第八百二十二話 風光明媚(中編)
---三人称視点---
一方、その頃。
転移ゲートの遙か先にある大きな城。
正式名称は、天使城で、
階層主である大天使サンダルフォンは、
城の頂にある空中庭園で優雅に過ごしていた。
城の造りは銃眼や堀があって、
実用性が優先された質実剛健な外観の要塞だ。
その城の頂には、見事な空中庭園があった。
頭上には綺麗な青い空と白い雲。
地上には美しい草木が生えており、
その中央に静けさをたたえた小さな池があった。
「空中庭園エリア」と呼ばれるだけあって、
静謐さと気品に満ちた見事な空間であった。
そして石畳の小径を少し歩いた先に見事なテラスがあった。
大理石のモザイクで出来たテーブル。
その卓上には陶器のポットとティーセットが置かれており、
ゴシックで上品な椅子に見目麗しい眉目秀麗の男性が腰掛けていた。
艶のある綺麗な栗色の髪は程よい長さで、
手足も長く、身体全体のバランスも良くて、均整のとれた肉体だ。
そして豪華な白いブラウスと黒いスラックスという格好。
その背中には四枚二対の漆黒の翼が生えていた。
そう、彼が階層主である大天使サンダルフォンだ。
「うむ、この空中庭園から観る景色は格別だ。
また同様にここで飲む紅茶は非常に美味だ。
地上の嗜好品も結構捨てたものではないな」
かぐわしい湯気をたてるティーカップに口をつけて、
大天使サンダルフォンは、満足げにそう呟いた。
この空中庭園に良く似合う雰囲気を全身から醸し出していた。
そこで小径を早歩きして近づいて来る人影があった。
「お休みの所、申し訳ありません」
と、汚れ無き純白の鎧を着た一人の天使兵がそう告げた。
「構わんさ、申してみよ」
「御意、この「空中庭園エリア」に、
ウェルガリア軍が出現した模様です」
「そうか、ならばこの近くに居る天使兵に声を掛けよ。
少し休んだら、今後の方針を話し合うよ」
「はっ、分かりました」
それだけ言うと、
サンダルフォンは、またティーカップに口をつけた。
しばらくすと隊長格の三人の天使兵が現れた。
サンダルフォンは、その三人の天使兵に視線を向けて――
「敵の数は何人だ?」
「……220前後の模様です」
と、真ん中の女性らしき天使兵が答えた。
「そうか、ここに配置された天使兵。
また機械兵の数は幾つであった?」
「天使兵300体、機械兵200体です」
と、三人の左側に立つ中性っぽい天使兵が答えた。
「そうか、ならばこの天使城には、
天使兵200体、機械兵を100体配置せよ。
残りの天使兵100体と機械兵100体は、
ここから中間地点にある砦に配置するんだ」
戦力的には約五百という数字。
数字の上では、ウェルガリア天界遠征軍を上回るが、
サンダルフォンも相手の実力をよく理解していた。
「ただ200前後の戦力ですと、
砦に配置した兵もそう長くは持たないでしょう」
と、三人の右側に立つ男性らしき天使兵が述べた。
「分かっているさ。
まあそこはこのエリアに居る魔物や魔獣を
強制調教でもして数を増やしておけ」
「だがそれでも時間稼ぎ程度にしからないでしょう」
と、女性らしき天使兵。
だがサンダルフォンは、気にする事なく――
「それで良いさ。
恐らく我々の力だけでは、
ウェルガリア軍に勝つ事は出来ないだろう。
だからまず優先する事は、
一人でも多く敵を殺す事だ。
そうだな、最低でも50人。
多ければ70人ぐらい殺すといいだろう。
そうすれば我々も役目を果たした事になるだろうさ」
「「「……」」」
サンダルフォンの言葉に、
目の前の三人の天使兵も思わず黙り込んだ。
その姿を見て、サンダルフォンは僅かに口の端を持ち上げた。
「不服そうだな? だが心配するな。
貴殿等だけを死なせるつもりはない。
私も自分の役割を果たしたら、盛大に散るつもりだ」
すると三人の天使兵はお互いに顔を見合わせた。
「どの道、このエリア、否、この後のエリアでも
敵を全滅させる事は無理であろう。
言うならば我々は捨て石なのさ。
でも私はそれに不服を述べるつもりはない。
どうせまだ調整槽から出て間もない身。
この肉体で生に固執する気もないさ」
「つまりサンダルフォン様も自ら戦い、
そして散るおつもりですか?」
男性らしき天使兵の問いに「嗚呼」と頷くサンダルフォン。
「だが私にも大天使としての矜持はある。
だから私も貴殿等を犬死にさせる気はない。
いやある程度の戦力は犬死にさせるかもしれん。
だが一人で死ぬな、いざとなれば自爆せよ。
そして敵を道連れにせよ。
そうすれば貴殿等の死は決して無駄にはならん」
「そう願いたいものですな」
「嗚呼、細かい事はこの城の通信設備。
あるいは制御コンピューターによる通信で行おう。
とりあえず最初の計画通り、
使兵100体と機械兵100体を中間地点の砦に配置せよ。
指揮官はそうだな、そこの中性っぽい天使兵」
「……私ですか?」
と、右手の人差し指で自分を指す中性っぽい天使兵。
「嗚呼、貴殿が現場の指揮を執れ。
尚、戦力が五十を切った時点で砦を放棄しても構わん。
残った戦力をこの天使城に合流させるようにな」
「……分かりました」
「そこの二人はこの天使城で指揮を執れ。
どちらかが司令官を、どちらかが副司令となれ」
「「はっ」」
「では私はもう少しティータイムを満喫するよ。
何なら貴殿等も付き合うか?」
「「「……いえ」」」
やや緊張感に欠ける雰囲気だが、
サンダルフォンは、天使兵に気にする事なく、
テーブルの上に乗った茶色のクッキーに手をつけた。
その茶色のクッキーを頬張ると――
「どのみちいつかは死ぬものさ。
それは天使も地上の民も同じだ。
だから今を存分に楽しむ、それが私の流儀だ」
そう言うサンダルフォンは、微笑を浮かべた。
想像以上に口にしたクッキーが美味しかった。
彼は好意で周囲の天使兵に――
「貴殿等も食べるか?」
と言ったが、天使兵達は「いえ」と丁重に断った。
次回の更新は2026年8月25日(火)の予定です。
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