東西南北
俺は東が好きだよ
【俺は東が嫌いだな】
「うっわぁぁぁああ…。なんだよここ訳わかんねぇ身体の構造したやつばっかだな」
犬耳男と厚着女に強制的に連れられてきた所はまるで学校の体育館のような場所だった
入口は無駄にでかく、窓とかは見当たらない。
明りは壁に無数にはりつけられた謎の玉状の物体が発する光しかないため薄暗い
そして遠くにあるためよく見えないが奥の方がステージのようになっていて、祭壇のようなものがその中心にあるだけだった
そんなただっぴろい場所にところせましと人間ではない生物が集まっていた
ただの外国人でさえも少しビビる俺にこの光景は精神にきつ過ぎる
右を見れば身体は人間なのに顔は鳥という進化を間違えたんじゃないのかと疑問に思える生物がいるし
左を見るとバカみたいな大きな剣を背負ってる俺の3倍の大きさのガチムチがいるし
前には何故か浮いてるこけしみたいなやつがいるし
はるか遠くには明らかに知的生物とは思えない液状のなにかもいる
この光景を目の前にして今すぐ金切り声でも上げて逃げだしたい衝動にかられるが、そんなことしても意味がないためなるべくそいつらを視界にいれないよう天井を見上げる
「ヒィッ!!?」
「ん?」
「【あいや何でもない気にすんな】」
俺の短い悲鳴に隣にいる犬耳男が反応したので【嘘】をつき天井から急いで視線を元に戻す
無駄に高い天井には蜘蛛の下半身に人間の上半身をもつ化け物がいた
天井にただ張り付いている奴もいれば糸でぶら下がって揺れてる奴もいた
超ビビった
…確かあの天井にいる奴らは『アラクネ』とか『絡新婦』って言われてる奴か? あんな俺でも知ってる有名クリーチャーもそろえておりますとか聞いてねぇぞ
はぇぇ。どうやらあまり信じたくはねぇが本当にここは『魔物の拠点』らしいな
そしてその品ぞろえ豊富な魔物達は穏やかじゃない雰囲気を放ちながら奥にある祭壇のような所をじっと見ている
「もうほんと訳わかんねぇ…」
「何が訳わかんねぇんだ?」
小さな呟きにまた犬耳男が反応した
俺のような全てが貧弱!貧弱ゥ!!で敗北の星の下に生まれたような人間がこんな不快で悲しい人外パーティーに参加してる理由がだよ察しろ
とは、さすがに言えないよなぁ
因みに、この犬耳男は他の有象無象で強面な魔物と違い比較的に人間に近い容姿をしている。違うのは耳と尻尾に鋭い犬歯ぐらいだ。そしてこの犬耳男の容姿は黒髪黒目で日本人に結構近い感じだったのでそれも相まって精神的には大分助かっている
…あぁそういえばここに来るまでに何とか名前は聞き出せたんだっけな
確か『フルウ』だったか?
年齢も俺と同じ19で、種族は≪人狼族≫だそうだ
種族ってのは多分『サチュ』の≪アイズ族:三つ目≫ってやつと似たものだろう
まぁよくはわからんがな!!
「【別に何でもねぇよ】」
「ん? そうか? まぁ、急にこんな集会だもんな~。あぁもうほんっと逃げたかったぜ…。もう絶対誰かの誕生日ですとかそういうおめでたい話しじゃねぇよなぁ」
どうやらフルウは俺の訳わかんねぇって言葉はこの集会に使われたものだと思ったらしい
かってに納得してもらって助かるわ
「おめでたいのは貴様の頭だろうフルウ。集会は大切な事を伝える場だ。それも緊急と来たのだ、お前ら2人はもっと緊張感を持つべきだ」
そこにフルウと俺を強制連行した張本人である厚着女が声をだす
こいつは基本的に無口で名前を聞き出せなかった
まぁ俺が怖くて話しかけられなかっただけなんだがな!
というかこの厚着女、相変わらずパーカーとマフラーのようなもので顔を隠しているので表情は見えないが声からしてもしかして怒ってるの? なんで怒ってるんだよ。むしろ怒りたいのは俺だよ。怒りたいって言うよりもう泣きたいがな。うわーん
「それは分かってるけどよぉ…」
フルウが厚着女に何か言おうとしたが何かに気付き表情を真剣なものにし口を閉じる
俺はフルウの視線を追ってみると、先ほどまで誰もいなかった祭壇に誰かが立っていた
いつの間にあそこに現れたんだ?
先ほどまでざわついていた周りの魔物達もフルウと同じようにその口を閉じて黙りだす
そしてさほど時間もかからず俺達がいる集会場? は沈黙に包まれた
祭壇に現れた奴を見ようとするがここからじゃ遠すぎて顔までは良く見えない
「よく急な知らせに集まってくれた」
沈黙を破り、凛とした女性の声が集会場に響く
自己紹介もないまま女は決して大きくは無いが良く通る声で語りだす
「突然だが、私たちは現在とても危うい状況にある。この状況を打破するため、先ほど力のある強く勇敢な戦士たちが人間達の『軍』に大きな打撃を与えるべく遠征に出た。だがそのせいでこの『拠点』には戦える者が極端に少なくなってしまっている。この状態で人間達に攻め込まれてしまえば逆に私たちが滅ぼされてしまう可能性がある。だから、君たちにはこの拠点を中心とした東西南北それぞれに見張りをしてもらいたい。急な話しで申し訳ないが、やってくれるか?」
そして女は静かに集会場に集まった魔物達を見渡す
…ふむ。つまり簡単に言えば、強い奴らを全員戦いの場に行かせちゃってこの拠点を守る奴らいなくなっちゃったぜテヘペロってことだな
つまりアホなのだなこの女は
周囲にいた魔物たちはこの言葉にどよめきだす
そりゃこんなアホらしい話し聞けばどよめくわな
俺はそう思いながら目をつむり集中し聞き耳をたてた
【材料を集めるために】
「おいおい本当かよ…。じゃぁ今ここにはカナン様とかもいないのか?」
「いやマウル様は見かけたが?」
「マウル様かぁ…」
「ねぇねぇ。見張りってどうゆうこと?」
「今なんて言ってた?」
「お前はちゃんと話し聞いてろよ」
「見張りかぁ…。するならやっぱり『北』がいいなぁ。なぁんにもないし楽そぉ」
「何人ぐらいで見張りするんだ?」
「見張りする所って希望出来るのかな?」
「おれはどこでもいい」
「あたしはやっぱり『西』かしら? 私【昆虫族】だから森好きだし、虫にもあまり襲われる心配ないし」
「ここにいる全員が見張りに出されるのか?」
「いやそれは無いだろ? だったら誰がこの拠点を守るんだよ」
「俺は見張りなんかしたくねぇ」
「私たち怪我人はどうするの!?」
「あとで聞いてみたら? 挙手とかして」
「嫌よ恥ずかしい!」
「ん? 用件はそれだけなのか?」
「これってやっぱり何人かで組みになるのかな?」
「あのよぉ・・・。トイレ行きたいけど今この雰囲気で許されるのか?」
「まずここにトイレは無い。トイレは外だろ? 諦めて社会的な死を受け入れろ」
「『東』は風が強いし砂が目に入るから嫌だなぁ」
「今思えばやっぱりこんな環境に囲まれた所に『拠点』を作るのは間違ってるよな」
「人間達が簡単に侵入してこないように選んだんだから仕方ないだろ」
「今日も『トガノ』様は美しいなぁ」
「おまえそればっかだな。まぁ、あそこにいる『トガノ』様は魔王様が妻に迎えるくらいだからな」
「おい誰だ!? 今俺の足踏んだ奴ぁ!!」
「うるさい黙れ」
「そんなことより見てくれ俺の筋肉を!」
「うるさい死ね」
「『北の湖』ってこの前凶暴な『水獣』が出たって話しなかったか?」
「あぁあったあった。なんか強くなってたらしいよ」
「見張りかぁ・・・人間達とか来なきゃいいんだけど」
「いやいや人間だけじゃなくてそこらの野生動物だって危険なんだぞ?」
「くぅ! やっぱり魔王になるとあんな綺麗な嫁さん貰えんのかぁ!!」
「ファー! 面白くなってきたぜ!!」
「ファー! 今夜は寝れないぜ!!」
「ファー! 夜更かしするぜ!!」
「なんなんだお前らは」
・・・・・・・・・・・・・・
なるほどな
こいつら魔物の話しで俺に必要な情報は…
《
「見張りかぁ・・・。するならやっぱり『北』がいいなぁ。なぁんにもないし楽そぉ」
「あたしはやっぱり『西』かしら? 私【昆虫族】だから森好きだし、凶暴な虫にもあまり襲われる心配ないし」
「『東』は風が強いし砂が目に入るから嫌だなぁ」
「人間達が簡単に侵入してこない為に何だから仕方ないだろ」
「『南の湖』ってこの前凶暴な『水獣』が出たって話しなかったか?」
「いやいや人間だけじゃなくてそこらの野生動物だって危険なんだぞ?」
「おまえそればっかだな。まぁ、あそこにいる『トガノ』様は魔王様が妻に迎えるくらいだからな」
「まずここにトイレは無い。トイレは外だろ? 諦めて社会的な死を受け入れろ」
》
くらいか?
ここから情報の整理だ
《
・魔物の拠点は人間達が簡単に入ってこれない環境に囲まれている
・『東』は風が強く砂などで視界が悪い
・『西』は森で凶暴な虫がいる
・『南』は湖で凶暴な水獣がいる
・『北』は特になし
・野生動物は魔物にとっても危険
・あそこにいる女は魔王の妻で名前は『トガノ』
・トイレは外
》
よし。これで俺は
――――――――【嘘が付ける】―――――――――
「おいどうするよ?」
俺が【嘘】の準備を終えると、フルウが声をかけて来た
「どうするって・・・【トガノ様】が言ってるんだから見張りをするしかないだろ?」
「まぁそうだけどよぉ・・・」
「まぁ確かに【ここは環境が最悪だからなぁ・・・。まっ、もし見張りする所が北だったらラッキーだな】」
「俺も見張りするなら北だよ!! 西なんか死んでもいやだわ!!」
「【確かにあの森はめっちゃ虫居るからなぁ・・・。でも南の湖も怖いだろ?】」
「あぁ! 噂ではでけー水獣が出たらしいぜ? しかもそれを退治しに行った小隊が逃げ帰って来たらしいし」
「もう何処行っても危険じゃねぇか。【外に出ると野生動物にも襲われそうだし、外の利点はトイレが近くにある程度か?】」
「だよなぁ・・・」
「・・・・やっぱり見張りは適当に【嘘】をついてサボるか」
「だな」
俺はこの拠点から一歩も外に出たことないので拠点の環境なんてまったく知らない
だが情報だけで俺は【嘘】をつき周りを騙しとおせる自信がある
これが俺の唯一の長所だ!
…長所と言っていいのかは置いとくがな
「おいおまえら。いい加減にしないか」
俺とフルウの会話に厚着女が口を出す
いい加減にするのはお前のファッションセンスだバカ野郎
見てるだけで暑苦しいんだよ
「まったく。何故こんな状況でもそんな軽口が叩けるのか理解出来んな」
「うるさいな。軽口叩けるだけいいだろ? 何にも喋らないやつよりかはよ」
「なんだと?」
「なんだよ?」
フルウの言葉に厚着女はいらだちの声を強くする
おいやめとけってフルウ…
たぶん面倒なことになるって
「貴様、本当に状況が分かっていないようだな…?」
「はっ。むしろ誰よりもわかってるよ。いま俺らは全滅しそうってことだろ?」
「それを何とか防ごうとこうしてトガノ様が計画を練ってくださっているのだろう!」
「あぁん? 見張りが計画だぁ? 俺は強い奴らを全員遠征に出したバカの発想にしか思えねぇな」
「確かに」
「何だとお前ら!!」
しまった間違ってフルウの考えに賛同してしまった
いやだってアホじゃん? アホだよね?
「おいそこの三人。騒ぐなよ」
近くにいた巨人さんがすっごい低い声でたしなめる
「あっ、すいません」
「・・・すまない」
フルウと厚着女が謝る
・・・・・・・あれ? 三人って俺も含まれてんの? 理不尽じゃね?
「絶対後で先の言葉を訂正させる」
「へぇ。出来るもんならしてみろよ」
こいつら怒られても喧嘩やめないのな
そんな俺の手にひもが結ばれた
・・・・・・・・・ひもが結ばれた!?
「お前らが逃げないよう腕にひもを結ばしてもらった」
「ハッ! 誰が逃げるかよ」
「スミマセンが俺関係ないですよね!?」
「おい…。 静かにしろって言ってんだろ…?」
また騒ぎ出した俺らに巨人さんが凄みのある声で言う
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
あぁ…完全に巻き込まれた…
俺の人生いっつもこんな感じ…
俺が落ち込んでいるとまたあの通る声、『トガノ様』が喋りだす
どうやら魔物達のどよめきが収まるまで待っていたらしい
いや、もしかして俺らの喧嘩待ちだったのか?
やばいそれだとすげぇ恥ずかしい
『はい皆が静かになるまで50分かかりましたぁ!!』ってか?
「もちろんここにはケガをしてるもの、病気を患ってるもの、攻撃手段を持っていないもの、戦える年齢ではないものがほとんどだということを私は知っている。だからそんなに無理強いはしない。ただ私たち魔物の為、少しでも力になりたいと言う者達は協力してほしいのだ」
はぁ? 何だその言い草?
まるで協力しない奴は魔物の為に力になりたくない奴みたいな言い方しやがって
それだと断れないじゃねぇか。断ったらあいつは協調性0みたいなレッテルをはられるんだろ?
気に入らねぇ。誰が協力するかよバーカバーカ!!
「そのお役目、私がお受け致します!!」
そんなこと考えていると、隣の厚着女が大きな声をあげて名乗り上げた
おま、よくこんな大勢の前で大声出せるな尊敬するぜ…
「おぉ、こんなに早く声を上げる者がいるとは! 一体どこにいる!!」
トガノはその声にすぐに反応した
「はい!! ここに!!」
厚着女がまた大声を上げる
すると周りにいた魔物たちは厚着女が良く見えるように離れる
俺も離れようとする
が、何故か離れられない…
何故離れられないかって? この腕についてるひものせいさこの野郎!!
とって!! 誰かこのひもとって!!
なにこのひも意外と頑丈! ふざけやがって!! 何だこの結び方初めて見たぞ!!!
周りを見るとフルウも紐がとれなくて焦ってる
魔物の力でも切れねぇのこの紐!?
そうして俺がもたついていると絶望の声が聞こえた
「おぉ!! まさか3人も間髪いれずに名乗り出てくれるとは!! 私は嬉しいぞ!!!」
俺名乗り出てませんけどぉぉぉぉおおおおお!!?
月が昇るからね
【太陽が昇りだすからな】




