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ダックワーズと警戒するギルド

 ギルド長会議のため王都へ数日ほど滞在したドルックがスタービレへと戻ってきたのはつい二日前のこと。

 帰ってきた翌日から冒険者ギルドの仕事を再開し、職員から不在の間に何もなかったかを確認したが、特に頭を抱えるような問題は起こっていなかったためすぐにギルド長室へとこもった。


 それから一時間経った頃だった。静かだった廊下が段々と騒がしくなる。騒々しいその声は自分の部下のものだと気づき、ドルックは依頼完了の書類にサインをしていた手を止める。

 数秒後、ノックすることなく部屋の扉が勢いよく開かれた。


「はぁ~い。ドルックちゃ~ん!」

「ラート様っ、お願いですから勝手にギルド長室に乗り込まないでください!」


 ドアを開けたのはドルックもよく知る人物、ラートであった。なんと機嫌の良さそうなことか。こんな図々しく押し入るのは彼以外出来ないだろう。

 ラートの後ろにはフロワが追いかけて注意をするも相手は聞く耳を持っていない様子。


「相変わらずだねぇ、ラートくん。今日はどうしたんだい?」

「ドルックちゃんに報告しようと思ってね~」

「報告、ねぇ。僕、こう見えても忙しいからまた時間を改めてもらってもいいかい?」


 ただでさえ王都へ行っている間に目を通さなきゃいけない手紙やサインが必要な書類などなどあるからね、とドルックは溜め息混じりにデスク上に溜まる紙類を見せながら告げる。


「ギルド長もこのように仰ってますから今日はお引き取りください、ラート様……」

「あら? それは残念ねぇ。イルちゃんのことなのに」


 イルの名前がラートの口から出てきた瞬間、ドルックは勢いよく執務デスクから立ち上がり来客対応用のソファーへと移動し、腰をかけると一言。


「詳しく聞こうじゃないか」


 笑顔で対応を変えた。そんな思い切りの良い切り替えをしたドルックにラートも想像していたのか特に驚くことなく対面するようにソファーに座る。


「さすがドルックちゃん」

「ちょっ、ギルド長!」

「イルくんの話なら耳に入れる必要があるからね」


 あまりにも真面目に言うのでフロワはこれ以上何も言えなかった。いや、言えるわけがない。

 彼のお気に入りであるイルに関する話の邪魔をしてしまえばドルックの怒りに触れること間違いなし。心身共に疲弊する未来しか見えないのだ。

 せめてイルが嫌な人間ならばフロワは心の中でイルのことを罵っていただろう。しかし、イルはそんな人物ではないので、鬱憤を晴らすことすら出来ない。

 そんなことを考えているとフロワはふと思い出した。


「そういえばギルド長が不在の間、イル様がギルド長を訪ねに来てました」

「……へぇ。フロワくん、なんでそれを僕が戻ってきたときにすぐ言わなかったの? 僕が不在のときに何もなかったか聞いたよね?」


 怖いほどの笑みで圧をかけるドルックにより一気に部屋の温度が下がった気がした。フロワにとってはなんてことない話のつもりだったのに今さらながら口にするんじゃなかったと後悔する。


「え、いや……特別な用件ではなかったようですし、そもそもギルドに関する報告でもなかったので!」

「なるほど。ギルドに関することじゃなかったから、か。じゃあ次からはイルくんのことも含めて随時報告するようにみんなに伝えといてくれない?」

「しょ、承知しました!」


 と、言ったものの、なぜ一人の人間に関する報告までしなければならないのか。フロワはそう思わずにはいられなかった。

 しかもあの言い方からするとイルがギルドに訪れる度、または話をする度に伝えなければならないだろう。

 いくらお気に入りとはいえそこまでするのかと頭を抱えたくなるが拒否出来ないので頷くしかない。この恐ろしい上司を前にしたら誰だってそうなのだ。

 早くこの空間から出て行って職員に説明しなければ。そう心の中で溜め息を吐き捨て、フロワはギルド長室から出て行こうとしたらドルックに「フロワくん」と呼び止められる。


「報告がまだでしょ?」

「え」

「イルくんが僕を訪ねに来たって話をもっと詳しく」


 にっこり笑いながら全て洗いざらい話せと言わんばかりのドルックの圧に、フロワは背筋を凍らせながらそのときのことを全部話した。とはいえそんな大層な話ではない。

 イルがドルックの手土産としてチェリータルトを渡しに来たが、ギルド長会議のため不在を伝えたら代わりにそのケーキをフロワがいただいたという数分もかからない内容である。


「━━以上、です」

「へー。君が僕の代わりにイルくんの手作りケーキ食べたんだ?」

「は、はい……その、無下には出来ないので……」

「美味しかった?」

「はい……」

「それは羨ましいなぁ。本来なら僕のものだったのにね?」

「も、申し訳ございません……」

「僕は怒ってるわけじゃないから別にいいんだよ。まぁ、それだけならいいや。持ち場に戻っていいよ」

「で、では失礼しました……」


 ぺこりと頭を下げたフロワは寿命が縮む思いをしながらギルド長の執務室をあとにした。余計なことを言うんじゃなかったと再度後悔しながら。

 同時にドルックは「不在時にもイルくんからの手作り菓子を受け取れるように職場に道具型のアイテムバッグを用意しようかな、経費で」とバッグに入っている間は時間が止まるので鮮度も落ちることはないため、すぐに購入しようと考えていた。


「ほーんと、相変わらず部下に厳しいんじゃないの?」

「これでも結構優しくしてるつもりだけど?」

「よく言うわよ」

「ま、そんなことより本題に入ってくれないかい? 時間押してるからさ、僕」

「はいはい。それじゃあ、早速報告なんだけど……」


 わざわざ足を運んでまで伝えようとしているのだ。ラートの様子からして緊急性はないだろうが、ドルックの受け取り方によっては緊急扱いになりかねないので全ては彼次第。

 イルに良からぬことをしようとする者がいたなら全力で排除するくらいだ。以前、彼女に絡んだプランダーもドルックの一声で首を切られている。


「イルちゃん失恋しちゃったみたいなのよ」


 他の人がそれを聞けば「え? 報告ってそれ?」という反応されること間違いない。しかしドルックはしばらく瞬きをしたあと、フッと小さく笑った。


「それはそれは気の毒なことだ。彼女の良さをわからないとは実に見る目がないね!」

「ここまで気の毒とも思ってもない嬉しそうな顔をするとは思わなかったわ。人としてどうかと思うわよ?」

「人のプライバシーに関わることをペラペラと喋る君に言われたくはないなぁ」

「黙ってとは言われてないもの。それにドルックちゃんは知りたくないわけ?」

「そんなことはないさ。イルくんの情報なら金で買いたいくらいでね」

「あら、じゃあ、今度から請求しようかしら」


 二人はにっこり笑い合いながら言葉にはしないものの新たな契りを交わしたようだ。まさか自分の情報が売買されるなんてイルは思いもしないだろう。


「ちなみに相手は誰だい?」

「知らないわよ。アタシは前向きになるよう助言しただけだもの」


 おそらくその相手を知ったら何かしらの制裁が加えられるのは目に見えている。しかしラートはその人物の情報を知ることが出来なかったのでドルックは舌打ちをした。


「……まぁ、考えようによっては僕にもチャンスがあるってことだね?」

「ちょっと前までは否定してたくせに潔くなったわね。面白いからいいんだけど」

「やっぱり僕がイルくんを囲う方が一番幸せに出来ると気づいたからね。この際伴侶でも養子でもなんでも構わないさ」

「色々と問題がある発言よ、それ」


 とんでもない男に気に入られちゃったわね、あの子。と今さらながらラートはイルに同情した。


(バックにいる分には心強いからいいけど、あそこまで気に入られすぎるのは困るからアタシならパスね)


 ふぅ、と溜め息をついたそのときだった。執務室の扉にノック音が聞こえる。


「どぉぞ」


 今日は忙しいなぁと思いながらも無視をするわけにはいかないので入室の許可を出せば「失礼します」と再びフロワが姿を見せた。


「ドルックギルド長。お客様です」

「今度は誰かな? アポなしは基本的に遠慮してるんだけど?」

「あ、すみません、ドルックさん。お忙しいところを……」


 むしろ今は忙しいから帰らせてくれない? と言いたげに大息を吐くドルックに返事をし、おずおずと申し訳なさげに姿を現したのはずっと会話のネタにされていたイルだった。

 彼女の姿を見るや否やガタッと勢いよく席を立ち、ドルックはイルの前まで迎えに行く。


「なぁんだ、イルくんならアポなし大歓迎だよ。むしろ毎日ウェルカムだからね。さ、中に入って。フロワくんも案内ご苦労様~」


 機嫌良さげにフロワへ労いの言葉をかけるとドルックは部屋の扉を閉めた。フロワはまた仕事が溜まるな、と心の中でボヤきながら自分の持ち場へと戻る。


「さぁ、座ってくれたまえ」

「あ、でもドルックさん。先客がいるって……」

「アタシよ、イルちゃん」

「ラートさん!」

「君達は知り合いだから隣に座っていいよ」

「えっと、それじゃあ失礼します」

「どうぞ~」


 語尾にハートがつくように歓迎するラートの隣に座ると、イルはドルックとラートを交互に見て不思議そうに呟いた。


「あの、大事なお話の途中だったりしませんか? 私、ただお菓子のお裾分けに来ただけなのですぐ帰りますし……」

「大丈夫大丈夫。今終わったところだし、むしろ帰るならラートくんの方だから」

「ちょっとぉ、イルちゃんが来たからっていきなり邪険にするのは良くないんじゃないの?」

「えー? まだ居座るの?」

「だって面白いもの」


 ニヤニヤしながら絶対帰らないという強い意思を見せるラートにドルックは「まぁ、いいけど」と簡単に折れた。

 どちらにせよイルが長居しないのはわかりきっているから。


「でも、ラートさんもいて良かったです。ラートさんにもお裾分けしたくて」


 はにかむように笑いながらイルは収納魔法であるアイテムバッグを唱えると彼女の私物を入れてる別空間の口が開く。

 そこに手を突っ込み、目当てのものを取り出すとすぐにアイテムバッグの口は閉じた。


「昨日お話を聞いていただいたお礼です」


 茶色の紙袋をラートへと差し出した。中はダックワーズである。それによって新たに得た魔法が魔力探知魔法であるマジックサーチだった。

 魔力探知と言えばつい最近元人間である現魔族のフェーデが使用していたもの。

 試しに使ってみると確かにどんな少量の魔力も可視化出来たのだが、今のイルのレベルだとフェーデのように魔紋をその目で見ることは出来なかった。

 それで得られたものはフェーデは少なくとも現在のイルのレベル76よりも上だということだろう。少しだけ絶望を覚えたのはここだけの話。イルはフェーデが襲撃してこないでと祈るしかなかった。


 そんな現実を突きつけられたダックワーズではあるが、その表面はサクッとしていて柔らかい食感でもあり、中にはバタークリームがサンドされている。

 生地が繊細ゆえに表面にヒビが入ったりするため綺麗なものだけ厳選してのプレゼントだ。もちろん、ドルックに渡す用も同様である。

 ラートのものとは違い、大きな紙袋で数も沢山詰まっているダックワーズをドルックの前へと差し出した。


「こちらがドルックさんの分です」

「これまた沢山で嬉しいなぁ。ありがとう」

「いえ、その、沢山作りすぎちゃって……押しつけるようで申し訳ないんですが」


 昨日ラートが言っていたように失恋の痛みを和らげるためスイーツ作りに没頭し、その結果沢山仕上がったので本日はそのお裾分けやお礼などに回っていた。


「僕はイルくんから押しつけられるなら何だって構わないけどね」

「アタシもこんないいお礼を貰えちゃうならこれからもどんな相談でも乗るわよ」

「そう言ってもらえるなら嬉しいです」


 二人に喜んでもらえて嬉しいイルはえへへと照れを交えながら笑みを浮かべる。ついさっきまで自分の情報を売買するような会話がされていたということも知らずに。


 ガサガサと袋を開け、早速イルから受け取ったダックワーズを一気に二つ口に入れるドルックはすぐに「うんうん、美味しいね」と感想を述べた。


「あぁ、そうだ。ついでだから君達に注意喚起しようと思ってたことがあってね」

「注意喚起、ですか?」

「あら、何かしら? 物騒なこと?」

「実はね、この間のギルド長会議でも話題になったんだけど、最近とある団体を危険視し始めたんだ。魔王教って言うらしいんだけどね」

「魔王教? 何よそれ?」


 魔王教━━。その言葉を聞いたイルはドキリとした。そんな彼女の反応をドルックは見逃さない。


「イルくん知ってるのかい?」

「あ、えっと……知り合いの人がその魔王教に勧誘されているのを助けたことがあって……」


 さすがに知らないとはシラを切るのは無理だと判断したイルが素直に話す。まさかここで魔王教の話が出るなんて思いもしなかった。


「どういう団体なのそれ?」

「文字通り魔界の王を崇拝する宗教団体だね。まぁ、その名前からして普通は嫌悪を抱く者の方が多いんだけど、入信してるのは若者や国に不満を持つ者が主だそうだ。一体いつから存在してるかは知らないが元々はもっと田舎町で活動していたようだね。最近になって首都や大きな街での活動が増えてきたみたいで僕自身も最近知ったんだけど」


 まぁ、怪しい団体ではあるが詐欺や強奪などの犯罪性はないから基本的には放置されてたんだよね、と言葉を続けるドルックだが、注意喚起をするという話なのでどうやらそうではなくなったのだろうとラートが理解する。


「で、何をやらかしたのよ、その連中は」

「やらかした、というには証拠がないんだが、信者が謎の死を遂げているみたいでね」

「えっ、謎の死……ですか?」


 さすがにそれは初耳だったイルが驚く。確かフェーデは魔王アイントラハトのために人間を集めているとは言っていたが具体的な内容までは知らなかった。


「生気、魔力共に搾り取られたようなミイラ化した遺体が最近いくつか見つかったことがあってね。基本的にミイラは身元の特定が難しいんだけど、遺留品によって特定された人物が何人かいたんだ。共通するのがみんな魔王教の信者だってこと」

「ふーん。でもそれだけじゃただの偶然の可能性もなくはないわね。まだ何かあるんじゃないの? ギルド長会議で話をするくらいなんだし」

「そうなんだよね。実はミイラ化した被害者の身内から聞いた話によると、魔王教を棄教するよう説得に成功したその翌日、脱退するため出かけた信者が行方不明になったみたいでね。数ヶ月後に別の場所でミイラとなって発見、ってなったわけ」

「……」


 イルは息を呑んだ。まさかあのフェーデが信者の命を奪っているのではないかと考えたから。

 魔王教を創り上げたのは彼女なので、フェーデはそのトップとも言える。ならば信者が彼女の元へ脱退することを伝えているのは間違いないし、人間を集めている彼女にとっては脱退は許さないことなのかもしれない。

 もし、彼女が手を下してるのならこれは放っておいていいものではない。


「それとは別に行方不明者が最近急増していてその多くが魔王教信者だって話だ。魔王教の連中が何かをしたっていう確証はないが行方不明者が多く出てるのは事実だ。だからその注意喚起をうちでも積極的にやっていくんだけど、すでにこの町でも勧誘が来てるなら早々に手を打っておくべきだね」

「あの……ちなみにミイラ化した人って魔法でそうなったんですか?」

「……いや、魔法ではないようだ。魔紋が出なかったからね」

「それじゃあ犯人の特定は無理ね」

「そう。魔紋が現れない限り魔法はかけられていない。でも、奇妙だと思わないかい? 生気も魔力も吸い取られた干からびた遺体なんてさ」

「確かに自然死とは思えないわね」

「魔法は絶対に使っていないけど、まるで魔法を使ったような痕跡ですね」

「まぁ、実はね、あるんだよ。魔紋を残すことなく変死体にさせるのって。魔法陣を使えばね」


 魔法陣とは魔法が使えなくても使用者の血と魔力さえあれば誰でも魔法に似た様々な力を発揮することが出来る。

 しかし、魔法陣は使用する効果によりかなり複雑で描くのにも時間がかかる上、少しでも間違えば発動しないのは当たり前。場合によっては暴発して亡くなってしまう事故も発生する。

 それに魔法陣で出来ることはあくまでも補助的なこと。防御に回復、身体能力向上などであり、攻撃を加えるようなものは存在しないし、効果は魔法に比べるとそこまで大きくない。

 そのため魔法よりも手間があるということで年々魔法陣を使用する者は減り、人魔族大戦が終えた五十年ほど前にはすでに魔法陣を使う者はいないとされていた。

 現代では魔法陣=不必要な術という扱いである。一応、書物などで魔法陣は掲載されているのでやろうと思えば出来なくもない。


「生気、魔力を吸い取ることが出来る『吸収の魔法陣』っていうのが確かに存在していたようでね。それを使用すれば魔紋なんてもちろん残らないし、時間はかかるけど根こそぎ吸い上げたらミイラのようになっちゃうんだって」

「うっわ。悪趣味~」

「まぁ、魔法陣の中では結構強力ではあるけど、同時に魔法陣が複雑で失敗しやすくてその反動も大きい。巻き込まれ事故が多発して、魔族との戦争が終わってから禁術扱いとなり、全ての魔法陣関連の書物から削除された唯一の魔法陣でもあるわけだ。気になるのは五十年以上前に書物から消えた魔法陣をどうやって知ることが出来たのか、だけど」


 難易度の高い魔法陣でさらに禁術扱いされている吸収の魔法陣。今ではそれを知る術は多くはないはず。


「禁術とはいえ記録として消すことは出来ないはずだから王都に保管されている書庫に禁書として置いてるんじゃないかしら? 閲覧する人物は限られてくると思うけど」

「または吸収の魔法陣の描き方を受け継いでる可能性もあるね。昔は魔法陣使いなるものも存在していたし。どちらにせよ、魔王教の信者に禁術である魔法陣を使われたのは間違いないそうだ━━っていうのがうちのボスであるミセスミストの考えだ。彼女は長生きだからね~。遺体の状態からすぐに禁術になった魔法陣の可能性だって気づいたんだ。まぁ、僕もその線であってると思うよ」

「……」


 ドルックの話を聞いてイルはずっと考えていた。フェーデは人魔族大戦中である六十年前にアイントラハトが撃ち込んだインフェルノをその目で見ていたとも取れる発言をしていたので、少なくとも彼女は魔法陣が不必要と呼ばれる前の当時の魔法陣についてはよく知っていたのかもしれない。

 とはいえそれはただの推測、可能性の話だ。フェーデの話をするのは色々とややこしいことになりそうなのでイルは元人間である彼女の話はしなかった。


「まぁ、そういうわけだ。魔王教については王都も力を入れて調べるらしいし、僕達の方でも情報収集をするように頼まれてしまってね。もし、魔王教を見かけたらすぐに教えてほしい。あぁ、間違っても深入りとかはしないように」


 にっこりとイルに向けられたと言っても過言ではないその言葉にイルも心当たりがないわけではないので小さく「はい……肝に銘じます」と冷や汗を流しながら返事をした。


「そんなお金にもならないのに深入りなんてするわけないでしょ~」

「ラートくんに限ってはその心配してないから大丈夫だよ」

「さっすがドルックちゃん。アタシのことよく分かってるわね」

「分かりたくなかったんだけど、分かってしまうほど付き合いが長いからね」


 ドルックとラートのやり取りを見ながらイルは仲がいいなぁ、と二人の関係性を目の当たりにする。

 そして魔王教について王都も調査に乗り出したという話を聞いたイルは先代魔王であるアイントラハトと繋がっている国王グランミシオンもアイントラハト同様にフェーデが創り上げた魔王教をかなり警戒してるのだろうと考えた。


(……思っていたよりも魔王教は危ないことをしてるのかもしれない。もし、また彼女と会うことがあれば信者の人のことや吸収の魔法陣について聞いてみないと……事実ならなんとしてでも止めさせなきゃ)


 出来れば会いたくはない相手であるフェーデだったが、人の命に関わることだと思うとそうも言ってられないと感じたイルはまた彼女と会わなければならないと心に決めるのだった。


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