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ラングドシャと新しい目標

 レイヤがスイーツの材料を求めて旅立った。彼が頑張っているなら私も頑張らねばならない。そのために私は私の出来ることをしたい。

 そう考えながら一先ず新しいスイーツを作るために今自分が作れるものをレシピブックから探し出す。しかし、段々と作られるものが限られてきた。

 スイーツのレシピはもちろん沢山ある。ただ、材料が難しい。生クリームやチョコレート。今の私には到底手に入らないものばかり。


 そんな中、本日作るのはラングドシャである。材料は砂糖、バター、卵白、軟質小麦粉。

 室温に戻して柔らかくなったバターを混ぜ、砂糖、卵白をそれぞれ数回に分けて切るように木ベラで混ぜ合わせる。

 ふるいにかけた軟質小麦粉を入れてからさっくり混ぜて粉っぽいのがなくなったら生地を布製の絞り袋に詰めていく。

 バターを塗った天板に2、3センチの大きさを目安に生地を絞り、数センチの間隔を開けながら次々と生地を乗せていく。

 予熱で温めていた石窯オーブンに入れて焼けばラングドシャの出来上がりである。


「出来たー!」


 と、一人で盛り上がってもレイヤはいないし、夜になったら帰ってくるわけでもないので、ただただ虚しく感じてしまう。

 とりあえず、自身の能力を高めるためにも出来上がったラングドシャを一枚手に取り、ぱくり。


「サクサクだ……」


 見た感じクッキーみたいなのに、食感が違う。薄い生地で表面はざらついているけど、食べてみてればサクサクと軽い口当たり。何枚でも食べられそうなほどだ。

 そして恒例のピロンという私にレベルアップを知らせる音が鳴った。


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レベルアップしました。言語理解を得ました。


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「ん? 言語理解?」


 魔法、じゃないよね? なんだろうと思いながらステータス画面を呼び出して確認する。


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イル (21歳)


レベル  14

体力   56

魔力   43

攻撃力  39

防御力  33

素早さ  30

運    -95


魔法一覧

スキル一覧


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 運が-95なのはレイヤがくれたブレスレットのおかげだ。今まで頑なに-100だったのが、ラピスラズリのブレスレットをつけてから運が少しだけ上がっている。

 幸運を呼ぶというだけあってステータスにもちゃんと影響が出るのは有難いことだ。

 それよりも魔法一覧の下にスキル一覧という項目が増えている。もしかしてさっきの言語理解というのはスキルなのかな?

 とりあえずスキル一覧を確認してみる。そこには確かに言語理解がスキルとして載っていた。

 そういえば魔法の他にスキルも覚えることが出来るってイストワール様も言ってたっけ。

 スキルは取得するだけで効果が発揮するからこちらもとても有難いものである。


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・言語理解

全ての種族の言葉を理解出来るようになる。


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 さらに調べてみると詳しいことがわかった。文字通りではあるものの、全ての種族というのはかなり凄いのではないだろうか。

 つまり魔物や動物の言葉が理解出来るようになるってことだよね? 凄いね! ……って、言っても普段の生活で特に必要とはされない気がするなぁ。どこかで役に立つならいいんだけど。

 牧場なら役に立ちそうな……新しい仕事候補として考えておこう。


「ハッ! そうだ、そろそろ時間だ!」


 時計を見て慌てた私は急いで出来上がったラングドシャを袋に詰める。

 今日はベーカリー・リーベはお休みなのでリリーフのお家でお茶会……っていうには質素だけど、お菓子を食べて紅茶を飲んでお話をする予定。

 準備を終えるとすぐに町から外れた自分の家を出て、リリーフの元へ向かう。


 ラングドシャを持ってリリーフのお家にお邪魔すると、彼女の部屋で二人だけのお茶会が始まる。

 椅子に座って少し小さなテーブルの上に持ってきたラングドシャの袋を開けた。リリーフは自分のお気に入りであるバラの紅茶を淹れて、私の分も用意してくれる。

 ほのかに香るバラの高貴な匂いに包まれながら二人だけのお喋りを開始してすぐのことだった。


「はあっ? あの男、出て行ったの!?」


 レイヤの話をしたらリリーフは不機嫌な表情いっぱいで私の作ったラングドシャを食べる。


「いや、出て行ったっていうか、スイーツの材料になる物を探しに行くって……」

「だから出て行ったんでしょ! 何も盗られてないわよね!? 世話してあげたのにたった一ヶ月で恩も返さずに出て行くなんてやっぱりとんでもない男ね!」

「ま、待って待って。レイヤは沢山私の手助けもしてくれたし、十分なほど恩も返してもらってるから! それにちゃんと帰ってくるって言ってたから」

「またのこのこと帰ってくるわけ!? 図々しい男なんだから!」

「リリーフ、何を言っても怒ってるよね!?」


 どうしてそこまでレイヤを毛嫌いするのか……。とにかく彼女を落ち着かせて、レイヤは私のためにも材料を探しに行ったということを強く訴えた。

 それでもリリーフは納得はしていないようだった。ううん、なかなか理解を得てくれない。


「まぁ、そういうわけだから私もスイーツを色々作って不運を解消したいから頑張りたいんだけど、生クリームとかチョコレートの材料を使うものも結構あって……」

「確かにそこは高価よね。チョコレートなんて王都産だからバカ高いし」

「生クリームも頑張れば買えるけど、使う量が多いとそんな沢山購入出来ないし……」

「そういえばあんた言語理解のスキルを得たって言ってたわよね」

「うん」

「だったら直接搾乳する魔物に交渉してもらえばいいじゃないの」

「!」


 な、なんて頭がいいんだリリーフ! そう、生クリームは魔物から搾乳して取るのが一般的である。

 牛の乳からでもクリームは作れるらしいんだけど時間と手間がかかる上に魔物から取れる乳の方が手っ取り早く、そして美味しいので市場に回るのは魔物産の生クリームがほとんどだ。

 しかもその魔物はオスでもメスでもいつでも乳が絞れるとのことなので一匹でもいたら生クリームを搾乳することは可能である。

 ただ、相手は魔物なので人間に従って飼われるというのはごく一部。魔物使いなどがいれば家畜として飼うことが出来る確率は上がるが、それでも多くはないのが現状。

 だから生クリームの単価は高級なお肉よりも魚よりも高いものである。

 スタービレにも一匹飼っている農家がいるのだけど、スイーツ店に卸されているので運が悪ければその日のうちには手に入らないらしい。

 しかし、言語理解スキルを得た今。直接野生の魔物と交渉したら譲ってくれる可能性もある。そうすればかかる費用も抑えられるのではないか!

 そんなことを考えながら「っていうのは冗談として、やっぱり地道にお金を稼いで購入するしかないわよね」というリリーフの言葉には頭に入らなかった。


「リリーフ! 私頑張ってみるね!」

「? まぁ、頑張りなさいよ」


 そうとなればまずは情報収集である。リリーフとのお茶会を終えた私はすぐに町の図書館へと向かった。スタービレの図書館はどちらかといえば小さめではあるけど、魔物に関する書物くらいならあるはずだ。

 何冊か魔物の生態が書かれた本を取り、目当ての魔物を探してみる。


「えーと、カトブレパス……カトブレパス……」


 生クリームの元になる乳を持っている魔物、それがカトブレパスである。

 私も実際に見たことはないが、本に書かれている絵によると四足歩行の牛のような外見で一番毛深い頭は重たく垂れ下がっているとのこと。

 大人しい魔物でこちらが危害を加えない限り襲ってくることはないそうだ。しかし、緩慢な動きをするが、襲うときは桁違いの力で踏み潰したり、頭突きをしたりする。

 それだけでなく、カトブレパスの目を見ると呪いがかかるという邪視を持っているので思っていたよりも恐ろしい魔物なのでは……? と思ってしまう。


「でも、危害を加えないなら大丈夫だよね……?」


 本を閉じてぽつりと呟く。こっちは相手を倒すつもりは全くなく、乳を分けて欲しいだけ。万が一相手の機嫌を損ねていても言語理解があるならすぐに理解出来るので素早い退却も可能と思える。

 カトブレパスは主に単独で行動し、水辺近くに生息している。静かに暮らしたい種族らしく、森に身を隠すこともあると書かれていた。


「……探してみよう」


 手早く生クリームを得るには直接カトブレパスに話をして分けてもらうのがベストだろう。

 私の出来ることとしての目標が定まったので翌日からカトブレパス探しを始めることに決めた。


 チョコレートの入手は……今の所はまだ思いつかない。生クリームより高価格なので手が出せないから目の前に差し出してくれる人がいない限り私には手の届かない材料なのだ。


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