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マシュマロと初めての冒険者ギルド

 翌日、仕事終わりにカトブレパス探しに行こうとスタービレの敷地から出て魔物の出る平原へとやって来た。とはいえ、夜になると夜行性の強い魔物が出て来るのであまり長い時間は探せないけど。

 ちゃんとすぐに逃げられるように町に転移出来る帰還の翼も持ったし、回復薬だっていっぱい持ったし、あまり危険な場所さえ行かなければ大丈夫だと信じたい。

 スライム相手なら倒せるし、違うモンスターが出たら攻撃だけして逃げればいい。うん、なんとかなる……よね?


「全ては生クリームのため! 」


 気合を入れて捜索開始! ……と、意気込んだのも束の間、ガサガサと草むらから生き物の気配がした。思わず身構える。スライムかっ?


 ひょこっと出て来たのは黄色いふわふわした体毛のうさぎのような生き物。しかし、うさぎにしては一回りも大きく、額には螺旋状の黒くて鋭くて長い角を持っていた。

 あれはアルミラージ。またの名を一角うさぎだ。見た目は愛らしいのにあの角の存在が一際目立ち、そして恐怖を抱く。

 確かそこまで強くはないが、獰猛な肉食獣で、自身より大きな動物や人間をその角で突き刺しては食べるという魔物である。

 ……スライムより怖いじゃん!! いやいや、絶対死んじゃう! これは逃げるべき相手!


「……」

「ひ、ひぇ……」


 アルミラージは私の姿を捉えた。愛くるしい瞳で私を見つめる。うぅ、可愛い……そのおどろおどろしい角さえなければ素直に可愛いと口に出せるのに。

 いや、待てよ。私、言語理解を得てるんだからアルミラージの言葉だってわかるはずだ。カトブレパスのことを聞いてみるのもいいんじゃないだろうか?


「……」

「……えっと、こんにちは」


 話しかけてみる。特に向こうからの反応はない。


「あの、ちょっと聞きたいことがあって……」

『ドン臭そうな人間だな』

「……え」


 ふいに聞こえた声。周りには人らしき姿はいないし、いるのは私とアルミラージだけ。

 言語理解のスキルが発揮したのだろう。恐らく今の言葉はアルミラージの発言と思われる。しかし、少しイヤミな感じだ。


「実はカトブレパスを探して……」

『全然動く気配もないし、こっちからいっちまうか。串刺しにして頭から食ってやろう』

「え……えと……」


 会話が成り立たないんだけど!? しかも凄くおぞましいことを口にしたよこのうさぎ!!

 言語理解を得てるのになんで通じてないの!? ……ハッ。もしかして、言葉がわかるのは私だけで向こうには通じてない? 待って待って。これ逃げた方がいいんじゃ……!


 じりっ、と逃げるように後ずさりをしたらアルミラージが先に動いた。こちらに向かって凶暴な角と共に走って来る。


「や、嘘っ!? 待って待って! う、ウォーターランス!!」


 帰還の翼を取り出す暇がなくて、慌てながら一か八か魔法で対抗する。

 槍を模した水がファイアーボールよりも早いスピードでアルミラージの体を貫くことが出来た。どうやら鋭い槍先のおかげで息の根を止めたようで、攻撃を仕掛けたアルミラージはその場で倒れる。同時に水槍はその形のまま保つことなくすぐに弾けてただの水へと戻った。


「はぁ……はぁ……」


 腰が抜けてしまった私は尻もちをついてしまう。心臓はバクバクしていて、呼吸を整えようとゆっくり深呼吸をした。

 スライムは基本的に無害だけど、他の魔物はそうじゃないのがほとんどだ。当たり前のことではあるけど、実際に対峙するとその危険性はよくわかる。

 でも、ウォーターランスの威力は理解出来たし、レイヤがいなくても一人でモンスター退治も出来たし、少しだけ自信は持てたかもしれない。


「……今日は頑張ったからこの辺にして帰ろう。そうしよう」


 カトブレパス探しを始めたばかりだけど、すでに疲労困憊としていたため、捜索は明日にしようと決めた。

 その前にこのアルミラージだね。せっかく倒せたんだし、冒険者ギルドに持っていけば買い取ってくれるかな?

 一角うさぎの肉は食べられるし、角も素材にはなるみたいだからちょっとしたお小遣い程度にはなるかも。

 そう思った私はアルミラージをアイテムバッグに入れて、家に帰る前にスタービレへと戻り、冒険者ギルドへと向かった。


 冒険者ギルドとは簡単に説明してしまえば冒険者として登録が出来るギルドで依頼や倒した魔物、見つけた素材を売ったりすることが出来る。

 商業ギルドと違って主に魔物や盗賊などを退治したりするので危険度は高い。

 そのため自然と戦える人が冒険者になるのだが、冒険者になるには年齢さえ達していれば基本的に誰でもなれるもので、本業にする人もいれば副業として冒険者になる人も多い。

 とはいえ、商業ギルドとは違い、ランク制度があるので依頼のランクと自身のランクが合わなければもちろん仕事を受けることも出来ない。

 ランクアップするにはちまちまと簡単な仕事をこなして、規定のポイントまで溜めてから試験を受けて合格すれば可能である。

 ごくまれに勇者並に大きく活躍した人や貢献した人はすぐにランクアップ出来るそうだ。

 というのが私の知ってる程度での冒険者ギルドである。


 冒険者ギルドへ辿り着いた私はその扉を開き、人の賑わっている中へ足を踏み入れた。

 商業ギルドとは違って、武具の備わった人や重装備をした人などいかにも戦闘しますといったような、いわゆる冒険者と呼ばれる人達が多い。まぁ、当たり前なのだろうけど、ただの町人の私では些か浮いた状態だ。

 奥に受付らしき男の人が立っていたので彼にアルミラージを買い取ってくれるか尋ねてみよう。


「あの、すみません」

「はい。ご依頼でしょうか?」


 ダークブルーの髪で眼鏡を装着したいかにも頭の良さそうな男性が用件を聞いてくれる。しかし、依頼主だと思われてしまった。

 でも確かにただの町人が冒険者ギルドにやって来るなんて依頼する他ないだろう。


「いえ、あの、こちらって買い取り出来ますかね?」


 アイテムバッグから先程倒したばかりのアルミラージを取り出して受付の人に見せてみる。


「あぁ、買い取りですね。大丈夫ですよ。冒険者のギルドカードはお持ちですか?」

「いえ……」

「冒険者ギルドでの買い取りは冒険者の登録が必須となりますが、登録致しますか?」


 あー……そうなのか。てっきり、冒険者じゃなくても買い取れると思ってたんだけどな。でも、確かに身元がわかる人じゃないと信用出来ないもんね。商業ギルドだって登録したし。

 うーん……冒険者になるつもりはなかったんだけど、買い取りのため登録だけでもしておこうかな。別に高ランクを目指してるわけでもないし、これで食っていくつもりもないし。


「それじゃあお願いしてもいいですか?」

「わかりました。こちらの用紙に必要事項のご記入をお願いします」


 手続きは商業ギルドと一緒だった。記入した用紙を渡したら記憶石が使われた魔道具を使ってギルドカードを作成する。

 商業ギルドでもそうだったのだけど、このギルドカードは自身のステータスも情報として入っている。しかし、ステータスはリアルタイムで更新されるわけではなく、ギルドで提示して更新しなければ最新のステータスがわからないらしい。

 そう思うと私やレイヤはすぐにステータスを閲覧出来るから便利である。


 しばらくして出来上がった冒険者ギルドカードを手渡され、確認する。商業ギルドカードと同じように冒険者ギルド会員という文字に自身の名前、発行所であるスタービレ冒険者ギルドが印字されていた。

 そして商業ギルドにはなかったランクが記載されている。一番下のランクEだ。

 その後の受付の人の説明によるとこちらのカードも紛失すると再発行手数料がかかるとのこと。使い方も商業ギルドと同じく自分の名前を指でなぞるとステータスが表示される。


「ん?」


 しかし、冒険者ギルドカードに表示されるステータスには私の名前の隣に見慣れないマークが描かれていた。

 なんだろう、この……抽象的な鳥の羽に茨が絡まったようなマークは。


「あの、このマークはなんですか?」

「そちらは先程の魔道具でステータスと一緒に登録した魔紋です」

「魔紋……?」


 なんだっけ。なんか聞いたことある気がするんだけど……なんだったかな、魔紋……。


「魔力を持つ人には同じものが二つとない魔紋というものがあります。魔法を放った際には少なからず魔力が残りますので、その魔力を調べると誰が使った魔法かを特定することが可能です。魔法犯罪の抑止力としてギルドの方でも登録させてもらってます」


 あ、なるほど。そういえば魔法学で習った気がする。魔法が使えないからってあんまり覚えてなかったんだな、あの頃の私は。

 でも、商業ギルドカードには魔紋なんて載ってなかったなぁ……あっちは登録しないのか。まぁ、向こうは魔法使えない人用のお仕事斡旋所でもあるから魔法を使える人は冒険者ギルドの仕事の方が割に合うもんね。


「依頼を受ける際にはあちらの掲示板から依頼書を持ってこちらへお越しください。手続きを致します。ですが依頼を受けたにも関わらず、止むを得ない理由以外での依頼キャンセルはペナルティーが発生しますのでお気をつけください」


 止むを得ない理由とは? と尋ねると命に関わる状態のことらしい。……まぁ、依頼を受けることはないけどね。


「ご存知とは思いますが虚偽の申告もなさらないように。魔道具で確認出来ますので信用問題に関わります」

「はい」


 商業ギルドと同じだね。記憶石を使った魔道具があるから当然か。あの魔道具ひとつで人の能力をインプットしたりデータ化したり出来るし、さらに嘘発見器にも使えるのだから万能である。


「あと依頼掲示板の隣には仲間を募る掲示板もございます。パーティーに入りたいときも同じようにこちらへ募集用紙をお持ちください。逆に仲間を探したい場合はこちらで用紙をお渡ししますので募集要項をご記入いただきます」


 なるほど、仲間の斡旋もやってるんだ。確かにパーティーはそんな簡単に組めないもんね。利用しないけど!


「イル様は商業ギルドにも登録されているようなので合わせてご説明をさせていただきますが、場合によっては商業ギルドと同じ依頼が掲載されていることもございます」

「えっ? そうなんですか?」

「はい。とはいっても簡単な内容のものです。薬草採取がほとんどですね。あとは商業ギルドで人手のつかなかった仕事がこちらに回ってくることもございます」


 淡々と無表情で喋る受付の人にうんうんと頷く。なるほど、商業ギルドと冒険者ギルドって結構繋がってるんだね。


「では、説明は以上となります。他に質問などなければアルミラージの買い取りをさせていただきます」

「あ、はい。お願いします」


 一通りの説明を受けるとすぐにアルミラージの買い取りが始まる。買い取りは別の窓口で対応するらしくそちらへと場所を移された。

 担当する人は屈強な身体を持った中年のおじ様。昔はパーティーの前線に立っていたと思われるような雰囲気がぷんぷんする。

 状態の良さなどを確認するため、一撃で仕留めたアルミラージを持って彼は奥へと消えた。

 数分ほど待っていると、買い取り担当の人が買い取り金が入っていると思われる小さめの袋を持って戻って来た。


「待たせたな、嬢ちゃん。アルミラージ一匹分の買い取り金だ。角も折れてない上に綺麗なもんだ。それに肉の状態もいい。さらに一発で仕留めたのに得物を抜いたあとがないから毛皮もあまり汚れちゃいねぇ」

「いい仕留め方ですか?」

「完璧とまでは言い難いがいい方ではあるな。角も折らず、毛皮も肉も傷をつけずに仕留めるのが価値は高いからよ」

「へぇー」


 なるほど。確かに状態がいいに越したことはない。たまたま上手いこと仕留められたから良かった良かった。

 そのおかげなのか、買い取り金額も少し多く貰えたみたいでちょっとしたお小遣い稼ぎが出来た。


 よし、カトブレパスは探せなかったけど、なんだか上手いこと魔物も倒せて気分もいいし、帰ったら何かスイーツを作ろう! もっと魔法やスキルを覚えていかなきゃ!


 急いで帰ってレシピブックを開き、今の私が作れるスイーツを探すのだけど実は候補がある。

 マシュマロだ。今日はこのスイーツを作ることにしようと材料を用意した。


 卵白、スライム液、砂糖、レモン、とうもろこし澱粉を準備し、スライム液と水を鍋に入れて火にかける。

 砂糖とレモン汁を入れて混ぜたら今度はボウルに卵白と砂糖を混ぜ、白っぽくなってきたら先程混ぜ合わせたスライム液を少しずつ加えながらふんわりするまで泡立てる。

 ……この作業が一番辛かった。何せなかなか泡立たないのだ。もしかして失敗してる? と思うくらい。

 しかし、泡立ての作業には大体ハンドミキサーや魔法で身体強化して掻き混ぜるのが普通である。どちらも持ち合わせていない私はただただ必死に素早く混ぜるだけだ。

 そんな苦労の末、ようやく固い泡であるメレンゲが出来上がる。

 パットにとうもろこしから取った澱粉を振っておき、メレンゲを流し入れて表面を整え、固まるのを待つため防乾燥シートをかけて冷蔵庫へ。

 少し時間をおいてパットを取り出すと上からもとうもろこし澱粉をかけて切るだけ。


「というわけでマシュマロの完成ー!」


 触った感じがふわふわでちょっと弾力がある不思議なスイーツだ。では、早速だけど実食といこう。

 一口サイズに切ったマシュマロをぱくり。触ったときと同じようにふわふわした独特な食感。甘くて美味しくて、なんだか軽い感じなのに満足感が高い。


「美味しい……」


 思わず笑みが溢れる。変わった食感なのに抵抗なく食べられた。スイーツって凄いなぁ。初めて味わう食感なのに美味しく出来るだなんて。


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レベルアップしました。アプレイザルを覚えました。


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 そこへ、目の前にレベルアップを知らせる画面が現れた。マシュマロをもぐもぐさせながら新しく覚えたものの詳細を見ることにする。


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・アプレイザル

視界に入るものを鑑定することが出来る。


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「鑑定……!」


 つまりどんな物も詳しく調べることが出来るということだ! これは結構便利だよねっ!


「試しに何かを……あ、そうだ。これだ」


 せっかくだからとレイヤから貰ったブレスレットの鑑定を行うことにする。

 視界に入るもの、だから対象物を見つめたらいいのかな。ブレスレットを見つめながらアプレイザルと口にすると、目の前のウィンドウ画面が切り替わった。


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・ラピスラズリのブレスレット

幸運をもたらす小さなラピスラズリが埋め込まれたレザーのブレスレット。運+5上がる。


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「おぉ……!」


 なるほど、こんな感じなんだ。鑑定があれば薬草採取だったり、毒キノコを避けたキノコ採りも出来るわけだ!

 これは役立ちそうだから重宝するかもね~。よし、カトブレパス探し、明日も頑張ろう。

 ……あ、そうだ。このマシュマロ、いつか帰ってくるレイヤの分も取っておいてアイテムバッグに入れておこうかな。


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