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戦闘訓練場と通う者達

「それじゃあ、行ってくる」

『行ってくるー。るー』

「行ってらっしゃーい」


 イルに見送られ、プニーを肩に乗せて向かうは戦闘訓練施設。

 その名の通り、俺達の目的は戦闘面の強化である。


 この世界に来てから魔物と戦闘をするようになったが、最初は使わない筋肉を使ったため、筋肉痛が酷かったけど、今では慣れたものだ。

 一人での戦いも幾度かは経験しているが、俺自身の力と言うよりレベルとイルの作ったスイーツによって得られたステータス上昇効果のおかげで今までなんとかなったと言える。


 魔法の使えない俺は武器を取って戦うのが一般的だけど、正直なところ構えとか、力の入れ具合とか、そういう基本的なことがわかっていない。

 武器も短剣から長剣に変えたばかりなので扱いをマスターしなければならない俺は何か方法がないだろうかと冒険者ギルドに相談したところ、戦闘訓練所があるのでそこに通うのはどうかと情報をいただいた。


 実際に訪ねてみればちゃんと基本的なことを実戦して教えてくれたし、指導する人も厳しいけどいい人だったので、すぐにこの訓練所に通うことに決めた。


 それからプニーの誘拐事件の話を聞き、あいつも自分の身を守ることや、イルの従魔として彼女を守る力を手に入れるべきじゃないかと考えた俺はプニーの意志を確認し、イルに相談して戦闘訓練への参加の許可をもらう。


「プニー。もし、訓練出来なくても見学出来るように頼んでみるからしっかり目に焼きつけておくんだぞ」

『わかったー。たー』


 うねうね動きながら積極的な姿勢を見せる。

 やる気のある新人は好感触だが、人当たりの良さそうなことを言うものの、入社してすぐに逃げ出した新人を何人も見てきたので簡単には信用してはいけない。

 ……いや、逃げ出すほどのブラックだったのかな。そう言われたら否定は出来ないし。


 戦闘訓練所は屋内型と屋外型と分かれていて、俺達は屋内にて訓練を受ける。

 受付にて魔物の訓練は可能か尋ねると、担当する人によるので直接その人に聞いてみなければわからないとのこと。

 ここは受付をすませると今手の空いている指導員を選べるのだが、いつも担当している人にお願いすることにした。

 俺が初回に訪れたときにその人しか空いていなかったし、いつでも空いていたため指導員をコロコロ変えるよりかは同じ人に見てもらう方がいいと思ったから。

 人気のある指導員は待ち時間があるようだが、基礎を極めたい俺としてはそこまで拘らなくてもいいし。

 なので、いつもの指導員を指名し、そのまま訓練場へと向かった。


「あら? あらあらあらぁ~? レイヤちゃんったら従魔契約したのぉ?」


 学校の教室分くらいの広さの部屋に入ると、そこには男性指導員のラートさんが出迎える。

 まぁ、見ての通り女性を意識している人で喋り方も女性的である。オネエ、というのだろうか? キャラクター性が強い。

 紫苑ベースに紅色のインナーカラーの髪を束ね、右耳にはピアスをつけていて、化粧も施している。

 そして華奢ではあるが引き締まった筋肉がよくわかる露出の激しい格好をしているので、一見すると訓練指導員とは思えないパンチのある人だ。

 そのせいだろうか、この人の枠はいつも空いている。

 だからといって指導には何も問題がないのでいつでも空いているのが有難い俺としては選びやすい。


「いえ、友人が従魔にしたんですけど、こいつも訓練受けることって出来ますか?」

「ん~……そうねぇ。スライムなら問題ないんだけど、基本的には契約者と一緒じゃなきゃ難しいのよね。ほら、言葉通じないから主人じゃないと意思疎通出来ないでしょ?」

『僕、言葉わかるよー。よー』


 肩の上でびよんっと身体を伸ばしてラートさんに話しかけるプニー。

 彼、いや、彼女? は目を丸くさせながら物珍しげに近づいてプニーをまじまじと見つめた。


「へぇ~。話せるスキル持ちの子なのね。それなら大丈夫かもしれないわ」

「それじゃあお願いしても大丈夫ですか?」

「えぇ。アタシが纏めて面倒見てあげるわ。スライムちゃん。あなたのお名前は?」

『プニーだよー。よー』

「プニーちゃんね。可愛い名前じゃないの」

『でしょー! しょー! イルがね、つけてくれたのー! のー! イルのために強くなるのー! のー!』


 嬉しそうに跳ねるプニーにラートさんもうんうん頷いていた。


「そうなのねぇ。じゃあ、そのイルちゃんのためにもアタシの指導中は言うこと聞いてくれるかしら?」

『うんっ! 聞くー! くー!』

「よし。それじゃあ、始めましょう。プニーちゃんは初めましてなので簡単に当施設について説明するわ。レイヤちゃんは重複しちゃうけどいいわね?」

「はい」


 プニーが理解出来るかはわからないが、ラートさんは丁寧にプニーにも訓練施設についての話を始めた。


 戦闘訓練施設は兵士や冒険者になるための人用の施設で初心者から上級者の人までその人にあった訓練を組んでくれる。

 それなりに発展した町ならどこにでもあるらしく、町が大きければ施設も充実しているとのこと。

 小さな町だと訓練生を募ってもなかなか集まらないため、運動不足の人用のプログラムを組んで人を集めているのだとか。ちょっとしたジム感覚だろうな。

 そして、この町スタービレの訓練施設は大きくもなければ小さくもないのでラートさん曰く「充実度で言えばまあまあよね」とのこと。


 戦闘訓練施設は目指すものによって訓練内容も違うし、その人にあった訓練を指導員が考えてくれる。

 兵士を目指すのならば兵士訓練。冒険者を目指すのなら冒険者訓練。俺の場合は後者である。

 屋内と屋外の訓練の違いはそんなにない。どちらも防護魔法をかけているので誤った場所へ攻撃技が発動しても近隣への被害はないのでそこは安心とのこと。

 あえて違いを挙げるとしたら魔法の練習をしたい人は屋外の方が威力がわかりやすいくらいだろうか。

 屋内だと狭くて防護魔法が発動し、魔法そのものをすぐに吸収してしまうから威力がわかりづらい。


「……と、まぁこんな感じね。訓練生に合わせて指導するって感じだからプニーちゃんはどんなふうになりたいのか教えてくれるかしら?」

『強くなりたい! い!』

「そうよねぇ。ここに来たなら強くなりたいわよね。それじゃあ、どう強くなりたいのかしら? 魔法を駆使するのか、体術を駆使するのか」

『えーと、えーと、身体を大きくしたり、イルを守れるくらいに強くなりたいの! の!』

「ジャイアントスライムになりたいってことかしら? それでイルちゃんを守れるならどんな方法でもいいってことでオッケー?」

『そうだよー! よー!』


 凄いな、ラートさん。抽象的なプニーの言いたいことを理解しようとしている。

 俺が初めてこの人に担当してもらったときも簡単なヒアリングをして、進む方向性や課題を考えてくれた。

 教え方も上手いし、厳しくもあるが優しくもあるので指導員にぴったりの人なんだろうな。

 そう思うとなぜ彼は他の人気指導員のように待ち時間がないのだろうか。とてもやりやすいのに。……キャラが濃いからなのか? それだけで避けるのは勿体ないと思う。


「一先ず、プニーちゃんのステータスを確認してから方向性を決めちゃいましょ。レイヤちゃん、この子のステータスは契約者から聞いたことある?」

「いいえ。恐らく彼女もステータスを確認したことはないかと」

「じゃあ、こちらで覗き見しちゃうわね。プニーちゃんを借りてもいいかしら?」

「あ、はい。プニー、ラートさんについて行って」

『はーいっ! いっ!』


 俺の肩からラートさんの肩へと飛び移ると、ラートさんは小動物を可愛がるようにプニーを撫でた。


「ふふっ。それじゃあ、連れて行くわね。レイヤちゃんはいつもの体力作りをこなしておいてね~」

「わかりました」


 ラートさんとプニーが一旦部屋から退出し、一人残された俺は言われた通りの体力作りを行うことにした。彼が言うには体力作りは基本中の基本だという。

 戦闘面でも大事だが、しっかり鍛えておくとレベルアップ時に普段より多めにステータスが上昇するボーナスがあるのだとか。

 それでも体力作りのような訓練が苦手な人はボーナスはいらないと言う人も中にはいるし、訓練のときだけ鍛える人もいる。

 鍛えることをやめてしまえばボーナスも途中でなくなるそうだ。

 指導員は出来るだけ訓練生の希望に応えるようにはするが、最低限の基礎体力は必ず必要だという。


 それから俺はダッシュ百本、腕立て伏せ五十回、腹筋五十回、背筋五十回、スクワット百回などなど……元の世界なら確実に挫けている回数を行った。

 それらをこなせるのも当初より上がっているレベルのおかげだ。ステータスも上がっているから、日本にいたときに比べるとまだ体力がある。

 だからしんどいながらも最後までやり遂げることが出来た。


「はぁ……はぁ……」


 その場で仰向けになるように倒れると、いつの間にラートさんが戻っていてにっこり笑いながら俺を見下ろしていた。


「終わったわね、レイヤちゃん」

「あ……はい……いつ、から?」

「三十分前かしら?」


 結構前だった。恐らく気配を消していたのだろう。プニーも大人しく見ていたらしい。


「それでプニーちゃんのステータスを確認したんだけど、なかなかに面白かったわ」

「面白い?」

「とりあえずプリントしてきたから読んでちょうだいな」


 渡された一枚の紙にはプニーのステータスについて表記されていた。


 レベルは5。魔力が他の項目より若干多めくらいで、それ以外はバランスがいい感じだろうか。

 攻撃技は……消化液くらいか。魔法はテレパシー、シールド、ブレンダー。スキルは対話、無詠唱。

 大体わかるものはあるが、ブレンダーとは? ……いや、撹拌するあの機械という想像は出来るが。


「ね? 面白いでしょ? どんな種族とも話せる対話スキルだけじゃなく、言葉を発しなくとも魔法を発動出来る無詠唱まであるのよ。このレベルでレアなスキルを持ってるなんて凄いわよね」

「あの……ブレンダーってなんですか?」

「撹拌する魔法ね。主に料理人に多い魔法なんだけど、魔物で見るのは初めてだわ」

『それってイルを守れるー? るー?』

「んー。守るより手助けなら出来るんじゃないかしら? 材料さえあればスープとかスムージーを作ってご馳走することが出来るのよ」

『! イル喜んでくれるかなっ? なっ?』

「そうだな、イルなら喜んでくれるはずだ」


 そう伝えると、プニーは嬉しいのか興奮気味に身体を揺らした。

 貰ったステータスの用紙はイルにあとで渡すため、折り畳んでポケットに突っ込んでおく。


「さて、本題に入るわね。スキルに注目しちゃったけど、魔法もレベルの割にいい魔法なのよね。テレパシーやシールドは重宝出来るし。プニーちゃんご要望の誰かを守るという目的にも合うわ。ただし、今のプニーちゃんにとっては魔力が少ないから沢山発動が出来ないわけ」

『どうすればいいの? の?』

「レイヤちゃんと一緒で体力作りは最低限必要ね。あとレベルを上げたり、魔法の練習をしつつ魔力を上げていくこと。頑張れるかしら?」

『頑張るー! るー!』


 意欲はあるようで安心した。あとはちゃんと続くかどうかだ。そこだけが心配だなと思いながらプニーと一緒に戦闘訓練を始めることにした。


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