スイートポテトと必要とされる人材
なんだかドルックギルド長に上手いこと言いくるめられてしまいそうだし、自分では彼に勝てる要素は何一つなさそうだ
そんなドルックさんは変わらない笑みを浮かべたまま話を続ける。
「いやぁ、それにしても実際に対面して話をしてみればこんなにも愛らしいお嬢さんだったとは思わなかったよ」
「え、あ、いや……えへへ、ありがとうございます」
慣れない見た目に関する褒め言葉に反応に困るものの、つい照れてしまう。
人に容姿を褒めてもらうなんて小っ恥ずかしいけど、めちゃくちゃに嬉しい。社交辞令かもしれないけど!
「それにね、こんなこと言ってしまうと若い子にキモいって思われないかヒヤヒヤするけど……僕はね、君のファンなんだよ」
「ファン、ですか……?」
「そう。君の魔紋だって見惚れてしまうほど美しいしね。まるで天使の羽根を掴んで離さない強い意志を持った薔薇咲く前の茨じゃないか。小さな奇跡に縋り、後に気高き薔薇の花を咲かすのではないかと期待が込められているような芸術的な魔紋だ」
魔紋とは魔法を発動したあとに残る魔力を調べると判明するマークで、各人その形は違うため個人識別が可能となる。
「そんな魔紋のように君には可能性が秘められている。将来的には伝説に残るような凄腕の冒険者にだってなれるダイヤの原石だ。僕はそんな君を応援したいし、支援だってしたい。しかし、イルくんは依頼を受けようとはしないし、ギルド側からお願いした依頼についても難色を示していると聞いていてあまりにも勿体ないと感じている。是非とも君の活躍を追わせてはくれないだろうか?」
ま、まずいっ! ちょっと手伝うっていう話がいつの間にか冒険者としての人生を歩ませようとしている! 本当にそれは困る! 非常に困る!
「あー……あの、私はあくまで冒険者業は副業として登録しているだけで本業にするつもりはないんです。さらに言えば買い取りのみのために登録しただけで……」
「イルくん」
私の名前を呼んだドルックさんはこちらの視線に合わせるようにゆっくり膝をついた。それだけで再びギルド内はざわつき始める。
そして彼はぽつりと小さく呟いた。
「君の今のレベルは一体いくつだろうか?」
「えっ……」
ずっとニコニコと笑っていたドルックさんの目は急に厳しい目付きへと変わり、身体が強ばる。
ライオンに狙われた獲物の気分とはまさに今の状況だと言ってもいい。
「君がギルドで買い取りや数少ない依頼をこなしてくれる度に更新するステータスを見ると驚くほどに早いスピードでレベルが上がっているんだ。職員も私も非常に驚いているんだよ? 一体どういう方法でレベルが上がっているのか、と」
「そ、それは……」
「あぁ、別に詮索するつもりはないんだよ。その方法を教えてくれるなら嬉しいが、仮に君にしか出来ない方法ならその力を人のために使うべきではないかい?」
「……」
「現状、冒険者ギルドで登録されているSランクの冒険者は数える程しかいない。僕はね、君がSランクになるのも夢ではないと考えているんだよ。それだけ将来有望なんだ。そんな君には高ランクの者しか手出し出来ない依頼だってこなしてほしい。君が受けることで救われる命もあれば被害が最小限ですむことだってある」
そこまでが周りに聞こえないように話すドルックさんの言葉だった。
特に最後の言葉は私の胸に深く刺さり、今までの考えを覆すような衝撃を受ける。
その後、すぐに先ほどのニコニコ笑顔と声量に戻ったドルックさんは両手で私の肩を強く叩いた。……これが結構痛い。
「なぁに! 別に君を兵士のように扱き使うつもりではないんだ。そんな不安げな顔はしないでほしい。もちろん、イルくんに考慮してこちらで対処出来る案件は回すつもりはないが、ただ厳しいときには力を貸してほしいんだ。君へ向けて依頼をお願いするときはどうかすぐに断らずに一考した上で返答してもらいたい」
「は、はいっ。わかりました……」
「頷いてくれて安心したよ。君のような冒険者がうちのギルドで生まれて嬉しい限りだ」
勢いよく立ち上がるドルックさんは「さてと」と呟き、腕時計を見て時間を確認すると残念そうな表情を見せた。
先ほどの鋭い目をしていたのが嘘のようだ。
「あぁ~……そろそろ仕事しないとギルド長会議まで間に合わなくなっちゃうなぁ。まぁ、今日はフロワくんに小言を言いに来ただけだったけど、イルくんに会えて良かったよ。ずっと前から顔を合わせたかったんだけど、僕も忙しい身だし、イルくんとは擦れ違ってばかりでね」
「あ、そうでしたか。お忙しいのにお話までしてくださってすみません」
「いやいや。僕が話しかけたんだからね。本当ならお茶にでも誘いたかったんだけど、またの機会にしておくよ。それじゃあ、またね。イルくん」
大きな身体で小さく私に向けて手を振るドルックさんは職員しか入れない奥の部屋へと消えて行った。
しかし、本当に大きい人だったなぁ。気さくな感じだけど、ちょっとだけ怖かった……ギルド長としての顔なのかもしれないけど。
でも、彼の言うことは間違っていない気がする。
確かにレベルが上がる度に魔法やスキルも増えていくし、望まなくても冒険者としての強さになる。
私としてはただ運だけを正常値にしたいだけなんだけど、レベルが上がれば上がるほど自分にだけしか出来ないことが増えていくのだろう。
……私が厳しい依頼を受ければ誰かが助かる、かぁ。私、自分のことしか考えてなかったな。
強い人が弱い人を守るのは当然のことだもんね。いまいち自分が強いとは思えないんだけど、ステータス的には中級者レベルだと思うし……。
うん。お父さんとお母さんを助けることも守ることも出来なかった私が誰かの助けになるなら役に立ちたい。
ギルドから依頼をお願いされたら少しでも頑張ってみよう。
……出来れば頻繁に頼みに来ないでほしいけど。
『おっきな人だったねー。ねー』
「うん。それに人の命を大事にするいい人だったね」
ファンと言われたのはちょっと照れくさいけど。
……それにしても、ギルド内は未だにざわついている。
「ギルド長が膝をついたり親しげに話しかけたあいつは何者だ?」
「お前知らねぇのかよ。オルールの森で暴れていたカトブレパスを従魔にした女だ。新聞の見出しにも載ってたぜ」
「あぁ、だからドルックさんに一目置かれてるのか」
うぅ、目立ちたくないのに目立ってしまう。私自身はそんな凄い存在じゃないのに。
「……あの、イル様。お許し頂きありがとうございます。おかげでギルド長からの更なるお叱りを受けずにすみました」
「いえ、許しを請われるようなことじゃないですし、大袈裟ですよ」
「そんなことはありません。ドルックギルド長はイル様のことを随分とご贔屓にしていらっしゃるので、イル様が冒険者ギルドに少しでも嫌な印象を抱くと私共がギルド長にお叱りを受けてしまいます……」
「……すみません、私のせいで……」
ドルックさん……私はそんなVIPみたいな対応しなくてもいいのでもう少しフロワさん達に優しくしてあげてください……。
「そういえばドルックさんって凄く鍛えられてるんですね。あの人も元は冒険者だったりするんですか?」
「はい。ドルックさんは元Aランク冒険者です。冒険者達の間でも結構有名な話ですね」
なんと、まさかの上級者クラスの冒険者だったとは。それは納得である。
なんだか凄い人に認知されてしまったなと思いながら私はプニーを連れて買い物をしてから帰宅し、新しいスイーツを作る準備を始めた。
本日はスイートポテトを作るため、季節的にも今が美味しいさつまいもを買って来たのである。
材料はさつまいも、レスペクトのミルク、バター、砂糖、卵黄。
さつまいもはしっかり洗って皮を剥き、輪切りにして水に浸す。
それから鍋にさつまいもと被るくらいの水を入れて沸騰させて茹でていく。
水気を切ったさつまいもを鍋の中でマッシャーで潰し、レスペクトのミルク、砂糖、バター、卵黄を加えて滑らかになるまで混ぜる。
耐熱ペーパーシートを乗せた天板の上に楕円の形になるよう成形し、表面を卵黄で塗って予熱で温めた石窯オーブンで焼き色つくまで焼けば完成。
「はい、プニー。スイートポテトの出来上がりだよ」
『美味しそうな匂い~。い~』
「熱いから気をつけてね」
『うん!』
出来立てで熱いので火傷しないように注意すると、プニーはそれを守るように気をつけつつ、はふはふしながら食べていた。
そして私も新しい力を得るためにスイートポテトをひとつ手に取り、口へと運ぶ。
ねっとりほくほくとしたさつまいもの滑らかな甘さに舌鼓を打ち、幸せを噛み締める。
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レベルアップしました。テレパシーを覚えました。
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出た出たレベルアップ画面。それを覗き込んで覚えた魔法を見てすぐにハッとした。
昨日、レスペクトとプニーがテレパシーをして会話をしていたからこの魔法は記憶に新しい。
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・テレパシー
同魔法を使える者同士で思念伝達することが出来る。
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「凄い! 凄いよ、プニー! 私もテレパシーが使えるよ!」
『イルがいなくてもイルとお喋り出来るのー? のー?』
「うんっ、そうだよ」
『わーい! わーい!』
ぴょんぴょん跳ねるプニーを微笑ましく見ながらも、せっかくだからテレパシーを使ってみたいなと考える。
プニーに使っても今目の前にいるから実感しないだろうし、それなら牛舎にいるレスペクトに向けて出来るかやってみよう。
確か、レスペクトが言うには話す相手を思い浮かべてたらいいって言ってたっけ。
(レスペクト……)
しかし、反応がない。あれ? と思ったけど、私は大事なことを忘れていた。呪文を唱えていない。
……ん? しかし、プニーは自らテレパシーを使ったわけではなく、そのままレスペクトのことを考えたら繋がったって言ってたはず。
つまりそれって……無詠唱、ってやつでは? え? プニー凄いよね? 無詠唱ってそう簡単に覚えるものじゃないし、高ランクの冒険者でも一握りいるかいないかくらいのものだって聞いたことがあるんだけど……。
「プニーって凄いね……」
『ほんとー!? 僕凄いっ? いっ?』
こくこくこくこく。何度も頷いた。無自覚とはいえ尊敬してしまう。
そして改めてテレパシーを口にしてから目を閉じてレスペクトに語りかけてみる。
(レスペクト……聞こえる?)
ドキドキしながら数秒待ってみると、呼びかけた相手の声が頭に響いた。
(……お前も使えるのか)
(あ、凄い! 聞こえた! ねぇねぇ、レスペクト! 私もテレパシーを使えるようになったよ!)
(呼びかけたのだからそうなのだろう)
(これ、便利だね。いつでもレスペクト達と話が出来るんだから)
(不要ならば使用は控えておけ。魔力消費は少なくないぞ)
そう言われたあとで通信を遮断したのかプツッとレスペクトの声は聞こえなくなってしまった。
確認すると確かに魔力の消費量は少なくはない。がっつり減ったわけではないが乱用は避けたいものである。




