第七百九十六話 白龍(後編)
---三人称視点---
「ハアァア……アァァァ! ――『封印結界』ッ!!」
シーネンレムスの城樫の杖から光が放たれ、
ドーム状の結界が形成される。
但しそれはラサミス達の周囲にではない――白龍の周囲にだ。
通常の対魔結界という物は対象の周囲に発生させ、
外部からの攻撃を防ぐ魔法である。
だが封印結界は少し性質が異なる。
範囲は最小だが、強度は最高に設定。
そして白龍の周囲が半ドーム状の透明な結界で覆われた。
展開された封印結界は、白龍が吐き出した炎を遮った。
結果、封印結界の内部は、
白龍が吐き出した灼熱の炎が出口を求めて暴れ狂う事になる。
竜種は基本的に熱や炎に対する高い耐性を持っている。
それは竜種の上位種である白龍も当然同じだ。
だがいくら高い耐性を持っていようとも、それにも限度はある。
白龍の吐き出した灼熱の炎。
それも狭い範囲で暴れ狂う炎の嵐は、その許容量を超えていた。
封印に阻まれて音は外に漏れ出てこないが、
もし音が聞こえていたなら、
白龍の上げる苦痛の雄叫びが周囲に響き渡った事は間違いない。
「ほう、流石はシーネンレムスだ」
この光景を見て魔王レクサーが微笑を浮かべた。
「はぁっ……はぁっ、ですが少々疲れました」
シーネンレムスが荒い息づかいで、その場に膝をついた。
極限の魔法行使の反動は、予想以上に大きかった。
しばらくすると白龍を覆っていた封印結界が消えていく。
その中からは、全身を焼き尽くされた白龍が姿を現した。
その姿は息も絶え絶えと言った所だが、死ぬまでには至らなかった。
「ぐうぅぅぅ……こ、小癪な真似を……」
苦し気に唸り声を上げ、足を震わせながら白龍は地面に降り立った。
どうやら空中にとどまる余力はないようだ。
それを見るなり、レフ団長が全力で地を蹴った。
そして間合いに入るなり、
白龍の左足にレフ団長の黄金の斧槍の斧刃が叩き込まれた。
金色の斧刃は、
焼け焦げて脆くなった皮膚を抉り飛ばし、骨にまで達する。
だが白龍は怯まない。
「……舐めるなよっ!」
全身が焼け焦げた事により、痛みが限界点を突破し、
逆にもう痛みを感じてはいないのかもしれない。
白龍は、その大きな咢でレフ団長を狙う。
「くっ……」
レフ団長は斧刃を引き抜こうとするが、
その刃が思った以上に深く刺さり過ぎたせいか、
思うように引き抜けなかった。
「レフ団長、武器を棄てて逃げて!」
「カチュア、そうしようっ!」
「させるかぁ……ぐ、ぐあああぁぁぁっ……あああぁっ!」
その時、「パアン」と銃声が鳴り響き、
それと同時に放たれた氷と風の合成弾が白龍の左眼に命中した。
すると白龍の左眼の眼球が潰れて、血が溢れ出た。
「レフ団長、今のうちに逃げてください。
そしてその槍は念動力でたぐり寄せてください」
「嗚呼、君はマリベーレ……くん、だったな。
そうさせてもらうよっ!」
マリベーレの狙撃によって、
白龍の左眼は見事に潰された。
この間隙を突いて、レフ団長が何度かバックステップして、
安全圏まで逃げ失せて、左手を前に突き出して――
「――念動力っ!」
マリベーレの言うように、
念動力で黄金の斧槍を手元にたぐり寄せた。
流れるような連係攻撃が続く中、
白龍は怨嗟の雄叫びを上げた。
「……赦さん、赦さん、赦さん、赦さんぞぉっ!!!」
怒り狂う白龍は、その太くて長い尻尾で地面を叩いた。
恐らく尻尾攻撃を仕掛けてくるつもりだろう。
そして白龍はその巨体を外側に捻った。
「――尻尾攻撃だ、皆避けろっ!」
ラサミスがそう指示を出す中、
白龍はその太くて長い尻尾を水平に振るった。
ラサミスやレクサー、ミネルバ、レフ団長、カチュアは、
真上にジャンプ、あるいは身をかがめて回避した。
中衛陣もミルトバッハ、大賢者、ジュリーの三人も
同様にジャンプやしゃがんで何とか回避するが、
ジウバルト、バルデロンはまともに尻尾攻撃を受けた。
「が、がはあああぁっ!?」
「キャ、キャインッ!?」
悲鳴を上げるジウバルトとバルデロン。
更にメイリンとキャミルを除いた荷物持ちも餌食となった。
「きゃああぁぁっ!!」
「「ぐほっ」」
この一撃でジウバルト達の肋骨に数本罅が入った。
連係攻撃が上手く行っていたので、
少し味方全体が油断していたようだ。
ここでラサミスが動いた。
「我は汝、我が名はラサミス。
我は力を求める。 母なる大地ウェルガリアよ!
我に大いなる恵みを与えたまえ! 『ライジング・サン』!!』
ラサミスが職業能力・『ライジング・サン』を発動させた。
職業能力が発動するなり、
ラサミスの居る位置を中心に目映い光が生じて、
周囲の傷ついた仲間を優しく包み込んだ。
これによってジウバルト達の傷が癒やされ、
行動不能及び瀕死状態から回復した。
「ジウ! バルデロン! メイリン! 大丈夫か!」
「……何とかね」
「ええ……ラサミス団長、ありがとうございます」
「ゴメン、少し油断していたわ」
「良いって事よ、お前達三人は一度後衛まで下がれ」
「嗚呼」「はい」「そうね」
こうしてラサミスの機転で負傷者は救われたが、
目の前の白龍は、相変わらず怒り狂っていた。
「ふん、小細工は得意なようだな。
ならば我の真の力を見せてくれよう」
そう言って、白龍が太くて長い尻尾で地面を叩いた。
ラサミス達と白龍の戦いは、第二幕に突入しようとしていた。
次回の更新は2026年6月25日(木)の予定です。
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