ロールケーキと友人の誕生日パーティー
本日は友人であるリリーフの誕生日。昨夜思い出したため慌てて作ったので少し寝不足だ。
でも、ちゃんとプレゼントとしてロールケーキを作ったので私はよく頑張ったと思う。
材料は軟質小麦粉、卵、牛乳、砂糖、カトブレパスのミルク。
卵は卵白と卵黄で分けておき、卵白は砂糖を入れて混ぜていく。次に卵黄に砂糖を混ぜ合わせ、白っぽくなればその後牛乳も加える。
ふるいにかけた小麦粉を卵黄のボウルに混ぜ入れて、ちゃんと合わさったら卵白を数回に分けて混ぜる。これでロールケーキの生地の種は出来上がり。
天板に生地を流すと、予熱で温めていた石窯オーブンで焼いている間にカトブレパスの乳で生クリームを作る。オレンジのババロアに続けての生クリーム生産は腕が死ぬかと思った。
その後、ヒートレジスタンスで手に膜を張った素手で焼き上がった生地の天板を下ろし、粗熱を取るために少しばかりクーリングをかけて冷ます。
防乾燥シートに生地を乗せて、泡立てた生クリームを満遍なく塗り、そしてシートを使ってゆっくり巻いていけば完成である。
リリーフのプレゼント用なので先に食べるわけにはいかないため、レベルアップはお預けな状態で本日に至る。
朝はお仕事なので今日も今日とてペット達の自由な主張に振り回されながら仕事を終えた身体でリリーフのお家へと向かった。
夕方、お家を兼ねたお店はオープンの札がかけられている。リリーフの誕生日くらいお休みにしたっていいんじゃないかな?
ドアを開けて内扉についてるベルが鳴ると、レジに立っていたリリーフがこちらに目を向ける。
「リリーフ! ハッピー……」
「イル! ここ数日姿が見なかったけど何してたのよ!」
誕生日を祝おうとしたらリリーフの声にかき消されてしまった。もしかして訪問早々に怒られてる……?
「え、えぇ? 食材調達に忙しくて……って、なんで怒鳴られてるのっ?」
「そりゃあ、毎日のように来てたんだから心配するでしょ! 今日来なかったら家に乗り込もうかと思ったわよ!」
そりゃあ、確かにしっかりお仕事してお賃金を受け取れるようになったからほぼ毎日ベーカリー・リーベにパンを購入させてもらってはいたけど、そんなに心配されるとは……。リリーフは心配しすぎだと思う。
「そ、それより今日はリリーフの誕生日でしょ? 誕生日おめでとう!」
「……覚えてたの?」
「もちろんだよ。お祝いのスイーツ持って来たから食べて! ねっ?」
「……ちょっと待ってて」
そう言うとリリーフは店の奥へと行ってしまった。恐らくクラフトさんと話をしてるのかもしれない。そして彼女はすぐに戻って来た。
「リリーフ、どうかしたの?」
「パパにイルが来たことを伝えたのよ。もうすぐ店じまいするから上に上がってて。あたしの誕生日パーティーをするから」
「えっ? 私も参加していいの?」
「当然でしょ。元よりあんたを呼びに行くつもりだったんだから」
ほら、早く。と急かされて、私は躊躇いながらもリリーフの住居である二階へ上がらせてもらった。
そういえば誕生日パーティーに招かれるのなんて初めてだなぁ。初めての友人の誕生日パーティー……感慨深いものがある。
去年はリリーフの誕生日は知らなかったし、知ったときにはすでに誕生日は過ぎ去ったあとだったからちょっと悔しかったんだよね。良かった、忘れなくて。
しばらくしてからリリーフが夕飯の準備に取りかかったので私も一緒に手伝うことにした。リリーフと並んで料理をするなんて初めてだけど、凄く参考になる。
彼女は料理上手だし、とても手早い。そこそこ出来る程度の私とでは大違いだ。
じゃがいもの皮剥きだってリリーフはさらさらと華麗な包丁捌きで上手に綺麗に剥いていく。対する私は皮剥き器という便利な道具を使っているにも関わらず指を切ってしまった。
「あんたスイーツだって作ってるくせにこんな初歩的なミスすんの? 運が悪いというか鈍臭いんじゃないの?」
「うっ、でも魔法で治せるから。ヒール!」
呆れるようなリリーフの視線に対抗するように魔法で傷を治した。最初から何もなかったように傷痕が消えた指を見せてドヤ顔を決めるが、リリーフは軽く溜め息を吐いて小さく肘をぶつける。
「治れば怪我していいってわけじゃないのよ。気をつけなさい」
「はぁい……」
リリーフは私より年下だというのにまるでお母さんである。
そんな中で出来上がったメニューはスモークサーモンのシーザーサラダ、トマトのブルスケッタ、ポテトグラタン、大海老のクリームパスタ。
どれも美味しそうで、完成した頃に片付けを終えたクラフトさんが上がって来た。
「お! イル、リリーフの誕生日に来てくれてありがとな!」
「あ、いえ、クラフトさんもお疲れ様ですっ」
「……」
今日も一段とかっこいい、素敵。リリーフからの痛いほどの視線が突き刺るけど。
クラフトさんも揃ったところでいよいよリリーフの誕生日パーティーの始まりである。
早速夕飯をご馳走になり、本日はワインまで開けてのパーティーだ。私は遠慮したのだけど、クラフトさんに一杯だけでもと言われてしまって申し訳ないと思いながらも頂くことにした。
クラフトさんとリリーフはお酒が強い。亡くなった奥さんもそうらしく、リリーフはしっかりとその血を受け継いでいるようだ。
十八歳でお酒が飲めるようになるのだけど、私はまずお酒を口にする機会がそうそうにないので倒れるまで飲むということはない。大体一杯飲んで終わるのでそれが一番幸せでもある。
私がちびちび飲んでいる間にクラフトさんとリリーフは次々と水の如く流し込んでいるので相当強いのはわかるのだが、私には真似出来なさそうだ。
「ふぅ、じゃあそろそろイルのケーキにしようかしら」
「おっ! いよいよだな!」
ぐびっと飲み干したワイングラスを置くと気分の良さそうなリリーフの言葉により、待ってましたと言わんばかりに少し顔を赤くしたクラフトさんが大きく手を叩く。
なんだかそこまで持ち上げられると照れてしまうのだけど、リリーフのために用意したロールケーキをアイテムバッグから取り出した。
「はい、ロールケーキだよ」
リリーフの前に置いてあげると二人は凄く驚いた表情でロールケーキを見つめる。
「……嘘でしょ? 生クリーム?」
「おいおい、さすがにこれは高価なもんじゃねぇか……」
確かに生クリームを牛乳瓶一リットル購入となると最高級のお肉が二、三キロは買えちゃう価値だもんなぁ。
……そう思うと、カトブレパスからタダで譲ってもらうのは申し訳なくなる気がしてくる。もっとお礼しなきゃいけないや。
「実はね、カトブレパスから直接交渉して分けてくれたの。だから別に酪農家から買ったわけじゃないからそんなに気にしないで」
「「はあ!?」」
二人がさらに驚いてこちらに視線を向ける。……あ、やっぱり魔物と会ったからから心配される流れでは?
「あんた、カトブレパスから直接って言ったわね!? 相手は魔物よ! どうやったっていうの!?」
「え、と、カトブレパスも言語理解のスキルを持ってて、対話が可能だったからお願いしただけで……」
「つまり野生のカトブレパスからだろ? 野生だったら邪視は封印されていないし、目は見てないのかっ? 無事だったってのか!?」
「あ、はい。目元は隠れてますから全然見えなかったですし……。それにしても邪視って封印出来るんですか?」
クラフトさんの口振りからすると、野生ではない飼育するカトブレパスには邪視対策をされているようだ。
「そりゃもちろんだ。飼い慣らすってーのに何かの間違いでカトブレパスの目を見ちまったら死んじまうからな。高位魔法使いによる封印をかけるか、目を潰すのが一般的だ」
「目を……?」
封印魔法ならまだしも、目を潰すというのはどこか物騒であった。確かに呪いがかかる恐れがあるから邪視に対する対策は必要だけど傷つける必要はあるのだろうか。
「封印魔法ってものが貴重ではあるからな。依頼をするとなりゃかなり金がかかる。だったら金のかからない方法を取ることが多いんだよ」
「そこまでするのはちょっと可哀想な気が……私が会ったカトブレパスは目を見るなって注意してくれましたし」
「言いたいことはわかるが、みんなイルのように魔物の言葉はわからねぇからな。食肉として殺されないだけマシだと思うしかねぇ」
身を守るとしては当然だけど、自由を奪われてさらに視力まで奪われるなんて当人からしたらたまったものではないだろうか。
「まぁ……無事そうだけど、あんた魔物退治すらまともに出来ないんだから危ないことするんじゃないわよ」
スライムとアルミラージなら倒したことあるんだけど、自慢にすらならないのでそれについては口を噤む。
「そ、それよりケーキにしようよ。この生クリーム凄く美味しいんだよ」
「そうね、生クリームのケーキなんて前回の誕生日以来だもの」
「じゃあ、私が切り分けるね」
包丁を借りさせてもらうとリリーフの「あんたに任せて大丈夫なの?」という疑念の目を向けられる。
これくらいはさせてほしいし、さすがに私もケーキを切るだけで指は切らないから安心してほしい。
レシピブックによると包丁は温めて切る方が綺麗に切れると書いていた。それならと、包丁に軽くヒートの火魔法をかけて温めてからロールケーキを切っていく。そのおかげでちゃんと切り口が綺麗な状態で提供することに成功した。
どうぞ、とリリーフとクラフトさんにケーキを差し出すと早速二人は口にしてくれた。
「……美味しいわ。前に食べたショートケーキのクリームと比べ物にならないくらい」
「ほんとっ?」
「こいつぁ、たまげたぜ。一番美味いクリームがショートケーキだったのにこれは確実にその上だ。そのカトブレパスの質がいいんだろうな」
どうやらカトブレパスのクリームはとてもお気に召してくれたらしく、私としても鼻が高い。だって本当に美味しかったのだから。
「生地もふわふわしてて軽くていいわね。ありがとう、イル。いい誕生日プレゼントだわ」
嬉しそうに笑うリリーフはやはり美人さんで絵になる。彼女がここまで喜んでくれるのだから私も嬉しいし、スイーツを作って良かったと思える。
では、遅くなったけど私も食べてみよう。フォークを持って、ロールケーキを一口に切る。口に運べばリリーフの言う通り生地はふわふわしていて、生クリームは相変わらず美味しい。
ミルクレープより沢山のクリームが口の中で占めていて、さらにクリームの濃厚さが伝わった。本当にクリームが美味しすぎて、人々が大金払ってでも欲しがる理由がわかる。
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レベルアップしました。ウォーターサーチを覚えました。
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ピロン、とレベルアップ画面が目の前に表示される。リリーフとクラフトさんが何を覚えたのか気になったのか覗き込んだ。
「ほんとに作って食ったらレベルが上がんだな」
「面白いわよね。100回作ったらレベルも100になるってことでしょ」
「確かに……。でも、運を向上させるのが目的なんだけど、これがなかなか上がらないんだよね」
他のステータスは少しずつ上がっているはずなのになぜか運だけは変わらない。レイヤからプレゼントされたブレスレットの効果で-95のまま維持はしているけど。
とはいえ、新しく覚えたウォーターサーチだけど名前通りなら水に関するものを探すことが出来る魔法だろう。詳細を確認してみる。
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・ウォーターサーチ
水源、水脈を探知することが出来る。
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うん、やっぱり。しかし、このような探知系の魔法はあまり使う機会がなさそうだ。冒険者なら環境の変化により、水のある場所を探す際に使ったりするかもしれないけど、そのような所に行く予定もなければ冒険者でもない。
……いや、ギルドには冒険者登録したけど、買取のためである。
「……それにしても無属性魔法だけじゃなく属性魔法も色々覚えてるんだから凄いわよね。魔法って大体人に特化した属性魔法を多くても数種類覚える程度なんだから」
「そうだな。この調子なら大魔法使いになっちまうかもな!」
「えぇっ! いや、私は普通にちょっとでも楽に暮らすことが出来ればいいだけですから!」
さすがにそんな大それたものにはなりたくない。あと、凄く面倒なことになりそうだ。絶対に魔物退治とか沢山お願いされるだろうし。……まぁ、さすがにそんなことにはならないだろうけど。
そもそも明日にでも運が大幅にアップするスキルを得る可能性だってなくはないのだから。そして魔法を駆使し楽ちんな生活を謳歌するんだ! と、私はそう心に誓うのだった。




