三つの能力を目に宿すラミアと辛勝
「アイスランス!」
人の腕ほどある三本の鋭い氷槍がゴブリンに目掛け飛んでいく。
数が多いからもっと本数が出せないものかと思い、最大限の数を念じるも十本くらいが限界だった。それでもないよりは全然マシなのでアイスランスを連発していく。
しかし、私は攻撃魔法をそんなに発動しないのでまだまだコントロールは良くない。だから一発KOには程遠く、少なくても一匹に三本の氷槍を刺さないと倒せなかった。
せめて頭に一発で決めることが出来たら良かったのに上手くいかないものだ。
そうしている間もラミアは高みの見物をするかの如くクスクス笑いながら見ているだけ。
「ねぇ、いくら私の下僕を倒しても無駄よ。まだまだ控えにいるんだもの」
「……向こうはまだ余裕そうだな」
「よくこれだけのゴブリンを集めることが出来たよね……」
「あら、私は集めたわけじゃないわよ。奪ったの。沢山の部下を率いるゴブリンキングを絞め殺してね」
美しいほどの悪い笑みを浮かべながら彼女は答えた。すでに集団として出来上がっていたゴブリンの集まりをラミアはトップであるゴブリンキングを潰すことでそのまま乗っ取ったのだと話す。
ゴブリンキングを彼女一人で倒せるとしたらその実力は本物だろうし、ゴブリン達もその強さを目の当たりにして、彼女の配下になったのだろう。
「イル。ゴブリン達に構うよりトップを倒す方が手っ取り早いと思う。俺が行くからゴブリン達を任せた」
「えっ? あ、う、うん。頑張る!」
レイヤはラミアの元へ向かう。一人で任されたことに不安と恐怖しかないのだけど、嫌だと言ってる状況ではない。
それに私のレベルならゴブリンを相手にするのは余裕である。……ただ、実践がないだけ。やれば出来る。
そう言い聞かせ、ゴブリンの格好の餌食となった私は彼が食い止めていた分の数を引き受けることになり、必死で魔法を唱えた。
「フレイムウォール!」
自身の周りに近づけさせないように炎の壁を作る。前も横も後ろも。半径数メートルほどに発動した炎壁はゴブリン達を焼いていくが、さすがに全員焼けるとは思っていない。その証拠にプニーが焦った声を上げる。
『イル! 上ー! えー!』
「え、ええっ!?」
上を見上げると、フレイムウォールを飛び越えようとジャンプをするゴブリンが数匹。
彼らにここまでの跳躍力はないはずだが、恐らく他のゴブリンに手伝ってもらい投げ飛ばされた可能性がある。チームワークが凄い!
って、驚いている場合ではない私はこちらに飛び込んで来るゴブリンに向けてアイスランスを発動する。ゴブリン達を貫いた氷の槍は天井へと突き刺さった。
それで終わりではなく、フレイムウォールを出し続けている間、同じようにゴブリン達は何度も上から飛んで来る。その度にアイスランスやウォーターランスで突き刺すものの思っていたよりも魔力の消費が激しい。
ここに来るまで消費の激しいライトを使ったりしたのもあるけど、まさかこんなに魔法を連発するとは思わなかった。
このままでは三十分もしない内に魔力切れで倒れてしまう。その前に決着がつくのだろうか?
そういえばレイヤはどうしているのだろう。フレイムウォールで周りが見えないため、彼とラミアの状況がわからない。
状況把握のためと魔力消費を抑えるため、私はフレイムウォールを解除した。
レイヤは……と、ラミアがいた場所に目を向ければまだどちらとも倒れている様子はなかった。
彼が無事なのを確認出来たので一先ずは安心ではあったが、自分の心配もしなければ。
なぜなら、フレイムウォールの炎が消えるとゴブリン達は遮るものがなくなったことを喜ぶように襲いかかって来たのだから。
「ひ、ひぇっ……!」
数は先程より減っているのでもうひと踏ん張りだけど、こっちはもう焦りに焦って余裕がない。
「ウィンドカッター! ファイアアロー! ウォーターキャノン!!」
無我夢中で扱える攻撃魔法を連発する。風の刃で刻み、火の矢を射って、水大砲を撃ち込む。
ウォーターキャノンは範囲が広かったおかげで残りのゴブリンを片付けることが出来た。こんなに効くのなら最初からウォーターキャノンを撃てば良かったと思うくらいに。
「レイヤ! 加勢するねっ」
「! 待てっ! あまり近づくな!」
「えっ?」
対峙するラミアに向かって駆け寄るも、すぐにレイヤに止められる。
その瞬間、スカートの下から覗くラミアの蛇の尾が鞭のようにしなってレイヤを狙い振り下ろした。
レイヤは咄嗟に避けるけど、地面が抉るようなその威力は当たったらひとたまりもないものだと見てわかる。
「レ、レイヤ! 大丈夫っ?」
「あぁ。なんとか……だが、あいつの蛇の身体がどうにも厄介だ。重たげだと思ったのに予想以上に機敏な動きをするから間合いに入れない」
「そ、れじゃあ、レイヤには不利じゃないっ!?」
確かに周りを見ると所々地面が抉られている。何度も間合いを詰めようとしたが、ラミアに邪魔されてしまったのだろう。
「接近戦が駄目なら……イル。魔法はまだ撃てるか?」
「う、うん。もう少しだけなら……」
近距離攻撃が行えないのなら自然と遠距離攻撃が頼みの綱になる。レイヤは魔法が使えないから私がやらなければならない。
はたして、私に半人半蛇の魔物を倒せるのだろうか?
不安と恐怖で息を飲み、鼓動が増す心臓はいつもより音が大きく感じた。
『イル、怖い? い? ドキドキ凄いよ? よ?』
「だ、だ、大丈夫っ。プニー、心配しないでねっ」
不安げなプニーの声を聞くと慌てて大丈夫だと元気づける。
「あら? どこが大丈夫か教えてちょうだい! さっき撃っていたウォーターキャノンってのを使ってみなさいよ! ウォータースネーク!」
しかし、敵は待ってくれない。私に向けて魔法を発動したのだ。
ラミアの手から水の蛇が数匹姿を現し、まるで本物のような動きで私を襲おうとする。
まさか魔法まで使ってくるなんて思ってもいなかった私はさらにテンパってしまい、咄嗟にフリーズを唱えて、蛇の形をした水魔法を凍らせた。
「ウォーターキャノン!」
続いて範囲も広く、威力も強いウォーターキャノンを撃つ。
大きな水の砲弾がラミアへと当たる手応えを感じた。やった! と思ったのも束の間、弾けた水の弾の中心からラミアが突き抜けて出て来た。
「嘘っ!? 無傷!?」
「無駄なのよ! 私は数秒先の未来を予知出来る特別な目を持ってるんだから!」
未来予知!? 狡い! そんなの勝てっこない!
「それだけじゃないわ。あなた達が外のゴブリンを始末したときも、ダミーの壁を破壊したときも、ここから見えるくらい遠くを見渡せることだって出来るのよ。他にもどんな攻撃技を隠し持ってるのかもわかるわ。技も、魔法も!」
未来予知、遠景はまだわかるとして、他人の技や魔法の情報を得ることが出来るのはアプレイザルに似たスキルか魔法なのだろうか。
「遠くから情報収集し、対策する準備が整ってる上に未来予知の出来る私に勝てない相手なんていないのよ! 例えあなたが全属性の魔法が使えたところで私には効かないし、躱すし、いなすわ。大人しく彼を差し出せば生かしてあげるわよ」
「そんなことしないって言ってるでしょ!」
「だったら死になさい!」
ラミアは蛇の尾を大きく振り上げて、振り下ろす。あ、まずい。
「イル!!」
潰されると思って目を強く閉じると、レイヤの叫ぶ声が聞こえた。その瞬間、身体が突き飛ばされるかのような衝撃が走る。
その勢いで地面に転がるも、それは尻尾で攻撃されたわけではないと察した私はすぐに目を見開いた。
「レイヤ!?」
「……間一髪、だな」
どうやらレイヤが私を助けるために飛び込んで身を挺して守ってくれたようだ。
そのおかげでラミアの攻撃を受けずに済んだが、あと少し遅かったら地面にめり込んでいたかもしれない。
私を覆い被さる彼は少し顔を歪めていたのでラミアの攻撃を受けたのかと焦って「怪我したの!?」と尋ねたけど「していない、大丈夫」と答えたので少しだけ安心する。
しかし、ラミアはすぐに尻尾を動かし、レイヤの身体を巻きつけ私から離した。
「くっ、そ!」
「レイヤ!」
「この子はあなたを潰してからたっぷりと可愛がってあげるわ」
「っ……!」
擦りむいたりして少し痛む身体を起こして再びラミアに手を向ける。
「あら、また魔法を使うの? 予知出来る私に向けて? いいわよ、試してみなさい。ウィンドプレッシャーでも、ウォーターキャノンでもなんでも撃ち込んできなさいよ!」
魔力はもう切れかけていて、そんなに無駄打ちは出来ない。でも、何もせずに倒れるわけにはいかないので未来を予知出来る力を逆手に取るしかない。
キッとラミアを強く睨む。そしてそんな私が使う魔法を発動する前に予知したのか、ラミアが初めて動揺を見せた。
「……! な、何っ……く、暗っ……!」
「ダークネス!」
洞窟の中を闇が包み込む。音も気配も全てが闇に吸い込まれるような無の世界。
初めて覚えたときに一度使ってみたけど、黒しか見えない空間に恐怖を覚えた。もちろん、今も何も見えないこの暗闇に恐怖を感じている。
先程まで見えていたラミアとレイヤはもちろんのこと、私自身の姿も目視出来ない。
でも、相手も同じだ。未来予知が出来ても発動してしまえば一瞬で暗黒に染まるので予知したところで避けることは出来ない。
そして、互いに何も見えないからこそ相手にその場を逃げ出す時間も与えてはいけない。
ダークネスを発動したまま、残りの魔力を使って私の持つ魔法の中で一番最大の火力を持つと予想する魔法を使う。
何も見えないけど、私は一歩も動いていないので必ず私の前にラミアはいるはず。動揺の声だってそちらの方に聞こえるのだから間違いない。
「見えないっ……予知が出来ないっ!」
「エクスプロージョン!!」
「!! それはっ……! それだけはやめてっ!!」
爆発を起こす魔法。しかし、ダークネスの力が強いのか、発動する瞬間も爆発の色も何も見えない。
ただ、強い爆発音とラミアの断末魔の叫びが同時に聞こえた。
これ以上は魔力切れを起こす恐れがあるため、ダークネスを解除する。
暗闇を解除すると、そこにはエクスプロージョンを直に食らって黒焦げになったラミアの姿があった。
『やっつけたー? たー?』
「……やった、のかな?」
軽く息を切らしながらピクリとも動かないラミアに近づいてみる。……多分、エクスプロージョン一発で倒せたみたいだ。
「恐らく、これで終わりだろう……」
「レイヤ! 大丈夫だった!?」
ラミアの尻尾に捕まっていたレイヤがひょこっと現れる。
どうやらエクスプロージョンを受けた際、身体を巻きついた尻尾が緩んで抜け出すことが出来たようだ。
「掠り傷程度だ。心配はない」
「それなら安心かな……それにしてもダークネスとエクスプロージョンのコンボも上手く決まって良かったよ」
「……思ったんだが、ラミアは元々エクスプロージョンに対抗するものがなかったんじゃないか?」
「え?」
「未来予知が出来たとしてもダークネスのように避けられない、または躱す手段がない技もいくつかあったと思う」
確かにエクスプロージョンを放ったとき、ラミアがそれだけはやめてと懇願していたことを思い出す。
「……思えば、未来予知を持ち、遠望する能力があって技を盗み見することが出来たのに、洞窟に入ればかがり火を消していたし、岩壁を作って行き止まりを作っていた。恐らく暗がりでダミーの壁だと気づかせにくくしたんじゃないか?」
火を消したのも、岩を積み上げて壁を作ったのも、きっとラミアの傍にいたゴブリン達がやったのだろう。私達が来るよりも前に。
「イルの魔法の中で使われたくないものがあったから、逃げ場のない洞窟の奥で使われたら勝ち目がないと思い、それを避けるために壁を作ってカモフラージュをした」
「でも、ぶっ飛ばしちゃったもんね……」
「そう。先に進んでしまったからあいつはイルに特定の魔法を出させないように見栄を張るしか出来なかったんだろう。降伏させるか、弱点を突かれる前に倒すか、しかなかったはずだ」
後者は長引けば長引くほど、いつ弱点魔法を使われるかからない。だから何度か私だけに取引を持ちかけたのか。
……まぁ、レイヤを置いて行けなんて言われて素直に従うと思ったのが間違いなんだけど。
「ともかくこれで馬車も動くようになるよね! 魔力切れギリギリだったけど解決出来て良かったよ。それじゃあ、帰ろ……」
「イル」
帰ろっか。そう言おうとしたらレイヤが言葉を遮り、勢いよく頭を下げた。
「すまない。俺が最奥まで向かおうと言ったからイルを巻き込んでしまった。ここまで危険な目に遭わせてしまって本当に申し訳ない」
「え、あ、いや、大丈夫だから謝らなくていいよ! それにレイヤは元々町に残ってもいいって言ってたのについて来たのは私の方なんだからっ」
「それでももっと慎重になるべきだったと思う。大事な友人だっていうのに判断を誤った」
レイヤ、凄く申し訳なさそうな顔をするんだけど、大きな怪我をしたわけじゃないのでそんなに気にしなくていいのに。
「私としてはレイヤ一人だったらもっと大変だったかもしれないし、これで良かったと思うよ。確かに引き返すべきかもって思ったけど、そうするとまた他の人が被害に遭ったかもしれないし、結果的に早期解決出来ていいんじゃないかな? だから心配してくれてありがとう」
「……礼を言うのは俺の方なんだが……。でも、そう言ってくれるなら気が楽になる。ありがとう」
ホッとする様子のレイヤにどういたしまして、と笑顔で返して、私達は町へと戻る準備を始めた。




