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いちご大福と謎の虫刺され

 スタービレのイルは魔族の先祖返りだったため、魔族魔法が使えたということで国王様と先代魔王様は私に手荒な扱いをして悪かったと謝罪してもらった。

 そこまで荒々しいとは思っていないのだけど悪い展開にならずにすんで安心である。

 その後、すぐに解放されてお抱えの魔術師による瞬間移動魔法によってスタービレへと戻ってきた。

 そのまま家に戻るとレイヤ、ドルックさん、レスペクト、プニーが外で待っていたのだけど、何やら殺気立った状態で私も戸惑ってしまう。

 私の帰宅に気づくと、思っていたよりも早かったことに驚きを隠せない様子だったけど、話を聞けば私が帰って来なかったときの作戦会議をしていたようで城に乗り込む気満々だったようだ。……良かった、早く帰ってこれて。

 ドルックさんもいるのでアイントラハト様に関しての話は伏せて、お城であったことをみんなに伝えた。

 私が魔族の先祖返りと聞いてさらにびっくりしていたけど、私もいまだに信じられなかったりする。


「魔族の先祖返りだからイルくんは魔法の才能も覚醒したのだろうね」


 と、ドルックさんは言っていたけど、女神様の能力のおかげですとは言えないので適当に相槌を打っておく。

 とにかく、私が無事に帰って来たことで安心したドルックさんは「じゃあ僕は仕事に戻るよ」と告げて笑顔で帰っていった。

 ……仕事をほっぽり出して来てくれたのかな。そう思うとギルド職員の人達の業務がどうなったのか心配である。

 ひとまずドルックさんがいなくなったので残った一人と二匹に先代魔王のことも話をして、他の人には内密にと釘を刺しておいた。私の命のためにもしっかりと。


「なんというか……色々あったんだな。その、イルが魔族の先祖返りだけじゃなく、デジールの父親だとか、国王と元魔王が親しいとか……情報量が多すぎる」

『イルって凄いんだねー! ねー!』

『お前厄介事ばかり持ち込んでくるな』

「私はそんなつもりはないのだけど……」


 恐れていたレスペクトからのお咎めはないようで一安心した。……まぁ、何も悪いことはしてないんだけどね?

 確かに色々と巻き込まれやすい気はするけど、これも運のせいかと思うと残りの人生もこんな感じなのかなと溜め息をつきたくなった。


 そういえばアイントラハト様が最後に口にしていたけど、魔族の中にはアイントラハト様の思想についていけない魔族が何人かはいたようで、彼らは魔界を出て人間の界隈に身を潜めたらしい。

 人間に手出しをするかもしれないと常に警戒をしているが何十年もの間、魔族と思わしき事件は起こっていないので少し安心したところで今回の私の魔族魔法による騒動だったらしい。

 しかし、魔界から抜けた魔族というのは少し気がかりだなぁ……。

 終戦したアイントラハト様に反対しているってことだよね? 人間に手を出してしまったら大事件になるだろうし、互いに良好関係を築きたい両種族の王族としても避けたいことだろうな。

 人間の領土に住むのは構わないけど、人間を襲わずに暮らしてくれたらいいんだけどね。






 翌朝、家に意外な訪問者がやって来た。


「朝早くからの訪問失礼するわね。あなたに謝罪をしに来たの」


 なんと冒険者ギルドのトップであるギルド総帥のミストさんがわざわざ家まで足を運んでくれたのだ。

 落ち着いたワンピースとエレガントな帽子はよく似合っていてまさにマダムという感じだった。


「えっ、あの……」

「国王からきちんとあなたが人間であることを証明するという返事をいただいたわ。魔族だと疑って糾弾してしまい本当にごめんなさい」

「そ、そんな! 私は大丈夫ですから頭を上げてください!」


 綺麗な姿勢で頭を下げる婦人に対して私は慌てて顔を上げてもらうようにお願いする。

 そもそも糾弾したとは言っても私は魔力切れを起こして意識がなかったのであまり自覚はないし。

 それにしても何かと立場が上の人に頭を下げられることが多いような気がしてなんだかこっちの方が申し訳ない気分だ。


「不安要素があれば疑いたくなるのも当然ですし、ギルドのお偉いさんとして沢山の人を守るためなら仕方のないことだと思います。結果的にミストさんも信じてもらえたので私はそれで十分です」

「……イル。私が言うのもあれだけれど、今回の件は私に非があることは明らかよ。あなたを魔族だと決めつけて拘束しようとしたし、手荒な真似をしたわ。あなたは私に怒りをぶつけても許される立場なの」

「私は……しっかりと謝罪をして悔いているならそれ以上何も言うつもりはありません。恨み言をぶつけてもお互いに苦しいだけですし、今後はこんなことがないようにしてもらえたら大丈夫です」


 両親の件で私は謝罪に来た人達の言葉を聞き入れず恨んだことがある。

 結局自分の殻に閉じこもった日々を過ごしていたし、関わった人達もずっと後悔に苛まれていた。だから私は反省している人に何も考えずに怒りをぶつけることはやめたい。


「そう……寛大な心感謝するわ」

「いえ、ミストさんもわざわざ足を運んでいただきありがとうございます」

「いいのよ、これくらい当然のことだもの。それにしてもあなたも災難よね、いくら先祖返りとはいえ魔族の血が濃いだなんて」


 彼女の言葉はまるで同情するような、憐れむような感情がこもっていた。


「私は特に気にしていません。最初はびっくりしましたけど、その血のおかげでカリュブディスを倒せたのならありがたいくらいです」

「若い子は適応力が高くていいわね……私なら穢れた血が自分の中で流れていると思うと吐き気がするわ」

「……」


 ミストさんの目はとても冷たかった。私に、ではなく魔族へ対しての嫌悪感がとても強い。

 きっと彼女だけじゃなく他にもそう思う人がいるのだろう。国王様が頭を抱えるのもわかる気がする。


「あぁ、ごめんなさいね。別にあなたを軽蔑してるわけじゃないの。むしろ逞しくていいことよ。まぁ、戦時中を知らないから楽天的に考えられるのかもしれないけれど」


 どこかちくりとする言葉だ。確かに人魔族大戦を知らない私では彼女達がどんな経験をしたのかわからない。想像を絶するようなことが沢山起こっていても不思議ではないのだ。


「そうですね。知らないからこそ、戦争を起こさない世界になるように手伝えたらいいです」

「あなたのような強い子が味方なら魔族も逃げ出すでしょうね。頼りにしてるわ」


 そういう意味で言ったわけじゃないんだけど、きっと彼女には何を言っても魔族を悪い意味でしか捉えられないと思うので新たな火種を生み出してしまう可能性を考えてそれ以上何も言わなかった。

 魔族がみんな悪いわけではないのだけど、それを理解してもらえるのはやはり時間を要するのだろう。


「そうだわ、カリュブディス討伐の報奨金も出してるからあとでギルドで受け取ってちょうだい」

「あ、はい。ありがとうございます」

「それとこの件のこともあって冒険者ランクBに上げさせてもらったわ」

「え」

「そしてパーティーでは発表出来ずに終わったけれど、今年の冒険者授賞式はイル、あなたに授賞することが決まったわ」

「え」


 突然のことで思考が停止する。ランクが上がった上に授賞までしちゃったの……?


「あ、あの、私はそこまでしていただく必要はないですよっ!?」

「カリュブディスを相手にしてさらに怪我人を出さなかったのだから当然のことよ。トロフィーもギルドに預けてるから一緒に受け取っておいてね」

「……はい」

「それじゃあ、私はドルックにも謝りに行かないと。あの子はずっとあなたを庇って信じていたようだから私もかなり捲し立てちゃったのよね」

「あ、はい。お気をつけて」


 こうして私はミストさんからとんでもない手土産をいただいてしまいながらも彼女を見送った。

 その様子をずっと監視していたレスペクトが『面倒臭そうな人間だな』と呟くのだけど、私は「悪い人ではないと思うよ……」とフォローをする。


 朝からちょっとバタバタしてしまったけど、その後アッシュさんの鍛冶屋へと向かい、以前注文していたダックワーズ型を引き取った。

 どうやら精霊祭に向けて調理器具などの修理や新調する人が多く、今は新規注文の受付を停止しているようだ。


「そういや、お前さんまたすげー活躍をしたようじゃねぇの。また有名人になっちまったもんだな?」

「えっ?」

「とぼけんなっての。王都でカリュブディスをたった一人で殺っちまったそうじゃねぇか」

「え、えぇっ!? もう、知ってるんですか!?」

「そりゃあ、ここは鍛冶屋だ。冒険者もよく来るし、色々と噂話は耳に入るぜ」


 情報が早い……そんなに早く広まるほどだったの? いや、確かに凄い魔物だったけどね。


「しっかし、キラービーのときもそうだが、次から次へととんでもねぇ魔物に引っかかっちまうよな? もしかしてお前さんが引き連れてんのか?」

「なんででしょうね……」


 否定出来ないのが悔しい。運が低すぎて強敵魔物ホイホイになっていたらどうしよう……。


「まぁ、正直なとこ、お前さんがそんな大層なことをしてるようには見えんがな? いつも製菓道具の依頼しかしねぇんだしよ」

「私もそう思います。実際に魔物と対峙したときはいっぱいいっぱいなんですけど」

「あんま無茶すんじゃねーぞ。一応お前さんはお得意様なんだからよ」

「それはもう……十分に気をつけます」


 何せ無茶をすると怒る者達が沢山いるので私も毎度毎度叱られたくはないため、危ないことは出来るだけ避けたいものである。


「でも、アッシュさんってまるで情報屋みたいですね。色んな話を知ってるみたいですし」

「ワシが知ってるのは噂話ばっかで信憑性はねぇぜ。あぁ、そういや最近はおかしな話も聞いたことがあるな」

「おかしな話?」

「なんでも冬場だってのに虫刺されの跡がある奴が増えてきてるんだと。しかも決まって女で、みんな首筋に楕円形に描くような虫刺され跡があるんだよ」


 変わってるだろ? と口にするアッシュさんに私もうんうんと頷いた。ダニとかかな? とも思ったけど、女性だけで首を好んで刺す虫なんているのだろうか?


「新種の虫ですかね?」

「どうだろうな。まぁ、痒みもなく、医者に見せた奴もいたようだが、異常はなかったから害はないみてぇだな」


 毒や病気とか持ってないなら安心かも。変わった虫がいるみたいだけど、私も噛まれないといいな。虫除けのお香でも焚いとくべきかも。


「中にはヴァンパイアの傷跡に似てるから魔族の仕業じゃねーかって話で持ち切りでよ」

「!!」


 ま、まさかの魔族絡み!? もしかしてアイントラハト様が言っていた彼を見限って魔界を出て行った魔族の一人とか? その魔族が人間を襲おうとどこかに潜伏してる……?

 可能性がゼロじゃないと思うと自然と身震いをしてしまう。きっとミストさんもこんな感じで不安だったのかもしれない。


「まぁ、ヴァンパイアだったら血を根こそぎ吸い取って殺すだろうし、魔族も人間の大陸に来ることはないんだからその線は薄いだろうな」

「そ、そうですよねっ!」


 そうだ。何も魔族の仕業とは決まっていないし、刺された人達も元気そうだから人を襲ってるわけでもない。

 やはり何かしらの虫のせいかもしれないね。うん、そうだ。絶対にそう!






 アッシュさんから少し気になる話を聞いたけど、害はないと言っているし気にしないようにして、私は買い物してすぐに自宅に帰りスイーツ作りに励むことにした。

 今日は美味しそうな旬のいちごが手に入ったのでレシピブックを眺めながら悩んだ結果いちご大福に決める。

 まだ時刻は昼過ぎ、多少時間がかかったものを作るのにちょうどいいだろう。


 材料はもち米、小豆、いちご、砂糖、塩、水、片栗粉。

 あんこ作りは時間がかかるけど慣れてきたのもあり、手際は良くなった気がする。

 けれど今回は粒あんではなく、こしあんとのことで以前作った羊羹のようにプニーの魔法であるブレンダーをお願いしてみよう。

 塩と砂糖を加えた粒あんが出来上がると、鍋を持ってプニーの前に置いた私は早速彼に頼んでみる。


「プニー。これをブレンダーにかけてもらってもいいかな?」

『任せてー! てー! ブレンダー!』


 頼られて嬉しいのか嬉しそうに飛び跳ねたプニーは粒あんに攪拌魔法をかけてくれた。

 宙に浮き、高速で回転してあとすぐに鍋に戻ったあんこを確認すると粒感は全くなくなり完璧の仕上がりである。


「ありがとう、プニー。ばっちりだよ」

『やったー! たー! イルの作ったもの早く食べたいー! いー!』

「まだ時間がかかりそうだからもう少し待ってね」

『はーい! い!』


 プニーは本当に聞き分けのいい子だ。こんなに手のかからない魔物なんてそうそういないのではないだろうか?

 もう一匹の気難しい従魔を思い浮かべながらあんこを鍋にかけて少し煮詰めればこしあんの完成である。


 続いては中身を包む皮の部分だ。求肥というらしい。

 洗ったもち米を乾燥させるためウォーターアブソープションを使って吸水乾燥。そのあとは製粉するので再びプニーの力を借りる。


「プニー。もう一度ブレンダーをお願い出来る?」

『出来る! る! ブレンダー! ダー!』


 待ってましたと言わんばかりに魔法を使うプニー。もち米はあっという間に粉状に生まれ変わった。

 プニーにお礼を告げて、もち粉に砂糖を入れて水を少しずつ投入しながら混ぜていく。

 ボウルごと蒸し器に入れて蒸せば片栗粉を敷いたバットに乗せてまぶし、小分けにする。

 洗って水分を取ったいちごに冷ましたこしあんを一個丸々と包み、小分けにした生地でさらに包み込めばいちご大福の完成だ。

 他にもあんだけを求肥で包んで上部に切り込みを入れていちごを乗せるだけでもいいらしい。

 一度試してみると見た目が華やかになってこちらの方が綺麗に見える。


「プニー出来たよー」

『食べたい! 食べたい! い!』

「じゃあ一個だけ味見して残りは夕飯後ね?」

『はーい! い!』


 沢山食べて夕飯が食べられなくなると困るので一個だけと約束し、早速出来上がったいちご大福を口にする。

 もちっと伸びる求肥と滑らかなあんこ、そしてそのこしあんの甘さを引き立たせるのが口の中でシュワッと果実の水分が溢れるいちごの甘さと酸味だ。


「いちごとあんこもよく合うね。美味しい~」

『美味しー! しー!』


 プニーも満足そうで良かった。ふふっと笑みがこぼれるといつものあの画面が目の前に映し出す。


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レベルアップしました。スリープを覚えました。


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・スリープ

眠りにつかせることが出来る。


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 あ、闇魔法だ。と思い、すぐに魔法詳細を確認する。やはり闇魔法の一種である睡眠魔法のようだ。

 何かあれば傷つけることなく眠らせることが出来ると思うと平和的なものだね。

 あとは睡眠不足の人もいたら強制的に寝かしつけることが出来るし、睡眠障害の人にも通用しそうだ。まぁ、医者でもないからそっち方面に使う機会はなさそうだけど。


 さて、夕飯の準備をして虫除けのお香も用意しなきゃ。夏に使っていた残りがまだあったはずだし。

 いちご大福を食べて休憩を終えた私は再びキッチンへと立った。


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