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ヌガーと製菓道具依頼

「……成長早いなぁ」


 謎の少女から謎の種を受け取って植えてから一週間も経っていないというのに、すでに花開く一歩手前まで成長していた。

 種蒔きして一日で芽が出て、二日目以降もぐんぐんと育つのだから明日には花咲くだろうなぁ、と考えながらウォーターで水遣りする。

 こんなに成長が早いなら枯れるのも早いのかな。それだとちょっと儚い花になりそうだ。


『……イル。何をまったりしている。お前にはやらねばならないことがあるだろう』


 水遣りする私の様子を見たレスペクトが早く鍛冶屋に行って来いと圧をかけてくる。怒りも混じえているからこれは早く行かないとさらに怒りを買ってしまう恐れがあるだろう。

 気が進まないし、めちゃくちゃ怖いから避けることが出来るなら避けたい。……もう安物製菓道具でもいいんじゃないかな……って、それだと紹介してくれたクラフトさんに悪いし!

 うぅ、やはり腹を括るしかないようだ。


 こうして、渋々とレスペクトに脅された私は再びアッシュさんのいる鍛冶屋へと向かうことにした。……胴体が二つに別れたりしないよね……?






「……来てしまった」


 昨日はつい逃げ出してしまった鍛冶屋の前に再び戻って来た。同時に昨日ここで起こったことを思い出す。

 冒険者を追い返すほどの怒号と、後ろ姿とはいえ逞しい身体つき。そしてその手で生み出す業物達。思い出しただけで身震いをしてしまう。

 ごくり、と息を飲んで私は彼の仕事場である敷地に足を踏み入れた。

 小さな電球の明かりが灯っているのに、それよりも大きな炉の炎が仕事場を明るくしている。昨日と同じく私の視界にはアッシュさんと思わしき背中が目に入り、カンカンと打ち鍛えるような音も聞こえた。

 大丈夫、私は魔物だって倒せるんだ。……低レベルのものだけど。でも、カトブレパスを従魔にだってしたんだ。……従うのは私なんだけど。

 一気に不安になってきたが、進まねばレスペクトに睨まれる。つまり邪視を発動されてもおかしくない。ええい、ままよ!


「すみませんっ」


 声をかけると鉄を打つ音は止むことがない。聞こえていないのだろうか。


「あの、すみませんっ!」

「聞こえとる! 用件を言いな!」


 もう一度声を上げると、すぐに怒鳴りつけるような返事がきた。その返しに「ひぇっ」と声が漏れる。めちゃくちゃ怖いんだけど声をかけてしまったのだから逃げるわけにはいかない。


「あ、あの……クラフトさんからご紹介をいただきまして……製菓道具の依頼に伺いに来ました」

「あぁ……あいつの知り合いか。少し待ちな」

「は、はいっ」


 クラフトさんの名前を出すと対応が少し変わった気がした。もしかしてここは紹介制なのだろうか。


 とりあえず彼の言う通り待つことにしたのだが、かれこれ三十分は入口付近で立ちながら待った。母の形見である銀の懐中時計で時間を確認したので間違いないのだが、その間も彼は仕事の手を止めない。恐らく中断出来ないのだろう。

 それからまた十分経った頃、ようやく彼の手が止まる。腰を上げて後ろ姿しか見えなかったアッシュさんの正面をやっと見ることが出来た。

 ドワーフ特有の人間よりも小柄な背丈。私よりも低い身長ではあるが、体格はしっかりしている。筋骨隆々という方が正しいだろうか。クラフトさんよりも厚みがあった。

 白い髭も蓄えており、右目は古傷を負っているのだが、その目は開いていなかった。

 ドワーフのおじいさん鍛冶屋というより歴戦の冒険者と言ってもおかしくはない風貌だ。


「待たせたな。クラフトの紹介だって? ワシはアッシュだ」

「あ、はい。イルと申します。クラフトさんからこちらで製菓道具を作ってもらったらと話をしていただきまして……」

「なんだ、お前さん菓子職人か?」

「いえ、趣味程度でやってまして」

「趣味でワシの作った物を使うだと……?」


 あ、まずい。これは怒らせてしまったのでは? ど、どうしよう。なんて返せば……。


「ハッハハ! 趣味でも道具の質を落とさんとはいい判断だなっ!」


 ……どうやら怒ったわけではないようだ。ちょっと安心。見た目は怖いけど、結構いい人なのかもしれない。


「製菓道具ですけど、作ったことあるんですか?」

「もちろんだ。料理人なら大体はオーダーメイドだからな。いくつか請け負ったこともあるぜ。で、何を作ってほしいんだ?」

「ケーキの型をお願いしたいです」

「定番中の定番か。ケーキの型っつっても種類があるんだが、どういうのだ? 底が外れるか外れないかとか」

「えーと……底の外れないタイプで」


 確かレシピでは底のある型を使っていた気がする。スイーツによってケーキの型も違うタイプを使い分けたりするそうなのでスイーツ作りは奥が深い。


「素材や効果の希望はあるか?」

「全然詳しくないのでなんとも言えないのですが、効果とは……?」

「火の魔石などを混ぜて鍛えりゃオーブンなしで自ら熱を発して焼けたり、オリハルコンやドラゴンの鱗を使えば巨人が踏んでも壊れない強度にしたりと出来るな。もちろん値は張るが」


 さすがにそこまでの追加効果はいらないかな……。普通でいいや。恐ろしく高そうだし……。


「いや、そこまではいいかなと思います。普通に使いやすいくらいで……」

「そうか。じゃあ、軽量を重視しつつ、でいいか?」

「はい。それでお願いします」

「よし、請け負った」


 思っていたよりもあっさりと注文を受け入れてくれたのでちょっとだけ拍子抜けしてしまう。昨日の冒険者のように怒鳴り散らされると思っていたから。


「大体二日後には出来るからそれ以降に引き取りに来てくれ」

「あ、はい。ありがとうございます!」


 お願いしますと頭を下げたちょうどそのときだった。


「オイ、じいさん!」


 突然ズカズカと鍛冶屋に入って来たのは大剣を腰にぶら下げた大男の冒険者。彼の隣には昨日追い返された男性も怯えながら後ろに立っている。


「こいつから聞いたぜ。昨日はうちの依頼を断ったって。客を追い返すなんてどういうことだよ?」

「ハンッ。礼儀もなってない上に溜まってる注文よりも自分らを優先しろという奴らの注文を聞く義理はねぇな!」

「金は出すっつってんだろぉ?」


 どうやら昨日の一件についてのクレームだろうか。しかし、双方の話を聞くと客側の方が迷惑な注文をしているようだ。それでアッシュさんは断って追い払ったのか。


「金を積んだところでワシの対応は変わらん! とっとと出て行け!」

「んなこと言うなよじいさん。こっちはクエストの期限も迫ってんだから急ぎで頼んでんだよ。ちょちょいと強化すりゃいいだけじゃねーか。それとも痛い目見ねぇと駄目か? あ?」

「あわわ……」


 ど、どどどどうしようっ! アッシュさんが大男に胸ぐらを掴まれてしまった。このままじゃ彼が怪我をしてしまう!

 怖いけど見て見ぬふりなんて出来なくて、慌てて大男の手を掴んで間に入る。


「あ、あのっ! アッシュさんがお断りしているのですから諦めてください!」

「あ? 女が間に入って来んじゃ……!? お、お前っ!?」

「?」


 舌打ちしながらこちらに目を向けたと思ったら私を見るや否や大男は凄い勢いでアッシュさんを解放し後退った。

 まるで私に脅えているようにも見えるが、私は彼を見るのは初めてなので首傾げる。


「暴走魔獣カトブレパスを従魔にした女……!」


 ……ハッ。まさか新聞効果! 顔なんて覚えなくていいのに!


「っち。カトブレパスを連れてくる前に出直すしか……」

「あぁ? 出直すだと? 何言ってんだ小僧」


 逃げ出そうとした大男の鼻先に大きな斧が突きつけられた。その持ち主はアッシュさん。すぐに手に取れるように近くに置いていた物だと思われる。

 デザインや加工が壮美でセンス良く仕上げられていて、彼の身長と同等の大きさであった。

 しかし、見るからに重量があるそれをアッシュさんは片手で持ち上げている。やはりあの屈強な肉体は伊達じゃない。


「ワシはなぁ、勝手な奴が大嫌いなんだよ。ワシの作業場でワシのルールを破る奴ぁミンチにして魔物に食わせてやるからな! 次来たらテメェの最期だ!!」

「ッ……! くそぉ!」


 ドスの効いたアッシュさんの言葉はとても迫力があり、本当にミンチにしかねない勢いだった。そんな彼に気圧された大男と連れの男は相手に勝てないと悟ったのか共に逃げ帰って行く。

 アッシュさんは舌打ちをし、肩に大斧を乗せると、こちらをジッと見つめた。


「お前さん、どっかで見たことあると思ってたが、まさかカトブレパスを従わせた娘だったとはな」

「い、いや、従わせたわけじゃなく、私が従っただけでそんな大層な者では……」

「どちらでもいいがな。あぁ、あとあのバカを止めようとしてくれた礼を言わねぇとだ。ありがとな」

「いえいえ、そんな……」

「まぁ、危ねぇから首を突っ込むのはやめときな。ワシ一人でなんとかなるんだからよ」


 確かにそうかもしれない……あの大斧を向けた現場を見てしまったら頷かずにはいられない。むしろアッシュさんを助けようだなんてことがおこがましいんだと思う。


 とにかく一件落着したので、改めてアッシュさんに依頼を受け付けてくれたお礼を言い帰宅することにする。

 レスペクトもこれで文句は言わないだろうと思い、自慢げに報告すると『だから言っただろうドワーフなんぞ恐れるに足りん』と言われてしまった。十二分過ぎるくらいに恐れましたけども!?


 結局レスペクトに小心者という烙印を押されてしまったのでもうそれでいいやと諦めた私は気を取り直してスイーツ作りを始めることに決めた。


 本日選んだスイーツはヌガー。材料は蜂蜜、砂糖、水、アーモンド、ピスタチオ、卵白。アーモンドとピスタチオは常備してないからちゃんと予め買っておいたから準備はバッチリ。

 鍋に水、砂糖、蜂蜜を入れ、混ぜて合わせ煮詰める。ここは温度が大事らしくしっかり測らねばいけないのでファイアサーチを使用して火の色で大体の温度の情報を得る。

 卵白をいつものハイスピードの魔法を使った泡立て器でミキサーの如く混ぜてメレンゲを作っていく。

 そして煮詰まった液体をメレンゲに加えて、再びハイスピード泡立て器で混ぜる。

 それが出来たら予め炒っておいたアーモンドとピスタチオを混ぜ合わせ、防乾燥シートを敷いた天板に流し入れてから冷凍庫で冷やすだけ。

 しっかり冷やしたら食べやすいよう細長い長方形の大きさに切ればヌガーの完成である。


「ではでは、早速実食といきますか」


 相変わらずの一人での味見なんだけど、得るものは大きいし、美味しいスイーツは食べられるから一人だろうと私は食べなければ。

 そう意気込み、アーモンドとピスタチオが入った真っ白なバーをひとつ手に取り、一口齧る。

 ねちっと少し柔らかいキャンディーのようだ食感。アーモンドとピスタチオがまたいい味を出していた。


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レベルアップしました。サンドショットを覚えました。


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 待ってましたレベルアップ! なになにー? 今回は地魔法のサンドショットを使えるようになったらしい。でも見るからに攻撃魔法。使う日は来るのだろうか?


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・サンドショット

砂を発射させることが出来る。


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 ふむ。砂かけ魔法と思うべきか。目に入ってしまえばちょっとした隙が出来るだろうし。怯ませることは可能かも。そう思うとまだ使い道はありそうである。

 あくまでも砂をぶつけるのだろうから大怪我を負わせる心配もなさそうなので、今日絡んできた大男に向けて発射し退散させることも出来そうだ。


「うん。迷惑な人がいたらそうしてみるのもありかもしれない」


 一人で頷き、食べかけのヌガーを口に運ぶのを再開させた。


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