第八百九話 鉄壁のメルキセデク(中編)
---三人称視点---
浮遊する無数の白い球状の念動波。
有りと有らゆる角度から攻めて来るが、
対人戦に長けたラサミス、魔王レクサー、ミネルバ。
そして親衛隊長ミルトバッハは上下左右にステップを駆使して、
飛び交う無数の白い球状の念動波を次々と躱していく。
この動きには敵である力天使メルキセデクも心の中で称賛した。
だがこれは格闘技の試合ではない。
地上人と天使の存在意義を掛けた戦いである。
故にメルキセデクも容赦しない。
そして彼の狙いは後衛である大賢者とメイリンに定められた。
「成る程、オールレンジからの攻撃か。
だがこの程度の攻撃は過去のウェルガリア大戦で経験済み。
老体と思って舐めるなよっ!」
大賢者シーネンレムスは、一千歳を超える超高齢者。
だが彼には長年における戦闘経験があり、
最小限の動きで飛び交う白い球状の念動波を楽々と回避していった。
一方のメイリンは、この予想外の攻撃に表情を青くしていた。
今ではウェルガリアでも屈指の大魔導師となった彼女だが
その戦闘法はあくまで魔法戦と中長距離戦に特化されていた。
レベルの大幅の向上で彼女の身体能力も強化されていたが、
このような予想外の攻撃の前に苦戦を強いられていた。
「うっ……狙いをアタシに絞ってるわね。
まあ魔導師を潰すのは戦いの定石だけど、
いざ狙われると嫌なものね……あ、危ないっ!?」
飛来してきた白い球状の念動波が急降下する。
それに合わせてメイリンも咄嗟にバックステップするが、
急降下した白い球状の念動波が地面で跳ねて、
勢いをつけた状態でメイリンの腹部に命中。
「が、がはァッ!?」
溜まらず嘔吐くメイリン。
すると他の白い球状の念動波が起動を変えて、
嘔吐いたメイリンに向かって突撃してきた。
「がはっ……集中砲火か……げはっ!!!」
二発目、三発目がメイリンに命中。
その衝撃で彼女は後方に激しく吹っ飛んだ。
「め、メイリン! 大丈夫か!!!」
「大丈夫、私に任せて!」
ラサミスが驚く中、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
「――ディバイン・ヒールッ!」
声の主はエリスであった。
近くにレフ団長とカチュアの姿も見えた。
どうやら彼女等も無事に巨大な機械兵を倒したようだ。
「メイリン、大丈夫?」
「ごほ、ごほっ……エリスのおかげで命拾いしたわ」
「そう、それは良かったわ」
「エリス、メイリン、油断するな!
白い球状の念動波はまだあるぞ!」
「カーマイン、大丈夫だ!
ここは余に任せろ! ふん! ――範囲化っ!」
魔王レクサーはそう叫んで、階級能力『範囲化』を発動させた。
この『範囲化』を使えば、一度に複数の対象に魔法を放つ事が可能だ。
「消え去れっ! ――吸魔っ!」
魔王が左手を向けた瞬間、
周囲に漂っていた白い球状の念動波が一瞬にして消え失せた。
魔王の隠し技の吸収能力を範囲化して、
メルキセデクの放った白い球状の念動波を一瞬で吸収したのだ。
その吸収した魔力をそのまま全身に纏う魔王。
「カーマイン、今だ! 彼奴の動きを止めろっ!」
「了解した! ――雷炎剣っ!」
ラサミスは、ここで神帝級の刀術スキル「雷炎剣」を放った。
ラサミスの斬魔刀に今度は紅蓮の炎が宿り、
狙いをメルキセデクに定めて、その刀身を激しく振った。
それと同時に紅蓮の炎が斬魔刀から解き放たれた。
「ぬうっ! 仕方あるまいっ!
――ディバイン・ガードッ!」
メルキセデクがそう技名コールをすると、
メルキセデクの前方に眩く輝いた障壁が張り巡らされた。
半瞬後、紅蓮の炎が着弾。
爆音が鳴り響き、耳をつんざく衝撃音が周囲に鳴り響く。
だが紅蓮の炎は、眩く輝いた障壁を破壊するまでには至らなかった。
しかしこの一撃でかなりのダメージを受けたのは事実。
そしてここで魔王レクサーが賭けに出た。
「我が新奥義を受けてみよっ!
ハアァァァッ! ――デモニック・スティンガーッ!!!」
レクサーはここで最近覚えた魔帝級の剣技を発動させた。
かつてライルが使ったブレード・マスターの固有技の「ジャイロ・スティンガー」。
剣聖ヨハンが使う強化剣士のの固有技の「ソディアック・スティンガー」と同系統の遠隔攻撃の剣技。
レクサーが右腕を錐揉みさせると魔王剣の切っ先から、
うねりを生じた薄黒い衝撃波が、
矢のような形状になって解き放たれた。
薄黒い衝撃波は、鋭く横回転しながら、
地面を抉りながら、神速の速さで大気を切り裂く。
魔帝級の剣技に加えて、
階級能力「魔神降臨」で強化された渾身の一撃。
メルキセデクも直ぐにこの攻撃の危険性を察知した。
そして左手に持った大盾を前に突き出しながら、
最強クラスの大盾スキルを発動させた。
「――ファランクスッ!」
メルキセデクがそう叫ぶなり、
左手に持った白銀の大盾――イージス・シールドが目映く輝いたが、
薄黒い衝撃波が命中すると、
鼓膜が破れんばかりの激しい衝撃音が周囲に響き渡った。
「うおおおっ! 貫けえええぇっ!!!」
薄黒い衝撃波と眩く輝いた障壁が正面から衝突する中、
魔王レクサーは、腹の底から大声を上げて叫んだ。
次回の更新は2026年7月26日(日)の予定です。
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