第七百八十四話 神託(前編)
第百十六章 神託
---三人称視点---
天界エリシオン。
神託の広間の祭壇の前にて、
天使長ミカエルは、跪いて祈りを捧げていた。
ミカエルは天使長でもあるが、
とても敬虔な神徒でもあった。
だから時間に余裕がある時は、
このように祭壇などで祈りを捧げている。
そして祈りを捧げて、十分ほどすると、
ミカエルの頭に神々(こうごう)しさに満ちた声が響いた。
(ミカエル)
(ミカエル)
(天使長ミカエル)
(私の声が聞こえますか?)
中性的な美声。
そう、創造神グノーシアの声だ。
熾天使であり、天使長であるミカエルに与えられた特権で、
彼はこうして直に神の声を聞く事が赦されていた。
「創造神グノーシア、アナタのお声は私にきちんと伝わってます」
ミカエルはそう言って、
祭壇の前で跪いきながら、両手を握り祈りを捧げている。
(天使長ミカエル、私に何を求めるのでしょうか?)
(アナタの意思を述べなさい)
「私はアナタ――神の言葉が聞きたいのであります。
前に申したように、私は世界の理に反した惑星の住人達を
この天界に招き、正々堂々と戦う事にしました。
だがその結果、私は私を慕ってくれる同族を失うかもしれません。
自分の信念の為に同族を失う事は、赦される事でしょうか?」
(成る程)
(赦す、赦されないかはアナタでなく、周囲が決める事です)
(そしてアナタは天使族を束ねる天使長)
(だから周囲の天使達はアナタの言葉に従うべきです)
(ただ……)
「ただ、なんでしょうか?」
(前にも言いましたが、もしそうする事によって、この世界の理)
(この世界、宇宙に大きな影響を与えて)
(この世界、宇宙を構成する法則が崩壊して)
(この世界、宇宙が滅びても)
(アナタは自分の考えを突き通しますか?)
「……」
再び同じ言葉を神から聞かされた。
これには流石のミカエルも即答出来なかった。
どうやらこれは例えの話ではなく、
本当にそうなる可能性があるのかもしれない。
となるとミカエルとしても考えざる得ない。
こんな大事な問題を自分の意思だけで決めていい筈はない。
ミカエルはそのように考えた。
「……何処かで相手と妥協点を見つけろ、と仰いたいのですか?」
(そうは言いません)
(でも何事においても選択肢が多い事は悪い事じゃありません)
「……はい」
(その選択肢の中から)
(アナタが最善と思うもの)
(を選んでください)
(そうすれば悪い結果にはならないでしょう)
(でもその際にはよくよく考えてください)
(アナタの判断一つで)
(一つの惑星の種族、それと……)
(一つの惑星を滅ぼす事にもなります)
(その事だけは覚えておいてください)
「はいっ!」
(……)
だがここで神の声は聞こえなくなった。
ミカエルはそのまま祈りを捧げたまま、
神の声を再び待ったが、
五分経っても何も起きなかったので、
祈りを中断して、この広間の床から立ち上がった。
「前回同様に神が今までと違う事を仰られている。
これは何か危険な予兆かもしれんな。
私も……連中と歩み寄る姿勢を……持つべきなのか?
だがここまで戦いの舞台を広げたのだ。
今更、簡単に止める事は出来ない。
その上で最善の選択肢を選べか。
……天使長も楽ではないな」
---------
「ふう」
神との対話を終えて、
天使長ミカエルは軽く一息ついた。
そして祈りを終えたミカエルは、その場で立ち上がった。
「天使長、神との対話は無事に終わったのか?」
そう言って熾天使ラファエルが、祭壇に近づいてきた。
熾天使ラファエルは、褐色肌の大柄の肉体で、
ハイネックの長袖の黒いインナースーツの上に白銀の鎧。
そして四枚二対の立派な白い翼を背中から生やしおり、
ミカエル同様に神々しい姿をした熾天使だ。
「同士ラファエル、嗚呼、無事に終えたよ」
「貴殿がこうも短期間で神の声を聞くのは珍しいな。
やはり何か、気になる事でもあるのか?」
「なくはない」
「そうか」
「少し場所を変えよう」
「待って、私の事をお忘れで?」
不意に後ろから声が聞こえてきた。
そしてコツコツと床を鳴らして、
熾天使ガブリエルが現れた。
身長は170前後。
透き通った水色のロングヘア。
白い肌に金色の瞳。
白い羽衣の上に水色の軽鎧を着ており、
その背中には二枚一対の純白の美しい翼が立派に生えている。
彼女もまた熾天使に相応しい姿形をしていた。
「同士ガブリエル、無論、忘れてはないさ。
貴公には後ほどに声をかけるつもりだった」
「……本当かしら?」
「何だ、天使長を疑うのか?」
と、軽く睨み付けるラファエル。
「よせ、同士ラファエル。
今は我々が争っている場合じゃない。
そして残された熾天使は、もう我等三人だけだ。
だから私も貴公等の意見を素直に聞きたいと思っている」
「そう、ならば良かったわ。
では場所を変えましょう」
「いやこうして神のお膝元に集まったんだ。
私も神の前で嘘をつくつもりはない。
ここで、神の前で貴公等に神から授かった神託を伝えよう」
「そう」「そうか」
「嗚呼、ではゆっくりと話すよ」
そしてミカエルは、
聞き惚れるような美声でラファエルとガブリエル相手に語りかけた。
次回の更新は2026年5月28日(木)の予定です。
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