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スイーツのお届けと招待状

 キィ。冒険者ギルドの扉を開けると中はそんなに人は多くなかった。

 受付には見知った顔のフロワさんもいたので彼はいつ休んでいるんだろうと思いつつも彼の元へ向かう。


「こんにちは、フロワさん」

「こんにちは」

「あの、ドルックさんはいますか?」

「ギルド長に何か?」


 あれ? 話通ってないのかな……? 確かに今日ギルドに伺いますって話をしたはずなんだけど。

 まぁ、忙しいとは思っていたから当初の予定通りスイーツを渡すだけにして帰ろう。


「あ、今日ドルックさんと会う約束をしていたんですけど、忙しそうだと思うのでこちらを渡していただけますか?」

「約束……」


 そう呟くとフロワさんは私の顔をじっくり見たあと、すぐに何か気づいたのかハッとした表情をする。


「イ、イル様っ。失礼いたしました! いつもと違う雰囲気だったのでよく似た別の方かと思っていましたっ! ギルド長からは話を伺っています!」


 あ、なるほど。私だと気づいていなかったのか。……確かに雰囲気はちょっと違うけど、さすがに気づかないほど変わったつもりもないんだけどな……。もしかして私そこまで特徴ない顔立ちしてたとか?


「どうぞ奥へお進みください」

「あ、でもドルックさんお忙しいんじゃ? 無理にお会いしなくても大丈夫ですので」

「いいえ! 私が大丈夫じゃないんです! 会っていただかないと私が怒られてしまいます!」


 切実な叫びだった。誰に、なんて聞かずともわかってしまう。そんな彼のためにも私は「じゃあ、お邪魔します……」と、伝えてギルド長室へと向かうため奥の部屋へと進んだ。


 ギルド長室の前へ立ち、軽く深呼吸。ここへ足を踏み入れるのはこれで二回目、お偉いさんの執務部屋に入るわけだからすぐには慣れない。

 そして意を決して扉を数回ノックする。


「どうぞ~」


 声から察するに何かに集中しながらの返事のように聞こえる。

 本当に入っていいのか躊躇ってしまうが一応約束は約束なのでゆっくり扉を開けた。そこには書類に目を通しているドルックさんの姿が目に入る。


「失礼します……」

「あぁ、イルくん。よく来てくれた、ね━━」


 私の声を聞いて明るい表情をこちらに向けたドルックさんは笑顔のまま固まった。


「……」


 しばらくすると眼鏡を取り、ハンカチでレンズを拭いてからもう一度かけた。


「……」


 綺麗になった眼鏡越しで私を見るけど瞬きを繰り返してから再び眼鏡を取り、今度は眼精疲労を疑ったのか目頭を押さえてから再度眼鏡を装着する。


「……イルくんだよね?」

「は、はいっ」

「あぁ、だよねだよね! いやぁ、いつもと違うからどこのご令嬢かなって思っちゃったよ」

「やっぱり似合わないですかね……?」


 自分ではなかなかいい感じだと思ったのだけど、他の人から見たら変なのかもしれない。平民だっていうのに着飾りすぎたのかも。

 思い上がりすぎたと思い、しゅんと縮こまってしまう。


「そんなことはないよ。あまりにも似合いすぎていて見蕩れてしまうくらいだ」

「あ、ありがとうございます」


 貶されるのはもちろん嫌だけど、褒められたら褒められたでちょっと恥ずかしい。


「うーん。でもちょっと妬けちゃうなぁ。そんなにお洒落な格好をするってことはこのあとはデートなんでしょ?」

「いや! 全然そうではなくて! なんというか成り行きでこうなったというか! えっと……ラートさんにお世話になってしまって……」


 両手と顔をぶんぶんと横に振りながらデートを全力で否定する。予定がないだけにそれはそれで虚しいけども。


「ラートくん? あれ? 彼と知り合いなのかい? 繋がりがあるようには見えないけど」

「知り合いというか今日知り合ったばかりでして……。元々私の同居人と従魔のプニーがラートさんから指導を受けていてお互いに名前は存じていたんです」

「あぁ……同居人くんね。彼も冒険者なんだってね?」


 どうやら同居人に反応したドルックさんがレイヤの話を広げた。冒険者だからなのかもしかしたら興味があるのかもしれない。


「そうなんですっ。彼も頼れる冒険者なんですよ! 私よりもずっと努力家で真面目で優しい人です」


 レイヤの心証を良くしようと褒めるのだけど、ドルックさんはにこにこしながら背後に漂うオーラはなんだかドス黒く感じた。……まるで不機嫌になったレスペクトである。


「うん、もういいや。話を戻していいよ」


 いや、私何か不機嫌にさせること言ったの!? どうして!? その笑顔が逆に怖いんですけど!

 とはさすがに言えないので、一言だけ返事を述べてから彼の言う通りにラートさんの話へと戻る。


「えっと、それで今日ラートさんの同僚の方に絡まれたところを助けていただいて、そのお詫びとか今までのお礼とか諸々込みでこのような形になった次第です」

「……なるほどね。つまりラートくんの見立てでもあるわけか。彼自身のファッションがなかなか過激だけどさすがに他人には押しつけないんだねぇ。センスあるよ、うん」

「あ、あの、それよりもお礼の品をお持ちしましたので受け取ってくださいっ」


 改めてまじまじと見られるのが照れくさくなり、私は話を逸らそうと目的の物を取り出して、それが入った箱をドルックさんの前に差し出した。


「あぁ、待っていたよ。イルくんの手作り菓子。早速食べていいかい?」

「あ、はい。お口に合うかはわかりませんが」

「毒が入ってない限り大丈夫だよ。じゃあ、そっちで食べるからイルくんも座りなよ。お茶も用意するし」

「え、でも、ドルックさんお忙しいのにそこまでしていただくわけには……」

「僕はね、仕事が出来る人間なんだよ。だから休憩くらい取っても許されるわけ。だからイルくんも付き合ってよ」

「ドルックさんが大丈夫なら……」


 こくりと頷き、来客用のソファーに腰を下ろさせてもらうとドルックさんはすぐにお茶の準備を始めた。

 他の職員の人に用意させるのかと思ったけど全然そんなことはなく、彼は一人で来客用と思われるカップを出したり、茶葉を選んだ。

 ポットの水と沸かす手順は魔法で補っていたので部屋から出ることもないまま、しばらくしてから私の前に淹れたての紅茶が置かれた。


「すみません、お礼に伺っただけなのにお茶までご馳走になって……」

「だって僕がお礼をねだったわけだし、これくらいは普通だよ。お礼の品とはいえ、手土産を持って来てくれたイルくんは間違いなく僕のお客様なんだから。さ、飲んでいいよ」

「はい、ありがとうございます」


 向かいのソファーに座るドルックさんのお言葉に甘えてカップを手に取ると、紅茶の香りがふわっと近づいた。

 いちごの香りがする。そう思いながら口をつけて一口飲んでみるとやはりストロベリーティーだと確証を得た。

 ほんのりと甘く、いちご特有の甘さと酸味も伝わるし香りだかくてとても美味しい。


「ドルックさんってお客さんにもご自身で紅茶を淹れるんですね。てっきり他のギルド職員の方の仕事だと思ってました」

「あぁ、もちろんそうだよ。他のお客には部下に任せるさ」

「……え?」


 なぜ? と顔で訴えると、彼はさも当たり前のように告げた。


「そりゃあ僕は君のファンなんだし、楽しんでる所を邪魔されたくないからね」

「そう、ですか……」


 思いもよらぬ特別扱いを受けてしまった私は戸惑いながらもなんてことない相槌を打つ。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ドルックさんは早速カップケーキの入った箱を開け始めた。


「これは……カップケーキかな? 随分と沢山作ってくれたんだね」

「はい。足りなかったら申し訳ないので。それにもし口に合わなかったり食べきれなかったら他の職員の方にも分けられる物がいいかなと思いました」

「そこまで気を遣わなくていいんだよ。それに僕全部食べられるから分けるつもりもないしね」

「それでももしものこともありますし……」

「大丈夫大丈夫。さて、それじゃあいただきます」


 早速カップケーキをひとつ手に取るドルックさんだが、彼が持つとカップケーキもプチケーキのようなサイズである。

 そしてそのまま一口。もぐもぐさせながら彼はうんうんと頷いた。


「うん、美味しいよ。これはいくらでも食べたくなるね」


 そう言っている間に二つ目のカップケーキを手にするドルックさんは驚くべき速さでそのあと三個、四個と次々と口に入れていく。

 その食べっぷりに目を奪われていたら気づけば沢山持って来たはずのカップケーキはすっからかんになっていた。


(あっという間の完食……)

「ごちそうさまでした。いやぁ、本当に美味しかったよ。生クリームは君の所のカトブレパスから取ったものかい?」

「はい。ですが、同じカトブレパスから作った生クリームでもザーネさんが作る生クリームの方が断然に美味しいんですよね」


 ドルックさんもこの前ザーネさんのお店でザーネ特製ショートケーキを食べたばかりだからまだ味を覚えているはずだ。


「確かにザーネくんのショートケーキは凄かったね。人気なのも頷けるし。それでもイルくんの作ったカップケーキも負けず劣らず美味しく感じたよ」

「あ、ありがとうございますっ」


 お世辞かもしれないが美味しいと言ってもらえるのはとても嬉しかった。

 自分の作った物で誰かを笑顔にさせることが出来るとこちらも同じ気持ちになる。だから作ったスイーツを知り合いに沢山分けたくなるんだろうなぁ。


「あぁ、そうだ。実は君にね、これに参加してもらいたいんだ」


 そう言って彼は懐から赤いシーリングスタンプが押してある白い手紙を差し出してきた。


「“冒険者ギルド慰労会”……?」

「毎年十二月に各地のギルド職員達が集まって一年間お疲れ様っていうパーティーだよ」

「ギルド職員のパーティーに私が参加するのは駄目なのでは……」

「そんなことないよ。このパーティーは各ギルドで一番貢献した人や期待の新人である冒険者をパーティーに呼ぶことが出来るんだ。そしてその中から何人かを選んで賞を与える授賞式が行われるんだよ」

「え……」

「スタービレ冒険者ギルドからは今年一番に貢献した冒険者及び期待の新人冒険者の両方の枠でイルくんをノミネートしたんだよ」

「えぇっ!?」


 封蝋を持つ手が震えた。なんだかとんでもないパーティーにお呼ばれされたみたいで、私では場に浮いてしまうこと間違いないため思わず首を横に振る。


「わ、私はそこまで貢献してませんっ。そもそもそんなに依頼を受けていないですし……」

「そうは言ってもね、量より質なんだよ。イルくんは新米冒険者なのに難易度の高いものをこなしちゃったからね。まぁ、本来はランクにあった依頼しか受けられないけど、君の場合はなぜか高ランクの魔物に当たってしまうからその結果、というわけだけどね」

「……」


 そもそもの始まりはカトブレパスであるレスペクトを従魔にしてからだろう。

 そしてジャイアントボアやラミア、クイーンキラービーを退治したけど確かに新人冒険者では手に負えない魔物達ばかりである。……スライムやアルミラージを倒していたときが懐かしい。


「そんな固くならなくていいよ。パーティーだし、美味しい料理も出るからちょっとしたイベントだと思って参加してくれたらいいさ」

「……私でいいんですかね? 浮いちゃったりしません?」

「大丈夫だよ。各地の色んな冒険者達が集うんだからそれで浮いたりはしないさ。あぁ、でも今日みたいな格好だと可愛すぎて色んな人の目に止まるかもしれないね?」

「それはさすがに言い過ぎかと……」

「うーん、本心なんだけどなぁ。まぁ、いいや。とにかく僕は君を推薦したんだ。もちろん参加してくれるよね?」


 ……ドルックさんの笑顔はたまに怖いときがある。それが今だ。

 ニコニコと微笑んでいるのに否定を許さない圧を感じる。何度か受けたことあるため、段々と学習してきた私は嫌とは言えず、大人しく「はい……」と返事をした。


「良かった良かった。じゃあ、当日はその招待状の書かれてる時間にギルドに来てくれるかい?」

「あ、はい。……あの、そのパーティーってどこで行われるんですか?」

「王都だよ」

「! そんな遠い所ですか! それだと色々と準備をしなきゃ……」

「あぁ、大丈夫だよ。当日はギルド本部が雇ってくれた移動屋が送り迎えをしてくれるからね」


 移動屋……テレポートを使える人間がお金を貰って人を瞬時に目的地に連れて行ってくれる業種。

 もちろん安いわけじゃない。だからそれを簡単に雇う冒険者ギルドが凄いのだ。

 でも移動が楽なのはありがたいんだけどね。スタービレから王都は馬車を乗り継がなければ行けないので日数にムラがある。

 早くて三日、遅くても一週間以内には辿り着く。それが一瞬で到着出来るのだから馬車に乗り続けることで痛くなるお尻の心配もないし、長期的に家を空ける心配もない。


「……」


 招待状を見つめながらどんなパーティーなのだろうと考える。

 最初は恐縮してしまったが、パーティーと聞いて悪いイメージはなかった。


「どうしたんだい? まだ何か気がかりなことでも?」

「あ、いえ。ただこのようなパーティーは初めてなのでちょっと楽しみになってきたなぁと思いまして」

「それは良かったよ。イルくんも楽しめる日になると思うから期待していてくれ」

「はいっ。招待状ありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げて紅茶で一息ついたあと、私は冒険者ギルドをあとにする。

 日が暮れるにはまだ時間があるため、この姿をクラフトさんに見てほしくて私はベーカリー・リーベへと向かった。


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