第五話 命題の論理・その2
なるべく"教科書"にはなりすぎないように気を付けております。
レイナとロゼは役所へと入った。
中には受付があり、その奥では職員が働いているようだ。
「あそこです!行ってみましょう」
ロゼは、ディベート部と書かれた看板を指さした。どうやら、ディベートに関する部署のようだった。レイナは従い、そこに向かった。
レイナとロゼは椅子に座り、職員を呼んだ。職員はすぐに来た。
受付の女性は非常に若く、眼鏡をかけていた。知性を感じさせる雰囲気はあるが、少し子供っぽさもあった。美しいというよりは可愛らしいという言葉が似合う。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「えーと、なんて言えばいいのかな。この世界で使う本......ディベートの記録がされる、あの本が欲しくて」
レイナは何と伝えればいいのか分からなかったが、ロゼが隣から補足してくれた。
「この方のDブックが欲しいんです。いままで発行されたことがなくて」
「Dブック?」
「例の本の名前です。ディベートブックの略ですね」
「はええ。そういう名前なんだね」
Dブックは必ず持っているようなものだから、持っていないと聞いた職員は怪訝に思ったようだった。しかし、了承した旨を伝え、ある紙を出した。
「この紙にあなた様の情報をお書きください。すぐに作れると思います」
レイナは素直に書いた。
佐藤玲奈と書いたところで、ロゼが止めた。それもそのはず、この世界の住人名前に漢字は使われない。
「ああ、そうか。そうだった」
レイナはすぐに思い直し、『レイナ・サトウ』と書き、その他事項を書いて提出した。すると職員はどこかへ行った。
「レイナさんって、身長も高いですし大人な方だなと思っていましたけど、それくらいの年齢だったんですね」
「まだ20代だ。ぴちぴちのお姉さんだよ」
「ぴちぴち......」
ロゼを観察し、さすがに19歳の肌には勝てないなと悲観していると、職員の女性が本を持って帰ってきた。わずか数分のことであった。
「こちらがレイナさんのDブックとなります。中身を確認していただいて構わないでしょうか?えーと......」
そう言って、女性は中身を見せてきた。
『レイナ・サトウ 2-0 直近の成績-ニック・コンフォート 勝利』
その文字を見て職員は驚いていた。
「えっと.....え、ニックさんに?」
「ああ、ついさっきそこでね」
「そ、そうなんですね」
ニックに勝ったという事実は、それほどまで大きなものらしい。
レイナはDブックを受け取り、ロゼと共に建物を出た。広場は変わらず人々が騒いでいた。
――聞いた!?ニックが負けたって!女2人に負けたらしい!
――私聞いていたわよ。なんかすごかったわ。論理の穴をつくというかねぇ
「話題になっているんだねえ」
「当たり前ですよ。今でも勝った実感が湧きません」
「勝つことに慣れるんだよ。ここからロゼは負けないし、負けさせないさ」
その言葉には、ロゼの境遇に共感したレイナの強い気持ちがあった。
2人は来た道を戻っていった。
「レイナさん、ディベートや論理に関してもっともっと教えていただけませんか?」
「もちろん。まだまだ知るべきことはたくさんだよ」
「やった!えーとじゃあ......」
「でも、まずは宿に着いてからだね。紙とペンを使いたいから」
レイナは歩きながら、何を教えるかを考えていた。まずは論理記号や真理値の概念を教えねばと思っていた。難しくなりすぎないように、列挙しようと。
他愛のない会話をしながら歩いていると、宿に着いた。途中で今日の夕食を買った。どこかに食べに行こうよとレイナは言ったが、ロゼはそれを断った。
その時間もディベートの勉強に使いたいと言っていた。
2人は部屋に入った。時間は午後4時になっていた。
「ただいまあ。はあ疲れたよ。最近運動していなかったからねぇ」
2人は部屋着に着替え、少し休んだ。軽く軽食もとり、ロゼは机の上に紙とペンをすでに準備していた。
「熱心なものだねぇ。まるで賢い大学生みたいだ」
「勉強して見返すと決めたんです!1秒も無駄にしたくありませんもん」
レイナはその熱意に応えるためにも、机に向かいあって座った。ふうと一息ついて、ロゼに向かって相好を崩して言った。
「では、今日の講義を始めます」
「よろしくお願いいたします」
ロゼは小さくお辞儀した。
「さて、私はいままで『ならば』という言い方をたくさんしてきたね。これは形式的に表現すると、『→』という記号を使うんだ。
例えば前にやった、
AならばBである
Aである
――――――
Bである
というのは、日本語を使わずに表現するとこうなる」
そう言って、レイナは紙に書きだした。
A → B
A
――――――
B
「この『→』は論理記号と言われるものの一種なんだ。論理記号と言うのは命題の関係や条件を表すものと理解してくれれば大丈夫だよ。文と文の接続詞みたいなものだね」
ロゼは、レイナの言うことを反芻するように紙にメモを取っている。
「では、ここでロゼに質問。人間が行う論理を形式的に表現するとき、何種類の論理記号が必要になると思う?」
「つまり、いくつの接続詞があれば論理を表現できるかということですよね」
レイナはうなずく。
ロゼは漠然と、とても多そうだなと感じた。たくさんの種類がなければ表現できないような気がする。しかし、レイナの口ぶり的に案外少ないんだよと言いたそうだから、想像した数よりは少なく答えた。
「15個とかですかね。10から20個くらいな気がします」
「まあ、多そうに感じちゃうよね。でもね、答えは4つなんだ」
「4つ......ですか!?もっと複雑そうだと思ったのに」
「そう、4つ。列挙すると、『ならば』、『または』、『かつ』、『でない(否定)』の4つだね」
レイナは紙に書きだした。
『→ , ならば』
『∧ , かつ』
『∨, または』
『¬ , でない(否定)』
「この4つで表現できるんですね......」
見慣れない記号が3つほどあるが、ロゼは、まずは書き写すことにした。
「んま、ド・モルガンの法則とか使えば必要な数は減らせるけど、まずはこの4つが基本だね。順に見ていこう。まずは『→ , ならば』だね」
レイナは一呼吸置いた。
「これは何度も使ってきた通り、2つのつながりを示すものだね。『A→B』は、AだったらBと言えるよということ」
「これのおかげでさっきの討論も勝てましたね」
「そうだね。最初に主張を分解したときに使ったものだ」
しかし、ほかの3つは記号すら見たことがない。あのアルファベットのVのようなものは何なんだろうとロゼは思った。
「次は『∧ , かつ』について。これは『A ∧ B』のように書かれることが多くて、意味としては『AとBの両方が真なら全体も真』という感じ」
ロゼは、うーん......と言うような表情をしている。
「具体例を考えてみよう。『A ∧ B→C』という命題があったとするね。そしてここで、A,B,Cをそれぞれ、
A:顔が可愛い
B:性格がいい
C:魅力的な人である
A ∧ B→C
(A かつ B ならば C)
としてみよう。そうすると、日本語に直すとどうなるかな?」
ロゼはレイナの問いを答えるため、紙に書いた。
「えーと、こうでしょうか。
『顔が可愛い かつ 性格がいい ならば 魅力的な人だ』
これで合っていますか?」
「合っているよ。『かつ』の意味は、その両方が真でないと全体が真にならないということなんだ。じゃあここに、顔は可愛いけど性格は悪いという残念な人がいたら、その人は魅力的な人だと言える?」
「この場合は、言えないですね。『顔が可愛い かつ 性格がいい』だったら、顔も可愛いし性格も良くないと魅力的だと言えないということになりますもんね」
「その通り。逆に、性格は良いけど顔は可愛くないという、まさに応援したくなるような女の子がいたとしても、残念ながらこの場合は成り立たない。『∧ , かつ』っていうのは、両方が成り立たないとだめだよってことだと覚えてもらえば大丈夫かな」
なるほど、とロゼは思った。レイナさんは魅力的な人だなと思いながら、そうなると、『∨, または』の意味も知りたくなる。
「よし、じゃあ次は『∨, または』について。似たような記号だけど、意味は違うから気を付けてね。
この記号の意味は、『AとBのどちらかが真なら全体も真』というものだよ」
「なるほど、『かつ』は両方真でないといけないのに対し、『または』は、どちらか片方が真ならもう片方は偽でも成り立つんですね」
「その通り。じゃあここに、さっきと同じような命題があったとしよう。でも今回は、『A ∧ B→C』じゃなくて『A ∨ B→C』としようか。
つまり、
A:顔が可愛い
B:性格がいい
C:魅力的な人である
A ∨ B→C
(A または B ならば C)
としよう。すると、日本語にするとどうなる?」
ロゼは、今度はすらすらと書いた。
「こうなりますね
『顔が可愛い または 性格がいい ならば 魅力的な人だ』
合っていますかね?」
「大丈夫だよ。じゃあここに、例のごとく、顔は可愛いけど性格は悪いという人がいたら、その人は魅力的な人だと言える?」
「この場合は言えるということですか?『顔が可愛い または 性格がいい』だったら、そのどちらかさえ成り立っているのなら魅力的といえる......」
「大正解だね。まさしくその通り。はなまるあげちゃう。この場合、応援したくなるような女の子も素敵ということになる。救われたね。
一応補足すると、両方が真である場合でももちろん魅力的だと言えるね」
ロゼには『はなまる』と言うものが通じなかったようだが、褒められたということは分かった。
「さて、次は『¬ , でない(否定)』についてだね。これは他のとはちょっと特殊でね。命題どうしのつながりというよりも、命題そのものの性質を表したものなんだ。例えば『¬A』のように書かれる。意味はそのまま『Aでない』だね』
ロゼは少し困惑した。具体例がなければ理解が難しそうだ。
「では例を考えよう。今回はさっきとは違った例を使おうかな。顔は可愛いけど性格が悪いという女の子はいてほしくないもんね」
レイナは紙に新しいものを書き始めた。
A:雨が降っている
B:地面が乾いている
A → ¬B
(A ならば Bでない)
こんなのがあったとしよう。この場合、日本語ではなんて言える?」
「ええと、『¬B』は『Bでない』だから......
『雨が降っている ならば 地面は乾いているでない』
ですか?なんか日本語がおかしいような」
「まあ、日本語的な違和感は仕方ないよ。『地面は乾いていない』でも日本語的におかしいとはいえないからそれでもいい。『¬』は自然言語に直そうとすると変な感じになるのはしょうがないね」
「そうなんですね。じゃあ、
『雨が降っている ならば 地面は乾いていない』
でいいのでしょうか?」
「問題ないよ。要は、『¬ , でない(否定)』は命題を否定するものだと思ってくれたらいい。
「なるほど......これはディベートではどういうふうに使えるものなんでしょうか。『∧』や『∨』は主張の整理に使えそうですけど......」
「いいね。最高の質問だね。これは2つの使い方があると思うけど、まずは1つだけ教える。もう一つは述語論理というのを教えた時にまた言うね」
レイナは少し息を吸った。
「ずばり、これは直接《《その主張が間違いになる条件》》を示してくれると思うんだよね。つまり、私たちが指摘すべきことを示してくれると思う」
「指摘することを示す.......」
「そう、じゃあせっかくだしニックの例を使ってみようかな。彼はこんな論理を使っていたね。
(前提2)
良い雰囲気になる ならば 魅力を感じる
これを命題記号に直すと、
A:いい雰囲気になる
B:魅力を感じる
A → B
というふうになる。ここでAは真だったとしよう。このとき、もし私たちが 『A → ¬B』という例があることを証明できてしまったらどうなる?」
「うーん、『A → ¬B』を証明するということは、『いい雰囲気になったけど魅力を感じなかった』という例を示せたということですよね。そうしたら、同じAから違う結論を導けたということですか?でもそれって......」
「そうなんだ。結論として、BでもありBではないということになってしまう。練習がてら形式的に書いてみようか」
レイナはロゼに促した。これまでの書き方を真似して、合っているか不安ではあるが、そのまま書いてみた。
「『BでもありBではない』ということは、『BかつBでない』ということですよね、だったら、
A → B
A → ¬B
A
――――――
B ∧ ¬B
でしょうか。でもそんなことってありえるんですか?例えば『コインで表が出た』という命題があったら、『表でもあるし、裏でもある』みたいになってしまいます」
「その通り。これはありえないんだ。少なくとも命題論理の世界ではね」
レイナは、命題論理の世界では、という部分を少し強調し、次の言葉を繋げた。
「そして数理論理学では、命題論理における『B ∧ ¬B』という状態を『矛盾』として定義しているんだ」
「矛盾っていうのは、ディベートとかで『君の主張は矛盾している!』とかっていうときの、あの矛盾ですか?」
「その通り。人が普段何気なく使ってる矛盾という言葉は、厳密にいうと『B ∧ ¬B』という状態のことなんだね」
普段特に気にせずに使っている『矛盾』という言葉を論理的に表現するというとことにロゼは感動した。
「なるほどぉ!じゃあこの『B ∧ ¬B』という状態がありえることを指摘するのが、いわゆる『君の主張は矛盾している!』ということなんですね!」
「そうそう。だからこの『¬ , でない(否定)』という記号を考えると、相手の主張が矛盾になる条件を示せると思うんだよね」
ロゼはいままでディベートのやり方が分からないという悩みがあったが、論理学の考え方を使うだけで簡単に示せることに感嘆した。
「ちなみに、命題を表す記号――この講義だとAとかBとか、のことを命題記号といって、命題記号と論理記号からなる式を論理式というよ。例えば今まで出てきた『A∨B→C』とか『A → ¬B』とかも論理式だね。括弧は省略されることもある」
式という言葉を聞くと、数理論理学は数学なんだなと思い知らされる。しかしそう思っていると、レイナは興味深いことを言いだした。
「さてと、これまでは基本的な論理記号の説明をしたけれど、ここからは実際にディベートで使える『推論規則』という概念の話をしようか」
「推論規則......ですか?前もどこかで聞いた気がしますが......」
「よく覚えているね。いままでは『→ , ならば』とか『∧ , かつ』といった、いわば命題を表す道具を教えてきた。
ではここからは具体的に命題から新しい命題を導く方法を教えよう。これは立論の際も反証の際も使えるものだね」
ロゼはその言葉に強い関心を覚えずにはいられなかった。
「まずは代表的なものを4つ教えようかな。推論規則というと難しそうに聞こえるかもしれないけれど、どれも人間が無意識に使っているものだから理解はしやすいと思う。
まず1つは『モーダスポネンス』というもの。これまでも何度か使ってきたね」
「はい!今日も何度か出てきていますね」
「そうだね。改めて言うと、『A → Bが真で、Aが真であれば、Bと結論してよい』という規則だね。形式的には、
A → B
A
――――――
B
という書き方をするものだね。」
これはレイナと出会ってから何度か現れたものだ。ロゼもすんなりと理解していた。
「次は『仮言の三段論法』というもので、『A→Bが真で、B→Cが真なのであれば、 A→Cと言ってよい』というもの。形式的にはこうだね、
A → B
B → C
――――――
A → C
というふうに書けるものだ」
「これは、なんとなく理解できますね。数学の授業とかで、『A=BでB=CならA=C』みたいなのは聞いたことがあります」
「うんうん。いわゆる三段論法と聞くとこれをイメージするんじゃないかな」
「なるほど......ということは、このような主張がされたときは、『A → B』と『B → C』のどちらかを否定すればいいということでしょうか?」
「おお、本当に今まで4勝しかしてこなかったのかい?完全に私が言いたいことを先回りしているよ」
「えへへ」
ロゼは照れた。
「でも事実です......」
歓喜と落胆を同時に見せた。とても可愛らしい。
「まあそういうわけで、これが仮言三段論法というものだね」
「ということは、これでない三段論法もあるということですか?」
「その通り、それが3つめ、『選言の三段論法』という推論規則だよ。ここから難易度がどーんと上がってくるね」
「がんばります......!」
「いい意気だねぇ。うれしいものだ。さて選言の三段論法は、形式的に書くとこうなる。まずはそれを見てみようか」
レイナは紙に書きだした。
A ∨ B
¬B
――――――
A
「うう、難しい......」
「1つずつゆっくり見ていこう。まず1つめの公理『A ∨ B』は『AまたはB』という意味で、『¬B』は『Bでない』という意味だったね。
じゃあここで式全体を見てみよう。『AまたはB』が真になるのは『AとBの両方が真』『Aが真でBは偽』『Bが真でAは偽』という3つのパターンだというのは分かる?」
「『AまたはB』は、『AとBのどちらかが真であれば全体も真』なので、ありえるのは今言ってくださった3つのパターンだということですよね」
「そういうこと。そしてここに、『¬B』が入った。ということは、『AまたはBで、Bではない。だからAである』という意味なんだ」
「う、うーむ......」
「大丈夫大丈夫。具体例をみてみよう
A:私は女性である
B:私は男性である。
という命題があったとしよう。そして人間というのは男性か女性かに分けられるよね。社会的にはいろいろあるらしいけど、ひとまず生物学的な話としよう。この場合、
A ∨ B というのは日本語にすると、
私は女性である または 男性である
と表現できる」
「なるほど!」
だんだんと話が見えてきたことにロゼは安堵した。
「そして、『¬B』が真、つまり、『私は男性ではない』が真だとしよう。このときどんな結論ができるかな?」
「男性か女性かのどちらかで、男性でないのなら、その人は女性ということになりますね!」
「ぴんぽんぴんぽん。その通り。選言三段論法というのは、『AまたはBが真で、BでないならAである』という推論規則だね。これは反論よりも立論のときに意識するといいかもしれない」
ロゼは、最初は分からなかったが、例を用いるとすんなりと腑に落ちた。
「さて、次は最後、『モーダストレンス』というものだね」
「また難しそうな名前ですね......さっきのと似ていますし」
「名前はね。でもシンプルなものだよ。ひとまず形式的に書いてみよう」
レイナは書きだした。
A → B
¬B
――――――
¬A
「これがモーダストレンスというものだよ。流れとしては、『AならばBで、BでないならAでない』というもの」
「むむむ、これはどういうことでしょうか」
「簡単に言うと、『結果を否定して原因を否定する』という考え方なんだ」
「結果を否定して......原因を否定......」
「そう。これも具体例で見てみようか」
レイナは新しい紙を取りだし、そこに書いた。
A:私は美人である
B:他人からモテる
A → Bは真
「こういうような命題があったとしよう。まるで私みたいだね」
「......」
「さて、この時、『A → B』という論理式はつまり、『私は美人だ。ならモテている』という意味になるね。ここでもし『¬B』、つまり『モテない』が真だとしたらどうなるかな?」
「ええと、『美人ならモテる』のに『モテていない』ということは『美人でない』ということですか......?あっ!」
「そう。悲しいかな、そういう結論ができてしまうね。まあ、それを形式的に記述したのがこの『モーダストレンス』なんだ。そしてこれはディベートで反証するときにとても強い」
「強い......!」
その言葉に、ロゼは目を丸くした。
「そう。例えば相手が、『AならばBだ』という形の主張をしてきたとしよう。それに反証するとき、『Aならば』という前提を受け入れたうえで、こちらは『Bではない』という例を示せばいい。つまり反例ということだね」
「反例......というともしかして?」
「そうそう。実はニックとのディベートでも私は使っていたんだね。『いい雰囲気になるなら魅力を感じる』という主張に対し、『いい雰囲気になっても魅力を感じていない例』を出したということだね」
ロゼは深くうなずいた。
「さて、まだ教えるべきことはあるけれど、少し疲れたね。おや、もう午後8時じゃないか」
どうやら4時間みっちり勉強していたようだ。ロゼも少し疲れた顔をしている。
「そうですね。ご飯にしましょうか」
「そうしよっか」
「ちなみに、いまの進捗具合はどれくらいなんですか?教えるべきことのうち」
「うーん、2パーセントくらいかな」
「2パーセント!」
「命題論理の基礎中の基礎の話しかしていないからね。まあでも、ディベートに関してはまあまあ使える内容だと思うよ」
「ということは、今のをマスターしたとしても、まだ50倍の伸びしろがあるってことですか!」
「いいねぇ。そういうポジティブなのは大好きだよ」
「そしてその50倍の内容を全部マスターしているレイナさん......」
「関わってきた時間が違うからねぇ」
優しい微笑をレイナは浮かべた。
「でもね、ロゼは4時間学んだってことなんだ。ほとんどの人は0時間なんだし、その人達よりは圧倒的なリードがあるよ」
「今日やってみて、まだまだ分かりきっていないところもありますけど、賢くなったなあって実感はあります!」
「大事だよその感覚は。勉強をする楽しさだね」
そう言いながら、レイナはさっそく晩ご飯である肉料理を食べ始めた。
レイナの言葉を受けて、ロゼは、今まであまり勉強が好きではなかったが、なるほどこれは楽しいなと感じた。
というかそもそも、レイナの話を聞いて学ぶのは、いい意味で勉強というような感覚でもなかった。
そして、ロゼはある提案をした。
「レイナさん!ご飯を食べ終わったらレイナさんとディベートしてみたいです!実戦練習みたいな感じですね。もし疲れていなかったらですけど!」
「もちろんいいよぉ。はむはむ。りょんりをじっせんにいかしてみょうか」
「な、なにを言っているか......」
レイナは笑って答えた。
「悪い悪い。実際のディベートで数理論理学をどう生かせるのか試してみようか」
「はい!」
ロゼも夕食を食べ始めた。
今日教えてもらったことを実践で生かすというのは楽しみだし、レイナとディベートするのがどういうものなのか興味が止まらなかった。
まるでいきなりラスボスに挑むような感覚だった。
レビュー等お待ちしております!
第六話はロゼとレイナの模擬戦を描いてまいります。




