いちごのコンポートと友人の尋問
二日後、リリーフによるレイヤの審査が始まる。と、審査といえば聞こえはいいが、ただの私の同居人に相応しいかのチェックである。
本当は昨日行われる予定だったが、リリーフの一方的な約束でもあるのでレイヤの仕事の都合により一日先に延ばしてもらうようお願いしに行った際には「まさか逃げたりすんじゃないでしょうね?」と言われてしまい、心証が悪くなってしまった。
当日の朝、私はリリーフの機嫌を少しでも直してもらえるようにスイーツを作ることにした。
「この間貰ったいちごを使ってスイーツを作りたいと思います」
「何か手伝うことがあるなら言ってくれ」
「ありがとう、レイヤ! でも、出来るだけ自分で作りたいから頑張るよ」
レシピブックを開いて「いちごで簡単に作れるスイーツ」を口にすると、ひとりでにページを捲り始めたレシピブックが示したスイーツは……いちごのコンポートだった。
ウォーターでいちごを軽く洗ってからヘタを取り、鍋にいちごと砂糖、水を投入してからファイヤで火にかけて煮る。煮詰めないように気をつけたら、冷まして冷蔵庫に入れたら完成だ。思っていたよりも簡単でびっくりである。
「出来たー」
出来上がるまでは朝食を食べて待つこと数時間。自宅用とリリーフ用に二つの瓶に分けたいちごのコンポートを手にして完成を喜ぶ。
「おやつの時間には早いけど早速食べてみない?」
「あぁ……いいけど、その友達と会う時間は大丈夫か?」
「昼過ぎに向かおうかなーって。パン屋さんだからお昼ご飯を買う人で忙しそうだし」
「そうか。それなら余裕はあるな」
そういうわけで瓶に入れたばかりだけど、自分とレイヤのお皿にいちごのコンポートを乗せていざ実食。
原型が残るいちごとサラサラのいちご色の汁と共にスプーンですくって一口。
「美味しいっ」
砂糖も少なめで甘さ控えめなんだけど、さっぱりして食べやすい。その勢いのまま、いちごから出たシロップまでしっかり飲み干すととても幸せな気持ちになった。
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レベルアップしました。ヒートを覚えました。
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幸せに浸る間もなくが能力アップの通知が出た。しかし、その内容に思わず笑みがこぼれる。
「やったぁ。ヒートだ!」
「ヒートはどんなことに使えるんだ?」
レイヤに尋ねられたので魔法詳細を確認する。まぁ、予想通りの文章だとは思うのだけど一応ね。
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・ヒート
熱を加えることが出来る。
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うん、やはりそのまま。その通りだけどね。
「つまり加熱することが出来るんだよ。火を使わなくても料理を温め直したり、あとは水を温水にしたり、温風に変えたりと便利なんだよね」
「魔法の重ねがけ、とか出来るのか?」
「うん。その分、魔力の消費も多かったりするんだけど」
ドライヤーくらいなら私でも魔力は持つと思うんだけど、お風呂を溜めるとなるとかなりの魔力量を使うのでまだまだそこまでの域に達していない。そもそも生活魔法を使えたとしても、魔力量が備わっていないとお風呂を溜めるだけでも休み休み入れて一日がかりになるだろう。
さて、新しい魔法を覚えてテンションも上がるけど、今はリリーフにレイヤを認めてもらうことが先だ。
昼過ぎに家を出て、ベーカリー・リーベに向かう。お昼のピークを過ぎているはずだから、リリーフの手は空いているはず。お店のドアを開けると、いつものようにドアにかけられたベルが訪問者を告げるため響いた。
「こんにちはー」
「待ってたわよ、イル。あたしの部屋で話をするわよ」
「う、うん」
腕を組みながら不機嫌そうに出迎えるリリーフの圧力が凄すぎて圧倒されてしまうが、彼女の言われた通りリリーフの部屋へと向かうため、二階の住居スペースへと連れられる。
リリーフの部屋に案内されると「座って」というのでその場で座り込んだ。レイヤに至っては姿勢正しく正座をする。
「えっと、それじゃあ改めて紹介するね。彼はレイヤ。帰る場所がわからないからうちに住んでもらうことになったの」
「レイヤと言います。よろしくお願いします」
ぺこりとレイヤは頭を深く下げる。リリーフはそんな彼に動じる様子はなく、口を開いた。
「イルの友人、リリーフよ。どうして呼ばれたかわかってるかしら?」
「……俺が怪しいから尋問して確かめるってことですよね?」
「そういうこと。この子どんくさくて騙されやすそうだから、言いくるめられてないか心配なのよ」
「その気持ちはわかります。どうぞ、俺のわかる範囲でしたらお答えします」
レイヤ、めちゃくちゃ丁寧に対応してくれる。初めて会ったときも思ったけど、世間に疎い箱入り息子と言っていたわりに凄く社交的だ。
「出身は?」
「名前のない、地図にも載らない村です」
「どうやってイルの屋根を突き破ったの?」
「突然、女神に能力を授けられ、さらに空の上へと飛ばされてそのまま彼女の家に落ちました」
私から聞いた話を再びレイヤにも聞いていく。「授けられた能力は?」「なぜ居候することになったの?」と次々尋ねるリリーフに対して「フードリアリゼーションという食材を手にする能力です」「行く宛てがない俺のために彼女が提案してくれたからです」とレイヤは淡々と答える。
「その能力をここで見せてみて」
「あ、待ってリリーフ。レイヤは能力を使いたくないの!」
リリーフの次の質問を聞いて私は慌てて止めた。レイヤは女神イストワール様を嫌っているから彼女から授かった能力は封印したいということを説明するが、友の眉間に皺が寄ってしまう。
「それでどうやって信じろって言うの?」
「そうだけど……私はちゃんと間近で見たから本当だよ」
「あんたが食材を指定したわけじゃないでしょ。そう見えるような手品をした可能性だってあるじゃない」
「うぅ……」
そう言われると反論出来ない。でも、確かに私は見たし、手品なんかじゃなくレイヤの能力だって信じてる。
「わかりました。やります」
「えっ、でも……レイヤ嫌でしょ?」
「まぁ、あの女神から与えられたってのが腹立たしいけど、疑われるくらいなら使うよ。どうぞ、どんな食材でも言ってください」
「じゃあ、さつまいも」
なるほど。今の時季すぐに手に入りそうな春の食材を外したのか、リリーフ凄い。
大丈夫とは思うけどちょっと心配になってレイヤを見てみると、彼は小さく頷いてから手のひらを上になるように差し出し、目を閉じた。
「フードリアリゼーション」
白い光が手のひらから溢れてすぐに治まる。そしてレイヤの手の中にはリリーフのリクエストしたさつまいもが一本そこにあった。
レイヤはそれをリリーフに渡して確かめさせる。
「……質感的には本物みたいね」
「ねっ、ねっ! レイヤの言うことは本当なんだよ!」
「……」
「あ、そうだ。これなら信じてくれますか?」
それでもまだ信じ難いというリリーフにレイヤがステータスの存在を思い出して彼女に見せることにした。
そっか、魔道具がないとステータスを見ることが出来ないから、私と同じように自由にステータスを表示させたら女神様からの恩恵だって信じてくれるかも。
ステータスをじっくり見入るリリーフにドキドキしながら彼女の言葉を待つ。
「……確かに、魔道具なしでステータスは見るなんてイルしか聞いたことないわ」
「じゃあ、信じてくれるっ?」
「女神からの能力を与えられた、ってことは信じても良さそうね」
「えぇー……まだダメなの?」
「一先ず、今のところは保留かしら。だって出身地もわからない上に、女神から能力を授かったっていうのにイルみたいに目指すものも目的もないなんて信じられないでしょ。本当は何か目的があってイルの家の真上から落ちて来たんじゃないの?」
「それは……」
レイヤの言葉が詰まる。それを意味するのはわからないけど、本当に何も知らない可能性だってある。確かに地図にも載らない村なんてあるのか疑問に思うけど、地図だって完璧じゃないかもしれないし、何か理由があって地図に載らないのかもしれない。
「ねぇ、リリーフ。私はレイヤが悪い人には思えないよ。数日一緒にいただけだからまだよく知らないこともあるけど、彼は責任感だってあるし、私の手伝いをしてくれたり、仕事も私より頑張ってるから少しだけでいい、信じてもらえないかな? レイヤを信じてる私を」
正直な気持ちをリリーフに伝えた。リリーフのことだから「このバカ!」なんて言われちゃうかも。でも、私だけでもレイヤを信じてあげないと彼は本当にひとりぼっちになるかもしれない。……一人なんて寂しいよ。
「その人を信じるあんたを信じろって?」
こくこく頷く。鋭い瞳で睨まれるけど、美人さんは怒っていても絵になる……。なんて考えていたらリリーフが溜め息を吐いた。
「……そう言われたら信じるしかないじゃないの。もう、好きにしなさい。イルのことは信じてるんだから」
「ほんと!? ありがとう、リリーフ!」
嬉しくて思わず彼女に抱きついた。リリーフは「やめてよ、暑苦しいでしょっ」と口ではそう言いながらも抵抗はしないので受け入れてくれてるようだ。
「……でも、あたしはあんたの分までその男を疑うからね」
「うぅ……リリーフ、頑固だなぁ」
「いや、俺はそれで構わないです。知らない相手を疑うのは当然のことですから。それだけ、彼女のことを大切に思っているのもわかりましたし」
「そうなんだよ、レイヤ! リリーフはね、口調はキツイけど優しい子なの!」
「口調はキツイって余計でしょ!」
いたっ。リリーフに額をはたかれてしまった。照れ隠しだと信じたい。
「あ、そうだ。また甘い物を作ったからリリーフ食べてよ」
リリーフの機嫌直しのために作っていた、いちごのコンポートを思い出してアイテムバッグからコンポートをぎっしり詰めた瓶を取り出した。
「へぇ、今回は何を作ってきたの?」
「いちごが手に入ったからいちごのコンポートを作ってきた……」
よ、と言い終える前に手が瓶に滑ってしまい、ガシャンと不穏な音が聞こえる。下を見やれば、瓶が割れて床に飛び散るいちごのコンポートが……。
「あっ……」
レイヤはやってしまったな、という困惑した表情で私を見て、リリーフは俯いた状態でふるふると怒りに震えていた。
「イルーーーー!!!!」
「ご、ごめんなさぁい!!」
スイーツを駄目にしてしまい、リリーフに叱られた私は本日も不運絶好調のようだった。
その後、レイヤと片付けをするのだけど、結局はリリーフも手伝ってくれるので本当にいい子である。




