第七百七十九話 剣聖対智天使ケルプ(前編)
第百十五章 剣聖対智天使ケルプ
---三人称視点---
零距離射撃。
爆音と共にラサミスの全身が振り乱れる。
零距離射撃で放たれた炎雷が体内で暴れ狂い、その全身を焦がす。
「――ゴハアァッ!!」
そしてラサミスは爆発の衝撃で後ろに激しく吹っ飛んだ。
勝利を確信した後での油断。
戦場においては尤も気をつけるべき問題だ。
だが起こってしまった出来事を嘆いても仕方ない。
またラサミスの伴侶であるエリスは、
夫の危機を救うべく、即座に上級回復魔法を唱えた。
「ラサミス! 今、助けるわよっ!
我は汝、汝は我。我が名はエリス。
レディスの加護のもとに……女神の息吹っ!!!」
エリスの手にしたオリハルコンの錫杖の先から、
白い光が放たれて、ラサミスの身体を優しく包み込んだ。
するとラサミスが焼けただれた身体が異様な速度で治癒された。
これでラサミスの傷は癒やされたが完治には至らない。
奇跡的に腹部の臓器は損傷してなかったが、
急な治癒によって、身体の平衡感覚やバランスが崩れていた。
だがその最中でもラサミスは、自分やるべき事を果たす。
疲弊した状態で右手を前に突き出して、
そこで念動力を発動させた。
「――サイコキネシスッ!!」
「なっ……ごはぁっ!?」
次の瞬間、智天使ケルプの腹部に刺さったラサミスの斬魔刀は、
刀の主の念動力によって、
ケルプの腹部を裂きながら、ラサミスの手元にたぐり寄せられた。
これで流れが変わる。
という事はケルプも百も承知。
そこで彼は腹部に左手を当てて、無詠唱で上級回復魔法を発動。
それによってケルプの腹部の傷は治癒されるが、完治はしなかった。
本当はこのまま「女神の息吹」を使用したかったが、
詠唱時間を考慮して、もう一度無詠唱で上級回復魔法を使った。
二度の上級回復魔法によって、
ケルプの腹部の傷も八割方は治癒された。
だが予想以上にケルプの身体は重かった。
その原因は恐らく多量の出血による貧血状態。
回復魔法は傷は癒やすが、失われた血液を補充する事は出来ない。
その事を理解しながら、ケルプは腰帯から白銀の長剣を抜剣して、
右手でその柄を掴んで、構えた。
だが見るからに身体が重そうだ。
そしてこの好機を剣聖ヨハンが見逃す筈がなかった。
「ラサミスくん、キミは一旦中衛に下がれっ!」
「……ハイッ!」
この場は素直にヨハンの言葉に従うラサミス。
「ミネルバくん! この好機を逃す手はない。
ボクとキミとで共闘して、あの大天使を倒そう!」
「は、はいっ!」
「では行くぞ! ――ストレングス・エンハンスッ!!」
ヨハンはまず最初に、
職業能力『能力強化』を発動して、自身の筋力値を強化させた。
「我は汝、汝は我。 我が名はヨハン。 女神レディスよ!
我に闇の加護を与えたまえ! エンチャント・オブ・ダークッ!!」
ヨハンがそう呪文を紡ぐと、
彼の聖剣が闇色の波動に包まれた。
若き剣聖の聖剣サンドライトに、
付与魔法で闇属性が付与された。
聖剣に加えて、天使の弱点属性である闇属性が宿った状態。
ケルプを討つ準備が整うが、
ヨハンはミネルバの自己強化を待った。
「――ドラゴン・ビートッ!!」
ミネルバが職業能力「ドラゴン・ビート」を発動。
これで彼女の力と闘気が倍化された。
だがこれはまだ始まりに過ぎない。
「――龍の鼓動っ!!!」
職業能力「龍の鼓動」によって、
ミネルバの耐久力と敏捷、そして耐魔力が大幅に向上した。
この二つの職業能力の重ね掛けで、
ミネルバの戦闘力は短時間だが急激に底上げされた。
「行くぞ、ミネルバくん!」
「はいっ! ヨハン団長!」
二人は咄嗟に右手に武器を持ち、構えた。
だがケルプとて無策で二人に挑む愚行は犯さない。
「二対一か、それも良かろう!
――ディバイン・フォースゥッ!!」
強化能力によって、
ケルプの魔力と闘気が急上昇した。
同様に能力値も跳ね上がった。
本当はもう一つ強化能力か。
時魔法を使用したかったが、その時間的余裕はなく、
ケルプはふらつく身体に鞭を打って、
ヨハンとミネルバを迎え撃つ事を決意。
この状況で二人と同時に相対するのは厳しい。
だからまずはケルプはミネルバの動きを封じる事にした。
ケルプは背中の一対二枚の漆黒の翼を羽ばたかせて、
空中を華麗に舞い、敵との距離を取った。
そしてケルプは左手を前に突き出して、
無詠唱で中級の火炎属性魔法「ファイアバースト」を連射した。
ケルプの左手の平から、高速で放たれる緋色の炎。
それが十数発以上、同時に解き放たれるが、
ミネルバは慌てず、己のスキルで緋色の炎を防いだ。
「――スピニング・ツイスターッ!」
両手に持った聖槍ハミルガるどを風車のように回転させて、
こちらに向かって来た緋色の炎を確実に弾いた。
「いいぞ、ミネルバくん!
敵の無詠唱攻撃でも慌てる必要はないぞ」
「はいっ!」
そう言って、剣聖ヨハンは右手に闇属性が付与された聖剣を持ちながら、
その綺麗なまなざしで、眼前に立つ智天使を見据える。
ケルプもまた非常に澄んだ目をしていた。
だがその奥には強い意志が宿っていた。
――綺麗な目だ。
――だが悪いがキミはボクの、ボク達の敵だ。
――だから容赦しない、死んでもらうぞっ!
ヨハンはそう心の中で呟き、
全力で神殿の床を蹴って、ケルプに急接近した。
次回の更新は2026年5月17日(日)の予定です。
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