第八百十五話 余情残心(後編)
---三人称視点---
ラサミスの冒険者の証を見て、
彼の仲間達は、レベルの数字と能力値を見て、目を丸くさせた。
「こうして直に数字を見ると、凄いレベルよね。
能力値の数字もとんでもないわ」
「メイリンの言う通りね。
この数値に「明鏡止水」と「森羅万象」を使えば、
大天使と言えど、負ける事はないんじゃないかしら?」
ミネルバが率直な意見を述べたが、
当のラサミスは、真剣な表情で彼女の意見に応じる。
「まあ今回のメルキセデク相手にもオレの能力は通じたが、
それで他の大天使達に勝てると思うのは、些か早急だな。
それに仮に奴等に勝てたとしても、
オレは奴等に一方的な服従や謝罪を求めるつもりはない」
「ラサミス、それはどういう意味かしら?」
「エリス、言葉通りの意味さ。
奴等を説き伏せるには、それ相応の力が必要だが、
オレは力のみで大天使達を組み伏せるつもりはない。
だがこちらとして主張したい所はきちんと主張するつもりだ」
「……例えばどんな主張をする気なんだい?」
「ジウバルト、奴等は今回の侵攻に関して、
魔族という種族が他天体や他の惑星に進出する危険性があるから、
大天使達によるウェルガリアの侵攻を開始した。
との話だが、オレはその辺に関して連中と議論を交わしたい」
「……どのような議論を交わす気ですか?」
そう言うジュリーの表情はやや硬かった。
だがラサミスは、淡々とした口調で自身の考えを述べた。
「連中は魔族が及ぼす危険性を考慮して、
ウェルガリアに侵攻した訳だが、
オレはそれが間違いだと思っている。
例えば狩りをする為には猟銃がいるよな?
野生の獣や魔物、魔獣相手に猟銃は必要だが、
人を撃つ可能性があると言って、
猟銃の使用自体を禁じる。
オレは今回の大天使側のやり口はそれだと思っている」
「成る程、ある種の危険性を説いて、
便利な道具自体の使用を悪とする。
というのは秩序を決める者の傲慢と言えるわね」
「お? マリベーレ、オレの言いたい事が分かってるな!」
「いや猟銃に例えたから、分かりやすかったのよ。
私も魔法銃を使うから、
銃火器の用途の危険性や重要性はちゃんと理解してるから」
マリベーレの意見を聞いて、
ラサミスも少しばかり笑みを浮かべた。
周囲の仲間達は、彼の次の言葉を静かに待つ。
「兎に角、大天使達は一つの危険性を理由に
このウェルガリアに侵攻してきた。
その結果、オレ達も大天使達も多くの血を流す事になったが、
大元の原因は大天使達にあると、オレは言及したい」
「ええ、それは是非そうすべきでしょう。
彼等にも落ち度があった事は認めさすべきです」
と、バルデロン。
「そうだな、奴等にも原因がある。
こちらばかり譲歩しても、相手の為にはならん」
ジウバルトもラサミスの言葉を素直に肯定する。
それを横目で見ながら、ラサミスも新たな言葉を紡ぐ。
「嗚呼、それに魔族はもうオレ達の仲間だ。
仲間の一部の特性を否定して、
ウェルガリア全体に喧嘩を売ってきた代償は払わせるさ」
「嬉しい事を言ってくれるじゃないか」
不意に聞き覚えのある声が近くから聞こえてきた。
ラサミスが不審に思い後ろに振り返ると、
そこには魔王レクサーと大賢者、親衛隊長の姿があった。
「魔王陛下……、聞いてたのか?」
「嗚呼、聞いてたぞ。 貴公の言うように、
余も我等、魔族と他の四種族は今やウェルガリアの同胞と思っている。
その多くの同胞を大天使共は一方的に虐殺した。
その代償は奴等の血で償わせるつもりだ」
「そうだな、でも相手の言い分も最低限は聞くべきだな。
徹底抗戦となれば、ここに居る天界遠征軍だけでなく、
地上のウェルガリアの同胞にも大きいな被害が出るだろう」
「嗚呼、無論その事は百も承知さ。
だが余は受けた恩は倍返しにするが、
受けた仇は倍返し、あるいは三倍返しするのが魔王の流儀だ」
「まあいずれにせよ、この後も激闘が続くだろうな」
「――カーマイン殿」
不意に大賢者シーネンレムスがラサミスに声を掛けた。
ラサミスは、シーネンレムスに対して苦手意識を持っていたが、
このように声を掛けられて無視するのは礼儀に反するので、
彼の方向に視線を向けて――
「大賢者殿、何でしょうか?」
「正直、私は貴公の事をよく思ってなかった。
だが先程の貴公の意見は、目から鱗が落ちたよ。
我等、魔族の事をよく理解してくれて感激したよ」
「あ~、やっぱりオレ、嫌われてましたか~?」
「まあな、だがそれも今では過去の事。
これからは互いに協力していこうではないか!」
シーネンレムスは、そう言って右手を差し出した。
ラサミスも右手を出して、差し出された右手を強く握った。
「ほう、良い感じに和解したようだな。
貴公等の結束が高まる事とは、余としても歓迎したい。
だが次のエリアへ行くまで、
もう少し休憩を取ろうと思う」
「嗚呼、じゃあ皆、もう少し休憩して良いぞ。
飯を食うなり、水浴びするなり自由にしろ!」
こうしてラサミスと魔王と大賢者の友情が深まった。
だがまだ戦いは続く。
しかし今この時だけは、
ラサミス達だけでなく、魔王とその幹部達も勝利の余韻に酔いしれて、
食事なり飲酒なりして、束の間の休息を愉しんだ。
次回の更新は2026年8月9日(日)の予定です。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。




