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ショートブレッドと二人で労働

 驚く話だろうけど、ある日家の天井を突き破って男性が落ちてきた。びっくりしたけど、その際に出来た怪我で男の人は意識を失ってしまい、どうしようと慌てたところで最近覚えたヒールを使い、その人の怪我を癒した。

 しばらくしてから目覚めるも今度はヒールを連続して使用した私の魔力切れにより倒れてしまうことに。

 その後、空から落ちてきたレイヤに部屋まで運んでもらい、色々話をさせてもらった。


 ツリ目で黒髪、後ろは小さく髪を結んでいる彼はどうやら地図に載らないような小さな村出身の箱入り息子らしく、世間にも疎い感じの様子。でも、私と同じ女神イストワール様の加護を受けたようで、話を聞くと無理やり連れてこられた上に上空から落とされたとのこと。

 どういう経緯でそうなったのか、彼の話からは見えなくて、でも女神様と会うことが出来て、さらに能力を授けてもらったレイヤは悪い人ではなさそうだったので帰る場を失った彼に居候することを勧めた。


 そしてレイヤの授かったフードリアリゼーションという食材を実現させる力で、小豆という見たことない食材を使い、彼の住む村ではよく口にしているという和菓子というジャンルの汁粉を作った。

 見たことも聞いたことも食べたこともない物なので少し戸惑ってしまったがレイヤに見てもらったおかげで出来たのは甘い豆スープ。

 少しとろみがあって、赤茶色の豆からは想像出来ないくらい甘くて美味しい物だった。レイヤが言うには砂糖を入れてるから、とのことで。豆そのものは甘いわけではないらしい。


 そんなレイヤは天井を壊したことを凄く気にしていて、その修理のため翌日から働くと言い出したので一緒に商業ギルドへ赴き、ギルドカードを作成してからすぐに仕事を請け負うことに決めた。


「おはようございます、イルさん」

「レアーレさん、おはようございます! あの、この人にギルドカードを作成してほしいんです」

「えっと、お願いします」

「はい。それではこちらの用紙に必要事項をご記入ください」


 レアーレさんが書類を出すとレイヤは椅子にかけて近くのペンを手にする。最初は書類の前で固まっていてどうしたのだろうと思ったが、すぐにペンを走らせた。


「マジかよ……読めるし……しかも書ける……」

「レイヤ、何か言った?」


 ぼそりと呟いた言葉が聞き取れなくて私はレイヤに聞き直す。


「い、いや、別に……あ、住所! そう、住所はどうしたらいいんだ?」

「現住所かぁ……だったら私の住所でいいよ。今から言うから書いてね」

「あぁ、ありがとう」


 レイヤが今住んでいる住居といったら私の家だもんね。彼に住所を口頭で伝えると、サラサラと書き上げて目の前のレアーレさんに提出した。

 そしてあの真っ黒な鉱石を使った魔道具を使い、レイヤのステータスを記憶させてギルドカードを仕上げた。

 そのあと聞いたのだけど、あの真っ黒な鉱石は記憶石と呼ばれるもので名前の通り何かを記憶させる不思議な鉱石。

 鉱石単体では特に効果はなく、主に魔道具に加工されることがほとんどである。カメラとかボイスレコーダーとか映像とか何かを記憶する魔道具には記憶石が使われているとのこと。


「ギルドカードに関する説明は以上となります」

「あ、はい。ありがとうございます」


 レアーレさんによる説明が終わったようでレイヤはギルドカードを受け取っていた。

 物珍しい目で見ていたのだけど、ギルドカードを見るのは初めてらしい。仕事したことあると言っていたから、多分私と同じように商業ギルドを介さず、直接雇用してもらっていたのだろう。


「それにしても同じ住所ということは、お二人はお付き合いされてるんですか?」

「「ち、違います!」」


 まさかの勘違いに私とレイヤはカウンターから身を乗り出すように慌てて否定した。


「あの、レイヤさんは色々あって居候していただくことになった方なんです」

「あ、そうでしたか。私はてっきり……失礼致しました」

「い、いえ、それじゃあ、続けてこのお仕事をお願いします」


 予め掲示板に貼り出されていた仕事募集用紙を差し出して話を逸らすようにレアーレさんに手続きしてもらった。ひとつの仕事を二人分ということで貼ってあった募集用紙も二枚分。

 レイヤにとっては初めての商業ギルドからの仕事なので、一緒に出来る仕事としていちご収穫の仕事を選び、早速仕事場へ向かった。






「わー。凄い数のいちごだね!」

「そうだな。沢山色づいてる」


 今が旬であるいちご農家には沢山の赤い果実が実っていた。

 農家の方からいちごの摘み方を教えてもらい、収穫かごを渡されたが、アイテムバッグがあるのでそれを使用すると伝え、収穫かごなしでいちご狩りにやって来た。

 青空の下でいちご畑の前を二人でしゃがみ込み、実を傷つけないように指で茎を挟んで取っていく。

 黙々と収穫出来るいちごを摘んではアイテムバッグに収納。収穫かごを使わなくていいので、いっぱいになったらその都度新しい収穫かごを取りに行かなくてもすむのでその分は楽である。


 途中で休憩をとった際に昨夜作っておいたショートブレッドを二人で食べた。

 ショートブレッドは軟質小麦粉、バター、砂糖、塩で作ったもので、クッキーみたいだと思ったけどレシピを見たらクッキーとは手順が少し違っていた。

 ふるいにかけた小麦粉と塩に賽の目に切ったバターを混ぜて全体に満遍なくポロポロになるよう混ぜていく。

 砂糖を入れてさらに混ぜ、そのあとしっかりと生地になるようにまとめて、打ち粉をしてから麺棒で平らになるよう伸ばし、レシピに載っているような写真と同じように長方形に切る。

 フォークで穴を開けてからバターを塗った天板に乗せて、あとは石窯で焼いたら完成。


「いただきまーす」

「いただきます」


 サクサクでバターの風味が良く、僅かな塩味もあってシンプルな味わい。ちょっとしたスティックタイプも食べやすくて良し。


「……美味しいっ」

「ん、美味いな」


 牛乳とよく合うなぁと口にしたけどレイヤはコーヒーにも合うんじゃないかって言ったので、確かにそうかもと納得した。

 結局紅茶にも合うだろうし、スイーツは飲み物を選ばないのかもしれない。それは凄いことだよね。

 それにしてもうちには飲み物といえば水か牛乳のみなので、レイヤの好みもしっかり聞いとかなきゃ。やっぱりコーヒーくらいは欲しいかな?

 仕事を沢山して食材や製菓道具も色々と手に入れたいし、これから少しずつお金も貯めておかなきゃだしね。


========================================


レベルアップしました。ウィンドを覚えました。


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「あ、ウィンドだって!」


 ショートブレッドをひとつ食べ終えた頃にレベルアップを知らせる画面が表示された。レイヤも覗き込みながら二本目のショートブレッドを咥える。


「ウィンド……ってことは風魔法か?」

「そうだね、魔法一覧にも風を起こすとか書いてると思うよ」


========================================


・ウィンド

風を起こすことが出来る。


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「ね?」

「そのまんまだな」


 確かにファイアとウォーターのときと同じような説明文ではある。でも、これらの初級魔法は生活魔法とも呼ばれてる魔法だし、本当にそのままだからなぁ。

 学生時代で習った魔法学によると初級魔法でもレベルが上がれば強さも上がるみたいだから今後調整も気をつけなきゃいけないのだろう。

 とりあえず風魔法を使えるなら髪を乾かすのも楽になるので有難い魔法だ。


「そうだ、ギルド帰りに砂糖とか買わなきゃ。やっぱりお菓子を作ると砂糖の消費が早いんだよね」

「あ。俺、夜も仕事を引き受けるつもりだから先に帰ってて」

「え? 夜も働くの?」

「まぁ、一文無しだから少しでも稼いでおかないと」

「少しずつでもいいと思うけど……無理しないでね?」

「あぁ」


 連続して働くとは真面目だなぁ。まぁ、私もそのくらい働かなきゃダメなのかもしれないけど、洗濯したり材料を買いに行ったりしたいからあんまり遅くまでは働けないんだよね。

 お金があればクリーニング屋が利用出来るし、魔法が使えたら自分で手っ取り早く洗濯出来るんだけど、私ではどちらもまだまだだ。

 あ、でも乾かすのは吸水出来る魔法のおかげで一瞬で出来るようになったからそれは嬉しいことだね。


「じゃあ、まずはいちご収穫を終わらせなきゃだね」

「そうだな、慣れてきたし早めに終わるかもしれないな」


 休憩を終えると残りのいちごも無事に収穫を終えて、予定よりも少し早い時間に仕事が終わる。

 ラッキーなことにいちご農家のおじさんが規格外だからと小さめのいちごを少しばかり分けて貰った。本来ならばいちごジャムなどにするらしいのだが、仕事が早く終わったのでちょっとした特別報酬である。

 いちごもなかなか食べる機会がないので有難くいただき、レイヤと共に商業ギルドへ報告しに行った。

 レイヤは本当に次の仕事を自分で選んで手続きもしてもらっていて、なんの仕事なのか尋ねたら二時間後に食事処で働くとのことらしい。


「じゃあ、それまでは時間があるね。買い物に行こうよ。レイヤも服を買った方がいいでしょ?」

「あ……確かに」


 彼は本当に身ひとつで空から落ちてきたから替えの服もない。昨夜はレイヤがシャワーを浴びている間に洗濯をしたのだけど、下着だけは自分でやると恥ずかしげに言ってたのでそれだけお任せした。まぁ、私も恥ずかしかったからそれで良かったのだけど。

 やはり着替えがないと不便なので購入はしておくべき。そういうわけなので、レイヤを連れて洋服屋さんに向かう。


 彼の服の好みがわからないので私が見繕うわけにはいかないため、レイヤがどんな服を買うのかと入店してからずっと見ていたんだけど、レイヤは店に入って十分もせずに購入した。

 シンプルな白シャツに黒パンツと下着。どうやら比較的に安い値段の物を選んで買ったらしい。もう少しデザイン性とかお洒落な物じゃなくてもいいのかな?


「まぁ、今は着れたらいいかな。金に余裕が出てからでもいいだろうし」


 と、本人はそう言っていた。うん、お金が少ない私と似たような考えである。本当なら私も工面してあげたいところなんだけど、何せ自分のことでいっぱいいっぱいなので申し訳ない。せめてお金持ちのお家だったら良かったんだけど。

 そのあとは砂糖、軟質小麦粉、牛乳、卵、夕飯用に野菜を少々、そしてメインに鶏肉を購入。

 レイヤの買った荷物も含め、私のアイテムバッグに入れたのだけど、普段より少し多く買っている荷物がアイテムバッグのおかげで手ぶらで動けるため随分と楽になった。

 今のレベルだとこのくらいの買い物ならもう少し入りそうだ。でも家具くらいになるとさすがにレベル不足で入らなくなるんだけど。

 実は昨夜、現在のレベルでどこまで入るのか試してみた。容量に余裕があればさくさくとアイテムバッグに入れることが出来るが、容量が限界だと入れる際に手応えがあるので、それを頼り検証した結果、今のところ大きなリュックサックくらいは入ることがわかった。 


「それじゃあ、俺はそろそろ現場に向かうよ」

「場所わかる?」

「さっき下見したし大丈夫」

「気をつけてね。ご飯用意しとくよ」

「あ、いや、昨日も今日も食わせてもらったし、金は入るからそれくらいは自分で……」

「一人分も二人分も一緒だから大丈夫だよ」

「でも」

「ほら、それより時間でしょ? ご飯は心配しなくていいから!」


 無理やり言いくるめるようレイヤの背中を押して次の仕事場へと向かわせる。レイヤは何か言いたげではあったが、頷いてそのまま別れた。


「さて、リリーフの所に行こう」


 最後の買い物としてベーカリー・リーベへと向かう。クラフトさんのパンが食卓にないと寂しいもんね。


 チリンチリン。


「……あれ?」


 入店するとレジにはいつも立っているはずのリリーフがいなかった。いないということは買い出しか、配達かのどちらかかな。


「おっ! イル! いらっしゃい!」

「クラフトさん! こんにちはっ」


 店の奥から姿を現したクラフトさんに挨拶をする。相変わらず今日も素敵な髭だ。


「今、リリーフは配達中なんだ。せっかく来てくれたのに悪いな」

「いえいえ! またお邪魔しますし、えっと……これとこれとこれをお願いします!」


 並んでいたライ麦のパンを二個とくるみパンを二個、食パンを二枚をトレーに乗せてクラフトさんにお会計をしてもらう。


「ん? 今日は多いんだな?」

「あ、はい。色々あって居候さんが出来まして」

「へぇー! そうかそうか! また今度紹介してくれよ。新顔は覚えておかねぇとな!」

「はい、また連れて来ますね。……あ、そうだ。これ、良かったらリリーフと一緒に食べてください」


 予めリリーフとクラフトさんの分を取っておいたショートブレッド。それを包んだ袋をアイテムバッグから取り出してクラフトさんに渡した。


「おぉ、いつもすまんな、ありがとよ。しっかし、イル。お前アイテムバッグなんて使えたのか?」

「あ、これは最近覚えたみたいで……」

「あー確かリリーフも言ってたなぁ。女神の加護を受けて魔法を使えるようになったんだってな?」

「そうなんです。まぁ、魔法は少しずつですが。あ、でもこのことは内緒にしてくださいね。騒がれたくないので……」


 女神の加護を受けた人間。なんて私が知る限りでは聞いたことなくて、もしかしたら信じてもらえないだろうし、嘘を言っているんじゃないかと思われる可能性もある。

 仮に信じてもらえたとしても色々根掘り葉掘り聞かれても困るし、目立ちたくはない。


「あぁ、確かに珍しい存在は目を引いちまうもんな。わかった、今までと変わらねぇように接するし、お前のことも口外はしねぇさ」

「ありがとうございます!」


 本っ当にクラフトさんは頼りになる! 素敵! 好きっ!

 クラフトさんと二人で会話をする機会もそうそうないので幸せ空間を噛み締めながら代金を払ってパンを受け取り、アイテムバッグに収納してから退店した。滞在時間は約五分ほどだけども。


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