第七百八十六話 新エリアへ(前編)
---三人称視点---
智天使ケルプの撃破から、約二十時間が経った。
尤もこの天界では時間の概念はないが、
天界遠征軍は一時間砂時計を何度か使用して、凡その時間を計った。
この間に入浴や睡眠に時間を当てたが、
眠気がない者が多かったので、
魔導師達が睡眠魔法を使用して、多くの者を眠らせた。
どうやらこの天界では、空腹だけでなく、
睡魔に襲われる事もなさそうだ。
どのような仕組みがあるのかは分からないが、
今のところデメリットは少ないので、
ラサミスやレクサーもそれで良しとした。
「良い、充分に休息は取ったな。
じゃあ各部隊の隊長と一部の隊員を連れて、
この奥にある祭壇の間へ向かおうぜ」
「うむ、ここはカーマインの言葉に従おう」
レクサーがそう言ったので、
各部隊の隊長もその言葉に素直に従った。
そして全員でゆっくりと神殿の奥へ進んだ。
神殿内は相変わらず、どこもかしこも真っ白で、
柱や壁が、時折キラキラと何処かで光が反射して、
非日常的なとても美しい空間であった。
程なくして、神殿の奥の祭壇の間に到着。
神殿の間の一番奥には階段があり、その上に中規模の祭壇が見えた。
「あそこが祭壇の間みてえだな」
「それっぽいわね」
と、メイリン。
するとその時に周囲から突如声が聞こえてきた。
『ここは楽園の神殿の祭壇の間です。
どうやら皆様はこのエリアの階層主を無事倒したようですね』
「何だ? この声は?」
レクサーが怪訝な顔をするが、
ラサミスが直ぐにフォローを入れた。
「恐らく自動音声の類いだろうさ。
このエリアの大天使を倒したから、
自動システムが発動して、オレ達をナビゲートしてるんだろう」
「……恐らくそうでしょうな」
と、大賢者シーネンレムス。
『これでこの楽園エリアの攻略は達成されました。
次のエリア――『迷宮エリア』へ進むのであれば、
このエリアの大天使を倒した際に入手した二つの石。
「エンジェル・コア」と「ソウル・ストーン」を
祭壇の上に置いてください』
「エンジェル・コアとソウル・ストーン?
ボクが手に入れたこの二つの石かな?」
剣聖ヨハンが腰のポーチから、
ケルプ撃破の際に入手した二つの石を取り出した。
『「エンジェル・コア」と「ソウル・ストーン」を確認しました。
準備が出来たら、祭壇の上へ置いてください。
その後、次のエリアへ続く転移ゲートが開きます』
「ヨハン団長、お願いします」
「ラサミスくん、分ったよ」
ヨハンはゆっくりと階段を登って、
神殿の祭壇に近づいて、二つの石を置いた。
すると祭壇の周囲に強い魔力の波動が走った。
『「エンジェル・コア」と「ソウル・ストーン」が無事に置かれました。
おめでとうございます、これにて楽園エリアのクリアです。
数秒後に次のエリアへ進む転移ゲートを開きます』
「ブオオオン」
という音と共に祭壇の奥のスペースに、
光り輝いた縦長のドアのような物が現れた。
やや驚いたが、見た感じウェルガリアの転移ゲートにも似てた。
「……ボク達の世界の転移ゲートとほぼ同じだね」
と、剣聖ヨハン。
「そうッスね、見た目感じ同じッスね」
「しかしカーマイン、最初に誰を潜らせる?
一度ゲートに入って、もう一度こっちに来れるか。
試してみるべきだろう」
「魔王……陛下、そうだな、そうしよう!」
だが誰もが最初に入る事を拒んだ。
と思った矢先に一匹の猫族が名乗り出た。
「オウ! イエス! オレ様が最初に入ってもいいぜ!」
頭に黒いテンガロンハットをかぶり、
上半身に茶色のコートを羽織り、コートの下は黒のシャツ、
首元に黄緑のスカーフを巻いており、
下半身は黒の革ズボンというガンマンスタイルのカラカルの猫族。
ラサミス達もよく知った存在。
ラモン・マルドナードが意気揚々と転移ゲートに近づいた。
「ラモン、お前さんに任していいかい?」
「オウ! ミスター・カーマイン!
ここはオレ様に任せなさ~い!」
「あ、嗚呼。 一度入ってから、こっちに戻って来いよ!」
「オフコース! じゃあ行くぜぇぇぇっ!」
そう言って、ラモンは転移ゲートに入り込んだ。
するとラモンの身体が光に包まれて綺麗に消えた。
「ああいう物怖じしない奴は、こういう時に重宝するな」
と、魔王レクサー。
「只の怖いもの知らずか、それとも阿呆なのか……」
やや呆れた感じにそう言うシーネンレムス。
そうこう言ってると、転移ゲートが再び光りラモンが姿を現した。
「オウ、問題なく戻れたぜ。
向こうにも転移ゲートがあるから、出戻りは自由だぜっ!」
「そうか、ラモンご苦労さん」
と、剣聖ヨハン。
「気にするな、じゃあオレ様はまた行くぜ!」
そう言って再び転移ゲートの中へ入るラモン。
「……じゃあオレ達も行こうか」
「そうだな、とりあえず各部隊の隊長とメンバーで
順番に入って行く事にしよう。
向こうに着いたら、他の者が来るまで待機しておこう」
と、レフ団長。
「それが良いッスね!
じゃあ最初はオレ達――第三軍が行きます!」
「嗚呼、カーマイン。 そうするが良いさ」
と、魔王レクサー。
「おう、そうさせてもらうよ」
そう言葉を交わして、
ラサミスも意を決して転移ゲートに入った。
その後、エリス、ミネルバ、メイリン。
ジウバルト、ジュリー、バルデロン、マリベーレ。
荷物持ち三人の順で転移ゲートへ入って行った。
次回の更新は2026年6月2日(火)の予定です。
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