トリュフチョコレートと初めてのチョコレートスイーツ
「あの、私チョコレートを食べたことなくて……食べてもいいかな?」
チョコレートスイーツ作りを頼まれたはいいが、私はまだチョコレートを口にしたことがない。試食をさせてもらおうとお願いしてみた。
「えぇ、どうぞ。まだまだありますので」
アドラシオンは快く承諾してくれて、アイテムバッグからどっさりとチョコレートを取り出した。
「いやいや、待って! そんなに!?」
「ふふふ、いくらでもあるからな! これでそなたに美味いチョコレートスイーツを作ってもらいたいのだ!」
「……そもそも魔界はチョコレートスイーツはないの?」
「今のところは、だな。チョコレートそのものに満足してスイーツにするほどでもないと思っているそうでな。……しかし、余は違うチョコレートも味わってみたいからそなたに頼みに来たわけである!」
板状のチョコレートが魔界では完成されたスイーツなんだろうな。そう思いながらさっそく頂いたチョコレートの包装を破って一口分になるようにパキッと割ってから口に入れる。
「……!」
口の中に広がる甘さに衝撃を覚える。噛んでもよし、舐めるように溶かしてもよし。鼻から抜けるようにいい香りがして、ミルクチョコレートと言っていたのでマイルドな甘さである。これがチョコレート……! 先代の魔王が愛し、戦に終止符を打たせた代物!
「美味しい……レイヤも食べて見て!」
「あ、あぁ」
「レスペクトも!」
『いらん』
「そんなこと言わずに!」
あまりの美味しさにレイヤとレスペクトにもチョコレートを割って与えるが、レスペクトは嫌そうに顔を背けてなかなか食べてくれなかったけど何度もお願いしたら鬱陶しそうに渋々と一口分だけ食べてくれた。
「確かに美味いな。(日本の安物の板チョコよりも格段に上だな、これ)」
『食えん物ではないがクリームには勝てんな』
レスペクトは相変わらずの生クリーム推しみたいで少し残念ではある。
「どうだっ? 作ってくれるかっ!? 余の頼みは聞いてくれるだろうかっ?」
目を輝かせた現魔王のデジールがずいっと顔を寄せて来る。見た目が十代の少女なので断りづらいのだけど、スイーツを作るくらいなら……と思い、チョコレートも頂いたお礼もせねばならないので私はこくんと頷いた。
「わかった。初めて扱うから上手く出来るかはわからないけど、やってみるね!」
「おぉ! やってくれるか!」
「うちのデジール様の我儘に付き合っていただきありがとうございます」
「誰が我儘だ!」
二人のやり取りを見て仲良いなぁと思いながら早速彼らを家に入れてダイニングテーブルに座ってもらう。しかし、アドラシオンだけはデジールの後ろに立っているだけ。
座ってもいいんだよ? と言っても「側近なのですぐに動けるように立っているんです。お気遣いありがとうございます」と答えるので、相手がそれでいいなら私はそれ以上は口にせずキッチンへ立った。
レシピブックを手にしてチョコレートで作れる物を探してみる。出てくる出てくるそのレシピの数々。これは検索機能を使って決めてもらおう。
「簡単に出来るチョコレートのレシピ」
ペラペラと捲れるレシピブックはいくつかのページをピックアップしてくれた。チョコレートクッキー、ガトーショコラ、トリュフなど惹かれる物が多い。
んー。しかし、ココアパウダーを使う物も多いんだね。ココアもチョコレートと同じカカオから出来てるからこっちも高級品なので手に入れるのは難しい。
それじゃあこの中で選ぶならこのトリュフチョコレートにしてみようかな。
材料はチョコレート、カトブレパスのミルク。お好みで洋酒なども入れていいとのことらしいがデジールの好みがわからないので今回は入れないでおく。
チョコレートを細かく刻み、生クリームを小鍋に入れて温める。刻んだチョコレートを投入し、混ぜ合わせていけば耐熱ペーパーシートを敷いたバットの上に入れる。
クーリングでチョコレートを冷やし、少し固まってきたら一口サイズに丸めていく。
手の熱で溶けてくるので自身の手にコールドレジスタンスの耐寒魔法をかけ、その上にクーリングで冷却魔法の重ねがけをする。
そうすれば手の体温でチョコは溶けることはないので丸めやすくなった。出来るかなと思って試してみたら思いのほか上手く出来たので素早く他のチョコレートも丸めていく。
丸め終えたら一旦冷蔵庫に入れて、コーティング用のチョコレートを溶かす。
溶かしたチョコレートを冷ましながら、冷蔵庫に入れてた丸めたチョコレートを取り出し、コーティング用のチョコレートにくぐらせてクーリングをかける。チョコレートが固まれば完成である。
「出来たよ、トリュフチョコレートなんだけど」
「おぉ! 待ちかねておったぞ!」
「お待ちください、デジール様」
トリュフをダイニングテーブルに置くと、デジールはガタッと椅子から立ち上がって早速トリュフへと手を伸ばすが、アドラシオンが阻止するようにトリュフが乗った皿を取り上げる。
「ア、アド! なぜ邪魔をするっ!?」
「あなたは魔王という自覚があまりになさすぎる。食べる前に毒味をしなければどうするんですか」
「ぐぬぬ……」
「あぁ、申し訳御座いませんイルさん。失礼な言い方をしてしまって。これでも魔族の王なので何かあってはいけないため、規則として私が先に味見してもよろしいでしょうか?」
「おい。貴様は余の扱いをどうにかせい」
「あ、はい。どうぞ」
確かに魔界の王様に何かあったら私もただではすまないだろうし、問題ないことを証明するためにもアドラシオンから先にトリュフを味見してもらう。
では、いただきます。と彼はトリュフを一つ摘んで口に運ぶ。
毒味だからなのか黙々と真剣にゆっくりと味わっている様子で、なんだかこっちがドキドキしてしまう。
……そうだ。私は魔族の一番偉い人に手作りスイーツを食べさせようとしているんだから普通に考えると有り得ないし、無礼なことではないだろうか。
余計に緊張してきた私はアドラシオンの返事をただ待つしか出来なかった。しかし、痺れを切らしたのか、デジールが先に声を上げる。
「おい、アド! まだなのか!?」
「イルさん、もう一粒よろしいですか?」
「え? ど、どうぞ」
「アド!」
「仕方ないでしょう。美味しいのでデジール様には勿体ない代物です」
「貴様! イルに頼んだのは余だぞ! 独り占めするな!」
アドラシオンからチョコを奪おうとデジールが彼に飛びかかった。そこからはもうお互いトリュフの奪い合いとなり、止めに入ることも出来ない私は予め分けていた別のトリュフを持ってレイヤにも味見してもらおうと差し出した。
「……取り込み中みたいだから一緒に味見しよっか」
「あぁ……そうだな」
一粒手に取り、トリュフを口に放り込む。コーティングされた薄いチョコレートがパキッと割れ、中にはガナッシュと呼ばれる柔らかいチョコレートが現れた。
板状のチョコレートとはまた違った食感でこれまた美味しい。
「美味しい……」
「うん、美味いな」
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レベルアップしました。体力回復増幅を得ました。
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ピロン。とレベルアップの画面が表示される。これはスキルだ。前に得た魔力回復増幅と同じ系統だろう。
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・体力回復増幅
体力の回復が通常より増える。
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詳細もそう書かれている。回復量が増えたら疲れにくい身体になるということだ。これはいいものを得た! 体力は大事!
「イル! このトリュフチョコレート美味いぞ!」
アドラシオンとの取り合いの末、ようやく口に出来たのか、口元にチョコレートをつけたデジールが味の感想を伝えてくれた。
一先ず、魔族の王様の口に合って良かったので胸を撫で下ろす。
「よし! いい物を食わせてもらった。褒めてつかわす! また来るので次のチョコレートスイーツを楽しみにしておるぞ!」
「えっ、また?」
「ではな!」
「それではイルさん、失礼致しました。残りのチョコレートはあなたへのプレゼントですのでお受け取りください」
言うだけ言うと二人は出て行ってしまった。……アドラシオンが持って来た魔界産チョコレートを大量に置いて。
よく見るとミルクチョコレートだけじゃなくビターチョコレートまである。またあとで味見してみよう。
……しかし、この大量のチョコレートは消費出来るのだろうか。
「……魔族ってなんか自由なんだな」
「……そうだね」
また来るって言われたけど、明日からしばらく家にはいないんだよね……。それを伝えられなかったのは残念なんだけど仕方ない。
それよりも明日の出発のため、準備をしなければ。




