない。かかと部分に『不自然なほど分厚い上げ底』が仕込まれた、特注の厚底ブーツだった。
「なるほど。随分と見栄っ張りなフェラーリだな」
俺がブーツを蹴り飛ばすと、起き上がってきたゼロスの姿が露わになった。
上げ底ブーツを失った彼の身長は、先ほどまでのスラリとした長身から一転、俺の肩にも満たないほどに縮んでいた。
おまけに、顔面を擦り剥いた衝撃で、彼のトレードマークであった「爽やかで真っ白な歯」がポロポロと崩れ落ちている。どうやらあの歯も、魔法で作られた高額な差し歯だったらしい。
「あ、あ、あああ……! ぼ、僕の靴! 僕の歯がぁっ!!」
ゼロスは血だらけの口を押さえ、自分の矮小な背丈と醜態を隠すようにしゃがみ込んだ。
偽りのステータス。偽りの身長。偽りの笑顔。
全てを金で買い揃えただけの、薄っぺらな張りボテ。それがこの男の真実だ。
『お、おい見ろよ……アイツ、あんなにチビだったのか?』
『歯も全部作り物じゃねえか……ダッセェ……』
『あれが勇者? 冗談キツいぜ。ただの痛い坊ちゃんじゃねえか』
特等席でチップスを頬張っていた傭兵たちから、嘲笑と軽蔑のざわめきが漏れる。
かつて彼を「ゼロス様」と持ち上げていた悪徳商人も、あまりの無様さに顔を背けていた。
「だ、黙れ……! 見るな、僕を見るなァァァッ!!」
ゼロスは半狂乱になりながら、残った左手で聖剣を握り締め、フラフラと立ち上がった。
彼の目には、もはや勇者としての矜持も、戦士としての理性もない。
あるのは、自分の虚飾を剥がされたことへの、見苦しい逆恨みだけだ。
「殺す! お前だけは絶対に殺す! 僕の完璧な人生を、計画をめちゃくちゃにしやがって!!」
ゼロスは泣き叫びながら、最後の力を振り絞って俺へと突進してきた。
無防備な直線特攻。何の技術もない、ただのヤケクソの体当たりだ。
俺は、今度こそ剣の平をゼロスの腹部へと押し当てた。
ゼロス自身の突進力に、俺の【重力反転】による倍返しのベクトルを乗せる。
「ステータスに頼り切った素人の末路だ。……少し頭を冷やせ」
ドォォォォォォォンッ!!!
「ガッ、ハァァァァァァッ!?」
自分の全力が倍になって返ってきた衝撃に、ゼロスは肺の中の空気を全て吐き出し、スーパーボールのように遥か後方へと吹き飛ばされた。
彼が元いた豪華な装甲馬車に激突し、馬車ごと木端微塵に粉砕して、ようやくその体が瓦礫の中に沈み込む。
砂煙が晴れた後。
瓦礫の山の中で、ゼロスは全身の骨を折り、ピクピクと痙攣しながら血と泥まみれで倒れ伏していた。
もう、自力で立ち上がる力すら残っていないだろう。圧倒的で、一方的で、残酷なまでの物理的制裁(格付け)の完了だ。
「……ぜぇ、はぁ……っ! ぼ、僕は……僕は、勇者だぞ……!」
それでも、ゼロスは虚ろな目で宙を睨みながら、血だらけの口から呻き声を漏らしていた。
「カメラが……回ってるんだぞ……! 神様が、僕を見てる……! 僕は、世界に選ばれた、主人公なんだから……!」
その言葉を聞いて。
俺はゆっくりと歩み寄り、彼を見下ろしながら、氷のように冷たいマリーシア(悪辣な笑み)を浮かべた。
「そうか。カメラが回ってるんだったな。……忘れていたよ」
俺は視線を上げ、虚空を飛び回っている不可視の『神界配信ドローンカメラ』を真っ直ぐに睨みつけた。
「なら、最高の『見せ場』を用意してやらないとな」
「え……?」
「お前のメッキが完全に剥がれた、その無様な姿。そして、お前が裏でこそこそと商人と交わしていた『村の虐殺と利権山分けの密約音声』……。全部まとめて、神界のメインチャンネルで放送してやるよ」
ゼロスの顔が、信じられないほどの恐怖に引き攣った。
「や、やめ――」
「さあ、全世界のクソ神ども。本日のメインイベントだ」
俺は【特異点】を最大出力で起動した。
空間が歪み、通信の重力波が俺の掌に収束していく。
神殺しの、大炎上公開処刑の始まりだ。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「上げ底ブーツと差し歯が飛んでいくのダサすぎるww」
「自滅の仕方が完全に物理の法則(重力)でスカッとした!」
「いよいよゴッドチューブのジャック! さらなる地獄が始まる!」
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次回、ゼロスの悪事が全神界に暴露され、炎上神ワイズの運命やいかに!? お楽しみに!




