表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/221

アップルシュトゥルーデルと鍛冶屋さん

 本日はちょっと時間のかかるスイーツを作ろうと朝から気合を入れた私はレシピブックを手にし、アップルシュトゥルーデルのページを開いた。


 材料は軟質小麦粉、硬質小麦粉、バター、塩、油、水、砂糖、シナモンパウダー、りんご、レーズン。

 ボウルに軟質小麦粉と硬質小麦粉と塩を混ぜて油と水も加えてさらに混ぜる。ひとまとまりになったら防乾燥シートに包んで冷蔵庫に入れて休ませる。

 パン粉を作るため、ベーカリー・リーベのバケットをウィンドカッターで細かく切り刻み、フライパンで炒める。その後、砂糖を混ぜてから冷ましていく。

 薄くいちょう切りにしたりんごにレーズンと砂糖、シナモン、溶かしバターを混ぜればフィリングは出来上がり。

 休ませていた生地を薄く薄く伸ばしていく。破れないくらいに透けるような薄さまで伸ばせば、砂糖と炒めたパン粉を乗せ、その上にフィリングを横一線に置けばあとは生地を巻いていくだけ。

 天板に巻いた生地を乗せて表面にバターを塗り、予熱で温めた石窯で焼けば完成だ。


 数時間ほどかかったと思われるアップルシュトゥルーデル。香ばしさとりんごの甘い匂いに誘われた私は早速切り分けてひとつ口に入れて頬張る。

 甘く柔らかいりんごとサクサクの生地、そしてこのレーズンがまた良し!

 レシピにはラム酒漬けのレーズンでも美味しいと書かれていたからちょっと贅沢にラム酒漬けレーズンで作ってみたんだけど、少し大人びたスイーツに仕上がってとても美味しい。


========================================


レベルアップしました。ファイアサーチを覚えました。


========================================


 毎度おなじみのレベルアップ画面によるとファイアサーチを覚えたらしい。ウォーターサーチと同じ役割だろうなと思い、詳細を指先で突く。


========================================


・ファイアサーチ

熱源を探知することが出来る。


========================================


 やはり。しかしこの詳細はもう少し詳しく書いてもいいと思うんだ……なんていうか大雑把っていうか。こういうときに活躍出来るよ! っていうワンポイントアドバイスもあれば有難いのだけど。


「……ファイアサーチ」


 どうやって探知をするのだろうという興味本位で試しに実践してみる。

 すると、目に見える世界の色が突如消えて真っ白になってしまった。声を出して驚く間もなく、すぐに白い景色の中であちこち大小様々な火のような色が灯り始める。

 小さな火が灯るのは電気系統や食べている途中のアップルシュトゥルーデル、大きな火が灯るのは先程使ったばかりの石窯オーブンでこの火だけが一番色が濃い。

 恐らく熱を占める大きさによって火の大きさも変わり、温度が高ければ高いほど火の色が濃くなるのだと思う。ふむふむ、こうやって探知するのか。

 ふと、人の体温もわかるのだろうかと自身の手や身体を見下ろして確かめると、自身が発火しているかのように火が身体中に纏っていた。なるほどなるほど。使う機会はそうそうないけど使い方は理解出来た。


 魔法を解除し、食べかけだったアップルシュトゥルーデルをもう一口食べる。うん、やっぱりこれは美味しい!

 こんな美味しく出来上がった大人のスイーツを愛しのクラフトさんと、あとリリーフにも分けてあげなければ!

 そうと決まればスイーツをアイテムバッグにしまい込んで、レスペクトにボウルいっぱいの生クリームを捧げてからベーカリー・リーベへと向かった。


『相変わらず忙しない娘だ……』


 ぽつりと呟くレスペクトの言葉が耳に入らなかったのは足にハイスピードの魔法をかけて町まで飛ばしたから。






 ベーカリー・リーベへとお邪魔すると、ちょうどお昼休憩に入ったばかりらしく、リリーフとクラフトさんは住居となっている二階でランチタイムを取っていた。

 そして私が差し入れを持って来たことを知ると、上へと上がらせてもらい、早速二人にアップルシュトゥルーデルをご馳走する。


「いやー昼飯時でちょうど良かった。イルの新作スイーツを食えて満足したな!」

「なかなか食べ応えがあるけど、美味しかったわよ。ラム酒漬けのレーズンもりんごとの相性もいいしね」

「ほんとっ!? 結構頑張ったからね!」


 二人とも残さず食べてくれたし、今回も喜んでくれて良かった。


「そういえば、イルってスポンジケーキはあまり作らないわよね? 誕生日にロールケーキを作ったくらいじゃない?」

「うん。まだケーキ用の型を持ってないからそろそろ購入すべきかなって思ってたところなんだよね」


 まだケーキ系統で作ったものといえばリリーフが言っていたロールケーキとクラフトさんから譲ってもらったタルト型を使ったアップルパイくらいだろうか。

 せっかく生クリームも手に入るから夢のショートケーキとか作ってみたいし、食べてみたいんだよね。


「それだったらよ、懐に余裕があるならでいいんだが、雑貨屋とかで買うより俺の知り合いが働いてる鍛冶屋で買う方がいいぜ。雑貨屋で売ってるほとんどは見習いや素人同然の奴が作るから安価で買える分、物持ちが悪いからよ。鍛冶屋で直接注文して作ってもらう方が素材も良くて使い勝手もいいからな」

「鍛冶屋って武器や防具を作ってくれる所ですよね? 製菓道具まで扱ってくれるんですか?」

「まぁ、金属を加工するのが職業だからな。武具製造が主な収入源ではあるが、もちろん包丁やフライパンだって注文を受け付けてくれるぜ」


 なるほど……! 確かに言われてみればそうだよね。鍛冶屋だから調理器具だってお手の物だもんね。

 しかもクラフトさんの知り合いなら信用も出来るし、いい人そうだから製菓道具を頼んでもいいかもしれない。


「クラフトさんっ。是非とも紹介してしてくださいっ!」

「おう! じゃあ、地図書いとくから是非行ってみてくれ」

「ありがとうございます!」


 さすがクラフトさん! 頼りになる……好き……。

 そんなふうに目を輝かせていたらリリーフに突き刺すような目を向けられてしまった。相変わらずリリーフのガードが固い。


 クラフトさんから地図を受け取った私は早速彼のお知り合いの鍛冶屋さんへと向かった。

 町の一番端の方に店を構えるその鍛冶屋さんの主人はドワーフ族のアッシュさんというらしい。クラフトさんが紹介してくれる人だし、腕も性格もいいんだろうなぁ。

 そんなことをほわほわ考えながらお店に近づいて行くと、なんだか店内が騒がしいことに気がついた。


「?」


 取り込み中だろうかと思いながら入口前でお邪魔していいか悩みながら一歩踏み出す。


「ワシの言うことが聞けん奴ぁとっとと帰りやがれ!! じゃなきゃぶっ飛ばすぞ小僧っ!!」


 突然の怒号にびくりと身体を震わせると、店から飛び出すように冒険者と思わしき男性が出て来た。まるで命を脅かす何かと出会ったように顔面蒼白だったため、店に向かおうとしていた足が思わず止まる。


「だ、大丈夫かな……?」


 恐る恐るゆっくりと鍛冶屋の中に一歩入る。そこには後ろ姿ではあるが、人の姿が見えた。炉の火の前で金属を叩くようなカンカンと打ち付ける音が聞こえる。

 私より背の低い小柄だというのに腕や背中から見てわかるほど、逞しい筋肉が備わっていた。つまり、強そうである。

 そして打ち付けていたものを持ち上げ始め、それが剣だということがよく見えた。


「あの小僧っ! 次来たらタダじゃおかねぇ!! 挽き肉にしてやらぁ!!」

「ひ、ひぇ……」


 一歩しか店に踏み込んでいないし、後ろ姿しか見えないが顔を見るまでもなくとんでもなくご立腹なのは理解出来る。剣先まで光って見えたのだ。

 そして私の中の私が語りかけた。今行ってはいけない。引き返そう。ミンチにされてしまう、と。

 一人で小さく頷いては足にハイスピードの魔法をかけて、急いでその場から逃げ出すことにした。






「め、めちゃくちゃ怖かった……死ぬかと思った……」


 ガタガタ震えながら急ぎ帰宅した私はレスペクトに先程の出来事を話すと、彼は呆れるような溜め息を吐き捨てた。


『たかがドワーフ如きで何を恐れる必要がある?』

「だってすっごい怒ってた! やっぱり職人気質な人はプライドがあるから簡単にオーダーメイドを受け付けてくれないかもしれないし、武器とか防具とか作りたいから私のような女が使う製菓道具を作るなんてもってのほかだって言われるかもしれない!」

『そう言われたわけでもないのに逞しい想像力だな。怯えるのなら諦めろ』

「うぅ……でも、クラフトさんからの紹介だし、色んなスイーツを作ってみたいんだよね。ショートケーキとか……」

『ショートケーキ?』

「生クリームをたっぷり使ったケーキだよ」

『とっとと依頼しに行ってこい』


 生クリームと聞いたらこれだよ! レスペクトは自分が関わらないからって簡単に言うけど私からしたらとても恐ろしいんだよ!

 そんなふうに「でも……」と渋る私にレスペクトは静かに呟いた。


『私以上に恐ろしい存在なんているわけないだろう。行けと言ったら行け』


 そう口にするレスペクトはこれ以上駄々をこねるなと言いたげな圧を私に向けてくる。

 これは拒否すると邪視を使うぞと脅してるのと一緒。多少のことならレスペクトも渋々見逃してくれるが、ここまで強く命令されてしまったら非力な人間は抗えない。

 力関係は彼の方が上だからどちらにせよ私が死なないためには従うしかないのだった。


「あ、明日……明日行くから……」

『時間を延ばしたところで変わらぬというのに小賢しい奴め』

「うぅ、怒らせないようにしないと……」

『お前のような小物、下手に出ていればいいだろう』

「それでなんとかなるなら最初から心配してないのに……」


 とにかくアッシュさんを怒らせないようにしなければ。

 レスペクトの脅しにより、もう逃げることも叶わなくなった私は明日ミンチにされないようにと祈ることしか出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ