第七百九十話 迷宮城(中編)
---三人称視点---
静かだ。
それでいて冷たくて固い。
そして次第に意識がハッキリとしていく。
気がつけば、ラサミスは冷たい床の上に、
身体をうつ伏せして横たわっていた。
「……無事に迷宮城に転移したのか?」
誰に聞かせるわけでもなく、そう言うラサミス。
「ええ、転移は成功したみたいよ。 でも……」
突然、そんな声が聞こえた。
ラサミスは聞き覚えのある声が聞こえた方向に視線を向けた。
するとそこには白い法衣姿のエリスが立っていた。
尚、ラサミスは幻獣の皮で作った黒いシャツの上から、
超合金製の胸当て。
ズボンも幻獣の皮で作った青いズボンという格好。
そしてその上からブラック・ドラゴンの皮で、
作った防刃性の黒いフーデット・ローブを羽織っていた。
「おお、エリス! 君が近くに居て安心したよ」
愛する妻の姿を見て、ラサミスは無邪気に喜んだ。
だが一方のエリスは、硬い表情で応えた。
「喜んでいる場合じゃないわよ。
皆、転移したけど、バラバラにされた感じね。
まあ近くに味方の魔力の反応はあるけど……」
「そうか、まあ敵もそんな無条件で、
オレ達が有利になるような真似はしないだろうさ」
「それもそうね」
「とりあえず周囲に仲間が居るか、確認しよう」
「ええ」
そしてラサミスとエリスは周囲を警戒しながら、
迷宮の通路をゆっくりと進んだ。
すると前方に見知った顔が見えた。
ジュリーに荷物持ちのキャミルだ。
二人の顔を見ると、自然と心が和らいだ。
「ラサミス団長!」
「おお、ジュリーか! 無事に合流出来て良かったよ」
「わたしの存在も忘れないでください」と、キャミル。
「勿論さ!」
これで人数が四人まで増えた。
しかし一人は荷物持ち。
戦力的には実質三人の状態。
だからラサミス達は、これで慢心せず他のメンバーを探す。
するとまた知った顔がラサミスの視界に入った。
輝かしい豪奢な金色の長髪。
白皙、長身痩躯。 そして切れ長の緋色の瞳。
上は金糸銀糸で刺繍を施した白いシャツ。
下は黒いスラックスと黒い軍靴という格好で、
その上から豪奢な漆黒のコートを華麗に着こなしていた。
またその背中には、裏地が黒い白マントを羽織っている。
言うまでも無い、魔王レクサーだ。
「おお、カーマイン! 貴公等と無事に合流出来て何よりだ」
そう言ってレクサーは、表情を緩めた。
尚、彼の右隣には、
上下共に黒い軍服姿の親衛隊長ミルトバッハが立っていた。
「これで6人か、他の仲間はどうなったんだろうか……」
「カーマイン、恐らく無事だぞ」
「……何故、そう思うんだい?」
するとレクサーはラサミスの疑問に毅然と答えた。
「余と魔族の幹部は、魔力回路によって意識が繋がってるのだ。
そしてシーネンレムスと思われる魔力反応が東側から伝わっている」
「そうか、まあ他の連中も百戦錬磨の猛者だからな。
そう簡単には死なないだろう。
とりあえず離散した仲間と合流しよう」
「そうだな」
そしてラサミス達は、用心しながら迷宮の東側へ進んだ。
だが所々でこの迷宮城に徘徊する天使兵と機械兵の姿が見えた。
天使兵は「楽園エリア」とほぼ同じ個体と思われるが、
機械兵は三メーレル(約三メートル)近い大柄な個体も居た。
「思った以上に敵の数が多いですね」
と、ジュリー。
「うむ、一度戦端を開くと、
周囲の敵が集団で襲って来そうだ」
「魔王陛下、なら敵を避けて進もう」
「嗚呼、そうしよう」
とりあえずラサミス達は、敵を避けて、
迷路状の庭園エリアへ逃げ込み、
一本の円柱の影に隠れた。
ここなら敵にも姿は見つからないであろう。
「少し休憩しましょう」
エリスの言葉にラサミス達も頷く。
「とりあえず仲間が揃うまで戦闘は回避しよう。
勝てない相手じゃないが、
敵が集団リンクすると、ヤバい事になりそうだ」
「余もカーマインと同じ考えだ。
「白龍」とやらと戦う事を想定したら、
18人が全員揃った方が良いだろう」
「そうだな、そうすべきだな」
「まずはこのまま東へ進んで、
シーネンレムス達と合流しよう」
そしてラサミス達は、用心に用心を重ねて、
東側に向かって通路を進んで行く。
「……魔力反応が近いぞ!」
と、魔王レクサー。
「他にも多くの魔力が感じるな」
「……仲間である事を祈りましょう」と、ジュリー。
すると正方形型の部屋が視界に入る。
そこにこれまた見知った者の姿が見えた。
「魔王陛下!」
「シーネンレムス! 無事であったか!」
「ええ、何とか無事でしたが、
竜人族の傭兵が一人敵に殺られました」
「そうか、では今は五人なのか?」
「ええ、その通りです」
そう言葉を交わし、シーネンレムスの近くに視線を向ける。
するとそこにはメイリンとジウバルト、マリベーレ。
そして荷物持ちの男性竜人族のテリンの姿があった。
「おお、お前等無事だったのか!」
「ええ、何とか無事だったわよ」と、メイリン。
「嗚呼、だが敵に見つかって一人が殺られたけどな」
と、ジウバルト。
「それとミネルバ姉さんの姿を見てないわ」
と、マリベーレ。
「多分、ミネルバはレフ団長達と一緒だろう。
レフ団長やカチュアさんが居れば、
多分、大丈夫だろうけど、
出来れば早い内に合流したいな」
ラサミスの言葉に周囲の者が無言で頷く。
「このエリアを護る「白龍」なる怪物と戦うにあたって、
出来れば17人全員で挑みたいところだ。
この後にシーネンレムスに「魔力探査してもらおう」
「ええ、お任せください」
こうしてラサミス達は、無事にメイリン達と合流を果たしたが、
まだ油断出来ない状況が続こうとしていた。
次回の更新は2026年6月11日(木)の予定です。
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