食事折半と友人による同居人の呼び出し
レイヤがうちで住み込むことになった記念として夕飯にちょっとだけ奮発し、鶏肉を購入した私はチキンのミルク煮を作った。
普段の自分の食生活なら夕飯はベーカリー・リーベのパンとミルクスープくらいですませるんだけど、男の人は沢山食べるだろうしやはりお肉とか魚とかある方がいいだろうなぁ。うーん、食費がかさむ。
レイヤの金銭に余裕が出てきたら食費は折半してもらうことにしようかな。
「とりあえず先にご飯を食べちゃおう」
確かレイヤは食事処の仕事を二十一時に終わるそうだから家に帰って来るのは二十二時になるだろう。
ちょっとしたサラダとライ麦パン、そしてチキンのミルク煮を食べ終えてもレイヤが帰宅するまでまだ二時間以上あるので、レイヤの分のご飯はアイテムバッグに収納してからウォーターで水を出して洗い物をし、そのあとはお風呂に入る。
入浴が終わるとウィンドで髪を乾かしながら温風が欲しいなぁ、と思ってしまう。ウィンドは自然の風を使う魔法なのでせめて加熱が出来るヒートを覚えたらさらに便利になるんだけどね。
お風呂をすませると衣服を洗濯し、ウォーターアブソープションで吸水して一気に乾かす。
うん、なんだかんだ言っても魔法のおかげで結構楽になってるんだよね。素敵な力をありがとうございます、イストワール様。
手を組んで念じるようにお礼を告げると、玄関の扉の鍵が開いた。両親の合鍵を予め渡しておいたレイヤが無事に家に帰ってきたようだ。
「レイヤ! おかえり!」
「あ……ただいま」
久しぶりに誰かを出迎えておかえりを言った気がする。なんだか嬉しくて少し擽ったい感じだけど、そう言える相手がいるのは嬉しいかもしれない。
「お仕事大丈夫だった?」
「あぁ、ディナータイムの配膳の仕事だから大変だったけど、問題はなかったよ」
「良かった。お腹空いてるよね? ご飯用意してるから」
アイテムバッグから皿に盛り付けたサラダとライ麦パンにチキンのミルク煮を取り出してテーブルに並べると、彼は申し訳なさそうな表情を見せる。
「ありがとう……あのさ、イル。俺も稼げるようになったから食事代や家賃とかはしっかりと払わせてもらいたいんだ」
食事代はちょうど考えていたから有難いんだけど家賃まではさすがに考えていなかった。食事代だけでいいよと言ってもレイヤは納得していない顔をする。
「いや、さすがにそれは悪い」
「そんなことないよ。部屋の掃除を私がするなら家賃をいただいてもいいかもしれないけど、レイヤが自分でするんでしょ? だから大丈夫だよ」
昨夜のうちにレイヤは使わせてもらうからにはしっかり清掃はすると言っていたし、ただでさえ所持金が0だった彼からお金を搾り取るのは申し訳ない。
「でも、光熱費……あ、いや、ライフラインも使わせてもらってるから」
「まぁ、今は魔法で補ってる所もちょくちょくあるからそんなに気にしてないよ。私としては食事代を折半してもらえるだけで有難いし。それにどうしても魔法石の力を使うのが躊躇われるならレイヤもそのうち自分の魔法石を買って、お風呂や部屋のランプとか自分の使う分だけはレイヤの魔法石を使えばいいよ」
「……そうか、わかった。じゃあ、それに甘えさせてもらうよ」
とりあえずは納得してもらったかな? そういうわけで早速レイヤから本日の材料代の半分を頂くことにしたんだけど、貰った額が少し多い。
「レイヤ、少し多いよ」
「いや、それでいい。材料を買ってもらった上に料理までしてくれたからその分の手間賃として受け取ってくれ」
「え、そんなのいいよ」
「こればかりは譲れない」
「えー……?」
彼の言い分はわかるがなんだかお金を巻き上げたみたいでちょっと多めに貰うのは気が引けてしまう。しかし、彼はお金を受け取ってくれないため、結局材料の半分ではなく七割ほどの金額を受け取ることに。
あと、さらに申し訳なさそうにレイヤは女神様から貰った自身の能力を一切使わないと宣言した。え? なんで? 食材がタダで手に入るのに!? と聞いたんだけど、レイヤはイストワール様にいい感情がないせいか「あいつのせいでこんな目に遭ってるのにそんな奴からの力なんて使うのも腹立たしい」とかなりご立腹であった。
相手はあの女神様なのにそんなことが言えるなんて凄いなぁと思うも、本人が嫌なら仕方ない。……でも、結構レイヤの能力には期待していたのでちょっと残念かな。ほんのちょっぴり、いや、結構食費が浮くかな~なんて思ったから。まぁ、それなら頑張って稼ぐしかないよね!
翌日。レイヤ曰く、商業ギルドでいちいち仕事を探したり手続きするのが面倒臭いとのことで、とりあえず一ヶ月の長期契約の仕事を始めることにした。凄い。私なんか長期の仕事をする度に運がないせいで数日から一週間しか続かないため、コツコツと一日ですむ仕事を選んでいるのに。まだ踏ん切りが付かず長期の仕事に手が出せないのだ。
確かに長期だと最初の手続きさえしていれば、翌日以降はお給金を受け取るときだけ行けばいいもんね。
そして朝ご飯に残っていた汁粉をアイテムバッグから出して、食パンと一緒に並べたらレイヤは固まってしまった。
「あ、汁粉に食パンって合わなかった?」
「あー……いや、合わなくはないが、初めて食べる組み合わせだなと……」
甘いパンもあるし、汁粉って小豆っていう豆のスープだからコーンスープみたいに付け合せのパンがあってもいいのかなと思ったけど、レイヤが食べていた村ではどうやら食パンと一緒には食べないようだ。
戸惑いながらも彼は食パンをちぎって小豆スープに浸して食べてくれた。
「ん。普通に美味いな。……餡とパンだし当然か」
「良かったー。合わなかったら私が食パンを貰うつもりだったけど、食べられそうで安心したよ」
一先ず美味しく食べてくれたから良かった良かった。それにしても汁粉って美味しいなぁ。小豆が手軽に手入れることが出来たらまた作れるのに……。レイヤのチカラはもう使わないって言ってたし、これが最後の可能性もあるからしっかり味わって飲まなければ。
さて、本日のお仕事だが、私は掃除屋さんで買い手がついた空き家の掃除である。レイヤは木こりの人達が伐採した木材の荷物運び、そして夜は昨日行った食事処での配膳業務をするとのこと。どちらとも一ヶ月契約をしたようでレイヤの張り切り具合が凄い。見習わなければいけないところだ。
商業ギルドでレイヤと「それじゃあまた家で」と言って別れた私は早速掃除屋へと向かった。
今回、私が掃除をする空き家は庭付きの二階建ての家。掃除屋さんで働く二人の先輩から説明を聞いて、埃まみれの部屋から草がボーボーの庭をみんなで綺麗にする。
埃を取ったり、バケツに魔法で水を出してモップで拭いたり、窓を雑巾で拭いたり、なかなかの重労働。
それに途中でバケツに躓いて転んだりして、服が濡れてしまったのだけど、魔法で水を吸い取ったのでツイてないけど気持ち的にまだマシである。
休憩を挟んでからは荒れた庭の草刈りもした。埃っぽい部屋とは違い、外の空気を吸いながら行うのでまだやりやすかったのか、黙々と作業をこなした。
仕事が終わったときにはヘトヘトだったけど、綺麗になった家を見ると、それだけでいい気分になる。綺麗なものを見るのは気持ちいいもんね。
商業ギルドへ戻り、本日のお給料を受け取った私はその足で魚屋さんへ向かう。スタービレは海とは程遠い町だけど定期的に港町から魚が入ってくるので魚が全く食べられないことはない。
とはいえ、港町に比べると種類は少ないし、漁の成果によってはお肉より高価だったりもするんだけど、もちろん安価の魚だってある。魔物系統や養殖の魚など日によって違うのでたまに目玉商品が出たりとかも。
魚料金にプラスお金を払えば捌いてもくれるので捌く能力がない私にとっては有難いものだ。
覗いてみると、メルルーサが売られていた。お安めで買える白身魚なので何かと助かっている。本日のメイン料理としてメルルーサを購入、そして捌いてもらう。
捌いてもらった魚を魔道具である保存シートで巻いてもらい輪ゴムで留めて差し出される。
保存シートはお肉などの生鮮食品を購入する際によく使われているもので、食品に包むだけで時間停止魔法が発揮し、その鮮度を保つ便利なもの。その効果は一時間だけど、私にはアイテムバッグがあるので時間は気にしないんだけどね。
そのあとは足りなくなったバターなど買いつつ、ベーカリー・リーベへとお邪魔する。
「こんにちはー!」
「あ! イル!」
入店早々リリーフがレジから離れて私の肩を力強く掴んできた。待って待って、凄い仰々しい様子なんだけど私何かした!? 昨日、クラフトさんと二人で話せてラッキーとか思ったのがいけなかった!?
「あんた、家に居候が出来たって本当なの!?」
「えっ? あ、あぁ、うん。そうだよ」
きっと、クラフトさんから聞いたのだろう。それが一体どうしたというのだろうか。そんなに食いつかなくてもちゃんとリリーフにも言うつもりだったし。……ていうか、怒ってるの? なんでっ!?
「どういう関係なのっ?」
「えっと……実は……」
リリーフなら女神様と会った話や恩恵を信じてくれたし、レイヤの話も信じてくれるだろうと、彼との出会いや同居に至るまでの話をざっと説明する。
レイヤが屋根を突き破って落ちてきたことや、女神イストワール様と会って恩恵を受けていたことや、帰る場所がわからなくなってしまったので家に置いてあげることなど全て。
しかし、彼女は訝しげな表情をしているので、もしかして信じてくれないのかなと内心不安を抱えた。
「……あんた、騙されてないわよね?」
「えっ? ど、どういうこと?」
「そんな都合良く女神と出会って能力を授けられたなんて信じられると思う?」
「えっ!? だって、私もそうだったし、リリーフ信じてくれたんじゃないの?」
「あんただからね……そんなので人を騙すような器じゃないでしょ」
信用してくれてるとは思うんだけど、なんだろう。少し小馬鹿にもされたような……?
「前に金運が上がる変な壺を買おうかどうか悩んでたことだってあるでしょ」
「うぐ、それは……結局買ってなかったし」
「あたしが止めたからでしょ!」
はい、おっしゃる通りです……。前に買い物に出かけていたら、突然フードを被ったおば様に声をかけられて「あなたには金運がないように見えます」と、ずばり当てられてしまい、金運が上がる壺を買えば人生が変わると言われて、ちょっと惹かれてしまったことがある。
途中でリリーフとばったり会って壺の話をすると、彼女はおば様に睨みを利かせて追いやったのだけど、そのあとあんな話を信じるなんてと怒られてしまった。
確かにちょっと怪しかったかもしれないけど、どちらにせよお金がないので壺は買わなかったんだけどな……って、おかしいな、私の方が歳上なのになんでいつもリリーフに怒られてるんだろ。
「そもそも出身も不明な会って間もない異性をその日に住まわせるなんてどうかしてるわ!」
「でも、帰る場所がないらしいから可哀想で……。それに世間に疎そうだから一人にはしておけないし」
「そんなの信用出来るの!? 明日にでもそいつを連れて来なさい! あたしがしっかりと見極めてあげるわ! いいわねっ?」
「は、はい……」
リリーフに言い負かされてしまった私は約束をし、目的だったバケットと卵サンド、バターロールを購入して家に帰ろうとしたが、最後にもリリーフに念を押されてしまった。
うーん……約束したけどレイヤ来てくれるかな……?
「……と、いうわけでして、明日私の友達に会っていただけませんか?」
夜の仕事が終わって帰宅したレイヤにご飯を用意しながら話をする。本日はバケットとメルルーサのムニエル。下味をつけ、小麦粉をまぶしたらあとはバターで焼いて、皿に乗せたらレモンを添えて出来上がり。
「そうか、わかった。でも、明日は両方仕事があるから明後日でお願いしてもいいか?」
「あ、うん。そう伝えとくよ。ごめんね、わざわざ出向いてもらうことになって」
「いや、その友達の言うことも理解出来るから気にしなくていい。確かに怪しいからな……俺」
「そうかなぁ……リリーフもきっとわかってくれると思うんだけど」
念のために何かスイーツを作って彼女のご機嫌でもとってみるべきかもしれない。……なんとかなるかなぁ。
二日後のリリーフによる審査に少し気がかりではあるけど、何事も問題なく終わることを祈るしかなかった。




