第七百八十五話 神託(後編)
---三人称視点---
「「……成る程」」
天使長ミカエルの言葉を聞いたラファエルとガブリエルは、
両者ともに似たような反応を示した。
尚、ミカエルはありのままの神の言葉を二人に正直に伝えた。
彼は天使長であるが、熾天使の一人でもあり、
ラファエルやガブリエルに対しては公平でいた。
するとラファエルが真剣な表情で口を開いた。
「どうやら我々が思っていた以上に深刻の事態かもしれんな」
「そうかもしれないわね」
と、熾天使ガブリエル。
「嗚呼、だから貴公等の助言を聞きたいと思う」
「天使長、地上の民、更には特異点をこの天界に招いた事で、
我々の想像外の事態が起きてるのかもしれんぞ」
「そうかもしれん、貴公等も既に知っているかもしれんが、
「楽園エリア」に配置していた智天使ケルプが討たれたようだ」
「そうだったのか、またしてもウェルガリアの民にやれたな」
と、熾天使ラファエル。
「だがこれはある意味、想定内の出来事だ。
連中は地上で熾天使ウリエルを倒した。
ならばケルプを倒す可能性は充分にあったと言える」
「その理屈ならこの後も各エリアの大天使が奴等に討たれる。
という事になるぞ」
「同士ラファエル、そうなる可能性は決して低くはないわね」
と、ガブリエル。
「うむ、連中は我々の想像以上の存在かもしれん」
「同士ミカエル、ならば私は状況次第で、
核爆弾を使用する事も仕方ないと思う。
まあ天使長が言い出したことだから、
規則を破ったら、私が天使長に処罰されるだろう。
だが私はそれでも構わんと思っている」
「同士ラファエル、どういう意味だ?」
するとラファエルはミカエルに身体を向けて、言葉を紡いだ。
「端的に言えば、私一人の命で済めば安いという話さ。
神も何の意味もなく「宇宙を構成する法則が崩壊して宇宙が滅びる」。
とは言わないだろうさ、多分現時点でもマズい状況だと言う事だ。
そもそも地上の民をこの天界に招くという事自体が非常事態だ。
だがそれは天使長の決めた事、それを今更覆す気はないが、
私も何もせず事態の収拾を待つなんて真似はしない、という話だよ」
「つまり自分を犠牲にしてまで、
ウェルガリアの民を強制的に排除する。
と、アナタは言いたいのかしら?」
「同士ガブリエル、分かりやすく言えばそうだ」
「だそうよ、でミカエル、アナタの意見は?」
「ラファエルの気持ちは分からなくもない。
ある意味正しい事なのかもしれない。
だがあえて言おう、同士ラファエル。
例え自身を犠牲にしてでも地上の民を抹殺する。
という考えと行動は控えて欲しい」
「……まあ天使長の立場ならそう言うだろう。
私とて安易に死ぬつもりはない。
だが事態が最悪の方向に進む前に、
誰かの手でそれを防ぐ、というのは大切な事だろう」
「嗚呼、私も貴公のそういうところは好きだ。
だが私としては、限界の限界まで、
自然の流れに状況を任せたいのだよ。
神が言ったようにこれは「一つの惑星の滅亡」に繋がる話だ。
我々の定めた秩序では、ウェルガリアは危険な存在だ。
だがそれは我等、天使族が定めた秩序だ。
この広い宇宙が決めた秩序ではない。
そして我々の判断で一つの種族や惑星を滅ぼす。
という事は我々が考えている以上に大きな罪かもしれん」
「……つまり我々にも間違いがある。
と天使長は主張したい、との話かしら?」
ガブリエルの言葉にミカエルが「嗚呼」と相槌を打った。
これにはガブリエルだけでなく、ラファエルの両目を瞬かせた。
二人のその姿を視線で追いながら、ミカエルは持論を述べる。
「無論、俺とて自分の考えに自信を持っている。
ウェルガリアのような他天体や他の惑星へ侵攻する可能性がある種族は、
我々、天使族の手によって未然に防ぐ。
その考えは今も間違っているとは思わん。
だがその結果、今この天界も荒れつつある。
それは私やここに居る熾天使が招いた結果かもしれん。
だからこそ――」
ここでミカエルは一旦言葉を切った。
そして軽く深呼吸してから、次なる言葉を紡いだ。
「我々は、天使族の沽券と存在意義を掛けて、
奴等と――ウェルガリアの民と戦う。
勝てば我々が正しく、負ければ奴等が正しい。
そういうシンプルな形で物事を決めたいと思う。
あれこれ理論武装して、理想論を語るのは簡単だが、
私は自分の心の根底にあるものをきちんと整理して吐き出したい」
この言葉にはラファエルとガブリエルも強い共感を覚えた。
「そうだな、私も天使長と似た考えだよ。
結局ここまで来れば、やるところまでやるしかない」
「私も天使長とラファエルと同意見よ。
彼等には最大限譲歩する、その上で、
私達――天使族が取るべき道を取る。
私はそうすべきと思っているわ」
「そうか、貴公等の了解を得られて私も満足だ」
心が通じた事でミカエルも表情を綻ばせた。
その上で彼は次の瞬間には、表情を引き締めて――
「結局のところは話し合いではなく、
力と力で話を決めるべきだ。
我等、天使族もある種の生命体の一つ。
ならば変に気取らず、自分の思ったままに行動すべきさ」
こうしてミカエル達は、決意を固めたが、
事態は彼等が想定していた通りには運ばなかったが、
それも一つの世が定めた理であったのかもしれない。
次回の更新は2026年5月31日(日)の予定です。
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