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コーヒーゼリーと初めてのスライム退治

 数日後、レイヤと共に魔物の生息地へと足を踏み入れた。スタービレからかなり離れた平原に向かえば何かしら魔物は出てくるはず。

 この辺りはそんな強い魔物は出ないので冒険者になりたての人は大体ここで経験を積んでいたりするのだ。そのため、遠い場所ではそれらしいパーティーがいくつか見受けられる。


「もしものために帰還の翼も買ったし、回復アイテムもいくつか用意したので準備は万端だよ」


 低級のモンスターとはいえ、戦いのノウハウも持たないただの人間なのでしっかりと備えておかねばならない。

 そのため、使用すれば町にまで強制的に転移することが出来る帰還の翼などを買っておいた。まぁ、一万ゴールドとお高いんだけどね……。しかし、命には変えられない。命に比べたら安いくらいだしね……。


「過剰なくらい備えてるようにも見えるけど……まぁ、俺も初めて魔物と立ち会うから過剰なくらいがちょうどいいのかもしれないな」

「本当はね……装備とかガッチガチにしたかったんだけどさすがにお金はそこまでないから諦めたんだよね」

「……逆に動きづらそうだな。まぁ、何かあったら俺も武器を持たせてもらってるから応戦くらいは出来るだろう」


 一応、レイヤにも短剣を持ってもらった。お父さんの護身用の物だけど全く何もないよりかはマシである。

 目的はスライム相手に攻撃魔法をぶつけてみること。あとこれは出発前に気づいたんだけど、スライムを倒すとスライム液を入手することが出来る。

 主に装備品や道具の素材として使われていることがほとんどなのだけど、実は食用にも使われていて、ゼリーやムースに使用されているのだ。


「つまり今回の目的はスライム相手に攻撃魔法がどこまで通じるかと、運良く倒せたらスライム液を入手したいことなんだよね。ゼリーを作りたい!」

(……多分、ゼラチンのことだよな……)


 そういうわけでスライムの捜索開始。さて、スライムはどこかな~。

 見渡しのいい平原だが、草むらの中にいたり、岩陰に隠れたりしているらしいので辺りを探してみる。

 しばらくしてからガサガサと背後から音が聞こえた。私とレイヤから出した音ではないので、目的のスライムかと思い後ろを振り返る。


「いたっ!」


 ひょっこり草むらから現れたスライム。ぷるるん、ぽよよんという擬音がぴったりな丸みのあるボディー。


「イル、先手打たれる前に早く」

「そ、そうだ。えっと、ファイアボール!」


 両手をスライムに向けて魔法を唱える。すぐに発動したようで炎の玉が勢いよくスライムへ飛んでいき、火が燃え移った。連発すべきかなと思ったけど、一撃でスライムは戦闘不能となりご臨終したようで、思っていたよりも呆気なかったため瞬きを繰り返す。


「こ、これで終わり?」

「弱い魔物ならそんなものじゃないのか? イルだって少なくともレベルは10あるんだし」

「そっか……こんなに簡単に倒せるならスライム液も取り放題だね」


 そういえばスライム液は沢山市場にも出てるし、単価も安いから簡単に手に入るもんね。私のレベルで倒せるならそれも当然か。

 それよりもスライム液の採取だ。燃えてその姿を失ったスライムのいた場所には心臓となる核が残されていた。

 このぷにぷにした赤い膜の中にスライム液が入っていて、ナイフなどで切れば簡単に中身も出てくるらしい。町では大体四、五匹分のスライム液を瓶詰めにされて売られている。


「それじゃあ、もう少しだけ集めてみようかな」

「そうだな、せっかく来たんだし、なっ!」


 レイヤが話してる途中、彼の背後にある草むらからスライムが顔を出す。私が「あっ!」と口にすると、レイヤがすぐに反応して振り返り、短剣を抜いてスライムへ斬りつけた。なんという素早さか。


「レイヤ凄い……」

「……俺もここまで出来るとは思わなかった」


 一撃で仕留めたレイヤは真っ二つになって液体状に溶けるスライムの中心にある核を拾い、私に手渡してくれた。


「ありがとう」

「これくらいならもう少し取れそうだな」

「そうだね、もう少しだけ手伝ってもらっていいかな?」

「あぁ」


 こくんと頷いてくれたレイヤに甘えてそのあとも何匹かスライムを倒してスライム液を入手する。

 しかし……レイヤもそろそろ今の生活に慣れつつあると思うのだけど、今ひとつ顔の表情が乏しい。いや、無表情ではないんだけどね。

 笑ったこともあるし、驚いた顔もするし……まぁ、笑うというか愛想笑いのような感じで純粋なものではないのかもしれないけど。

 そう、真面目さんな感じ。っていうか、真面目なんだよね、レイヤは。お堅い騎士とかそういうのが合いそう。

 そもそも、私レイヤのことまだそんなに知らないんだよね。彼があまり語らないってのもあるんだけど、せめて好き嫌いは把握しておきたいところだ。


「ねぇ、レイヤ。ゼリーにするならどんなゼリーが好き? せっかくだからレイヤの好きな物を作るよ」

「ゼリーか……」


 オレンジかな、りんごかな、いちごかな。多分レイヤのリクエストは聞けると思うからまずは果物の好みから知っていこう。


「……」

「……」


 どうやら凄く考えている。そんな難しい質問だったかな……。そもそもゼリーがダメとか?


「……あ、コーヒーゼリーは大丈夫か?」

「え? コーヒーゼリー?」


 まさかの返答。果物ではなくてコーヒーだった。私の中ではゼリーといえば果物だったけど、確かにコーヒーゼリーもあったね。紅茶ゼリーもあるくらいだから当然か。


「難しい材料がなければ大丈夫だと思うよ」


 恐らく大丈夫だとは思うけど念のためにレシピブックを取り出し、コーヒーゼリーのページを開いてみる。材料はコーヒー、スライム液、砂糖、水。うん、出来そうだ。


「レイヤ、大丈夫だよ。コーヒーだけ用意すれば完璧だし、作るのも簡単だから」

「じゃあ、それでお願いしてもいいか?」

「任せてっ」


 そうとなればスライム液ももう少し入手しておかないと。気合を入れた私はレイヤと共に調子に乗って合計十匹分のスライム液を手に入れた。こんなにもいらなかったかもしれないけど、足りないよりかはマシだよね。


 そのあとは買い物に出て、インスタントコーヒーを購入。レイヤに「インスタントもあるのか……」と呟いていた。魔法で大量に生産されているから結構普通なんだけど、レイヤの住んでいた所では豆から挽いてたのかな……。

 そして毎日の食卓には欠かせないベーカリー・リーベでご飯のお供になるパンを購入しにお邪魔する。

 店のドアを鳴らして入店すると、出迎えたのは看板娘のリリーフではなく、店主のクラフトさんだった。


「おっ。イル。いらっしゃい!」

「こんにちは、クラフトさん! リリーフは配達?」

「あぁ、さっき出たところだ。ところで隣の坊主が例の同居人ってやつか?」

「あ、はい。初めまして、レイヤと申します。こちらのパン屋さんにはいつも美味しい物ばかりご馳走させてもらっていたのに挨拶が遅れて申し訳ございません。これからもお世話になりますが、どうぞよろしくお願い致します」


 深々とお辞儀をして挨拶をするレイヤは本当に丁寧な青年である。恐らくクラフトさんはもっと軽く挨拶されると思っていたのであろう、目を少し丸くしたあと、大きく口を開けて笑った。


「あっはっは! 取って食いやしないんだからそんな堅くするなよ! あぁ、俺はクラフトだ。娘に色々言われたようだが、あまり気を悪くしないでやってくれよ。ただの友達思いなだけだからな」

「はい。重々承知しております」

「育ちの良さそうな男だな。まぁ、気にせずもっと砕けて喋ってくれていいからな!」

「ありがとうございます」


 うん、クラフトさんも好印象なようで安心した。まぁ、元のより心配はなかったんだけどね。

 パンもいくつか購入して、あとは家に帰ってコーヒーゼリーを作るだけ。クラフトさんにお礼を言って私達は帰宅する。


「クラフトさんっていい人なんだな」


 道中、レイヤがクラフトさんの話をするんだけど、彼の良さがわかってくれたようで私は「でしょっ!?」と食い気味に反応した。


「そうなんだよ、クラフトさんはいつも豪快で優しくて温かい人なんだよ! あの笑顔を見るだけで癒されちゃうんだよね~」

「それだけあのパン屋さんは信頼出来る人達なんだな、イルにとって」

「うん。ベーカリー・リーベにはいっぱいお世話になってるからいつかちゃんと恩を返したいんだ」


 クラフトさんは命の恩人だし、リリーフはたった一人の大事な友達だし。この二人には感謝している。

 両親を楽させるために王城で就職しようと毎日家に引きこもって勉強して、毎年試験に受けては落ちてを繰り返していたから、スタービレの町にはあまり顔を出さなかった。

 だから顔見知りの人なんていなかったし、頼れる人もいないので両親が亡くなったときは希望も何もなかったのをよく覚えている。

 そんな私を助けてくれたのがあの二人。沢山手助けもしてくれた。


「恩を返したいと思える人がいるのはいいことだな。きっと相手も喜ぶだろう」


 ふっ、と小さくレイヤが笑った。こんなに自然に笑うレイヤを見たのは初めてかもしれない。なんだかそれが嬉しくて、私も彼に笑いかけた。これからもっと色んな表情が見られるといいな。


「うん、そのためにスイーツ作りと魔法を色々覚えないと……っ!」


 そう意気込んだときだった。頭にボタッと何かが落ちてきたのを感じた。雨にしてはその一粒の量が多いというか、むしろそれ以上の雨粒を確認出来ない。

 ……嫌な予感がした。レイヤも私の頭を見て固まっている。恐らく私より身長の高い彼は気づいたのだろう、頭上に落ちたものが何かを。


「レイヤ……もしかして、もしかしてだけど……鳥のフンのようなものが私の頭についてる……?」


 半泣きになりそうな顔でレイヤを見つめると、彼は言葉を選んでいるのか、少し考えたあと申し訳なさそうに呟いた。


「フンのようなもの、というかフンそのものだな……」

「!! ウォーター! ウォーター! ウォータァァァーー!!」

「お、おいっ!」


 トドメを刺されたような気持ちで、すぐさま自分の頭目掛けてウォーターを何度も唱える。シャワーの強のイメージで沢山ぶっかけてフンを洗い流そうと必死になった。

 そのおかげでなんとか洗い流せたとは思うが全身ずぶ濡れの状態になってしまう。


「……」

「どこかでタオルを買ってこよう……」

「……ううん、大丈夫」


 濡れ鼠になって惨めな気持ちではあるが、私には頼りになる魔法がある。

 服を摘み、ウォーターアブソープションで水を吸い取り、風を吹かせたい場所をイメージしてウィンドを唱えると髪に送風が当たる。さらにヒートを使えば温風となり、その場で髪を乾かしてくれるわけだ。


「これでよしっ!」

「……魔力減ったんじゃないのか?」


 確かに減ったかもしれない。念のためにステータスで確認すると半分くらい減っていた。ウォーターを連発したからかな……でも、時間が経てば少しずつ回復するからまだ大丈夫。

 一先ず、家に帰ってからすぐにお風呂に入ってしっかり髪を洗った。そりゃもう思い切り。水洗いだけでは取れた気がしないし。


 お風呂から上がると早速コーヒーゼリーを作るためキッチンに立った。

 小鍋に水と砂糖を入れてから火にかけて、砂糖が溶けたらお湯で溶かしたインスタントコーヒーを投入。

 しっかり混ぜると小鍋を火から下ろす。スライム液を入れるため赤い膜を包丁で切って、そのままとろりとした無色透明の粘液を垂らした。

 あとはガラスのコップに注いで冷ましてから冷蔵庫で冷やすだけ。


 しばらくしてから冷蔵庫から取り出したコーヒーゼリーはぷるるんとしていて綺麗なコーヒー色をしていた。お好みでミルクを少しかけたら完成!

 早速スプーンを持って、レイヤと共に実食だ。


「んっ! コーヒーの苦味に砂糖とミルクの甘さがよく合う!」

「あぁ、美味いな。ちょうどいい」


 つるんとしてるからすぐに次をすくって食べてしまう。あまり苦い物は苦手だけど、コーヒーはお砂糖とミルクを入れたら飲めるし、コーヒーゼリーも嫌な苦さをしていないから美味しく食べられる。


========================================


レベルアップしました。ライトを覚えました。


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 そこでいつものレベルアップと覚えた魔法を知らせてくれるメッセージが現れる。しかし、ライトと書かれた文字を見て思わずスプーンを落としてしまう。


「う、うそ……?」

「どうかしたのか?」

「ライト、覚えちゃった……」

「?」

「だって光魔法だよ! 光や闇魔法は魔法使える人でもなかなか手にすることが出来ないものだから、まさかそんな珍しい魔法まで使えるようになるなんて……」


 そう。光と闇の魔法は他の魔法と違ってレアな属性で、使える人もあまり見かけることはない。魔法使いにとっては憧れの魔法でもあるのだけど、それをこんな才能のない人間が覚えるなんて……逆に申し訳ない。

 そうだ、ライトの詳細を確認しなきゃ。


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・ライト

光を灯すことが出来る。


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 魔法の詳細を確認するが、なんとなく理解はしていた。やはり名前のままというか、あまりにもそのまますぎる。それしか言いようがないのなら仕方ない。うん、いつものことだ。

 いくら珍しい魔法と言えどもレベルの低い魔法はみんなこんな感じなんだろうな。


「ライト」


 試しに手のひらを上にして唱えてみる。魔力を抑えめにしているので小さな光がふよふよと浮いていた。これならば電気として使えるから、また魔法石の節約となるだろう。便利なのはいいことだ!


「嬉しそうだな」

「生活に役立つ魔法だからね!」

「でも、魔力の消費は激しそうだけど」


 そう言ってステータスを開きっぱなしだった私の魔力のゲージがみるみるうちに減っていく。何この異常な魔力消費は!

 慌ててライトの魔法を消したが、魔力の残りは3というギリギリのラインだった。危ない危ない、もうすぐで魔力切れになって倒れるところだった。

 やはりまだ私のレベルではレアである光魔法は扱いきれないようなのでもっと魔力が増えなければ電気として使うなんて夢のまた夢である。うぅ、残念。


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