第八百八話 鉄壁のメルキセデク(前編)
---三人称視点---
「――五月雨突きっ!」
「――効かぬっ!」
ラサミスが幾度と突きを繰り出すが、
力天使メルキセデクは、左手に持った白銀の大盾をかざすなり、
勢いのある突きが真正面から弾かれる。
「チッ、本当に固いぜ」
「カーマイン、下がれ!
次は余が行く! ――暗黒彗星剣っ!!」
闇色の闘気に包まれた魔王剣が振り下ろされると同時に、
魔王剣の切っ先から漆黒の真空波が放たれる。
更にレクサーが魔王剣を縦横に振るい、
無数の真空波がメルキセデクに向かって放出された。
「フンッ! ――ビッグ・シールドォッ!」
メルキセデクが大盾スキル「ビッグ・シールド」を発動。
すると無数に放たれた真空派を構えた白銀の大盾が難なく弾き返した。
「……本当に固いな。 ここまで固い奴は初めてだ」
「こりゃ真正面からの攻撃じゃ通用しないな。
仕方ねえ、メイリン! 大賢者! アンタ等の出番だっ!」
「仕方ありませんな! ――地形変化っ!」
まずは大賢者が動いた。
かつてパワーがよく多用した地面を泥沼化させる地形攻撃。
狙いとしては、巨体のメルキセデクの身動きを封じる。
というシンプルだが効果的な戦術であった。
「ぬっ……小癪な真似を!」
案の定、メルキセデクの巨体が泥沼に沈み込んだ。
だがメルキセデクとて莫迦ではない。
巨体の自分相手に敵が如何様な妨害攻撃をしてくるなど、
最初から全て想定済みである。
「――フライ・ハイッ!」
メルキセデクはここで上級飛行魔法を発動。
すると泥沼に足取られた彼の巨体が物凄い勢いで上空に浮上した。
更に背中の二枚一対の銀の翼を羽ばたかせて、
物の見事に泥沼からの脱出に成功。
しかしこれも予定通りの動きであった。
そして今度はメイリンが動く。
「我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。
ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 炎殺ッ!』」
メイリンの両手杖の先端から、
激しく燃え盛る炎の塊が生み出される。
メイリンは力を制御せずに、緋色の炎の塊を連続して解き放つ。
威力と速度は最大で範囲は最小。
そう設定された緋色の炎の塊が次々とメルキセデクに着弾。
ドオオオン、ドオオオン。
という爆音が周囲に響き渡る。
ドオオオン、ドオオオン、ドオオオン。
何度も爆炎が渦巻いて、その度に激しい爆音と爆風が生じる。
「……どうだ? 効いているか?」
「ラサミス、手応えはあまりないわ。
でも無傷ではない……と思う」
そう会話を交わしていると爆煙がおさまり、
空中に浮遊していた人影がゆっくりと地面に着地した。
だがその姿が露わになると、ラサミス達も思わず驚愕した。
メルキセデクは、ほぼ無傷であった。
メイリンの渾身の魔法攻撃は、
他の攻撃同様に白銀の大盾の前ではほぼ無力であった。
白銀の大盾からは、プスプスと白い煙が生じて、
大盾の表面も多少焦げ付いていたが、
肝心のメルキセデクは涼しい表情をしていた。
「……良い火炎属性魔法だ。
その若さで大したものだ」
率直な意見を述べるメルキセデク。
だがこの上から目線の発言にメイリンの自尊心が痛く傷ついた。
「……余裕綽々ね。
何様のつもり? あ、大天使様か」
「そう落ち込む事はない。
ワタシ以外の大天使なら無傷とはいかない。
だが流石にこう何度も何度も攻撃を受けていては、
このイージス・シールドも無傷ではいられない。
だからそろそろこちらから仕掛けさせてもらおう」
メルキセデクは、そう言うと、
右手に持った黄金の戦槌を腰のベルトに吊した。
そして左手で大盾を持ったまま、右手を前に突き出した。
「ワタシは護るだけの大天使ではない。
という事を教えてくれよう! ――サイキック・ボール連射ッ!」
メルキセデクがそう念じると、
彼の右手の平の上に複数の白い球状の念動波が生み出された。
「……奴は念動系魔法の使い手か。
恐らく次は念動波による連続攻撃だろう。
魔王陛下! オレと戦った時に使ったあの吸収攻撃を使えるか?」
恐らく「吸魔」の事を言ってるな。
聡いレクサーは瞬時にラサミスの意図を理解した。
「成る程、奴の攻撃を防げという訳か。
良かろう、余にかかればそれも可能だ」
「オレは極力、身のこなしで躱すつもりだが、
奴の念動攻撃のレベルと威力も知っておきたい。
ミネルバ、メイリンも躱すか、対魔結界で防いでくれ」
「ええ」「了解よ!」
「カーマイン、余に考えがある。
余が奴の念動攻撃を防いだら、
貴公は遠隔攻撃で奴の動きを封じてくれ。
その次に余がとっておきの一撃を披露してみせよう」
「そうだな、ここはアンタに任せるよ」
ラサミスも特に名案がなかったので、
ここレクサーの提案に乗っかる事にした。
そうこう言葉を交わしているうちに、
メルキセデクが放った無数の白い球状の念動波が飛んで来た。
「やっぱり大天使相手の戦いは楽じゃねえな。
でもそれでもやるしかねえけどな!」
そう言って、ラサミスは上下左右に動き自動追跡する白い球状の念動波を次々と躱していった。
次回の更新は2026年7月23日(木)の予定です。
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