第八百十六話 諸説紛々(前編)
第百二十二章 大熾天使長
---三人称視点---
「……メルキセデクが討たれたようだな」
天界エリシオン。
その神託の広間の祭壇の前にて、
熾天使ラファエルが天使長ミカエルにそう声を掛けた。
熾天使ラファエルは、褐色肌の大柄の肉体で、
ハイネックの長袖の黒いインナースーツの上に白銀の鎧。
そして四枚二対の立派な白い翼を背中から生やしおり、
ミカエルと同じく熾天使である。
「同士ラファエル、どうやらそのようだな」
「だからまた神の声を聞こうとしていたのか?」
「……まあそういう事だ」
「この事態にはアナタも困惑しているようね」
不意に後ろから声が聞こえてきた。
そしてコツコツと床を鳴らして、
熾天使ガブリエルが現れた。
身長は170前後。
透き通った水色のロングヘア。
白い肌に金色の瞳。
白い羽衣の上に水色の軽鎧を着ており、
その背中には二枚一対の純白の美しい翼が立派に生えている。
彼女もまた熾天使に相応しい神々しさに満ちていた。
「同士ガブリエル、困惑していると言えば嘘ではないが、
私はこのような事態が起きる事も想定していたよ」
「でもこうも短時間に神の声を聞く。
というのは他の大天使も不安に感じるわ」
「同士ガブリエル、君のそうなのか?」
「同士ミカエル、いえ私はそうではないわ。
私はアナタの事を信じているから……」
「そうか……」
「ええ」
この辺は熾天使同士の信頼関係があったが、
大天使の立場からすれば、些か看過出来ない状況であった。
「おやおや、天使長や同士ガブリエルは、
このような緊急事態でも余裕があるようですな。
ですが私としては、看過出来る事態ではありませんな」
そう言って、現れたのは、白い髪に黒いインナースーツ。
そして紫色の鎧に四枚二対の黒い翼を背中から生やしていた人影。
身長は180前後。
手足は長く程よい筋肉がついているが、
胸部や臀部は丸みをおびており、
一目ではその性別は分らない。
その中性的な大天使サリエルが現れるなり、
ミカエル達も表情を思わず引き締めた。
「同士サリエル、アナタも自分の管轄エリアで待機するべきでは?」
「同士ガブリエル、私の管轄エリアは、
奴等――ウェルガリアの民が次に進むエリア。
「空中庭園」エリアの次のエリアです。
私は同士サンダルフォンの勝利を願ってますので、
私が管轄エリアへ行くのは、もう少し先となるでしょう」
「……腹の探り合いはよそう。
同士サリエル、貴公の要件を聞きたい」
そう端的に問うミカエル。
対するサリエルは、不遜な態度で応じる。
「熾天使だけで情報の独占をするのは、
私だけでなく、他の大天使に対する裏切り行為じゃありませんか?」
「サリエル、言葉が過ぎるぞっ!」
怒りを露わにするラファエル。
するとミカエルは一歩前へ出て、左手でラファエルを制した。
「別に情報を独占した訳ではない。
神の声を聞くのは、この天使長である私の特権だ。
それを他の大天使に開示するかどうかは、
私の判断で決める、それだけの話だ」
「……まあその件に関しては、
私としてもこれ以上の追求は止めておきましょう。
ですが奴等――ウェルガリアの民に対する方針は、
この場できちんと話してもらいたいものです」
「……貴公は何が不服なのだ?」
ミカエルがそう問うと、
サリエルは両手を広げておどけた。
「不服? いえ当然の疑問を申したまでですよ?
ケルプだけでなく、メルキセデクまで討たれたのですよ?
このような状況で暢気に敵の侵攻を待つのは、
些か間が抜けていると言っても過言はないでしょう」
「サリエルッ! 言葉を慎め!」
ラファエルがサリエルを叱責するが、
サリエルも不満を隠さず、堂々と反論する。
「いえ申し訳ありませんが、私も退く気はありませんよ。
もし同士サンダルフォンが討たれたら、
次は私の番だ、そんな状況で暢気に敵の侵攻を待って、
馬鹿正直に真正面から戦うのは、馬鹿げた茶番ですよ!」
「……要するに核爆弾などの超兵器で、
連中を一掃しろ、と言いたい訳か?」
ミカエルがそう言うと、
サリエルがその場で両手を叩いて頷いた。
「流石は聡明な天使長殿。
私の言いたい事をすぐに理解してくれて助かります」
この言いようには、
ラファエルだけでなく、ガブリエルも表情を強張らせたが、
ミカエルに至っては、何処までも冷静さを保っていた。
そしてミカエルは、突き放すようにサリエルに告げた。
「何度も言うが、核爆弾の類いを使う気はない。
これは大天使と奴等――ウェルガリアの民の尊厳を掛けた戦いだ。
だから我々も正々堂々と真正面から奴等と戦う。
これは天使長としての命令だ。
だがそれが不服であるならば、
同士サリエル、貴公の再調整も考慮に入れねばならん。
というかサリエル……」
「天使長、何でしょうか?」
このように言われて、
サリエルも不服そうな表情をあからさまに浮かべていたが、
ミカエルの次の言葉で、ついに我慢しきれず怒りを爆発させた。
「貴公は奴等――ウェルガリアの民がそんなに怖いか?」
「な、な、何ですとっ!?」
次回の更新は2026年8月11日(火)の予定です。
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